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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第四章 新たなる世界 【第二次王国 編】

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第14話 また会う日まで


 リリーニャ、レイネス、シャウラの三人は、揃って頭を押さえながら呻き声をあげていた。


「なんだか……」


「頭が……」


「痛いです……」


 その苦しそうな表情と口にする同じ言葉は、昨夜の宴での大いなる代償だった。リリーニャを筆頭に、テンションが上がりすぎた三人は、ついお酒を飲み過ぎてしまい、今ではその報いを受けている。


 愁は呆れたように肩をすくめながら言った。


「そりゃあね、あれだけ飲めば頭も痛くなりますよね……」


 昨夜、結局愁は三人に捕まったまま、もみくちゃにされるという混乱の中にいた。その後、やっと解放されたものの、すでに宴は酒盛りに発展。リリーニャは特に楽しげで、お酒の味を覚えたらしく、さらに調子に乗って飲み続けたのだ。愁はリルアを連れて一時避難することにしたが、しばらくの間、夜遅くまで楽しそうな笑い声が部屋の外から聞こえてきた。


 リリーニャの精神、というよりは璃里であった頃の年齢は、愁と同じで十七歳であり、この世界ではお酒を飲める歳だ。しかし、残念ながらリリーニャとしての体はまだ十一歳なので、この世界でも未成年であり、飲酒は禁止されている。つまり悪い子なのである。


 自業自得なリリーニャが青ざめた顔をして、つらそうに呻く。


「うぅ……痛い……」


 そして、弱々しく手を伸ばし、愁に哀願するように言った。


「愁くん?ポーションを……恵んでください……」


 その手を愁は優しく握り、リリーニャに満面の笑顔を向ける。リリーニャは一瞬、救われたかのような表情を浮かべた。彼女の中で、これでようやくこの痛みから解放されると期待していたに違いない。しかし、愁の次の言葉は、まったく違うものだった。


「だーめ!これに懲りたら反省することだな」


「え?えぇーっ!?なんで!?今の流れで何で!?お願いだよぉ!」


「だめ!」


「うぅ……酷い」


 リリーニャの「酷い」という言葉に、愁は昨夜のことを思い出していた。離してくれと何度頼んでも、しがみついて離れなかったのはリリーニャだったのだ。それに、未成年が飲酒して具合が悪くなったのは自業自得。ここは心を鬼にするべきだと愁は決意を固めていた。それにポーションを無駄にするわけにはいかない。


「まあ、水分をたくさん取って、馬車の中で寝てるといいよ。寝ればきっと治る……はず!」


「うぅ、わかったぁ~……」


 ふらふらとした足取りでリリーニャは馬車に倒れ込むように座り込んだ。


「まったく……ところで、シャウラさんとレイネスさんは大丈夫ですか?」


 レイネスが爽やかに笑う。


「ぼくは大丈夫だよ。少し頭は痛いけど、これもお酒の醍醐味だからね」


 シャウラも満足げにうなずいた。


「そうだな。これも酒飲みの醍醐味の一つだ。気にすることじゃない」


 愁は苦笑しながらも、納得したように頷いた。


「ある意味で二人は流石ですね……」


 大人とは、責任を持って自分の行動の結果に向き合える者のことを言うのだろう、と愁は改めて感じた。


「よし、それじゃあそろそろ出発しますか。御者さんも待たせていますから」


「そうか、そうだな。時間だな……」


 シャウラが少し感慨深げに言葉を漏らす。


「なんだ、その……楽しかったよ。愁、リリーニャ、リルア、レイネス、みんなと過ごせてな。またいつでも遊びにきてくれ。今度はあたしがおもてなしするからさ」


 愁は笑顔で答えた。


「もちろんですよ!そんなに遠くないですし、また頻繁に帝国には来ますから。顔を出しますよ。それに、素材も見つかり次第お届けしますからね!」


「うん、楽しみにしてるよ!素材のことももちろんだが、またみんなに会えるのが一番楽しみだ。それに、みんなも体調には気を付けてな。特にリリーニャ、だぞ?」


「うっ、うん!気を付けます……」


 リリーニャは、ばつの悪そうに返事をし、再び頭を抱える。


「それと、リルア?義足の調子が悪くなったら、すぐ愁に連れてきてもらうんだぞ?あたしがすぐに直してやるから。もう少し使いやすくなるようにも、これから研究しておくよ」


 その言葉を聞いたリルアは目を輝かせ、シャウラに抱き付いた。


「うん!ありがとう、シャウラおねーちゃん!大好き!」


 リルアがシャウラの頬に軽くキスをすると、シャウラは少し照れくさそうにしながらも、優しくリルアを抱きしめ返した。まるで本当の姉妹のような温かい絆がそこにはあった。愁は二人のその姿を見つめ、穏やかな微笑みを浮かべる。


 シャウラはリルアと別れの挨拶を終えると、次にレイネスに向き直った。最初、レイネスが魔族であることに若干の警戒心を見せていた彼女だったが、共に時間を過ごすうちに、その考えは徐々に変わっていった。昨日のパーティーでは、彼女らはまるで旧友のように親しげに話し、笑い合っていた。その光景が愁の心に強く残っていた。


「レイネス、短い間だったが色々話せて本当に楽しかったよ。また会う時は、ぜひ旅の話を聞かせてくれ」


「ぼくも楽しかったです!それに、ぼくの旅の話で良ければ、いくらでも話しますよ。次に会う時はもっと語りましょう!」


 レイネスの言葉に、シャウラは少し照れたように笑い、さらに付け加えた。


「ああ、その時はぜひな。それと……」


 一瞬、シャウラは言葉に詰まる。愁も、何を言うのかと興味を引かれ、耳を傾けていると、シャウラはいたずらっぽい笑みを浮かべながら続けた。


「愁の所に行くんなら、気を付けろよ。あいつはきっと狼だ、レイネス。お前は華奢で可愛い女の子だから、きっと襲われちまうかもしれないぞ?」


「えぇっ!? そんな……愁さんはそんな人じゃないと思ってたのに……」


 レイネスががっかりしたように肩を落とす様子に、愁はすかさず声を張り上げた。


「いやいや、ちょっと待った!シャウラさん、変なこと言うのはやめてくれませんかね?俺がいつそんなことをしたって言うんですか!?」


 シャウラはレイネスの肩を軽く掴んで、愁に向かってニヤリと笑う。


「なぁ、レイネス?今の愁、必死だろ?図星だから焦ってるんだよ。だから愁はお前を誘ったんだな。ほら、気を付けろよ、目が見えないからってイタズラされないようにな?」


「はい!気を付けます!」


 レイネスが元気よく返事をするのを見て、愁は力なく肩を落とした。


「いや、これは酷い風評被害ですよ……あの、レイネスさん?本当にそんなことはないですからね。これ以上言うとますます怪しくなるから、もう黙りますけど……」


「ふふ、わかってますよ。冗談ですから」


「そうそう、別れ際のジョークだよ、愁?」


「はぁ……まったく、たちの悪いジョークだなあ……」


 皆がクスクスと笑い始めた。その笑い声は徐々に広がり、周囲に温かい空気が満ちる。明るい日差しが差し込み、頬を撫でる優しい風が、笑いの余韻を包み込む。この瞬間、この場所には小さな幸せの輪が広がっていた。それは簡単には壊れない、強くて固い絆だ。


 だが、この幸福な時間も、今は一時の別れの時を迎えていた。とはいえ、またすぐに会える。お互いの道を歩み、日常に戻るだけのことだ。別れとはいえ、その思いは軽やかだった。


「それじゃあ、そろそろ行きますね」


「ああ!気を付けてな!また会う日まで!」


 手を振るシャウラを背に、愁たちは馬車に乗り込んだ。この馬車は大森林の手前まで向かう予定で、そこから先は徒歩か飛行で村まで進むことになっている。馬車がゆっくりと動き出し、シャウラとの距離が少しずつ開いていく。


「シャウラさん!近いうちにまた会いましょう!本当にありがとうございました!」


「ああ!こちらこそありがとう!またなーっ!」


 シャウラは、愁たちが見えなくなるまでその場で手を振り続けていた。もう二度と会えないわけではない。すぐにまた会えるだろう。それなのに、シャウラはもう彼らに会いたいという思いで胸が温かくなるのを感じていた。


 この出会いを通じて、シャウラは決意を新たにした。これからはもっと人と関わり、絆を深めていこう。ずっと恐れて避けてきたこと――他者と繋がること、その大切さに気付いたのだ。これからは、今までの自分よりも少しだけ強く、前を向いて生きていけるだろう。


「みんな……またな。次に会うのを楽しみにしてるよ」


 遠ざかっていく愁たちの姿が見えなくなった後、シャウラは静かに呟き、踵を返して工房へと戻っていった。その背中は、どこか晴れやかなものだった。

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