表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第一章 新たなる世界 【第一次王国 編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/319

第3-4話 英雄譚の幕開け


 魔獣の件もひとまず落着し、愁はリアたちのもとへと歩を進める。


 草を踏む足音の合間に、背後からスフィアの呟きが風に紛れて届いた。


「このままの姿だと、主様と行動を共にするには少々不便だな。──よし」


「ん?このままの……?」


 首をかしげつつ振り返った愁の視界から、巨大な黒狼の姿は忽然と消え去っていた。


 代わりにそこに立っていたのは──漆黒の絹糸のような長い髪を腰まで垂らし、頭には愛らしい獣の耳を生やした、美しい少女だった。


 身長は百四十から百五十ほど。小柄ながら均整の取れた体躯に、整った目鼻立ちはまるで彫刻のよう。年の頃は十五、六といったところだろうか。どこかリアよりも大人びた印象を与える。


 黒曜石のように艶やかな尻尾がゆらゆらと揺れ、ぴょこぴょこと耳が小気味よく動いている。


「ふふふ、どうだ主様!この可憐な姿は!愛おしいだろう?」


 スフィアは胸元の緩やかな黒のワンピースの裾を摘み、優雅に頭を下げた。


 その所作はまるで王宮に仕える姫君のようで、けれど頭を垂れた拍子に露わになる胸元は、まさに目のやり場に困るほどの危うさだった。


 顔を上げたスフィアは、艶やかな笑みを浮かべたまま愁の腕へと絡みつき、ふわふわとした尻尾を嬉しげに揺らしている。


(……どこ行った、さっきの野性味全開の猛獣は)


 唖然としながらも、愁は絞り出すように口を開く。


「え?いや、確かに可愛いけど……スフィアって、メスだったの?それに、人の姿にもなれるって……いや、人というよりは亜人、かな?」


「ふむ、そもそも我は亜人だぞ?遥か古の時代、フロストフィレス様より力を分け与えられ、魔獣の姿も取れるようになっただけだ」


(そもそもフロストフィレス……誰だ?)


 疑問は尽きないが、それはひとまず後回しにすることにした。


 大きなペットができたと喜んでいた直後に、まさかこんな麗しき美少女へと変貌を遂げるとは。


 しかも、妙に人懐こい。リアとスフィア──どちらも目を引く美少女である今の状況は、国づくりどころか、まるで『後宮でも築いている』ような錯覚すら覚える。


「そ、そうなのか。うん……まあ、確かにその姿の方が色々と便利だし、いいか。改めてよろしくな、スフィア」


 愁が手を差し出すと、スフィアは満面の笑みでその手を握り返した。そしてふたりは並んで、リアたちの待つ結界の方へと戻っていく。


 愁の姿が見えるや否や、リアの表情がぱっと明るくなった。彼を案じていた心情が、そのまま瞳に映し出されているようだった。


「リア!戻ったよ。もう一度──二回ベルを鳴らしてごらん?結界が解けるから」


「はい、愁さま……!ご無事で、ほんとうに良かった……とても、心配していました……」


 リアが結界の中から姿を現すと、愁はそっと彼女の頭を撫でてやった。細く柔らかな銀髪が指の間をすり抜ける感触は、どこか懐かしい。


 昔、妹にしていた癖が自然と出てしまったが、リアはむしろその手を心地よさげに受け入れていた。少しでも安心させてやれたなら、それでいい。


「ごめんね。でも、約束通りちゃんと戻ってきたでしょ?それに、新しく仲間が増えたんだ。森の管理者──スフィアがね。これで建国まで、一歩前進だよ」


 愁の背後から、スフィアが音もなく歩み寄り、リアに手を差し出した。


「はじめましてだ!我はスフィア、主様の忠実なる家臣として、これより仕えさせていただく。よろしくな!」


 少し唐突な挨拶だったが、リアはその手をしっかりと握り返し、にこやかに応じた。


「あ、はい!わたしはリアです。スフィアさん、こちらこそよろしくお願いします!」


 ひとまずの紹介を終えたところで、愁は顔を上げ、周囲に警戒の眼差しを巡らせる。心の奥に、わずかな焦燥が灯っていた。


 ──もう、あまり時間は残されていない。


 討伐隊の兵士や冒険者たちがそろそろ到着する頃合いだろう。今のこの状況を見られてはまずい。これ以上、注目を浴びるわけにはいかない。ましてや、亜人たちを助けたことが知れれば、『擁護派』などと騒ぎ立てられるのは目に見えている。


「とりあえず、あの廃村に向かおう。あそこなら目立たないし、ひとまずの拠点にもできる。亜人のみんなも一緒に来てくれるかい?」


 愁の言葉に、助け出した十三人の亜人たちは一斉に整列し、深く頭を垂れた。それぞれが感謝の言葉を述べ、そして最後に、一人の中年の男性が一歩前に出て跪く。


「このたびは我らをお救い下さり、誠にありがとうございます。この命は、貴方様によって救われたもの。我ら一同、貴方様に従い、忠誠を誓います。どうか、傍に仕えることをお許し下さい」


 その声に続いて、全員が膝をつく。静かな森の中で、それは荘厳とも言える光景だった。


 愁はわずかに息を呑む。が、目の前に並ぶ彼らの真剣な眼差しを見て、自然と胸の奥に灯った覚悟が言葉となってこぼれ落ちた。


「そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。君たちを助けるのは当然のことだし……俺も、君たちが忠誠を誓いたくなるような王になれるよう、努力する。だから、まずは森の奥にある廃村へ向かおう。ここは、危険だからね」


 その手をそっと差し出したのはリアだった。愁はその小さな手を握り、亜人たちを引き連れて、静かに歩き出す。


 ──この日が、のちに語り継がれることとなる『偉大なる英雄譚の幕開け』であることを、愁も、そしてその場にいた誰一人としてまだ知る由もなかった。 


少しでも『面白い!』『続きが気になる!』と思っていただけたら、ブックマークで応援いただけると嬉しいです。下にある【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、さらにさらに、次回の更新も頑張れます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ