第4-3話 新しい装備品
食堂には、すでに起き出した他の亜人たちが集まっていた。
皆、寝具をきちんと片付け、机や椅子を並べ終えている。どうやらしっかり者が多いようだ。
最後にリアが姿を見せたところで、ようやく全員が揃った。
愁はエンドレスボックスから先ほど完成した作業用服を取り出し、皆に向かって声を上げる。
「よし、みんなでご飯にしよう。でもその前に、みんなに作業用の服を用意したから受け取ってくれ。これからこの廃村を拠点として復興させるために、みんなに協力してほしいんだ」
案の定、「こんな高価なものは」という、すでにお馴染みとなった遠慮がちの反応が返ってくる。しかし愁はそれを軽く受け流し、気にするなと笑って衣服を手渡していく。
「女性陣には家事をお願いしたい。男性陣には村の修復や素材集めを頼む。子供たちは、できる範囲でみんなのお手伝いをしてくれたら嬉しいな。スフィアは、俺と一緒に村の防衛をお願いするよ。みんなで力を合わせて、より良い生活を作っていこう!」
それぞれが自身の役割に納得した様子を見届けると、愁はにっこりと笑って締めくくる。
「じゃあ、ご飯にしようか。いっぱい食べて、しっかり頑張ろう!」
食卓には、エリサとエリスが心を込めて作った料理がずらりと並んでいた。
魔石を使った火力や、見慣れぬ調味料にもかかわらず、どれも彩り豊かで食欲をそそる。香ばしい匂いが湯気と共に立ち昇り、空腹の胃を心地よく刺激する。
その味もまた、期待以上だった。素朴ながらも丁寧に作られていて、まさに家庭のぬくもりを感じる味わい。これなら、今後の食事も安心して任せられそうだ。
食後、愁は一人静かに自室へと戻る。
村の皆には、今日一日をゆっくりと休んでもらうことにした。
昨日の出来事を思えば、心身共に回復の時間が必要だと判断してのことだった。とはいえ、こちらにはやるべき準備や段取りが山ほどある。
中でも優先すべきは、スフィアの服の作成だ。
戦力強化という観点からも、早めに仕上げておく必要がある。
聞けばスフィアは、人間の姿のままでも魔獣化に匹敵するほどの戦闘力を誇るらしい。であれば、服も人間形態に合わせて作るのが理に適っている。
以前確認した彼女のステータスは、基礎的な魔力(MP)は低いものの、体力(HP)は極めて高く、攻撃力も高水準。加えて、驚異的な速度も兼ね備えていた。魔力の低さに関しては、彼女の固有スキル〈王の権威〉が補ってくれるため、大きな問題にはならない。
このスキルを活かす前提で、物理攻撃系の魔術を習得すれば、まさに『魔法も使える物理特化アタッカー』という、厄介極まりない戦闘スタイルが完成するだろう。
そこでまずは、スフィアの唯一とも言える弱点──防御力の底上げに注力することにした。
服のイメージは、既に頭の中で明確に描かれていた。
テーマは学校の制服──ただし、実在のものではなく、あくまで『愁の美学』に基づいたアレンジ制服だ。
インナーはごく普通の白いシャツ。そこにワインレッドのネクタイを合わせ、膝丈ほどのややゆったりしたジャケットを羽織らせる。表地は深い紺、裏地にはネクタイと同じくワインレッドを採用した。袖口や襟をめくったときにちらりと覗くその紅が、無骨な制服に艶やかな彩りを添えるのだ。
スカートはやや短めに仕立てられており、色はジャケットと揃えて紺で統一。その裾からは、白いフリルがところどころ覗く仕様で、控えめながらも可憐な印象を演出している。──これは、完全に愁の趣味である。
靴は、編み上げ式のニーハイブーツをイメージした。デザイン性はもちろん、実用性も忘れていない。
各部位には適切な効果を付与してある。ジャケットとスカートには高めの防御補正、インナーとネクタイには魔法耐性を。そしてブーツには素早さの向上効果を組み込んだ。
さらに、装備は服だけにとどまらない。
愁は続けて、エジプトのコピスを模した小型の片刃剣を二本、クラフトの限界ギリギリの難易度で仕上げた。
今回は魔剣ではなく、あえて『耐久性重視』の方向性に振って、攻撃力と敏捷性に補正をかけた構成としている。
魔剣にすれば華やかではあるが、能力解放の回数制限がネックとなり、効果の自由度も損なわれる。それを避けた判断だ。
見た目の意匠にも妥協はない。柄の部分は黒の木目を活かした仕上げにし、その中央には小さくスフィアの名を刻んだ。そして、この双剣はスフィア以外の者が握っても、真の性能を発揮できないように制限をかけている──まさに、スフィア専用の装備。
こうして、頭の先から足元、武器に至るまで、完全に愁の趣味と審美眼で仕立て上げた『スフィア専用装備一式』がついに完成した。
これで終わりではなく、まだまだ構想はあるが、ひとまず今回はここまでにしておこう。やり始めれば際限がないのだから。
「ふう……我ながら良い出来だ。うん、これは絶対にスフィアに似合うな」
自室を後にし、スフィアがいるはずの食堂へと向かう。
扉を開けると、彼女は椅子に深く腰かけ、気怠げな様子でくつろいでいた。
「おーい、スフィア!服、できたぞ。俺の部屋に来てくれ」
「えっ!我の服、もうできたのか!?着る!早く着たいぞ!」
声をかけた瞬間、スフィアの顔がぱっと明るくなり、跳ねるように立ち上がる。その様子にくすりと笑いながら、愁はスフィアを連れて部屋へ戻る。
胸を張って披露した自信作──制服風の服と双剣──を、愁は両手で差し出した。
「ほら、これ。スフィアに似合うように、デザインしたんだ。それと、武器も」
スフィアは瞳を輝かせながら受け取り、無邪気な笑顔で愁に礼を述べる。
「ありがとう、主様!我、大切にするぞ!」
「うん。サイズは合ってると思うけど、着てみてくれないか?合わないところはすぐ直すからさ」
「了解だ、主様!我、今すぐ着替えるぞ!」
その言葉と共に、スフィアは何の迷いもなく、今着ていた黒いワンピースに手をかけ──スルリと脱ぎ始めた。
「お、おい待て待てっ!?な、なんでここで脱ぐの!?隣の部屋で着替えてきてくれって!」
「……ん?なぜだ、主様?」
素朴な疑問を向けてくるスフィアに、愁は僅かに顔を赤らめつつ必死に説得する。
「な、なぜって……スフィアも一応女の子なんだから!恥じらいとかそういう……」
(なんだよこの空気……真面目に言ってる俺が恥ずかしくなるやつでは)
年頃の男子として、目の前でスフィアの生着替えなど直視できるはずがない──いや、正直に言えば“見たい”気持ちもあるのだが。
「我は主様なら気にしないぞ?見たいならじっくり見ても構わん!」
にっこりと笑みを浮かべ、靴下を脱ぎながら一歩一歩、距離を詰めてくるスフィア。その目は明らかに愁をからかっている──しかも、スカートの中から下着を先に脱いでいくという、露骨な焦らし方まで加えてきた。
(こ、こいつ絶対わかっててやってるッ!)
「ば、バカやめろっ!俺は廊下にいるから!着替え終わったら呼んでね!」
愁は顔を真っ赤にして、迫ってくるスフィアを押しのけるようにして部屋を飛び出す。わずかに名残惜しさが心に残ったが、そこは男の子なのでしかたがない。
「ふふ、主様、つまらんな。お年頃か?」
閉まった扉を眺めながら、スフィアは口元に笑みを浮かべた。愁の慌てふためく様子がどうやらかなり気に入ったらしく、(次は何をして困らせてやろうか)と、いたずら心を膨らませながら新しい服へと袖を通す。
初めて見るデザインの服は、どこか新鮮で愛らしく、胸が弾むような気持ちになる。スフィアは内心で(可愛いな……)と、思わず笑みを漏らしそうになっていた。
「主様!着替え終わったぞ、入ってくるがよい!」
扉の向こうから聞こえた声に促され、愁は一瞬の逡巡の後、おそるおそる取っ手に手をかけた。
静かな音を立てて扉が開く。そこに立っていたのは、まるで舞台に上がる前の俳優のように凛とした佇まい──完璧に仕立てられた制服を身に纏い、腰に手を当てて誇らしげに胸を張るスフィアだった。
その姿はまるで、陽光を受けて咲く花のように自信に満ちており、身体にぴったりと沿った制服の生地が、彼女の引き締まった肢体の輪郭を鮮やかに浮かび上がらせている。どこか得意げな微笑みを浮かべながら、彼女は問いかけた。
「どうだ?主様。我、可愛いか?可愛いだろ?」
その声音には確かな自負が込められていたが、その一方で、まるでご褒美を待つ子犬のように、期待に満ちた眼差しで愁の反応を探っている。翠の瞳がきらきらと輝いて、愁の胸の奥をほんの少しくすぐった。
元より美しい容貌に加えて、活発な性格の彼女には、この制服風の装いが驚くほどよく似合っていた。
特に短めのスカートから伸びるスラリとした脚は、まるで彫刻のように美しく、ニーハイブーツとの隙間から覗く素肌が、絶妙なバランスで視線を奪う。
愁の趣味が色濃く反映された意匠であることは否めないが、それが完璧に彼女の魅力を引き立てていた。
(これは、素直に褒めるべきだな。いや、むしろ誉め殺しにしてもいいくらいだ)
心の中で頷いた愁は、正面からまっすぐに彼女を見つめ、言葉を紡いだ。
「ああ、すごく似合ってる。とても可愛いよ。元々スタイルも良いし、肌も髪も艶やかで綺麗だ。脚も美しいから、スカートとの相性も抜群だね。一生懸命作ってよかったよ」
その言葉を聞いた瞬間、スフィアの肩がわずかに揺れた。次の瞬間にはくるりと顔を背け、そっぽを向く。
「ん?なんでそっち向いてるんだ、スフィア?」
問いかける愁に、彼女は耳まで赤らめながらも不自然なほど素っ気ない声で返す。
「な、なんでもないぞ!」
実のところ、ストレートな賛辞を投げかけられたことに慣れておらず、動揺を隠しきれていないのだった。素直ではない彼女らしい態度だったが、そのわかりやすい挙動が、かえって初々しさを感じさせる。
「そう?ならいいけど。──っと、そろそろ新しい建物も作らないとな。人も増えたし、この家だけじゃ手狭だ。俺は外に行ってくるから、何かあったら呼んでね」
軽やかな口調でそう言い残すと、愁は部屋を後にした。
静かになった室内。残されたスフィアは、ふと鏡の前へと歩み寄り、そこに映る自分の姿をじっと見つめた。唇を小さく動かし、誰にも聞かれないような声で呟く。
「あんなにまっすぐに褒められるとさすがに恥ずかしいものだな。……それに、このスカート、ちょっと短すぎないか?でも主様はすごく褒めてくれたし、今はこのくらいが普通なのか?うーわからん!わからんけど……」
落ち着きのない口調が、彼女の戸惑いをそのまま物語っていた。
普段は他人をからかうことに長けたスフィアだが、自分がからかわれる側、しかも真剣に褒められる立場になるのはどうにも苦手なようだった。
──人と接すること自体、彼女にとっては久方ぶりのことなのだ。そのため、感情の揺れ幅も自然と大きくなってしまう。
「……可愛いって言われるのは、悪くないかな」
ぽつりと落ちたその声は、どこか温かく、柔らかな余韻を残す。
しばらくの間、鏡越しに愁が褒めてくれた『自分』の姿を見つめ続けていたスフィアは、頬に残る仄かな熱を指先でそっと確かめると、軽く一度叩いてから、踵を返した。
その背には、まだどこかくすぐったいような、甘やかな誇らしさが残っていた。
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