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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第一章 新たなる世界 【第一次王国 編】

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第4-1話 仮拠点への帰還


 新たに加わった『大森林の管理者』こと狼耳とふわふわの尻尾を持つ少女──スフィアと、彼女が救い出した十三人の亜人達を伴い、愁は仮の拠点として目をつけていた廃村へと帰還した。


 荒れ果てた外観は往時の姿をほとんど失っていたが、愁のクラフト能力による修繕の結果、内部はまるで新築の住居のように整えられている。


 そのあまりに異様な光景に、スフィアを含む亜人たちは目を見開き、困惑混じりの驚きの声を漏らす。


 だが戸惑いながらも、愁の穏やかでどこか威厳を感じさせる声に導かれ、彼らは一人、また一人と屋内へと足を踏み入れていった。


「みんな、疲れてるだろう。今日はここで、ゆっくり身体を休めてほしい。リア、みんなに中を案内してくれるかな?」


 その声に、傍らにいた少女──リアはぱっと顔を輝かせ、弾けるような笑顔で勢いよく頷いた。


「わかりました、愁さま!」


 案内をリアに任せると、愁は静かに屋外へと歩を進めた。


 廃村に散らばる朽ちた材木、崩れかけた石壁の破片など、見方を変えれば資源とも言えるものをひとつひとつ拾い集め、すべて無限収納可能なエンドレスボックスへと収納していく。


(人が増えるならそれだけ、場所も、設備も必要になる)


 廃村が仮拠点から本拠地へと変貌を遂げるには、膨大な物資と労力が必要となる。そのため、端材ひとつとて無駄にはできない。


 スフィアに許可を得て、道中で山林から間隔を空けながら伐採した木材も、すでに材料のひとつとして加工済みだ。しかし、どうしても木材だけでは賄いきれない部分がある。


 本来であれば石材、鉄、粘土、さらには魔道具の材料となるレア鉱石──挙げ始めればきりがないが、肝心のエンドレスボックスには必要最低限の資材しか詰めていなかった。


 いくら無限に収納できるとはいえ、無闇に詰め込んでいては後の整理が煩雑になるため、貴重品や素材の多くは、かつての拠点にある宝物庫と素材倉庫へと保管していたのだ。


(……今思えば、もう少し持ってきておくべきだったな)


 過ぎた後悔を噛みしめつつも、愁は即座に気持ちを切り替える。


 今、為すべきことは、これから起こるかもしれない危機への備えだ。


 誰かがこの廃村の存在に気付き、敵意を抱いて接近してくる可能性は否定できない。だからこそ、〈幻術〉の魔法を込めた魔石を増設し、村全体を覆うように設置しておく必要がある。


 もっとも、これはあくまで『WORLD CREATOR』というゲームにおける簡易的な幻術であり、本格的な魔法使いには通用しないだろう。だが、ないよりははるかにましだ。気配を紛らわせ、足止めの一助になればそれで良い。


「主様ー。何をしているのだ?」


 突然背後からかけられた声に、愁は振り向く。


 振り返れば、そこには湯上がり姿のスフィアがいた。念のため〈気配探知〉を発動していた愁は、後ろから近づいてくるスフィアの気配には気付いていた。


 どうやら驚かせようとしていたようだが、そうはいかない。


 愁の普通な反応に少しだけ残念そうな様子のスフィアは、濡れた髪が肩にまとわりつき、頬は湯気の名残か、朱に染まっている。ふわりと香る石鹸の匂いが、微かに風に乗って愁の鼻腔をくすぐった。


(……これは、ちょっと、色っぽいかもな。なんて)


 自覚なく視線が泳ぐのを、愁は小さく咳払いで誤魔化す。


「おー、スフィアか。お風呂、入ってきたんだな?けっこう、気に入ったんじゃないか?」


「うむ!人族の貴族でもなければ、あれほど綺麗なお湯に入る機会など滅多にないからな!実に気持ち良かったぞ!」


 上機嫌な声に合わせて、スフィアのもふもふの尻尾が左右に勢いよく揺れる。


 その尻尾だけが見事に乾いているのが妙に気になったが、耳や尻尾がどのような扱いをされているのか、この世界の常識をまだ掴みきれていない愁にとって、それを話題に出すのは少々リスキーだった。


(……うっかりセクハラなんて言われたらシャレにならないし)


「で、何しておるのだ?」


「ああ、これはね。敵にこの村の存在を悟られないように、〈幻術〉の魔法を込めた魔石を設置しているんだよ」


「なるほど、なるほど。主様はそれで魔法を使っておるのだな?戦闘のときも、いろいろな色の魔石を使っていたしな」


 スフィアは興味津々といった様子で、手にした魔石をじっと見つめている。その目は好奇と憧れが混ざったように輝いており、魔石を使った魔法行使が、彼女にとって相当に珍しいものだということを物語っていた。


(……知識の共有も、そろそろしていかないとな)


 愁は内心で頷きつつ、言葉を続ける。


「魔石を使えば、MP……いや、魔力を消費せずに初級魔法を行使できるんだ。便利だけど、作るには特殊な素材が必要でね。魔力が込められた鉱石、どこかで見聞きしたことはないかい?」


「ふむ。ああ、そういえば。ここから東へ四日ほど歩いた先に、魔力鉱石が採れる洞窟があると聞いたことがあるぞ?」


「おお!それはありがたい情報だ。魔石の素材になるかどうかは分からないが、可能性があるなら行ってみる価値はあるかもな」


「うむうむ!その時は我も連れて行っておくれよ、主様!」


 再び勢いよく揺れ始めた尻尾に、スフィアの素直な喜びがにじみ出ている。その無邪気さに、愁の口元も自然とほころぶ。


(ああ、もふりたい。すごくもふりたい……。もっと仲良くなったら、お願いしてみるか)


 そんな邪な願望を胸に隠しつつ、愁は何気ない口調で問いかけた。


「なあ、スフィア。一つ、聞いてもいいか?」


「どうしたのだ、主様?」


「いや、気になってたんだけどさ、最初に会ったとき、すごく低い声だったよね?今は、なんか普通に可愛い声になってるし」


「……あー、それな。最初は……雰囲気とか、大事かなって思ってな……」


 バツが悪そうに目を逸らし、スフィアの耳と尻尾がしゅんと垂れ下がる。その仕草がなんとも愛らしく、愁はつい笑ってしまった。


「いや、俺は今の声の方が可愛いし、全然いいと思うけどな」


 ぽつりと告げた愁の一言に、スフィアの頬がふたたび、湯気のようにほんのりと朱を差した。


「ほんとか?いくら可愛いからって発情するなよ、主様!」


「しねぇよ!人をなんだと思ってるんですか!?てか、自分で可愛いとか言うなっ!」


 軽口を交わしながら、二人は森の中で採れる素材を求めて歩き続けていた。


 スフィアの案内であちこちを巡っているうちに、空はすっかり群青に染まり、あたりには夜の静けさが忍び寄っていた。


「うわっ、結構時間経ってたんだな。そろそろ戻ろうか?」


「そうだな。我も……もう眠たい……」


 急ぎ足で家へ戻ると、建物の中は静まり返り、明かりもすっかり落とされていた。時刻からして、皆もう夢の中にいるのだろう。


 新たな住居の建設が終わるまでは、人数の多い亜人たちには一時的に食堂で布団を並べて休んでもらっている。


 スフィアも、長時間の森歩きでさすがに疲れたのか、亜人たちと並んで敷かれた布団にそのまま潜り込み、すうすうと寝息を立て始めた。


 愁は一人風呂へ向かい、冷えた身体を温めてから自室へ戻る。


 すると、机に突っ伏したまま眠るリアの姿が目に入った。


「なんで机で寝てるんだ……おーい、リア?起きろー。こんなとこで寝たら風邪ひくぞ?」


 そっと肩に手を添え、優しく揺すって声をかける。リアはむにゃむにゃと口を動かし、ゆっくりと瞼を開いた。


「……あ、愁さま。おかえりなさい……すみません。こんなところで、寝てしまって……」


「いや、大丈夫だけど……ちゃんと布団で寝ないと、体によくないぞ?」


「は、はい……あの、愁さま……お願いがあるのですが」


「ん?どうしたの?」


 何か相談事かと思えば、リアはもじもじと指先を絡め、俯いたまま言葉を濁すばかりで要領を得ない。


「リア?言いたいことがあるなら、ちゃんと伝えなきゃ分からないよ?」


 そう促すと、リアは恥ずかしさを堪えるようにそっと上目遣いで愁を見つめ、意を決したように口を開いた。


「あ、えっと……き、今日……一緒に寝たいですっ。隣で……」


「え?何かあったのかい?」


「い、いえ!なんでもないですっ!あの……今の、忘れてくださいっ!」


 顔を真っ赤にして部屋を出ようとするリアの手を、愁はとっさに掴んだ。


「リア、待って!嫌とかじゃないんだ。ただ、いきなりだったから驚いただけで……ほら、おいで?」


「ありがとうございます……」


 リアはおずおずとベッドに潜り込み、愁も後を追うようにして隣へ横たわる。その肩がすぐ隣に感じられるほど近く、彼女はそっと身を寄せてきた。


 寂しかったのだろうか。理由までは分からないが、リアが安心して眠れるなら、それでいい──とは思うものの、やはりどこか落ち着かない。


「……なんだか、ほっぺがぽわぽわします。あの、手……繋いでもいいですか?」


「いいよ。リアは甘えん坊なんだね」


「そうかもしれません……。今まで、わたしに優しくしてくれた人は、みんなすぐに死んでしまいました。だから怖いんです。また、わたしのせいで、愁さまに何かあったらって思うと……」


 そっと繋がれた小さな手から、リアの体温と、それ以上に『怯え』という名の震えが伝わってくる。その気持ちは、愁にも痛いほど分かる。


 自分もまた、失ってばかりの人生だった。ようやくこうして、仲間と呼べる存在に巡り会えたことが嬉しくて仕方ない反面、また何かを失うのではないかという恐怖が、心の奥に巣くって離れない。


 だからこそ、リアには、優しさを惜しまないと決めていた。


「大丈夫、大丈夫。俺はいなくならないし、死んだりもしないから安心して。いつでも呼べば、リアのもとに行くよ」


「……はい。ずっと一緒に居てください、愁さま……」


 安心したのか、リアはすぐに小さな寝息を立てはじめた。その吐息の温もりが、隣から絶え間なく届く。


 愁もまた、そっと瞼を閉じ、静かに夜の深みに身を委ねた。


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