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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第一章 新たなる世界 【第一次王国 編】

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第1話 新たな世界にこんにちは 


「……森、か」


 瞼を静かに開けた愁の視界に広がったのは、視線の限りに連なる『木々の海』だった。無数の幹が、まるで世界を囲う壁のように乱雑に生え並び、枝葉が風に擦れ合う微かな音が、耳にざわざわと不安を呼び起こす。愁は少し大きめの岩に背を預けた姿勢で座っていた。身につけているのは、見慣れた黒の特注スーツ──あの、馴染み深い、最後まで纏っていた自分だけの装いだった。


(……どうして、俺はこんなところにいるんだ?)


 記憶は鮮明だった。つい先ほどまで、自分は病床に伏し、仲間たちに囲まれて最期の時を迎えていたはずだ。涙混じりの言葉。温もりに満ちた手の感触。命の灯がゆっくりと消えていくあの感覚。それら全てが夢ではなく、確かに『現実』だった。


 それなのに──今、自分は生きている。こうして息をし、意識がある。そして体は動き、痛みさえ感じる。


「……夢なのか?」


 ぽつりと呟きながら、愁は木々の隙間から見える空をぼんやりと見上げた。白い雲が薄く流れ、風が木の葉を揺らしながら通り抜ける。吹き抜けた一陣の風が、首元を撫でていった。少しひんやりとしたその冷たさが、現実味のなさを強調するどころか、逆に『生々しさ』を際立たせる。


(ここは……暖かかったあの国じゃない。あの場所じゃない。全然違う場所だ)


 愁のかつての生きていた第二の世界──『WORLD CREATOR』で築いた理想の国は、穏やかで暖かな気候に包まれていた。しかしこの森は、空気の質すら違う。ひんやりと湿り気を帯びた風、土の匂いに混じる微かな獣の気配、奥深くから聞こえる風鳴りの音──そのすべてが異質だった。


 木々の奥はすでに暗く、わずかに風に揺れる枝の音が、まるで誰かの囁き声のように聴こえてくる。得体の知れぬ静けさが、空気の密度を重たくしていた。


「……とにかく、状況を整理しよう」


 ただじっとしているだけでは、何も始まらない。愁は立ち上がり、服の埃を軽く払うと、ゆっくりと辺りを見回した。足取りは確かで、体に違和感はなかった。それどころか──


(……スムーズに動くな。病で失ったはずの、この体が……)


 現実世界での肉体は、とっくに限界を迎えていた。薬も治療も通じず、ただ朽ちるのを待つだけの体だった。だからこそ、現実の身体を捨てて、電脳世界で過ごしていた愁だが、それも現実世界で唯一残っていた脳が限界を迎えたことで、電脳世界でも体が動かせなくなっていた。


 それなのに、今ここにあるこの体は、痛みも痺れもない。まるで生前以上に健康で、精密に作り込まれた義体のようにすら思えた。ならばこれは『ゲーム』なのか?──だが、そう考えるにも違和感があった。


「こんな場所、見たことない……」


 そう呟きつつ、愁は試しに手を動かして、かつて慣れ親しんだ動作──ステータスウィンドウの展開を試みた。すると、空中に音もなく淡い光が走り、透明なウィンドウが目の前に浮かび上がる。


 ──『WORLD CREATOR』のままのステータスが、そこには確かに存在していた。


「そのまんまだな……。ってことは、ゲームの中?……いや、でも……」


 違和感は消えない。ログアウトボタンが消失していたこともそうだが、決定的なのは『感覚』だった。愁は自分の腕をつねってみる。皮膚の痛覚が鮮やかに反応する。これは、ゲームの“それ”ではない。現実に限りなく近い、いや、もはや現実そのものとしか思えない感覚。


 念のため、スキルも試してみる。〈縮地〉──一瞬で距離を詰める高速移動スキル。発動すれば、風を裂く感覚と共に、視界が跳ぶように切り替わる。次いで〈クラフト〉で魔石を作り、〈火〉の魔法を込めて放つ。炎の軌跡、空気の焼ける匂い、爆ぜる熱量──すべてが“あの頃”と同じで、なおかつ『現実離れした現実』だった。


「……どういうことだ……?」


 マップを開いてみると、画面には『未登録エリア』の表示。愁の冒険は、すでにマップをほぼ網羅していた。行っていない場所など、存在するはずがない。


 ならばここは──


(新エリア?いや、違う。そもそもゲームの外、いや、“それ以外”なのか?)


 愁の中に、恐ろしくも否定しきれない仮説が浮かぶ。


(もしこれが現実でもゲームでもない、なら……俺は、いったいどこに?)


 脳裏に、あの最期の記憶が蘇る。命が尽きる寸前、聞こえていた仲間たちの泣き声。遠ざかる世界。光が潰えていく感覚。あの恐怖。


(──俺は、あのとき、死んだ。間違いなく)


 その先にあるはずの“無”ではなく、こうして目覚めたこの場所。五感が鮮明で、魔法もスキルも存在し、ゲームの延長のようで、違う。


「……マジで……なんなんだ、ここは」


 愁の吐息混じりの独白を、梢を揺らす風と木々のざわめきが静かにさらっていく。誰も答えてはくれない。ただ、世界だけが静かに、意味深げに呼吸を続けていた。


 思考の迷路を彷徨うように、愁が独り言を話していると──風の流れとは明らかに異なる、不規則な葉擦れと、乾いた地面を踏みしめる音が聞こえてきた。複数の足音。確かな重みと気配が、近づいてくる。


 愁は反射的に〈気配探知〉を発動。慣れた所作で接近者の正体を探る。反応は四つ。人型。体格からして、大人が三人──そして、小柄な子供が一人。


 続けて〈遠見〉を使用すると、見えたのは重厚な鎧に身を包んだ三人の男たちと、そのうちの一人に髪を乱暴に掴まれ、引きずられている銀髪の子供だった。


 その子供の姿は、目を背けたくなるほど痛ましかった。身体中が擦り傷と腫れで覆われ、ボロ布のような服は土と血にまみれ、元の色さえわからない。痛みと恐怖に震えながら、声ひとつ上げることなく男たちに引きずられていた。


(……なんだ、これは)


 嫌な予感が胸を刺す。愁は音を立てぬよう静かに距離を詰め、男たちの会話に耳を傾けた。


「薄汚い亜人め、のうのうと町に入り込みやがって!」


(亜人……?)


 愁が聞き耳を立てながら様子を伺う中、銀髪の子供は怒鳴り声と共に乱暴に放り投げられ、地面に叩きつけられる。乾いた音が響き、子供は小さく体を丸めた。その姿は、ただの子供そのものだった──弱く、儚く、誰かに守られるべき存在にすぎない。


「ちょうどいいストレス発散だ。団長に説教されてムカついてたしな。ここなら誰にも見られねぇし、野良の亜人が一人死んだって、誰も困らねぇだろ?」


 笑いながらそう言った男たちは、まるで『処分』でもするかのようにゆっくりと子供を囲む。その目には、同情も哀れみもない。あるのはただ、暴力に対する悦楽と嗤いだけだった。


「や、やめてください……お願いします……なんでもしますから……」


 懇願の声は、震えて細い少女の声で、地面に溶けるようだった。しかしその悲鳴に応じる者はなく、むしろその哀れな姿が彼らの嘲笑をさらに深くさせていく。


「喋るな、汚らわしい亜人が!」


 次の瞬間、響いたのは鈍い打撃音。男の蹴りが少女の腹を抉り、彼女は口から血を吐いた。蹴りは一発では終わらず、次々と振るわれる。少女はただ、耐えることしかできなかった。丸まった背中に、容赦のない蹴撃が浴びせられる。


 まるで玩具を壊すかのような無慈悲な暴力。その光景は、人間がどれほど残酷になれるかを如実に物語っていた。


(……やめろ)


 怒りが、愁の胸に静かに広がる。沸騰するような激情ではない。冷たい水面に一滴の毒が落ち、じわじわと全体に染み渡っていくような、静かなる怒りだった。


 愁は〈縮地〉を発動。風が唸り、一瞬でその場へと駆け込む。


「おい」


 静かだが鋭い声が響く。愁は子供の前に立ちはだかり、男たちを睨み据えた。


「おい!あんたら、何してんだよ。そんな小さな子を痛めつけて……恥ずかしくないのか?それとも、よっぽどのことをこの子がしたって言うのか?」


 突如として現れた愁に、男たちは驚き、動きを止めた。だが、現れたのがひとりの少年だと知るや、すぐに薄笑いを浮かべる。


「はん、なんだてめぇ?寝ぼけてんのか?これは亜人だぞ?誰の所有物でもない野良亜人なんて、生きてようが死んでようがどうでもいいんだよ。常識だろうが」


 その“常識”とやらがいかに歪んでいるかを、彼らは理解していない。あるいは、理解した上で嘲るように押し通しているだけなのかもしれない。


 愁の表情が険しくなるのも構わず、男たちは再び少女に足を振り上げた。


「……その子は、本当に何もしていないんだな?」


 愁の声が低く響いた。だが、男たちは苛立ちを隠そうともせず振り返る。


「何度言わせんだよ!存在が罪だって言ってんだろ、てめえこそ邪魔すんな!さっさとどっか行け!」


 その瞬間、愁は再び〈縮地〉を行使。風が唸り、次の瞬間には少女を抱き上げ、男たちから数メートル離れた場所へと移動していた。


「……!」


 突如として目の前から獲物が消えたことに驚き、男たちは愁を睨みつける。


「何をした……!?誰だか知らねぇが、これ以上邪魔するなら……てめぇもただじゃ済まねえぞ!」


「“亜人擁護派”として、この場で処刑してやる!」


 亜人擁護派──聞き慣れぬその言葉の響きに、愁はこの世界での“亜人”の扱いを理解し始めていた。奴隷、蔑まれ、殺しても咎められない存在。それがここでの『常識』だというのなら──


(……ふざけんな)


 愁の瞳に宿る光が、静かに温度を失っていく。それは怒りという感情が冷たく結晶化し、静かに研ぎ澄まされていく刃のような輝きだった。腕に抱いた小さな身体は微かに震えており、その震えが愁の胸奥に深く突き刺さる。


 三人の男たちは、緊張の気配を纏いながら腰の剣に手をかけ、一斉に抜刀した。抜き放たれたのは、長さ一メートルほどのロングソード。だが、その刀身はくすみ、刃こぼれも目立つ。鍛錬の跡も、戦いの気迫も感じられぬ──ただの鉄の塊だった。


(……剣の手入れもまともにできないみたいだな)


 愁は内心で軽く息を吐いた。今この瞬間、確かに彼は見知らぬ世界にいる。ならば、この世界の住人がどれほどの戦闘能力を持つのか、それは未知数だった。しかし──たとえ相手が誰であろうと、目の前で無抵抗の子供が蹂躙される光景を、黙って見過ごす理由など、どこにもない。


 愁は右手を軽く掲げる。すると、彼の指輪には小さな魔石がはめ込まれた。それは〈振動〉の魔法を込めた魔石──ただの初級魔法だが、粗雑な鉄製の剣を砕くには十分すぎる威力を持つ。


 男たちがこちらへ向かって一歩踏み出した、その瞬間。


 愁の指輪が微かに煌めき、視認すら困難な振動が空気を裂いた。次の刹那、三本のロングソードがまるでガラス細工のように砕け散る。乾いた破裂音と共に、刃の欠片が地に落ち、男たちの表情が凍りついた。


「な、なんだ今のは……?」


「お前、魔術師なのか……っ!?」


(初級魔法の理すら理解できないのか。相手の職すら見抜けないとは。その程度の奴らか……)


 愁は静かに魔石を切り替える。今度は〈空撃〉を込めた魔石──風を刃に変える、これもまた基礎の魔法である。手加減はする。だが、力の差を“理解”させるには十分だ。


 横薙ぎに振るわれた右手の一撃。それは風を帯びて空を切り裂き、周囲の樹木をまとめて薙ぎ払った。轟音とともに幹が裂け、木々が次々と倒れ伏す。断面は鋭く切断され、まるで刃物で刻んだかのような美しさを湛えていた。


 その威力と精度に、男たちは見る間に蒼白になっていく。もともと血の気の薄い顔色がさらに白く染まり、後ずさりを始めた。ひとりは恐怖に膝を折り、もう一人は両手を上げて叫んだ。


「わ、わかった!悪かった!亜人は解放する、もう何もしねぇ!命だけは……命だけは助けてくれ!」


 さきほどまでの傲慢さは跡形もない。恐怖に怯え、命乞いをするその様は、かつて自分たちが痛めつけていた少女と同じ姿だった。


 愁は無言のまま、右手をもう一度掲げた。それを見た男たちは一斉に悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げていった。


「……ろくでもない連中だ」


 愁はそっと視線を腕の中の少女に落とす。小さな身体は力なく項垂れ、目を閉じていた。どうやら意識を失っているらしい。それも無理はない。あれだけの暴力を受け、もはや限界だったのだろう。


 〈状態鑑定〉のスキルを使用する。愁の視界に、見慣れぬ詳細な情報が浮かび上がった。


 ──栄養失調、肋骨骨折、複数箇所の打撲、内臓損傷。


(……こんなに細かく表示されるのか。ゲーム内ではせいぜい“負傷”や“状態異常”の表示だけだったのに。スキルの仕様そのものが違う……?)


 目の前の現実感が、ますますこの世界の異質さを物語っている。


「……今は考えるな。まずは、この子の命が最優先だ」


 愁はエンドレスボックスから、最上級ポーションを一瓶取り出した。澄んだ琥珀色の液体は瓶の中で静かに揺れ、かすかな光を帯びている。


「毒ではない、よな。……頼む、効いてくれ」


 慎重に、しかし迅速に少女の唇にポーションを注ぐ。するとどうだろう、わずか数秒のうちに、少女の呼吸は苦しげな喘ぎから静かな安らぎへと変わり、腫れた肌も、出血した傷も、みるみるうちに癒えていく。まるで時間が巻き戻されたかのような回復だった。


 再度〈状態鑑定〉を使用すると、すべての外傷が完全に消えていた。唯一残った“栄養失調”の項目を除いては──だが、それすらも生き延びるには致命ではない。


「……良かった。これで、とりあえず一命は取り留めた」


 だが、癒えたからといって、このまま森に放置するわけにはいかない。愁は周囲を見渡す。そこには、どこまでも木々が連なるだけの、静寂な森が広がっていた。


 〈遠見〉のスキルを使い、視界を遠くへ伸ばすと──丘を登った先、木々に隠れるようにして、崩れかけた建物がいくつか並ぶ光景が見えた。廃村か。直線距離にして三キロほど。


(あそこなら、ひとまずの避難にはなるか……)


 今はただ、少女が目を覚ました時、話を聞ける場所さえあればいい。この世界の情報も、その口から得られるかもしれない。


 愁は少女を優しく抱き直し、森の奥──その廃村へと足を進め始めた。木々の隙間から漏れる陽光が、彼の歩みに静かに道を照らしていた。




◆◇◆◇◆◇




 しばらく森を歩き、愁は目的地としていた廃村へとたどり着いた。


 そこは時間に打ち捨てられたかのような静寂に包まれていた。木々の隙間から差し込む日差しが、崩れかけた建物の影を斑に落とし、まるで朽ちた遺跡を照らす探検家の灯りのようにも見える。残っていたのは七、八棟──どれも半壊といってよく、屋根は抜け落ち、壁は風化し、草と苔に侵食されながら、ただそこに『存在している』だけだった。


 〈気配探知〉を使っても、人の反応は皆無。生命の痕跡すら薄く、遠い昔に人々が去ってしまった場所なのだと、冷たい風が教えてくれる。


 愁はクラフト能力を使い、即席のシーツを作成し、腕の中の少女をそっと寝かせた。長い銀の髪が頬にかかって表情は見えないが、規則正しい寝息が聞こえる。苦しげな様子はもうなく、今はただ、静かに眠っているようだった。


「さて……とりあえず、簡易拠点でもクラフトするか」


 つぶやきとともに、愁は木々に囲まれた静寂の中で立ち上がる。『WORLD CREATOR』において、旅先で拠点を築くのはクラフターの常套手段だ。現地の素材を活用して、その場に合わせた施設を築き上げる。それこそが、愁が何百時間もかけて身につけたクラフトマスターとしての誇りであり技でもある。


 先ほど〈空撃〉の魔石でなぎ倒した木材はすでに回収済みだ。そのすべてを収納してあるのが、愁が誇る至宝──『神の秘宝』等級のアイテム『エンドレスボックス』だ。あらゆる物を無限に収納できるこのボックスは、素材に飢えるクラフターにとってはまさに夢のような存在であり、愁がかつて血眼で手に入れた逸品である。


 彼はしばし郷愁を覚えながらも、視線を周囲に走らせた。そして、崩れかけの家々の中でも比較的原形を保っている一棟を見つけると、その建物を拠点の“核”とすることに決めた。


 クラフトの極意は、単なる組み立てではない。パネル式で作るような簡略化されたものではなく、素材の性質を理解し、建物の構造を知り、創造のイメージを緻密に描けるかどうかが成否を分ける。そして愁は、それを極めた存在──ただひとりのクラフト系最上位職、“クラフトマスター”だった。


「この広さなら……食堂、キッチン、風呂にトイレ、寝室は二部屋か。よし、素材も足りてる」


 外装を新しくしすぎると廃村の中で異彩を放ちすぎる。だからこそ、外観はわざと風化したままにしておき、内部だけを刷新する。ふんだんに使われた木材は温もりを醸し、空間全体を柔らかな雰囲気で包み込むログハウス風の設計に決めた。


 両手を掲げると、愁の周囲に金色の光が舞いはじめる。それはクラフターが個々に持つ“創造の色”──愁の場合は、まばゆいほどの黄金色だった。


 木材が空間に浮かび上がり、浮かぶたびに削られ、磨かれ、形を成してゆく。太く滑らかな丸太が柱となり、壁となり、床へと変貌していく様子は、まるで神がこの地に“新たな秩序”を与えているかのようだった。触れればさらさらと木の温もりが感じられるその仕上がりは、単なる建築ではない。“技巧と意志が結晶した芸術”である。


 水回りはやや難易度が高いが、水道設備の代わりに〈水〉の魔石を利用して供給系を補う。風呂とトイレもそれに合わせて作成。中でも風呂は愁がとくに力を入れた部分だった。


「風呂がないとか……あり得ないだろ。日本人を舐めちゃだめだぜ」


 完全に趣味と快適性を最優先に設計された風呂場には、木の香る浴槽と魔石による温水循環装置が備えられている。湯気すらも想像できるほどの臨場感がそこに生まれていた。


 電力関連の設備は作成できないため、照明は〈光〉や〈炎〉の魔石を応用して明かりを灯す。光の強さや色合いも自在に調整でき、幻想的な灯火が拠点の内部を柔らかく照らす。必要最低限の食器や家具、小物類もすべてクラフトで補い、整理された棚に美しく収まっていった。


 やがて──


「よーし……結構、仕上がったな。……なかなか快適そうじゃん」


 愁は腰に手を当て、小さく頷きながら完成した拠点を見渡す。その表情には確かな達成感が滲んでいた。


 朽ち果てた廃村の只中にぽつんと生まれた一棟の仮拠点。それは、荒廃の中に灯る『小さな希望』──まるで、闇に咲いた一輪の光の花のようだった。


 作業を始めてからおおよそ二時間半。仮とはいえ、生活に必要な機能はすべて整った。満足げに息を吐いた愁は、ふと意識を戻し、少女──亜人の子供を寝かせておいた場所へと足を運ぶ。


 そこでは、銀色の長い髪を揺らしながら、少女が身を起こして周囲を見渡していた。覚醒したばかりのその双眸には、まだ混乱と不安の色が濃く残っている。


 やがて愁の足音に気づいたのか、少女の身体がぴくりと震える。怯えたように目を見開き、愁を見つめるその瞳には、深く刻み込まれた『恐怖』が宿っていた。


 ──おそらくは、先ほどの騎士達の仕打ちが影を落としているのだろう。


「やあ。こんにちは……具合は、どうだい?」


 できる限り穏やかな声音と笑みを湛えて声をかける。敵意がないことを伝えるには、それが何よりも効果的だ──と、愁はゲーム時代に学んでいた。


 その試みに、少女は一瞬たじろぎながらも、小さな声で恐る恐る口を開く。


「あの……あなたは?」


「俺は、八乙女 愁。君の名前は?」


「……リア……です。リアといいます。あの……愁、さま?わたしに、ひどいこと……しないんですか?わたし、亜人だから……」


 震える声が、胸の奥を痛く突いた。彼女が、どれほどの仕打ちを受けてきたのか。その問いかけが、その過去のすべてを語っていた。


 愁がわずかに手を伸ばしただけで、リアの身体がビクリと震える。防御のように肩をすくめ、視線を逸らす──まるで、手を伸ばされることすら、傷になるかのように。


(……よほど、酷い目に遭ってきたんだな)


「大丈夫、そんなことしないよ。……こっちに、ちゃんと休める場所を用意したんだ。一緒に行こう?」


 そう言って差し出した愁の手を、リアはしばらく見つめていた。疑念と恐怖、そして一縷の希望がその小さな瞳の奥でせめぎあい──やがて、そっとその手を取った。


 かすかに震える手のひら。愁はその手を包み込むように握り返し、そっと立ち上がる。


 そうして辿り着いた建物は、外観こそ荒れ果てていたが──その内部は、まったくの別世界だった。


「……えっ?」


 リアが玄関をまたいだ瞬間、驚きに目を見張る。あちこち苔むした外壁とは裏腹に、内装はまるで高級な山小屋のような温もりを帯びていた。木材の香りがほのかに漂い、柔らかな灯りが壁に揺れる。


「こんな廃村に、こんな……立派なお家があったんですか?そ、外はボロボロなのに……ふ、不思議……」


 髪の隙間から覗いた、左右異なる『碧と紅』の瞳が好奇心に揺れている。その表情はまだ硬いものの、先ほどよりも幾分和らいでいた。


「ふっふっふ、すごいだろう?俺が今、作ったのだ」


「……すごいです。でも、わたし、汚れてるから……こんな綺麗なところに入っても、いいんですか……?」


 足を止めて、俯くリア。玄関の敷居をまたげない理由は、己の“汚れ”にあった。


 確かに彼女の衣服は、泥や血にまみれてボロボロだ。けれど──


「気にしなくていいよ。リアが亜人だろうと、汚れていようと……そんなの、俺には関係ないからさ。さあ、中へ」


「愁さまは……お優しい方なんですね。わたし……こんなふうに、人族の方に優しくされたの、初めてです……」


 ぽつりと漏れた言葉に、愁は心の奥が少しだけ熱くなるのを感じた。


 ようやく警戒が解けたのか、リアはおずおずと室内へ踏み込み、あちこちを興味深げに見回しはじめる。その様子はどこか無邪気で、かつての“子供らしさ”を少しだけ取り戻したようでもあった。


 愁はそんな彼女の背を見つめながら、ふと思い出したように声をかけた。


「そうだ。……まずは、お風呂に入ろうか。汚れたままだと落ち着かないでしょ?」


「えっ……お、お風呂?」


「うん。ちゃんと用意してあるんだ。これ、タオルと石鹸ね。こっちはシャンプーとリンス。特製のやつだよ」


 リアの手に、愁はクラフト製のアメニティセットを手渡した。ふわりと香るラベンダーの匂いが、彼女の鼻先をくすぐる。


 案内された風呂場は広々としており、まるで天然温泉のような趣だ。湯船には火の魔石で温められた湯が満ちており、湯気がふんわりと立ち上っている。清潔な脱衣所に、鏡付きの洗面台──生活感を感じさせる細やかな作りが、ここが“ただの拠点”ではないことを示していた。


「お風呂……ですか?お湯のお風呂なんて、お貴族さましか入れないのに……それに、こんなに上質なタオルまで……」


 リアは、期待と戸惑いの入り混じった表情でアメニティを抱きしめる。指先がタオルを確かめるように撫でたあと、こちらを振り返る瞳は、どこか潤んでいた。


「いいんだよ。ゆっくり入ってきな。着替えも、ちゃんと用意しておくから」


「お着替えまで……!ほ、本当に、ありがとうございます!」


 ぺこりと頭を下げるその姿は、まるで小動物のようで──愁は少しだけ、口元を綻ばせた。


 リアはそのまま、風呂場へと駆けていく。その背に、やっと微笑みが芽吹きはじめていた。




◆◇◆◇◆◇




 一人になった愁は、静けさが戻ったリビングに腰を落ち着けると、さっそくリアの服作りに取りかかった。


 身長や体格といったデータはすでに〈状態鑑定〉のスキルで把握済み。素材も手元に揃っている。問題はただ一つ──『デザイン』だ。


(女の子用の服って、やっぱり悩むよな……)


 とりあえず簡単な寝間着は仕上げた。だが、問題は普段着。リアが日常的に着ることを考えれば、可愛さも機能性も捨てがたい。あれこれ考えた末に、愁がふと頭に浮かべたのは、自分がたまに愛用していた軍服風の装いだった。


「よーし、これでいくか」


 黒を基調に、艶を抑えた金のラインをアクセントとした軍服ワンピース。『WORLD CREATOR』内でも人気の高いスタイルであり、アレンジの幅も広い。それに、銀髪のリアにはきっとよく映えるはずだ。


 まずは腰丈のジャケットを仕立てる。前面はボタン留めで、襟元・袖口・ボタン周りに艶消しの金のラインをあしらい、上品な中にも凛とした気品を持たせた。続いて、膝上丈のスカート。お腹あたりから裾にかけて、扇状に走る二本の金のラインが美しいバランスを生み出している。裾にはラインをぐるりと一周させ、全体のまとまりを引き締めた。


(うん、可愛くて格好いい……完璧だ)


 仕上げに、白のインナーシャツと、シンプルなキャミソールとパンツの下着を用意。これで衣類一式が揃った。


 リアが風呂から上がる前に、用意した寝巻着を脱衣所にそっと置いておく。


 続けて愁はキッチンへと向かった。


 食に対するこだわりが強いプレイヤーが多かった『WORLD CREATOR』では、料理の再現度も非常に高く、見た目も味もまるで本物さながら。太らないという利点も相まって、食事システムはプレイヤー間で高い人気を誇っていた。


 愁の『エンドレスボックス』には、様々な保存食材や調味料がストックされている。今のリアの栄養状態を考えれば、できる限り身体に優しい料理を用意したいところだった。


「……やっぱ肉かな、肉だな。うん、肉だ」


 自分の中で即答しながら、冷静に包丁を握る。色とりどりの野菜を丁寧に刻み、やわらかなステーキ肉には塩と胡椒を振ってじっくり焼く。肉汁が音を立ててじゅうじゅうと滴り、芳ばしい香りが部屋に立ち込める。


 焼き上げた肉は、サラダに混ぜ込みやすいよう一口大にカットし、彩り豊かな野菜とともに皿に盛り付けた。


 さらに、以前作っておいたコーンポタージュを温め直し、器に注ぐ。仕上げに米粉を使って焼いたふっくらとしたパンを添え、自家製のドレッシングをステーキサラダにかけて──完成。


(よし、見た目も香りも文句なし)


 料理の腕にはあまり自信がない愁だが、煮るか焼くかの基本を押さえた素朴な味わいには、それなりの安定感がある。何より、食材の質が良い。たとえシンプルな調理でも、素材の味がしっかりと活きる。


 準備が整ったところで、食堂の扉が静かに開いた。


 振り向くと、風呂上がりのリアがタオルで髪を拭きながら入ってくる。その表情はほんのり赤らんでいて、湯上がり特有のふわりとした空気を纏っていた。


「お風呂、気持ちよかったです!あれ……?これって……すごく豪華なお料理……?」


 目の前のテーブルに並べられた料理の数々に、リアの瞳がぱあっと輝く。


「ご飯、用意しておいたよ。一緒に食べよう」


「こ、こんな……豪華な食事……わたし、何も……お支払いするもの持ってないんですけど……」


「いらないいらない。気にしないで。冷めないうちに、どうぞ?」


 リアはなおも戸惑いながら、きょとんとした顔を愁に向ける。しかし、料理から目を離すことはできない。鼻をくすぐる香りに、空腹も限界なのだろう。


 観念したように、リアは小さく頷き、おとなしく席に着いた。


「何から何までありがとうございます……その……いただきます!」


 初めて見せた、満面の笑顔。その眩しさに、愁の胸がふっと温かくなる。


「いただきます。……ゆっくり、よく噛んで食べなね」


 ステーキ肉を口に含んだリアは、目を丸くして驚いた後──ほわりと顔をほころばせた。


「すごくおいしい……っ!」


 リアの小さな唇から、喜びの声がこぼれる。瑞々しい野菜と、焼き加減を見極めたジューシーな肉。そのふたつが、まろやかな酸味のドレッシングによって絶妙に調和し、口いっぱいに『やさしい幸せ』の味を広げていく。


 その姿は、飾り気のない無垢な少女そのものであり、どこか壊れそうなほど儚くて、それでも──今この瞬間だけは『生きている』ことを、全身で味わっているようだった。


 やがて食事が終わり、皿を片付けて静けさが戻った頃。愁は椅子に腰を落ち着け、ふと頭に浮かんだ疑問をリアに投げかける。


「少し聞きたいんだけどさ。この辺って、どんな種族が住んでるか分かるかい?」


 唐突な質問ではあったが、リアは驚くこともなく、むしろ真面目な顔で首を縦に振った。


「えっと、そうですね……基本的には人族が多くて、あとはその五分の一くらいの割合で、色んな亜人族がいます。それから、別の大陸から来た魔族とか、エルフ族の人も時々見かけますよ」


 リアの語る口調は落ち着いていて、恐れや嘘がない。その素直さに、愁も思わず頷きながら続きを促した。


「もう少し詳しく聞いてもいい?」


「はいっ。人族と亜人族は、同じ大陸に住んでいます。でも昔……人族が亜人の大陸の資源や、労働力に目をつけて侵略したそうなんです。亜人は負けて、今では多くの人が……奴隷として扱われています」


 その語り口に、怯えも怒りもなかった。ただ、淡々と語る声が逆に胸に刺さる。きっと、それが“当たり前”になってしまっているのだ。


「魔族とエルフ族は、それぞれ別の大陸に住んでるそうです。今は、海を越えて行き来する人が少しだけいて、なるべくお互いに刺激しないようにしてるって聞いたことがあります」


「なるほどね……詳しくありがとう、リア。とても参考になったよ」


「いえっ!わたしにできることがあれば、何でも言ってくださいっ!」


 小さく胸を張って答えるその姿が、なんとも健気で可愛らしい。


 そんなリアに、愁は微笑みながら声をかけた。


「リアはいい子だね。……だから、そんなリアにはプレゼントを用意したんだ。普段着なんだけど、きっと似合うと思ってさ。よかったら、着てみてくれる?」


 そう言って、愁はエンドレスボックスから、先ほど手ずから仕立てた軍服風のワンピースを取り出す。黒地に、艶消しの金色のラインが走る精緻なデザイン。ただ可愛らしいだけではなく、どこか凛とした強さと格式が感じられる一着だ。


「こ、こんなに……立派なお洋服……わたしには、もったいないです……」


 リアは驚きと戸惑いの入り混じった表情で、そっと服を見つめていた。その目は憧れにも似た光を宿しながら、しかし自分には相応しくないとでも言うように、少しだけ視線を伏せる。


「遠慮しなくていいよ。リアのために作ったんだから」


 そう優しく言葉を重ねると、リアはそっと胸元で服を抱きしめ、うっすらと涙ぐみながら微笑んだ。


「……ありがとうございます。こんなに綺麗なお洋服、わたし……着たことありません。着てみても、いいですか?」


「もちろん。きっと似合うから、楽しみにしてるよ」


 リアは深く頷くと、服を抱えて着替えに向かった。


 ──そして数分後。


 再び現れたリアは、まるで別人のように見えた。


 軍服風のジャケットに身を包み、すらりと伸びた足がスカートの裾から覗く。照れたように頬を紅潮させてうつむくその姿は、まるで高貴な貴族の娘のようで、どこか神秘的な雰囲気すら纏っていた。


「ど、どうですか……?おかしくない……でしょうか?」


 愁は思わず言葉を失う。たしかにリアは小柄で、痩せてはいる。けれどその華奢な身体に、強さを象徴するような軍服が驚くほどよく映えていた。愛らしさと凛々しさが奇跡のように同居し、『無垢な気高さ』をまとったような不思議な魅力があった。


「……やっぱり、すごく似合ってる。とても可愛いよ、リア」


 心からの言葉に、リアはぱあっと顔を輝かせ、嬉しそうに笑みを浮かべた。


「えへへ……こんなに可愛い服、着られてすごく嬉しいです!なんだか、わたし……本当にお貴族様になったみたい……!本当にありがとうございます、愁さまっ!」


 スカートの裾を指先でつまみ、くるりと回るリア。その姿は、どこか気恥ずかしげで、それでも笑顔がこぼれてしまうほど嬉しそうだった。頬を紅潮させながら回る様子は、まるで踊り子のようで──愁はその光景を、静かに、けれど確かに胸の奥に刻み込んだ。


(……よかった。本当によかった。あんなに怯えていた子が、こんなふうに……笑えるようになって)


 けれど、その安堵の裏側に、ふとした疑問が浮かぶ。


 リアは『亜人』として虐げられてきたというが──今こうして目の前に立つ彼女には、獣耳も尻尾も、角も翼も見当たらない。鱗が覗くこともなければ、肌の色が人とは異なるわけでもない。特別な異形の特徴は見られなかった。


「ところで、リアはどこが亜人なんだい?見た感じ、普通の人族と変わらないように見えるんだけど」


 リアは小さく瞬きをして、それから少しだけ考える素振りを見せた後、穏やかに答えた。


「わたしも……あまり詳しくはないのですが、遠い昔、亜人の国にあった王族の末裔だって、誰かが言ってました。普通の亜人の方は、動物と人の特徴を持っていたり、見た目からして違う人が多いんですけど……王族だけは特別で、人族とあまり変わらない見た目なんだそうです」


「……それで、銀髪と赤い瞳、ってことか」


「はい。髪と目の色以外は、人族と変わらないそうです。でも、その王族は他の亜人と比べて老いにくくて、長命で……それが唯一の特徴みたいです」


 愁は頷きつつ、視線をリアに戻す。


 確かに、長い銀髪と瞳の色は目を引く。そして彼女の場合、それに加えてオッドアイ──片方は赤、もう片方は碧と、美しくも目立つ色合いをしていた。そんな外見では、どれだけ他の部分が人と同じでも、迫害を受ける理由には充分すぎる。


(──なんて理不尽な世界なんだろう)


 苦い思いを呑み下しながら、愁はふと時計代わりの魔石に目をやる。


「もう遅い時間だね。今日は寝間着に着替えて、もう休もうか。外傷は癒えたけど、疲れまではまだ残ってるはずだから」


「はいっ。じゃあ、すぐに着替えてきますね!」


 小走りで着替えに向かったリアは、ほどなくして、柔らかな布地の寝間着に身を包んで戻ってきた。そんな彼女を連れて、愁は寝室へと向かった。


 ゆったりとした服に包まれて、緊張の糸が緩んだのか──リアは少女らしい無邪気な笑みを浮かべながら、案内された寝室に置かれたベッドの上でぴょんぴょんと小さく跳ねる。マットレスの弾力に驚いているようで、ベッドの上で身体を沈めたり浮かせたりと、まるで子猫のようにじゃれていた。


「ふわふわ……!わたし、こんなに気持ちいいベッド、初めてです!」


 その声に、愁は思わず微笑みを漏らす。


 リアのような子が、粗末な布きれを着せられ、暴力に晒されるような環境にあったという現実が、まるで悪い冗談にすら思えた。


「俺は隣の部屋にいるから、何かあったらいつでも呼んでね?」


「はいっ。……ありがとうございます、愁さま。今日は本当に……夢みたいな一日でした」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ──おやすみ、リア」


「おやすみなさいませ、愁さま」


 魔石の明かりがふっと消え、寝室は柔らかな暗闇に包まれた。


 愁は隣の部屋へ戻り、自分用のベッドを即席で作り上げると、そのまま静かに身体を横たえる。


 やけに実感のある疲労感が、肌の奥からじんわりと広がっていく。ゲームの中でも疲れは感じたことがあったが、今のこの感覚はそれとは明らかに違う。重さがあり、温度があり、どこか──『生身の肉体』としての確かな実感がある。


(……やっぱり、俺の体、本物になってるのかもな)


 なぜ自分がこの世界に来たのかも、なぜ現実と変わらぬ感覚で動けるのかも、わからないことばかりだ。けれど。


 それでも今は──


「……ひとまず、今日は休もう」


 穏やかな疲れに身を任せるように、愁のまぶたが静かに閉じられていく。柔らかいシーツの感触と、微かな木の香りに包まれながら、ゆっくりと意識が夢の世界に沈んでいく。


 もし、今日の出来事が夢でないのなら──


 明日もまた、同じようにこの場所で、リアの「おはよう」が聞けることを願って。


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[気になる点] つ〈エンドレスボックス〉はその名の通り無制限に物を詰め込むことのできるアイテムボックス 容量無制限はエンドレスではないと思います。
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