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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第一章 新たなる世界 【第一次王国 編】

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第1-4話 お洋服のプレゼント


 一人になった愁は、静けさが戻ったリビングに腰を落ち着けると、さっそくリアの服作りに取りかかった。


 身長や体格といったデータはすでに〈状態鑑定〉のスキルで把握済み。素材もストックとして手元に揃っている。問題はただ一つ──『デザイン』だ。


(女の子用の服って、やっぱり悩むよな……)


 とりあえず簡単な寝間着は仕上げた。だが、問題は普段着だった。


 リアが日常的に着ることを考えれば、可愛さも機能性も捨てがたい。あれこれ考えた末に、愁がふと頭に浮かべたのは、自分がたまに愛用していた軍服風の装いだった。


「よーし、これでいくか」


 黒を基調に、艶を抑えた金のラインをアクセントとした軍服ワンピース。


 『WORLD CREATOR』内でも人気の高いスタイルであり、アレンジの幅も広い。それに、銀髪のリアにはきっとよく映えるはずだ。


 まずは腰丈のジャケットを仕立てる。


 前面はボタン留めで、襟元・袖口・ボタン周りに艶消しの金のラインをあしらい、上品な中にも凛とした気品を持たせた。


 続いて、膝上丈のスカート。お腹あたりから裾にかけて、扇状に走る二本の金のラインが美しいバランスを生み出している。裾にはラインをぐるりと一周させ、全体のまとまりを引き締めた。


(うん、可愛くて格好いい……完璧だ)


 仕上げに、白のインナーシャツと、シンプルなキャミソールとパンツの下着を用意。これで衣類一式が揃った。


 リアが風呂から上がる前に、用意した寝巻着を脱衣所にそっと置いておく。


 続けて愁はキッチンへと向かった。


 食に対するこだわりが強いプレイヤーが多かった『WORLD CREATOR』では、料理の再現度も非常に高く、見た目も味もまるで本物さながら。


 さらに太らないという利点も相まって、食事システムはプレイヤー間で高い人気を誇っていた。


 愁の『エンドレスボックス』には、様々な保存食材や調味料がストックされている。


 今のリアの栄養状態を考えれば、できる限り身体に優しい料理を用意したいところだった。


「……やっぱ肉かな、肉だな。うん、肉だ」


 自分の中で即答しながら、冷静に包丁を握る。


 色とりどりの野菜を丁寧に刻み、やわらかなステーキ肉には塩と胡椒を振ってじっくり焼く。肉汁が音を立ててじゅうじゅうと滴り、芳ばしい香りが部屋に立ち込める。


 焼き上げた肉は、サラダに混ぜ込みやすいよう一口大にカットし、彩り豊かな野菜とともに皿に盛り付けた。


 さらに、以前作っておいたコーンポタージュを温め直し、器に注ぐ。


 仕上げに米粉を使って焼いたふっくらとしたパンを添え、自家製のドレッシングをステーキサラダにかけて──完成。


(よし、見た目も香りも文句なし)


 料理の腕にはあまり自信がない愁だが、煮るか焼くかの基本を押さえた素朴な味わいには、それなりの安定感がある。


 そして何より、食材の質が良い。たとえシンプルな調理でも、素材の味がしっかりと活きる。


 準備が整ったところで、食堂の扉が静かに開いた。


 振り向くと、風呂上がりのリアがタオルで髪を拭きながら入ってくる。その表情はほんのり赤らんでいて、湯上がり特有のふわりとした空気を纏っていた。


「お風呂、気持ちよかったです!あれ……?これって……すごく豪華なお料理……?」


 目の前のテーブルに並べられた料理の数々に、リアの瞳がぱあっと輝く。


「ご飯、用意しておいたよ。一緒に食べよう」


「こ、こんな……豪華な食事……わたし、何も……お支払いするもの持ってないんですけど……」


「いらないいらない。気にしないで。冷めないうちに、どうぞ?」


 リアはなおも戸惑いながら、きょとんとした顔を愁に向ける。


 しかし、料理から目を離すことはできない。鼻をくすぐる香りに、空腹も限界なのだろう。観念したように、リアは小さく頷き、おとなしく席に着いた。


「何から何までありがとうございます……その……いただきます!」


 初めて見せた、満面の笑顔。その眩しさに、愁の胸がふっと温かくなる。


「いただきます。……ゆっくり、よく噛んで食べなね」


 ステーキ肉を口に含んだリアは、目を丸くして驚いた後──ほわりと顔をほころばせた。


「すごくおいしい……っ!」


 リアの小さな唇から、喜びの声がこぼれる。


 瑞々しい野菜と、焼き加減を見極めたジューシーな肉。そのふたつが、まろやかな酸味のドレッシングによって絶妙に調和し、口いっぱいに『やさしい幸せ』の味を広げていく。


 その姿は、飾り気のない無垢な少女そのものであり、どこか壊れそうなほど儚くて、それでも──今この瞬間だけは『生きている』ことを、全身で味わっているようだった。


 やがて食事が終わり、皿を片付けて静けさが戻った頃。愁は椅子に腰を落ち着け、ふと頭に浮かんだ疑問をリアに投げかける。


「少し聞きたいんだけどさ。この辺って、どんな種族が住んでるか分かるかい?」


 唐突な質問ではあったが、リアは驚くこともなく、むしろ真面目な顔で首を縦に振った。


「えっと、そうですね……基本的には人族が多くて、あとはその五分の一くらいの割合で、色んな亜人族がいます。それから、別の大陸から来た魔族とか、エルフ族の人も時々見かけますよ」


 リアの語る口調は落ち着いていて、恐れや嘘がない。その素直さに、愁も思わず頷きながら続きを促した。


「もう少し詳しく聞いてもいい?」


「はいっ。人族と亜人族は、同じ大陸に住んでいます。でも昔……人族が亜人の大陸の資源や、労働力に目をつけて侵略したそうなんです。亜人は負けて、今では多くの人が……奴隷として扱われています」


 その語り口に、怯えも怒りもなかった。


 ただ、淡々と語る声が逆に胸に刺さる。きっと、それが“当たり前”になってしまっているのだ。


「魔族とエルフ族は、それぞれ別の大陸に住んでるそうです。今は、海を越えて行き来する人が少しだけいて、なるべくお互いに刺激しないようにしてるって聞いたことがあります」


「なるほどね……詳しくありがとう、リア。とても参考になったよ」


「いえっ!わたしにできることがあれば、何でも言ってくださいっ!」


 小さく胸を張って答えるその姿が、なんとも健気で可愛らしい。


 そんなリアに、愁は微笑みながら声をかけた。


「リアはいい子だね。……だから、そんなリアにはプレゼントを用意したんだ。普段着なんだけど、きっと似合うと思ってさ。よかったら、着てみてくれる?」


 そう言って、愁はエンドレスボックスから、先ほど手ずから仕立てた軍服風のワンピースを取り出す。


 黒地に、艶消しの金色のラインが走る精緻なデザイン。ただ可愛らしいだけではなく、どこか凛とした強さと格式が感じられる一着だ。

「こ、こんなに……立派なお洋服……わたしには、もったいないです……」


 リアは驚きと戸惑いの入り混じった表情で、そっと服を見つめていた。


 その目は憧れにも似た光を宿しながら、しかし自分には相応しくないとでも言うように、少しだけ視線を伏せる。


「遠慮しなくていいよ。リアのために作ったんだから」


 そう優しく言葉を重ねると、リアはそっと胸元で服を抱きしめ、うっすらと涙ぐみながら微笑んだ。


「……ありがとうございます。こんなに綺麗なお洋服、わたし……着たことありません。着てみても、いいですか?」


「もちろん。きっと似合うから、楽しみにしてるよ」


 リアは深く頷くと、服を抱えて着替えに向かった。


 ──そして数分後。


 再び現れたリアは、まるで別人のように見えた。


 軍服風のジャケットに身を包み、すらりと伸びた足がスカートの裾から覗く。


 照れたように頬を紅潮させてうつむくその姿は、まるで高貴な貴族の娘のようで、どこか神秘的な雰囲気すら纏っていた。


「ど、どうですか……?おかしくない……でしょうか?」


 愁は思わず言葉を失う。


 たしかにリアは小柄で、痩せてはいる。けれどその華奢な身体に、強さを象徴するような軍服が驚くほどよく映えていた。


 愛らしさと凛々しさが奇跡のように同居し、『無垢な気高さ』をまとったような不思議な魅力があったのだ。


「……やっぱり、すごく似合ってる。とても可愛いよ、リア」


 心からの言葉に、リアはぱあっと顔を輝かせ、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「えへへ……こんなに可愛い服、着られてすごく嬉しいです!なんだか、わたし……本当にお貴族様になったみたい……!本当にありがとうございます、愁さまっ!」


 スカートの裾を指先でつまみ、くるりと回るリア。その姿は、どこか気恥ずかしげで、それでも笑顔がこぼれてしまうほど嬉しそうだった。


 頬を紅潮させながら回る様子は、まるで踊り子のようで──愁はその光景を、静かに、けれど確かに胸の奥に刻み込んだ。


(……よかった。本当によかった。強い子なんだな。リアは。あんなに怯えていた子が、こんなふうに……笑えるようになって)


 けれど、その安堵の裏側に、ふとした疑問が浮かぶ。


 リアは『亜人』として虐げられてきたというが、今こうして目の前に立つ彼女には、獣耳も尻尾も、角も翼も見当たらない。


 鱗が覗くこともなければ、肌の色が人とは異なるわけでもない。特別な異形の特徴は見られなかった。


「ところで、リアはどこが亜人なんだい?見た感じ、普通の人族と変わらないように見えるんだけど」


 リアは小さく瞬きをして、それから少しだけ考える素振りを見せた後、穏やかに答えた。


「わたしも……あまり詳しくはないのですが、遠い昔、亜人の国にあった王族の末裔だと誰かが言ってました。普通の亜人は、動物と人の特徴を持っていたりするんですけど……王族だけは特別で、人族とあまり変わらない見た目なんだそうです」


「……それで、銀髪と赤い瞳、ってことか」


「はい。髪と目の色以外は、人族と変わらないそうです。でも、その王族は他の亜人と比べて老いにくくて、長命で……それが唯一の特徴みたいです」


 愁は頷きつつ、視線をリアに戻す。


 確かに、長い銀髪と瞳の色は目を引く。そして彼女の場合、それに加えてオッドアイ──片方は赤、もう片方は碧と、美しくも目立つ色合いをしていた。


 そんな外見では、どれだけ他の部分が人と同じでも、迫害を受ける理由には充分すぎる。


(──なんて理不尽な世界なんだろう)


 苦い思いを呑み下しながら、愁はふと時計代わりの魔石に目をやる。


「もう遅い時間だね。今日は寝間着に着替えて、もう休もうか。外傷は癒えたけど、疲れまではまだ残ってるはずだから」


「はいっ。じゃあ、すぐに着替えてきますね!」


 小走りで着替えに向かったリアは、ほどなくして、柔らかな布地の寝間着に身を包んで戻ってきた。


 そんな彼女を連れて、愁は寝室へと向かった。


 ゆったりとした服に包まれて、緊張の糸が緩んだのか──リアは少女らしい無邪気な笑みを浮かべながら、案内された寝室に置かれたベッドの上でぴょんぴょんと小さく跳ねる。


 マットレスの弾力に驚いているようで、ベッドの上で身体を沈めたり浮かせたりと、まるで子猫のようにじゃれていた。


「ふわふわ……!わたし、こんなに気持ちいいベッド、初めてです!」


 その声に、愁は思わず微笑みを漏らす。


 リアのような子が、粗末な布きれを着せられ、暴力に晒されるような環境にあったという現実が、まるで悪い冗談にすら思えた。


「俺は隣の部屋にいるから、何かあったらいつでも呼んでね?」


「はいっ。……ありがとうございます、愁さま。今日は本当に……夢みたいな一日でした」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ──おやすみ、リア」


「おやすみなさいませ、愁さま」


 魔石の明かりがふっと消え、寝室は柔らかな暗闇に包まれた。


 愁は隣の部屋へ戻り、自分用のベッドを即席で作り上げると、そのまま静かに身体を横たえる。


 やけに実感のある疲労感が、肌の奥からじんわりと広がっていく。


 ゲームの中でも疲れは感じたことがあったが、今のこの感覚はそれとは明らかに違う。


 重さがあり、温度があり、どこか──『生身の肉体』としての確かな実感がある。


(……やっぱり、俺の体、本物になってるのかもな)


 なぜ自分がこの世界に来たのかも、なぜ現実と変わらぬ感覚で動けるのかも、わからないことばかりだ。


 けれど、それでも今は──


「……ひとまず、今日は休もう」


 穏やかな疲れに身を任せるように、愁のまぶたが静かに閉じられていく。


 柔らかいシーツの感触と、微かな木の香りに包まれながら、ゆっくりと意識が夢の世界に沈んでいく。


 もし、今日の出来事が夢でないのなら──


 明日もまた、同じようにこの場所で、リアの「おはよう」が聞けることを願って。


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