SONAR
”ピーン、ピーン、ピーン……”
「うわぁぁ!! 夢だったのか……? 」
(何だったんだ? あの音は。サイレンのような響き心にまとわりつく不快な音は……。いや、どうだっていい。最近は変な夢ばかり見る。)、
ベッドから、落ちるように起き上がりトイレに行った。
便座が生ぬるく、座った瞬間太ももから一気に現実世界へ引きずり込まれる。
(また、1日が始まったのか。こんな生活の何が楽しいんだ。自分の存在価値の無さに、社会との浮きを感じる。)
「あ~、つまらない、つまらない! ああぁぁっ!」
ボサボサに固まった髪を搔き回しながらトイレから出て、着替えをして家を出た。
(今日は、新刊の発売日だ。今、俺の生きがいといったら週刊ポックスを購読することと、ネットサーフィンくらいだろうか。買った後はゲーセンに行ったりして時間を潰すか。朝飯がまだだからラーメンでも食うとするか。)
ちょうど駅に向かう途中、
「~ん、8時には帰ってくるよ~。行ってくるね。 あ!隼樹じゃん!」
(げっ、瑞希だ。6年ぶりぐらいじゃないか……。幼稚園の頃からの幼馴染だが、小学生以来ほとんど会っていない。というか、避けてた。あまりこの手の人種は苦手だ。陽キャというか、パリピというのだろうか、とにかく取っ付きにくい。)
「ひ、久しぶりだな。うん……。」
「久しぶり!あー、相変わらずだね!これからどこかいくの?」
(相変わらずってなんだよ。何かとげがある言い方をするな……。)
「そっちも相変わらず洒落た服を着てるな。ちょっと用事があってな。」
「駅まで行くの?」
「あぁ、そうだが……。」
「ホント!なら一緒に行こうよ!」
(い、いやだぁ……。こういうとこも苦手ほんとに。)
住宅地から商店街の道を歩いていく、
「隼樹、高校生活どうだったの?」
「あ、まぁ、ふつうだったよ。」
「ふつうか~。隼樹、中学は別だったもんね。」
「うん……。瑞希はどうだったんだよ。」
「わたしは、ものすごくたのしかった!友達もたくさん出来たし、いっぱい遊んだし!正直、高校受験も大学受験も大変だったけどねー。とにかくよかったなぁ。」
「大学はどこに行くんだ?」
「医療系。看護師目指そうと思って。」
「意外としっかりしてるんだな……。」
「意外とって!わたしだって小学校のころに比べたらしっかりしてるんだからね!」
と言って、瑞希は隼樹の肩を軽くたたいた。
(照れながら笑う瑞希の表情に何か懐かしいものを感じた。)
「まぁ、元気そうで何よりだよ。」
「そうだね!」
しゃべりながら歩いていたらあっという間に駅に着いた。
「俺は2番線だけど……。」
「わたしも2番線。」
ホームに上がるとスーツが似合わない中年の男が隼樹の横を走り過ぎた。
「その人痴漢です!!」
階段から2両先で、被害者らしき女性がおびえながらも叫んだ。
「そいつ痴漢だ!誰か捕まえてくれ!!」
あとから追いかけている大学生もそう呼びかけていた。
「えっ!痴漢だって、こわいね。 は、隼樹!?」
その瞬間、瑞希の隣に隼樹はいなかった。