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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第四章 新たなる世界 【第二次王国 編】

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Girl's Story エリサとエリスの料理教室


 愁がラリアガルド帝国へ旅立ってから、二日が過ぎた。


  リアはいつものように、クラフトの練習に没頭していた。今や日課となったタオル作りに集中していたところ、ふと訪問者の気配に気づき、視線を向けた。訪ねてきたのは村の料理当番を務める双子の姉妹、エリサとエリスだ。二人はお揃いのメイド服を着ており、エリサは手に一冊の本を抱えている。


「リアちゃん、またこのレシピ本を翻訳してもらってもいいですか?このページなのですが」


 エリサは抱えていた本を開き、日本語で書かれたページをリアに見せた。そこにはケーキのレシピが描かれている。真っ白な丸いケーキの上には、赤い果実が飾られ、その断面はクリームとふわふわの生地が幾重にも重なっていた。ページに載ったその鮮やかな絵だけでも、甘さと美味しさが伝わってきて、見る者の食欲をそそるほどだ。


 翻訳を頼まれるのはもう何度目かだ。リアはクラフトの手を止め、いつも世話になっているエリサとエリスのために手伝うことにした。


「はい、大丈夫です。このケーキ、本当に美味しそうですね!」


 リアは本を見ながら微笑んで答えた。それに対し、エリサも頷いて返事をする。


「そうですよね?子供たちが喜ぶと思って。それに、甘いものは疲れを癒す効果もあるっていうので、いつも頑張ってくれている愁様にも食べてもらおうかと思って」


「愁さまに……ですか?な、なるほど~……」


 リアの脳裏に、愁の姿が浮かび、少し動揺した様子を見せた。そんな彼女の表情に気づいたエリサが、心配そうに声をかける。


「……リアちゃん?どうかしました?」


 その問いに、リアは一瞬考え込み、やがて真剣な顔でエリサとエリスを見つめた。そして、何かを決意したかのように、はっきりと告げた。


「エリサさん、エリスさん!わたしにも料理を教えてください!わたしも愁さまに喜んでもらいたいんです!」


 エリサとエリスは、突然の申し出に一瞬驚いたものの、リアの真剣な気持ちをすぐに理解し、にっこりと頷いた。


「もちろんいいですよ。それじゃあ、早速厨房に行きましょうか」


「はい!お願いします!」


 こうして、リアは初めての料理に挑戦することになった。




◆◇◆◇◆◇




 場面は変わり、三人は食堂にある厨房へとやって来た。今の厨房は、以前とはかなり様変わりしている。エリサとエリスが村に来た当初は、厨房は簡素な造りだったが、本格的な料理を作れるように、愁が二人の意見を取り入れて、使いやすく改修したのだ。


 水の魔石を用いて、いつでも新鮮な水を出せる水場。火の魔石を使った焜炉や竈、小さな窯など、最新の魔道具も顔負けの設備が整備されている。さらに、愁が少しずつ揃えていった調理器具は、整理整頓され、見事に配置されていた。計量カップや包丁、まな板、ボウル――まるで日本の家庭そのものだが、リアを含めて日本の家庭の詳細は知らない。


 リアは、そんな未知の器具が整然と並ぶ光景に、目を輝かせていた。彼女は、新しい知識や技術に触れるのが大好きなのだ。


「なんだか、いろんな物が揃ってますね……でも、ほとんどが何に使うものか分かりません」


 整理されているとはいえ、リアにとっては未知の道具ばかり。その光景に、リアの好奇心はますます刺激されていた。


「これ、愁様の国で使われていた物らしいですよ。一つ一つ、愁様が作ってくださったんです」


「そうなんですか?愁さまの国の道具……今度、いろいろ教えてもらいたいな」


 リアがそう呟いた時、ふいにエリスが小さな声でぽつりと言った。


「……愁様、優しい……」


 その声は本当にかすかなものだったが、リアもエリサも聞き逃さなかった。普段から口数の少ないエリスが話すのは、とても珍しいことだったからだ。


「あら、エリス。あなたが話すなんて珍しいわね」


 エリサが驚きつつも微笑みながら言うと、リアも目を丸くした。


「わたし、エリスさんが話してるの初めて聞きました。とっても綺麗な声ですね」


「……そんなこと、ない……」


 うつむいてしまったエリスに、エリサは優しく手を置き、嬉しそうに笑った。エリスは、普段からエリサと二人きりの時以外はほとんど話さない。仕事が終わればすぐに自室に籠もるため、他の人と話している姿を見ることはまずない。そんな彼女が、今日は少しだけでも会話に参加してくれたことが、エリサにはとても嬉しかった。


「ふふ、こう見えてエリスは歌が上手なのよ。ね、エリス?」


「そうなんですか!ぜひ聞いてみたいです!」


 リアの目は期待に満ちて輝いていた。はしゃぐように声をかけると、エリスは耳を伏せて、恥ずかしそうに縮こまった。長い犬耳がさらに垂れ、赤く染まった頬が可愛らしく、どこか守ってあげたくなる。


「う……だ、だめっ……」


 恥じらいのあまり、エリスは消え入りそうな声で呟き、すぐに口を閉じてしまった。リアとエリサは顔を見合わせて、微笑ましげにその様子を見つめている。


「あらあら、やっぱり恥ずかしがり屋さんね。それじゃあ、そろそろ始めましょうか、リアちゃん?」


「はい!エリサさん、エリスさん、よろしくお願いします!」


 リアの声には弾むような明るさが宿り、エリサもまた温かい笑顔を返す。


「まずは、何を作りたいか決まってますか?」


 レシピ本を手に取ったリアは、ページをめくりながら、ふと目に止まった小さなケーキの絵を指差した。


「これがいいです。小さくて可愛らしいし、手軽に食べられそうですから」


「そうですね。これなら忙しい愁様でも片手間に食べられるサイズですよね。さすがリアちゃん、ちゃんと細かなところまで考えてますね」


「い、いえ、たまたまですよ……」


 リアの頬はすぐに赤くなり、視線を恥ずかしそうに逸らした。エリサの褒め言葉にはまだ慣れていないようで、うつむくその姿が愛おしい。


「ふふっ、それではレシピの翻訳をお願いしてもいいですか?ここに書いてくれると助かります」


 エリサがポケットから取り出したのは、愁から預かっていた手のひらサイズのメモ帳だった。紙が貴重なこの世界では、愁が特別に持っている大量のメモ帳が役立っている。


「はい!任せてください!」


 リアはレシピ本に目を走らせながら、流れるように翻訳を書き込んでいった。手慣れた手つきで、少しもつまずくことなく、スムーズに作業を終える。


「これで翻訳終わりました!」


「ありがとうございます。えっと、まずは卵、牛乳、砂糖、薄力粉、そして油ですね。うん、愁様の倉庫に保存してあった材料で全部揃いそうですね」


 エリサは愁から教えられた通り、袋の文字を確認しながら、棚の中から薄力粉を取り出した。


「それじゃあ、まず卵白と砂糖をボウルに入れて、しっかり泡立てましょうね」


「は、はい!卵を分けて……白い部分だけを……」


「ゆっくりで大丈夫ですよ」


「はい!砂糖を入れて……混ぜます」


 リアは少しぎこちない手つきで、しゃかしゃかと混ぜ始めた。泡立つ様子を見て、彼女の顔にはほんの少しの自信が戻ってきた。泡がだんだんと細かくなり、つややかな光沢を帯びてくる。


「次は卵黄を入れて、さらに混ぜます。少し粘り気が出たら牛乳を加えて、また混ぜましょう」


 最初は不器用だったリアも、だんだんと混ぜる手つきが慣れてきた。生地がボウルの中で滑らかになっていくのを見ると、彼女の顔には満足げな表情が浮かぶ。


「いい感じですよ。次は薄力粉を入れて、ヘラで混ぜ合わせていきましょう。それから油を少し加えて、さらに混ぜます」


「はい!えっと、薄力粉を……わ、わっ!」


 薄力粉を入れる瞬間、リアの手が滑り、粉がボウルからこぼれた。もくもくと舞い上がる白い粉に、彼女は慌てて袋を戻す。


「大丈夫、大丈夫。焦らなくてもいいですよ」


「す、すみません……」


 リアは恥ずかしそうに肩をすぼめたが、エリサの優しい声に安心し、もう一度慎重に粉を入れる。


 やがて、ふわふわで滑らかなカップケーキの生地が完成し、型に流し込まれていった。リアは五つほどのカップに生地を分け、火の魔石を使った小さな窯で丁寧に焼き上げていく。十分ほど経つと、ふっくらと膨らんだ生地が窯から顔を覗かせ、レシピ本に描かれていた通りの美しいカップケーキに変わった。


「綺麗に焼けましたね。これなら愁様もきっと喜んでくれますよ」


 リアの顔が輝き、彼女は早く愁に見せたいと願うように、ケーキを見つめていた。


「早く帰ってこないかな……」


 ふと、リアの声に少しの寂しさが混ざる。


「今日作ったカップケーキは、おやつにしましょうか?」


「えっ、いいんですか?」


「もちろんです。愁様が帰ってきたら、また新しく作ればいいんですから」


 エリサの提案にリアの瞳に再び光が宿り、嬉しそうにうなずく。


 四つの甘いカップケーキの香りが広がると、どこからともなくスフィアが顔を覗かせたので、リアたちは急きょスフィアも交えてお茶会を開くことに決めた。お茶はエリスが入れ、甘いケーキとともに穏やかなひと時が流れた。軽やかな笑い声が響く中、四人は他愛もない話に花を咲かせながら、あたたかな午後を楽しんだ。


 その日の夜、リアの日記にはこんな風に記されていた。


 今日はエリサさんとエリスさんに初めて料理を教わりました。初めて作ったカップケーキはふわふわで、甘くて、食べると心が温かくなりました。みんなで笑い合いながら食べる時間は、まるで魔法みたいに楽しくて、思わず顔がほころんでしまいます。


 カップケーキの作り方も覚えたので、次はもっと美味しく作って、愁さまをびっくりさせたいです。クラフトの練習も毎日頑張っているので、きっと前より成長した姿を見せられるはず。愁さまにたくさん褒めてもらいたいな……


 でも、今日も愁さまは帰ってきませんでした。いつもそばにいてくれるわけではないから、不安でたまらないこともあります。でも、無事に帰ってきてくれることを願うしかありません。私はもっと強くなって、愁さまの力になれるように、これからも努力を続けます。

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