EP.38 ダークと戦いました
ブクマありがとうございます
クイーンベッドで目覚めて一週目をなぞるようにエーコやナターシャと会話をした。
五週目では魔導士の村に一緒に来るかい? ってナターシャに誘われたから、一週目と同じ会話運びする必要はなかったかもしれない。
それでも危険だからって魔導士の村に置き去りにされるとも限らない。よってこっそり後を追う事にする。
その前にエーコといろいろ話さないとな。色々戦力不足になるが、やれる事はやっておきたい。
それはそうとタイムリープの原因がはっきり分かったかもしれない。日数でも十人の英雄の誰かが死ぬでもない。恐らくゾウの心臓を潰すとタイムリープが発生する。
理由は分からないが二週間すると必ず誰かがあれを潰すのだろう。だから最長で二週間なのだ。最短で一週間……正確には八日だが、まあ細かいのは良いだろ。
「今日買い出し行くだけどー。アークも一緒に来るー?」
毎回の如く買い出しに誘われる。
「エーコ君! その前に話がある。座りたまえ」
エアーメガネをキラリーンと、どっかにあったシチュエーションをやりながら椅子を指差す。
「なーに? と言うか何で変な話し方なのー?」
エーコが胡乱げに俺を見詰めながら椅子に座る。俺はテーブルを挟んで反対側に座っていた。もうド定番になってる展開だな。
「エーコ君、パパと一緒にお風呂に入らない?」
とりあえずボケを挟むのも忘れず。ここからエーコには苦労掛けて来るから、緩やかに話をしたい。
エーコの事だから、バカなのー? ってくる筈。と、思ったのだが……、
「………」
あれ? 来なかった。
なんか胡散臭さい奴を見るような眼差しをしてる。
「……ほんとに記憶がないのー?」
ちょっとなんか怖い。いつものエーコじゃないみたい。かなり睨んで言って来た。
「ないよー」
「なのにパパってなーに?」
なんかほんと怖い。
「実は同じ時間を繰り返してるんだよー」
「ねぇ? 何でさっきからわたしの口癖真似してるのー? やっぱり記憶あるんじゃないのー!?」
エーコがテーブルをバーンっと叩いた。マジギレしてる? こえ~~~。
「これから真面目な話をするから、ちょっとふざけてみただけだよ。さっきからエーコ、怖いよ」
「は~~~~~」
うわ! 今まで一番長い溜息だな。ちょっとふざけ過ぎた?
「繰り返してるってー?」
切り替えたな。いや諦めたか。
「最短で一週間、最長で二週間経つと、あのベッドで起きるとこから始まる」
「そんな事あるのー?」
「あるから困ってる」
「それでー?」
「とりあえずこれ」
二枚の紙を渡す。
「今からエーコにして欲しい事を一気に言うよ。でも一辺に言われても覚えきれないだろうから、やって欲しい事を端的書いてある」
「して欲しい事ー?」
「うん。まずフィックス城に行きアルフォンス城から戦争仕掛けられるから、その対策をするようにエドに伝える。次にエドには直ぐにエルドリアに行くように言う。其処で武って言う奴に会ってロクリス救出の依頼をするように言う。エーコはその後、クロード城にムサシ救出に向かう。ムサシの居場所は二枚目の紙に書いてある。重症だから直ぐに上位回復魔法をして、その後二人でロクリスのアジトに行き、ライデンの爺さんに避難するように言う。続けて、ルティナを助け、子供達を護衛してフィックス城に戻ってくる」
「え? え?」
一気に言い過ぎたな。目を白黒していた。だいぶ混乱してるな。
「アークが長文をスラスラーっ!?」
いや、驚くとこそこかよ!!??
「戦争とかムサシ叔父ちゃんが重症とか本当なのー?」
「同じ時間を何度も繰り返してるから間違いない。これは繰り返す度に言ってるが、間違いなら間違いに越した事はないでしょう?」
「そうだけどー」
「ともかくそう言う訳で宜しく。あとイーストックスまでは一緒に行くから、何処か途中で剣買って」
「剣? え? 何でー? いや、それよりもアークは何するのー?」
「ナターシャを追い掛けるよー」
「だから、わたしの口真似するなーっ!!!!」
そうしてナターシャを追い掛けてみれば、覆面野郎に襲われていたので、とりあえず間に入った。
どうしてこうなった?
ちなみに魔導士の村で、どう対話すれば良いかエーコに教えて貰ったので、簡単にこの迷宮に来れた。
で、覆面野郎だが今までの相手と格が違う。あのベッドで目覚めて繰り返す中で初めて感じる事かもな。
武が闘気の応用とやらで、気配を隠していたけど、それを解除し気配が飛び出た時に似た圧を感じる。まあそれはともかく……、
「ナターシャ、危なかったな」
「アーク? 何であんたがいるのさぁ」
ナターシャが目を丸くしている。まあいきなり俺が現れたんだからビックリするわな。
「……誰だ?」
覆面野郎が低く呟き、後ろに下がる。
「……何故俺と同じ顔をしている?」
覆面野郎の声に動揺が感じられる。焦ってるのか? たかが俺がいきなり現れた事に焦るかな? いや、違うな。妙な事を言ってるし。
「同じ顔? どう言う事?」
俺は首を傾げる。
すると覆面野郎が覆面を取り、投げ捨てた。その面は……、
「お!? 俺と同じ顔だ。どう言う事?」
「彼はダークさぁ」
「えっ!?」
ナターシャにそう言われ頭の中で『what?』と言う言葉が反芻した。数秒考え……、
「あ! 歴史改変の影響で俺が二人いるのか?」
そう考えれば合点が行く。
「アーク、記憶が?」
「いいや……まあその辺は後で」
ナターシャが再び目を丸くするが、その辺の説明は後だな。
「……何故俺がもう一人いる?」
再びもう一人の俺……いや、ダークが問い掛けて来た。
「だから歴史改変の影響だって言ったろ?」
「……貴様も戯言を……」
「戯言って……おっと!」
ダークの姿がブレて後ろから小太刀で斬り掛かって来た。話してる途中で斬り掛かるなよ。まあ気配で何処から斬り掛かって来てるか分かるけど。
何週もして良かったと感じた。何週もしていたから気配と言うのが肌で感じられる。
と言うわけで剣で受け止めた。
その後、剣戟が始まる。とは言え、防戦一方なんだけど。いくら気配が分かってもダークは、早過ぎる。なんとか凌いでる感じだ。
「……反応は良いが剣がお粗末過ぎる? お前のその動きは何だ?」
ダークが足を止め語り掛けて来る。
「記憶を失っていてね。剣の扱いなんて分からないんだよ。それに本来は小太刀とか小刀が得意武器らしいし」
「……増々薄気味悪い」
「それはこっちの台詞。まさか自分と同じ顔の奴に出くわすとは……この世には自分と同じ顔の奴が三人いるとか言うしな」
ナターシャが首を傾げている気配がする。同じ顔が三人いるとかって地球のネタだしな。こっちの世界では馴染みがないのだろう。
「……貴様は何者だ?」
「アーク。一応あんたの体を使っている。いつも体を使わせて頂きあざーっす。と、でも言えば良いかな?」
「……戯言を」
それは戯言って言いたくなるよな。後半の言葉はマジで戯言なんだけど。あんたの体を使ってるとか事情を知らないと意味不明だし、しかも礼を言って来るとか完全に皮肉だしな。
「戯言じゃないんだけどな。歴史改変の影響でダークが二人存在するらしいし……そう言う事だよね、ナターシャ?」
「え? ええ、そうさぁ」
いきなり振られナターシャが戸惑いながら答えた。
「……それが戯言だと!」
ダークの殺気が増した。うわ! こわっ!
「だから、ざれ……うわ!」
危ねぇ~~! 咄嗟に前に飛んでダークの小太刀を回避したけど、マジで今ヤバかった。と言うか話してる最中に斬り掛かるなって言ってるんだよ。
更に追撃を掛けて来てるのが気配で分かったので、俺は直ぐに体勢を立て直し剣で防ぐ。
「くっ!」
だが、お粗末な剣の使い方な上に小太刀より重い武器のせいで徐々に斬られて行く。しかも相手は二刀流なので手数が多い。次々に裂傷が走る。
そして、またダークがブレる。
「ぐは!」
今度は反応しきれず背中を斬られる。いや、気配で分かっていただけに腹立つなー。
「アーク! ……<中位回復魔法>」
直ぐにナターシャが近寄り中位回復魔法で回復を行ってくれる。
「女! 邪魔するな」
「きゃ!」
投擲され咄嗟にナターシャが避ける。ちっ! 少ししか治療はして貰えなかった。
かなりいてぇ。浅く付けられまくった裂傷の比じゃなねぇ。何週も繰り返したがここまで厳しいのは初めてかもな。
「なによ! せっかく治療してやったのに『女』なんて酷いじゃないさぁ!!」
なんか後ろで憤慨してるな。ていうか怒るポイントそこなの? 投擲された事じゃないの?
まあ今はそれよりダークに集中しよう。
「仕方ないな。剣よりお粗末になるけど速さを上げないと勝てる気がしないわ」
そう言って俺は剣を捨て、小刀を二振り抜いた。
これで漸くダークに付いて行ける気がする。本当は全力で動くのは怖いが、そうでもしないとダークを追えない。
ただスピードが速くなっても結局武器の扱いが酷いせいで、体中次々に裂傷が走るし、こっちの攻撃をあっさり避けらるのだった……。