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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第四章 新たなる世界 【第二次王国 編】

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第12話 旅の答えの一つ


 レイネスが屋敷に来てから数日が過ぎた頃、部屋の外がやけに騒がしいことに気づいた愁は、気になって顔を扉の方に向けた。その瞬間、バンッと勢いよく扉が蹴破られ、リルアが飛び込んできた。


「おにーちゃん!おにーちゃん!見て見てっ!」


 小休憩を取ってベッドの上で本を開いていた愁の元に、リルアはその勢いを殺すことなく飛び込んできた。愁は驚いて体をのけぞらせたが、すぐに彼女をしっかりと受け止める。


「うわっ!リルアか。なんだなんだ?もしかして、義足が完成したのかい?」


 扉を蹴破って飛び込んでくる様子を見る限り、義足が完成して、自由に歩けるようになったのだろうと愁は思った。リルアは愁を押し倒すようにして飛び込んできたが、その無邪気な顔には喜びが満ちていた。


「うんっ!もう完成だって!すごいんだよ!自分の足みたいに動かせるの!だからね、見てっ!こうしてすぐに立てるし、ちゃんと一人で歩けるんだよ!」


 リルアは嬉しさを隠しきれない様子で、飛んだり跳ねたり、勢いよく歩き回る。見るからに喜びに満ちており、愁もまた、その姿を微笑ましく見つめた。


(よかった……)


 愁の心は温かく満たされた。この瞬間も、シャウラの尽力のおかげだ。彼女が義足の制作を引き受けてくれたからこそ、リルアはこうして再び自由を取り戻したのだ。


「シャウラさん、素晴らしい義足を本当にありがとうございますね」


 愁が廊下に向かって声をかけると、案の定「なんだ、気付いていたのか」と少し照れた様子のシャウラが部屋に入ってきた。


「リルアの嬉しそうな姿を見られたのも、シャウラさんのおかげです。本当にありがとうございました」


「シャウラおねーちゃん、ありがとう!」


 二人からの感謝の言葉に、シャウラは少し照れくさそうに顔を背ける。


「ま、まあ……助けてもらったお礼だからな。そんなに大げさに感謝されることじゃないさ……」


 彼女はその言葉を口にしながらも、少し嬉しそうに見えた。だが、愁はしっかりと感謝の気持ちを伝える。


「いえ、そういうわけにはいきませんよ。本当に感謝しています。もし何かお礼できることがあれば、ぜひ教えてくださいね」


「お礼、か……いや、ご飯も食べさせてもらったし、お風呂も使わせてもらった。それに素材の件も約束してくれたから、もう十分だ。これ以上は貰いすぎってやつさ」


「そうですか……でも、シャウラさんが困ったときは遠慮なく言ってくださいね?」


「ああ、そうさせてもらうよ。これからもよろしくな」


 シャウラがこの屋敷に滞在しているのは義足が完成するまでという約束だ。義足が無事に完成した以上、愁たちも村に戻らなければならない。そしてシャウラとの日々も、これで一旦の終わりを迎える。だが愁は、この終わりを少しでも特別なものにしたいと思い、ふとある提案をする。


「そうだ、今日はちょっとしたパーティーでもしましょうか? 義足完成の記念と、シャウラさんへの感謝の気持ちを込めて」


 シャウラがただの職人なら、村にスカウトしたいほどの技量を持つが、彼女はラリアガルド帝国の工房長という立場にある。それは叶わない夢だと愁は知っていた。それでも、この名工との最後の夜を楽しみたいという気持ちで、パーティーの提案をしたのだ。


「お礼はいいって、今言ったばかりだろ?でも、まあ、パーティーか……悪くないな。そういえば、愁たちはいつ戻るんだ?」


「それなんですが、急ですが明日の朝には出発しようかと思っています。村には待たせている仲間たちがいますから」


「そうか……」


 一瞬、ほんの一瞬、シャウラの表情に影が差す。別れを惜しむ気持ちが顔に表れたのだ。彼女も愁たちが帰ることは理解していたが、それでもその別れは辛いものだった。それでも、最後は笑顔で別れたい。シャウラはそう心に決めたようで、すぐに明るい笑顔に戻り、元気よく応じた。


「それなら仕方ないな!それじゃあ、最後にパーティーで楽しむとしようか!」


 こうして、ラリアガルド帝国での滞在の最終日は明日と決まり、今日の夜はみんなでパーティーを楽しむことが決定した。話がまとまると、シャウラとリルアを連れた愁はリリーニャの部屋へと向かい、パーティー開催の件を伝える。リリーニャは笑顔で使用人たちと一緒に準備を始めると言い、リルアとシャウラを連れて張り切った様子で部屋を後にした。


 一人部屋に残された愁は、ふとレイネスのことを思い浮かべる。彼女には、まだ聞くべきことがあった。これからどうするのか——愁はそれをまだ聞いていない。レイネスはリリーニャやリルアとも打ち解け、シャウラも含めてよく四人で話している姿が見られるようになった。愁自身も彼女と過ごす日々の中で、旅の話やこれまでの人生について語り合った。


 その中で、居場所がないと寂しそうに語るレイネスの姿が忘れられない。愁は、彼女を村に招待することを考えていた。しかし、それはあくまでレイネスが望むならという話だ。まずは、彼女の気持ちを確認しなければならない。


 愁は静かに立ち上がり、レイネスの部屋へと向かう。廊下を歩く足音さえ控えめに、彼は心の中でゆっくりと言葉を整えた。扉の前に立つと、軽くノックをする。すぐに、落ち着いた声が扉の向こうから響いた。


「どうぞ」


 許可を得て扉を開けると、レイネスはベッドに座り、こちらに顔を向けていた。窓からの光が彼女の背後に差し込み、淡い影が部屋の中に広がっている。


「レイネスさん、少しお話があるのですが、今お時間よろしいでしょうか?」


 愁は室内へ足を踏み入れると、どこか甘い香りがふんわりと漂ってきた。おそらくレイネスが纏っている香りだろう。彼女は穏やかに微笑み、ベッドの端に身体を寄せて、愁が座れるようにスペースを作ってくれた。


「もちろん、大丈夫です。愁さんと話す時間は、いつだって嬉しいですから」


 今日は彼女の髪はいつものポニーテールではなく、長い薄緑色の髪がふわりと肩に流れ落ちている。普段は気丈な彼女の、どこか柔らかい一面を感じさせるその姿に、愁は少しだけ緊張を覚えながら、隣に腰を下ろす。


「それでは、失礼します」


 彼女のそばに座ると、先ほど感じた甘い香りがさらに強くなった。優しく包み込むその香りは、やはり彼女自身のものなのだろう。レイネスの美しい横顔を目にしながら、愁は自分の鼓動がわずかに速くなるのを感じた。そんな彼の様子に気づいたのか、レイネスは小首を傾げ、話の続きを促してくる。


「それで、何のお話ですか?」


 愁は少し息を整え、ゆっくりと話を始めた。


「えっとですね……リルアの義足が完成したので、明日の朝には俺たち、村に戻ることになりました。そこで、レイネスさんも一緒に来ないかなと思いまして。どうでしょうか?」


 その言葉に、レイネスの顔に一瞬驚きが走ったが、すぐに彼女は視線を床に落とした。そして、少し消沈したように、彼女はゆっくりと口を開いた。


「ぼくが一緒に行っても……本当に大丈夫なの?ほら、ぼくは魔族だし、それに目も見えないから、きっと迷惑をかけちゃう。それに……」


 レイネスは肩を震わせ、両手を目隠しで覆われた目元に添えた。震える声が、彼女の胸の奥に潜む不安を伝えてくる。


「この魔眼が……もし暴走したら、取り返しのつかないことになるかもしれない……」


 愁はその言葉に心が痛む。崖下で初めて出会ったとき、レイネスが恐怖に怯えていた姿が頭をよぎる。彼女はこれまで制御のできない力に翻弄され、多くの人を傷つけ、自分自身も深く傷ついてきたのだろう。そんな彼女が再び不安に襲われているのは明らかだった。しかし、今愁が聞きたいのは、そんな『もしも』の話ではない。


「レイネスさん、魔眼の力が危険なことはよくわかっています。おそらくその力で、たくさんの辛い経験をしてきたのでしょうね。俺も、そのすべてを知ることはできません。でも、それでも……」


 愁はレイネスに向き直り、その目を真っ直ぐに見据えた。


「俺が聞きたいのは、レイネスさんがどうしたいかなんです。怖いとか、迷惑をかけるかもしれないとか、そういうことじゃなくて。レイネスさん自身の気持ちを知りたい。もし、俺たちと一緒に行きたいと思うなら、俺は全力で守ります。村のみんなも支えます。だから、もう一度聞きますね。本当のところ、レイネスさんはどうしたいですか?」


 愁の真摯な問いかけに、レイネスは言葉を失い、しばし沈黙した。彼の言葉は、彼女の胸の奥にある不安を少しずつ溶かしていく。彼女が口を開こうとするたびに、何かが胸を塞ぎ、声が出ない。けれど、心の中で、彼女はずっと答えを知っていた。


「ぼくは……」


 彼女の心に響くのは、愁の優しさ、そして誠実さ。忌まわしい魔眼を持つ自分に、ここまで寄り添い、平等に接してくれる人が他にいただろうか。愁が初めて目を合わせてくれた時、レイネスの世界は一瞬で色を取り戻した。彼は、自分をただ『魔族』として見るのではなく、ありのままの『レイネス』として見てくれた。それが、どれだけ彼女にとって救いだったか。


(こんな風に言われたら……もう、我慢なんてできない……)


 レイネスのかすかな震えが、ようやく言葉となり愁の元へ届こうとしていた。


 愁だけではない。リリーニャ、リルア、そしてシャウラ。皆がレイネスに対して優しく接していた。長い旅の中で多くの人々と出会ってきたレイネスだが、敬愛する師匠を失ってからは、愁ほど不思議な人物には出会ったことがなかった。人族も魔族も亜人族も関係なく、相手を一人の個人として見て接する愁。広い視野と、強さと優しさを持ち合わせたその姿に、レイネスは次第に心を開いていった。


 そんな愁が、「本当はどうしたいか」と真っ直ぐに尋ねてくる。すべての条件を抜きにして、自分の気持ちだけを聞いてくれる彼の言葉に、レイネスの胸にずっと閉じ込めていた思いが揺れ動いた。


「ぼくは……ぼくは一緒に行きたい……きっと、本当はずっと探していたんだ。ぼくが居てもいいって言ってもらえる場所を……ずっと、ずっと探して旅を続けて、一人でいることに慣れたつもりだったけど、それは間違いだったんだ……」


 レイネスの声は震え、言葉が少しずつこぼれ落ちる。自分が一人でいた時間の寂しさ、その中で見つけた小さな希望が、今こうして言葉になって愁に向けられている。その心の奥底にはいつも不安と孤独があった。魔眼を持つことで、人を傷つけ、自らを遠ざけてきた。


「でも……愁さんやリリーニャちゃん、リルアちゃん、シャウラさんと過ごして、気づいたんだ。ぼくはずっと寂しかったんだって……」


 声は徐々に力を取り戻し、レイネスの心の内が愁へと注がれていく。そしてついに、その感情は溢れ出した。


「許されるのなら……ぼくは……っ!」


 感情をぶつけた瞬間、レイネスは震える両手を握りしめた。自分の気持ちを受け入れてくれるのだろうか。その不安と期待が交錯する中、愁の返事を待つ時間が、永遠にも感じられる。


 しかし、愁は優しく、そして揺るぎない声で返した。


「それなら、俺から言えるのは一つだけです。一緒に行きましょう。俺も村のみんなも、レイネスさんを歓迎します。これからは、レイネスさんが嫌だと言わない限り、俺たちの村がレイネスさんの居場所です。大切な仲間たちがいる村、きっと気に入りますよ」


 その言葉に、レイネスは自分が泣いていることを感じた。彼女は涙を布で覆われた目元で隠していたが、その微笑みは溢れる感情と共に止まらなかった。


(ああ、こんなにも暖かい人がいるなんて……)


 レイネスは愁の手をそっと握り、その温もりを感じた。強く、優しく、そして何よりも安心感を与えてくれるその手は、かつて自分を導いてくれた師匠のような温かさを感じられた。


「愁さん……ありがとう。ぼくに居場所をくれて、本当にありがとう……これからも、よろしくお願いします」


 これが、長い旅路の終着点なのかもしれない。そして、その先には新しい未来が待っているのだ。レイネスはそう確信しながら、心の中で亡き師匠にそっと告げた。


(お師様……ぼく、見つけましたよ……ぼくを必要としてくれる人と、居場所を。安心して見守っていてくださいね)


 新たな旅が始まるその瞬間、レイネスの心はこれまでになく満たされていた。

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