EP.36 迷宮へ
ナターシャの話は巻きで行きます
メインヒロインの扱いが雑(え?
ナターシャは、魔導士の村の南にある古代遺跡に来ていた。此処に記憶復元魔法を習得する為の言霊が記されたものがあると知っていたからだ。
言霊とは、この世界において精霊と契約する呪文のようなもの。それを唱え且つ精霊に認められれば魔法習得できると言うものである。
認めてくれるかどうかは、才能もあるが一番大きい要因は精霊の気分や好みと言ったところだろうか……。人間達には厳密な基準が分かっていないのだ。
精霊と言う不可思議な存在には、精霊なりの審査があるのかもしれないが。
それはともかくナターシャは、アークの記憶を取り戻す為にそれを求めた。
魔導士の村はアーク達三人が暮らし始めたばかりの頃に遊びに来た事があった。遊びにと言うより挨拶と言うのが正確かもしれない。なにせ成人していないエーコと一緒に暮らすのだから。
しかしその甲斐あって閉鎖的な村であるが、ナターシャに対し友好的で迷宮の場所も直ぐに教えてくれた。そうしてナターシャは、迷宮に足を踏み入れた。
「ここまで来るのに六日かぁ。随分時間が掛かったさぁ。この調子だと帰るのは三週間後くらいか?」
入って早々ボヤくナターシャ。
第一層
この迷宮は奥が深いと聞いた。一日や二日で攻略できる場所ではないらしい。なのでナターシャは、一週間分の食糧を用意して来てはいる。
とは言え、肉体的疲労より精神的な疲れが先に来たかもしれない。なにせ入って早々古典的な落とし穴に始まり、無数の矢が飛んで来たり、大岩が転がって来たりしたのだから。挙句に迷路と来たのものだ。
「は~疲れたぁ」
警戒させて精神を擦り減らす為に入って早々の罠だったのかもしれないと思うナターシャ。
薄暗く時間の感覚も狂う。もう日付は変わったのか、変わっていないのか分からない。
「は~……今日はここまでにして休むかねぇ」
ナターシャは初日の探索を早々に諦め寝る事にした。
動物はいないと思うけど念の為、動物除けのお香を焚き、それでも近寄ってきた者がいれば音を鳴らす仕掛けを施し横になる。
「一人で野宿とか二十年ぶりくらいかなぁ?」
ナターシャには婚約者がいた。
だけど痴情のもつれで、相手を殺したとかいう噂に惑わされ、婚約者から逃げるように町を出た。その時は各地を転々とし一人で野宿していた。
魔物が跋扈する世情だったけど、上手くやっていたとナターシャは思った。
「だけど所詮噂だったのよねぇ。それも殺して回ってのはアーク……いや、ダークだったなんて世の中分からないさぁ。アハ」
昔を思い出し渇いた笑いが漏れる。ナターシャは、迷宮に入る前も入った後も、そして寝る前にしても色々脳裏にこれからの事等、様々の事が駆け巡るが、毎回最後に思い浮かぶのはアークだった。
それだけ彼女の心の多くをアークが占めているのだ。そして元に戻したいと気ばかり逸る。それ故に単純な罠に精神を摩耗させたと言えよう。
そんなナターシャの瞼も次第に落ち眠りについた。
「さて今日は、この一層を超えるわよ」
朝目覚めて、気合を入れる為に頬を叩き、迷路を進み出す。だが、一向に終わりが見えない。同じ場所をグルグル周ってる気さえしていた。
「あ、迷路ってのは右手を壁にあてて周ると、やがてゴールが見えるんだっけかなぁ?」
それに気付いた後は、時間は掛かったものの無事に一層目の終着に到着した。しかし、番人のようにゴーレムのガーディアンが立ちはだかっており、苦戦を強いられるがなんとか撃破をする事になる。
「さて二層に行きますかねぇ」
そうしてナターシャはガーディアンがいた場所の先にある梯子を下り二層に向かった……。
第二層
砂漠地獄だった。歩いても歩いても砂漠。挙句巨大ワームが下から這い出て来る。
重力魔法で飛び、口の中に中位火炎魔法を放り込むのを繰り返して前に進むが、ゴールがいつまでも見えない。
「真っ暗で何も見えないさぁ……まさかワームの中がゴールって事はないよねぇ?」
アークの前いた世界の娯楽一つであるゲームで、巨大生物に食われる事がゴールに行ける条件だと言うものもあるとか聞いた事があったので、ナターシャは思い切って巨大ワームの口の中に飛び込んだ。
ゲームってのはなんなのか分からないけど、その内容はきっと迷宮に通じるものがあるかもしれない。と、そう思ったのだ。
しかし、暫く巨大ワームの体内を彷徨ったいたけど、服が溶かされている気がして不快になって来る。
「もう良いさぁ。エレメント・ランス乱れ撃ち」
ナターシャ愛用のエレメント・アローは、魔力で構成された光の矢を打ち出せる。それを乱れ撃ちにして周りにやたらめったらぶっ放した。
やがて光が漏れ、ワームのお腹に穴が空く。其処からナターシャは、外に飛び出た。
「うわ~……ベタベタで気持ち悪いし、やっぱり服が溶けているねぇ」
ワームの体液がべっとりついていて気持ち悪く、げんなりした顔でボヤく。
そして歩を進める事しばらくして三層への梯子を見つけたので、ナターシャは、下りたとこで休息にした。迷宮に入ってこれで三日目だ。
第三層
「……これは迷路より酷い」
ナターシャは顔をしかめる。
何故ならずっと同じ部屋が続いてるからだ。正面と右と左、そして今来た後ろに通路が続く。
どの通路を抜けても、それと同じ通路がある。つまりどう進んでも十字の通路が続いているのだ。
「あ、今度こそアークのげぇむとやらの知識が使えるかも?」
こういう同じ部屋が続く場所での定番は右左右左右左もしくは左右左右左右と進めば良いとかアークが話したのを思い出し、ナターシャは右左右左右左と進み続けた。
そのお陰か、今までより早い時間でゴールに辿り付いた。アークのゲームとやらの意味の分からない知識が役に立ったなぁと思いながら四層への梯子を下りた。
第四層
森だった。それに上を見上げると何故か空? がある。いや、正確には空の絵だ。雲が動かないのでそう判断できた。
それと正面は開けており。300mくらい先に扉らしきものがあるが閉まっている。
そして目の前に……、
「えっと……石碑?」
その石板には『右の絵の鳥を五羽仕留めろ。ただし違う鳥を一羽でも仕留めたらやり直し』と書かれていた。
右の描かれた絵は、青い鳥に左右二本ずつ赤い線が走ったような鳥だ。
ナターシャは、上空を見上げる。
「まぁ鳥が沢山だねぇ」
空の絵には場所に沢山の鳥の絵も飛んでいた。ただの青い鳥、赤い線が三本の鳥、赤い線が一本の鳥、そして赤い鳥と様々だ。
何処から入って来たのか、また間違えたらやり直しとか石板に書かれていたが、間違えを繰り返せばやがては鳥がいなくなるが、そうなるとどうやって進むのか? そんな疑問があるのに、ナターシャはお構い無しに弓を構える。
「エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス……はい、おしまい」
これでも弓使いよ。舐めないでよねぇ。と、誰もいないのにドヤ顔するナターシャ。
正解の絵の鳥を五羽仕留めたお蔭かゴゴゴ……という音を鳴らし、300mくらい先の扉が開く。その先に五層への梯子があった。
「せっかく鳥を仕留めた事だし食べようかしらぁ。保存食ばかりでは飽きるし。今日は此処までかなぁ」
ナターシャは仕留めた鳥を下位火炎魔法で焼き食べるとそのまま四層で休む事にした。
次の日……四日目、ナターシャは五層への梯子を下りる。
第五層
「また森さぁ」
ただ空も石碑もない。正面が開けている事もない。これは完全に森の中を彷徨う事になりそう。
「は~」
そう思うと気落ちし、溜息を漏れた。それでもアークの為にナターシャは歩き出す。
やがて疲れを感じたので、森の中で休む事にした。勿論何かが近付いててきたら直ぐ気付く仕掛けを施して。それに森だけあり、動物もいるようだし、動物除けのお香も。
そして五日目を迎えた。
「いつまでこの森が続いてるのだろ? それに方向が分からないなぁ」
げんなりした顔でボヤきながら前へ進む。
と、その時だ。何か背中に悪寒が走る。ナターシャは、迫り来る死を感じた。反射で前方に飛び直ぐさま後ろを振り返った。
「っ!?」
誰かが小太刀を振り下ろしていた。
危なかった……。もう少し遅かったら斬られていた。と、ナターシャは肝を冷やす。今になって心臓が早鐘を打った。
覆面をした男で顔は見えないが、スラっとした体付き。だというのに引き締まった筋肉。無駄を削ぎ落し常に戦いに身を置いてるような肉体……そこでナターシャは既視感を覚えた。
「ねぇ……あんた、アークスかい?」
「………」
相手が図星を突かれたかのようにビクっと震えた。
そうナターシャに攻撃を仕掛けて来た男は、アークス……いや、ダークだったのだ。