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第十九話 目覚め

「またガレナに助けて頂きましたね」

「本当に驚きました。お強いですのね」

「いやそれほどでも――」


 二人に褒められ照れるガレナである。


「俺が倒せるぐらいなので大した魔物ではなかったのだろうが、他にもやってきたら面倒なことになるかも知れない。薬を早く呑ませてあげた方がいいだろう」

「はい。では」

「あ、あぁ……」


 そういえばそうだったか、と頬を指で掻きながら改めてフランに近づきその手を握りしめた。


「おかげで震えが止まりました」

「そ、それなら良かった」


 フランの優しい笑顔にガレナの顔が朱色に染まる。


 そして――グラハム公爵の顔に瓶を近づけていく。グラハムは髭を蓄えた厳しい顔つきをしていた。今はベッドに横になっているがこのような状況でも肉体は衰えを感じさせない屈強な体を有す。


「お願いお父様目を覚まして――」


 願いを込めて瓶の中身を少しずつ父親の口に流し込んでいく。グラハムの喉がしっかり動いていた。どうやら嚥下に問題はないようだ。


 瓶の中身が空になる。薬はすべて飲み干してくれた。ガレナを含めた三人がその顔を見つめ続ける。


「う、うぅん――」


 グラハムが呻き声を上げた。意識が戻った証拠でもある。


「お父様!」

「貴方!」


 フランとマチルがグラハムの顔を覗き込む。二人ともどこか緊張した面立ちだった。


 その時、グラハム公爵の目がパチンッと見開かれた。かと思えば勢いよく上半身を起こし――


「ウォオォッォォオォォッォオオオオオオ! ふっかーーーーーーーーつ!」


 そう叫び声を上げた。今の今までベッドで寝続けていたのが嘘では、と思えるほどの回復具合である。


「むぅぅう! 力が力が漲ってくるぞ!」

「貴方、良かった――薬が効いたのですね」


 力こぶを見せつけ元気になったことをアピールするグラハム。その姿にマチルが喜び目元を拭った。


「ムッ! マチルか。私は、そうだ。何か急に足元がふらつき倒れたのだ!」

「はい。その後ずっと眠り続けていたのですよお父様」

「ずっと、どれぐらいだ?」

「はい。貴方十日程眠っておりました。危険な状況でしたがフランが薬を持ち帰ったおかげで助かったのです」

「そんなにもか――」


 伏し目がちに呟くグラハム。すると妻のマチルを抱き寄せその場で熱い口づけを交わした。


「お、お父様」

「その……」


 赤くなるフランと思わず目を背けるガレナ。マチルも最初は驚いていたようだがすぐに受け入れグラハムの背中に腕を回していた。


「――もう貴方ったら」

「うむ、ついな。心配掛けたなマチル」

 

 互いの唇が離れ囁きあう二人。ガレナとフランの姿など見えていないようだ。


「しかし、それだけ寝ていたからか腹が減ったな」

「はい。ではすぐに準備しますね」


 そう言い残し軽い足取りでマチルが部屋を出た。その後グラハムは部屋にいた使用人たちにも出るように伝えた。結果的に部屋にはグラハムとガレナ、フランという三人が残ることとなった。


「さてフランよ。私の為に薬を手に入れてくれたのだな。本当にありがとう。私はお前という娘を持ったことを誇りに思う」


 フランと目を合わせ真剣な面持ちでグラハムが感謝の気持ちを伝えた。


「そんな。私だけの力ではありません。今は席を外してますがスライとサリーそれに――」

「ところで――君は誰だ?」


 フランは薬を手に入れるまでに協力してくれた皆のことも伝えようとしたようだ。だがグラハムはフランの話が終わる前にガレナに目を向け問いただす。


「俺は道先案内人でフラ、いや彼女をここまで送り届けさせてもらった」


 ガレナが答える。こういった相手と話すのはなれていなかったがそれでもフランと呼び捨ては不味いかも知れないと考え別な呼び方に変えたようだ。


 グラハムのガレナを見る目は険しい。どこか疑わしそうな視線でもあるが――


「お父様! ガレナにあまり失礼な態度は困ります! 今のお父様があるのもガレナの力があ

ってこそなのですよ!」

「むぅ、そ、そうなのか?」


 フランが偉い剣幕を見せた。その様子にグラハムも思わずたじろぐ。


「薬を届けるのに最短ルートである魔境を越えたのもガレナの助けがあったこそです」

「何あの魔境をだと!?」


 フランの説明にグラハムが驚く。どうやら魔境が危険というのはロイズ家では共通認識として知られているようだ。


「いや、俺は大した事はしていない。スライとサリー二人の騎士の力が大きかったのだ」

「そんな謙遜を。お父様ガレナの力がなければ私達は魔人に殺されていたかもしれません」


 ガレナに謙遜の意識はなかったがフランはグラハムに彼の功績を聞いてもらおうと一生懸命だ。


「魔人、だと?」

 

 そしてグラハムはフランの一言に敏感に反応したのだった――

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