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クラフトマスター建国記〜転生により不治の病を克服した少年は異世界で『至高の国』を再建する〜  作者: ウィースキィ
第一部 第三章 新たなる世界 【エルセリア大陸 編】

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第11話 突入


 午後の薄曇りの空の下、愁は器用に肩に乗るオベロルストと共に、静まり返った街を進んでいた。目指すは街の中心にそびえる巨大な城。


 周囲の街並みはまるで時が止まったかのように静寂が支配していた。どの通りを歩いても、賑やかさの欠片すらない。目に映るのは時折すれ違う兵士の影のみ。しかし、その姿も、愁が城へ近づくにつれ次第に減っていく。


(この状況……戦況があまり芳しくないようだな)


 愁は僅かな焦燥を感じながらも、冷静さを保つ。首都の防衛を担うはずの兵士が減っているとなれば、戦況は明らかに不利に傾いているのだろう。


 しかし、愁にとってはむしろ好都合だ。警備が手薄なら、侵入が容易になるのだから。


「ところで、城に侵入する良い方法とかありますか?」


 歩きながら、愁は肩の上の小さな協力者に問いかけた。オベロルストは足で器用に顔をこしこしと洗いながら、渋い声で応じる。


「そうだな……見たところ兵士の数も減っている。君が使う気配探知の精度は相手の強さも測れるのだろう?城の近くで感度を上げ、今の戦力で突破可能と判断すれば、正面から行くのが良い。隠れて侵入するより、確実だ」


 愁は内心、正面突破の提案にわずかに眉をひそめたが、すぐにその合理性を理解した。


 時間をかけてこそこそと潜入するより、二人の居場所を特定し、速やかに救い出す方が賢明だ。遅れてしまっては手遅れになる──その焦燥感が、愁の背を押していた。


「確かに、急ぐべきですね。城はもうすぐです。出来るだけ近づいて、精度の高い探知を行います。その間、周囲の警戒をお願いします」


「無論だ。それと、これがエリルの情報だ」


 オベロルストがぷにっと愁の頬に肉球を押し当てた瞬間、まるで電流が脳内を駆け抜けるような感覚が愁を襲った。


 次の瞬間、流れ込んでくる『記憶』──金色の髪を持つエリルの姿が脳裏に鮮明に浮かび上がる。小柄な体に優美な容姿、そして無邪気な笑顔。その瞬間、愁の胸に何とも言えない温かさと、彼女を救わねばならないという強い使命感が込み上げた。


「い、今のは……オベロさんの記憶ですよね?」


「そうだ。意志疎通の力を応用して、君に私の記憶の一部を見せた。これでエリルを探しやすくなっただろう?」


 愁は深く頷いた。


 説明なしに見せられたことへの不満はあったが、確かにエリルの姿が頭に刻まれたのは大きな収穫だ。


 そして、オベロルストの底知れない力の一端を垣間見たことで、彼への信頼が少しずつ芽生えつつも、同時に背筋に冷たいものが走る。


 この力を敵に回すことだけは避けねばならない、と。


「これで探しやすくなりました。ちょうどあの辺、人も少なく、城にも近そうです。そこで探知を行いますので、周囲の警戒をお願いします」


 愁は城壁に背を預け、深い呼吸を一つ整えると、〈気配探知〉の力を解き放った。


 瞬く間に視界に広がる感覚の奔流──建物の構造、人の動き、そのシルエットが頭の中に浮かんでいく。兵士の動き、使用人たちの所在、そして、地下に広がる暗闇の中に閉じ込められた複数の命の気配。冷ややかな汗が愁の額を伝う。


「……地下に広い空間があります。そこに八十三人のエルフたちが集められています。そして、その中にエリルちゃんとメラリカさんもいますね……」


 愁は言葉を絞り出した。オベロルストの記憶にあったエリルの気配が確かにそこにあり、彼が探していたメラリカの反応も確認できた。


 しかし、メラリカは他のエルフたちとは隔離され、一人閉じ込められている様子。彼女の周囲には三人の人族の気配が張り付いている。


(実験か……?何かが始まる?急がないとやばい感じだな)


 愁の心は焦りに駆られた。これ以上の遅延は許されないと、本能が告げている。


「オベロさん、見つけました!二人とも地下に捕らわれています。どうしますか?」


 オベロルストはしばし思案した後、低く唸るように答えた。


「そうか……地下となれば、行くまでには相当数の兵士を相手にせねばなるまいな。兵士の数や強さはどうだ?」


「少し待ってください」


 愁は再度、神経を研ぎ澄ませ、周囲の気配をさらに深く探った。


 城内にいる兵士は合計二百十名。そのうち、一般的な兵士が約百名、さらに強い気配を持つ者が七十名、その上の精鋭が四十名。そして、最も強い反応を放つ者は一人。おそらくは王の護衛だろう。執事やメイド、料理人などの反応は四百名ほど。彼らは戦力として数えなくてもよい。


 愁は、歯を食いしばりながらオベロルストの方を振り返る。


「この戦力だと、地下にたどり着くまでに激しい戦闘が避けられません。でも、急がないと……彼らが何かを始める前に」


「ふむ、ならば答えは簡単だ。我々は突き進む。愁、君の探知能力と私の力があれば、突破できぬものなどないはずだ」


 オベロルストの言葉は、愁の迷いを一瞬で吹き飛ばした。低く響くその声には、揺るぎない決意と、どんな逆境にも立ち向かう覚悟が込められていた。


 愁は、その力強い言葉に押されるように、自らの胸の内に小さな炎が灯るのを感じた。


(そうだ、迷っている暇はないんだ)


 〈気配探知〉を使い続ける愁の脳裏には、地下の牢で必死に希望を捨てず耐え忍んでいるメラリカとエリルの姿が浮かぶ。その二人を救い出すために、今ここで自分が動かなければ、彼女たちがどれだけ傷つき、苦しむかは計り知れない。愁の心臓が鼓動を打ち鳴らす度、その思いが一層強くなっていった。


「……そうですね。悩んでいる場合じゃない。行きましょう、オベロさん!」


 愁は決意を固め、力強く頷く。すると、オベロルストは肩の上で器用にバランスを取りながら、愁をじっと見据えた。冷静でありながら、その瞳の奥には確かな熱が宿っていた。


「それでよい。何事もまず動いてみなければ始まらん。さあ、突き進もうではないか」


 その声に背中を押され、愁は一気に駆け出した。城へと続く石畳の道が、足音に応じて鈍く響く。不気味な静寂に包まれた街の中で、二人のシルエットが矢の如く一直線に突き進んでいく。


 やがて、目の前に聳える城の威圧的な影が迫ってきた。


 愁は一瞬立ち止まり、呼吸を整えながら再び〈気配探知〉を探知範囲を広げる。


 兵士たちの存在が確かに感じ取れるが、愁とオベロルストにとっては脅威にはなり得ないことも、先ほどの探知で確認済みだ。


「地下までの道のりには、やはり兵士が何人も待ち構えています。でも、現状、俺たちを止められる力はないです!そのまま行きましょう!」


 愁は肩に乗せたオベロルストの声に、再び覚悟を固めるように心を引き締めた。


「その意気だ。だが気を抜くなよ、愁。いくら手薄だといっても、この城の中枢に踏み込むのだ。何が待ち受けているかは分からん。常に警戒を怠るな」


「はい、肝に銘じます」


 愁は深く息を吸い込み、周囲のざわめきから意識を研ぎ澄ませた。


 彼の〈気配探知〉が捉えるのは、地下の奥深くから漏れ出す微かな鼓動。捕らえられたエルフたちの生気が薄く漂い、その中にメラリカやエリルの優しい息遣いも確かに感じ取れる。


(大丈夫だ、もう少しだ……必ず助ける)


 まるで自らに言い聞かせるように愁は呟き、再び足を進めたその瞬間、遠くから警鐘の音が冷たい空気を切り裂き、城全体に不気味な響きをもたらした。


 瞬く間に城の内部が騒然となり、兵士たちが一斉に動き出す。愁の〈気配探知〉には、兵士たちが蜂の巣を突いたように駆け回る姿が鮮明に浮かび上がった。


「バレたか……だが、これでいい!」


 愁の目に宿るのは迷いを捨て去った強い決意。彼の心は今、助けを待つ者たちへの想いだけで突き動かされていた。もはや怯む理由はない。ただ、前へ進むのみ。


「行きましょう、オベロさん!ここで止まってはいられません!」


 オベロルストは鋭く輝く瞳で城門を見据え、愁の肩から軽やかに飛び降りた。


「良い覚悟だ、愁。ならば、この城の壁を力ずくで突破してやろう」


 その言葉に愁は静かに頷き、愛刀・宵闇を帯刀した。


 さらに、黒い皮手袋をはめ直す。これは地底龍から得た素材で作った新装備。寒さを防ぐだけでなく、素早さと筋力を強化する効果を持つ優れものだ。


 準備を終えた愁は、城の正門を見据える。


 そこには、剣を構えた二人の兵士が立ちはだかっていた。さらに、塀の上には四人の見張り、門の内側には七人ほどの兵士が待ち受けている。愁は〈気配探知〉で彼らの配置を把握し、息を整える。


(見つからずに通り抜けたいが……この状況では無理だな)


 愁が肩に乗ったままのオベロルストと共に門へと歩を進めると、兵士たちが彼の存在に気付き、剣を抜いて行く手を阻んだ。


「ここから先は許可のある者しか通れん。許可証を見せろ!」


「すみませんが、急いでいるので通してもらいますね」


「お前……何を!」


 次の瞬間、宵闇が唸りを上げて閃いた。その速さは、人間の目には捉えられないほどだ。


 愁の剣はあくまで峰打ちだが、それでも二人の兵士は吹き飛ばされ、地面に転がって動かなくなった。


「敵襲だ!正門前に人族の男がいる、捕えろ!」


 塀の上で見張っていた兵士が声を上げ、瞬く間に他の兵士たちが正門へと殺到してくる。愁はその全てを〈気配探知〉で捉え、短く舌打ちをした。


(数は多くないが、これ以上は時間の無駄だな……)


 愁は手早く懐から〈爆裂〉の魔法を込めた魔石を取り出し、門へと投げつけた。


 閃光が一瞬走り、爆発の轟音が城内に響き渡る。巻き起こる砂煙と共に、鉄製の門扉は一部が粉砕され、人が一人通れるほどの穴が開いた。


「今のうちに行きましょう!オベロさん!」


「ふむ、なかなか大胆な策だな。だが、それでいい。後は振り返らず突き進むのみだ!」


 愁とオベロルストは、巻き上がる砂煙の中を一気に駆け抜けた。


 背後では兵士たちが次々と集まってくるが、彼らの姿はもう正門前にはない。やがて静けさを取り戻し始めた城内では、ただ風だけが冷たく吹きすさんでいた。


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