EP.39 ダークと戦いました その②
「<下位火炎魔法>」
下位火炎魔法を唱える。武器が拙いなら魔法でカバーだ。ダークは俺の下位火炎魔法を右にステップして避けるが、それを先読みして……、
「<下位稲妻魔法>」
下位稲妻魔法を唱える。下位稲妻魔法は、下位火炎魔法より、速いので先程のを躱して直ぐには躱し辛いだろう。
だが、それなのに躱された。よって追従するかのように即座に投擲を行う。
「ちぃ!」
投擲をギリギリだが小太刀で弾かれてしまう。クソ! 厳しいな。
下位火炎魔法を使い、それより弾速の速い下位稲妻魔法を使い、それらを囮に投擲したってのに通じないじゃねぇか。
再びダークの姿が消える。いや、超スピードで動き出す。気配は追える。俺も伊達にダークの体を使っているわけじゃない。俺も速く動ける筈だ。
追え、追え! ダークに追い付くんだ。背中に痛みがあろうと関係無い。無数の裂傷があろうが関係ない。こいつに勝たなきゃ先に進めない。
そう思って追い続けたら、ダークが突如距離を取って右手の小太刀を逆手に持ち出す。一息付こうと言うのか? いや、その割には圧が増した。何かを仕掛けて来る?
「アーク! あれはスラッシュ・ファングの構えさぁ!」
「スラッシュ・ファング?」
ナターシャが焦った感じで叫んで来ので、聞き返した。
「闘気剣さぁ」
闘気剣ってなんぞや? 俺が武に教わったのは闘気を武器につたわらせて斬る事。それは闘気剣と言わないのか? 距離が取ってるとこを見ると斬撃を飛ばすって事かな?
「……今更教えたとこで、もう遅い! <スラッシュ・ファングッッ!!>」
ダークがそう叫び小太刀を振るう。あ、やっぱり斬撃が飛んできた。どうしよう?
ここで俺は例の魔法の便利な言葉を思い出した。
『闘気の応用』あいつは指を機械の中に突っ込んだりした。つまり指を闘気で硬くしたと思えば良い。それで破壊力が増した。じゃあ守りは?
そこまで考えると自然と体が動いた。スラッシュ・ファングを斬り払うように闘気を籠めながら両手の小刀を右上から左下に振り下ろす。
守りにも応用できる筈だ。強固な斬撃をイメージして闘気を送りながら斬り払えば防げる筈。それが確信できた。
何故なら武が闘気の応用とやたらめったら言っていたので、応用すれば出来るものだと思ったからだ。
「はぁぁぁ……!」
気合を込めスラッシュ・ファングとやらを斬る。硬い! 三週目に武に闘気の扱いを教えて貰い鎧を斬ったが、あの鎧より遥かに硬い。
「うぉぉおおおおおっっ!!!!」
このまま押し負けないように闘気を籠め続ける。やがてダークの斬撃を斬り払えた。
「なん……だと?」
ダークの奴、防がれると思ってなかったんだろうな。呆然としてやがる。じゃあお返しと行くか。
闘気の応用とやらでアレが出来るかも? ゲームとかでよく見るやつ。
「<下位稲妻魔法>」
下位稲妻魔法を唱え小刀に帯電させる。闘気で電撃のエネルギーをそのまま小刀に維持させた。少しでも気を抜けば小刀から雷が離れる気がする。
だがこれを維持できれば……魔法剣ができるかもしれない。
「じゃあお返し。スラッシュ・ファングをあやかってサンダー・スラッシュ……なんちって」
そう言って電撃を帯びた斬撃を飛ばした。
ズッビューーンッッ!!
「ぐはっ!」
ダークが仰向けに倒れる。まともに食らっていた。ありゃ痺れて暫くまともに動けないな。
今更ながら俺も良く勝てたな。もしかしたら、記憶を失っていたからこそ勝てたのかも? ダークの体を使っているなら、きっとダークの動きに縛られて同じ動きをしただろう。
もし、そうしていたら動きが読まれたかもしれない。それに魔法剣と言う発想が出なかっただろう。仮にダークと同じスラッシュ・ファングを使っていたら殺していたかもしれない。そうなると尋問ができない。
それに二年後の俺は引き籠りのコミュ症になっていた。そんな俺だと精神的に脆く、きっと直ぐに心折れていたかもしれない。特に背中を斬られた時に諦めていただろう。
「さてダーク。話せるか? まずは何故ナターシャを狙った?」
倒れたダークに近寄り話し掛けた。
「……殺しの依頼だ」
「依頼主は?」
「……死んだ」
「はっ!? 死んだやつの依頼を遂行してるの?」
「……金は、もう貰った」
律儀だな。
「何でナターシャなのか理由は聞いてるか?」
「……詳しくは知らん。ただ大事なデータを盗まれた。盗んだ奴の大事な奴を殺して欲しかったそうだ」
データ?
「なぁナターシャ。これ例の屋敷の奴が依頼主じゃね?」
「可能性はあるかもねぇ……ちなみにダーク、その依頼を受けたのは何時だい?」
「……二週間くらい前だ」
「時期的に見ても恨まれる事は、それくらいしかないと思うさぁ」
「ところでダークさ。雇われた時の金をどうするんだ? 何に使うんだ?」
「……それを貴様に言う必要があるのか?」
まあ確かに。
「つまり、その金で生活するんじゃないかって聞いてるだ。寝床を確保したりメシを食ったり」
「……それもある」
「なら、はっきり言うぞ。寝床も食うメシもなくなるぞ」
「……何が言いたい?」
「記憶をなくしてるから、まだはっきりとしていないけど、その大事なデータとやらは、この大陸を破壊するものだって事だよ」
「………」
おっとーこれには動揺してるな。目を丸くしている。
「それにな。ナターシャを殺すとお前の娘が悲しむぞ。娘を復讐者にしたいのか?」
「……どう言う事だ?」
「何を隠そう此方におわすナターシャ様こそ、エーコの師匠なのだよ。あ、控えよ控えよ~」
「ねぇアーク。それは何の真似だい?」
うわ! ナターシャがドン引きしてる。このネタがわからんとはな……。
「おっほん! エーコは今、薬師を目指してるんだ。で、ナターシャに師事してる」
「……本当なのか?」
ダークがギロリとナターシャを睨む。何も睨まんでも……。
「えぇ。エーコに薬師の技術を叩き込んでる。それに今は、あたいと一緒に住んでる。それよりあんた、あたいの居場所をどうやって聞き出したんだい? 魔導士の村の人達が簡単に口を割るとは思えないんだけど? まさかアークスって名乗ったのかい?」
「……脅した。エーコを殺すぞって……がはっ!」
イラっときて顔を踏ん付けてやった。
「アーク、気持ちは分かるけど落ち着いて」
「ふん!」
だってエーコを殺すとか最悪だし。
「……で、ダーク。不思議に思わなかったかい? あたいが魔導士の村の人に信頼されている事に。この秘匿されていそうな場所も教えて貰っていたし」
「……言われてみれば」
気付けよ。
「それがあたいがエーコと仲良くしてる事の何よりの証拠さぁ」
記憶がないから分からんが、証拠になるのかな?
「………」
ダークが目を閉じ何かを考え始めた。やや合って目が開き灰色の双眸をナターシャに向ける。
「……父親を狙う復讐者に娘をする訳にはいかんな。もう貴様は狙わない」
おー丸く収まった……のかな?
「あら? 意外に娘だって認めるんだねぇ」
「フッ……貴様に取り繕っても今更だろ?」
「まあねぇ」
「……俺も聞きたい。何故俺が二人いる?」
再びダークは俺を灰色の双眸で見て来た。
「俺は記憶がないから、詳しく分からん。分かってるのは歴史改変の影響。詳しくはナターシャにパース」
俺は丸投げした。するとナターシャは最初の歴史とやらを語り始めた。
俺の事は体を乗っ取った際に記憶を読み取ったとかボカして異世界転移とか言わないんだな。と言うか本当に読み取っていた? 分からん。
それよりも興味深いのは俺は瀕死の重傷でナターシャに治療され半年後に目を覚ましたらしい。
そしてナターシャにアークと名付けられ、その後半年一緒に暮らしていたとか。ほ~そういう関係だったのか?
じゃ、じゃ、じゃあもしかして俺、ナターシャとベッドインしてる?
の~~~~~~~~~~!!!!!
記憶が無いのが惜しまれる。せめてそこだけは……。
そ・こ・だ・け・は! 記憶にあって欲しかった――――。