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クラフトマスター建国記  作者: ウィースキィ
第一部 第一章 新たなる世界 【第一次王国 編】

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第3-1話 亜人たちの救出


 愁が縛られた亜人たちの元へ辿り着くのに、さほど時間はかからなかった。


 町の南──リアと出会ったあの森と町との中間地点。そこにぽっかりと開けた草地があり、月光に照らされたその場所に、十三人の亜人たちが無残にも放置されていた。


 子どもが六人、大人が七人。そのすべてが縄で手足を縛られ、身動きもままならないまま、草の上に横たわっている。


 大人たちは必死だった。せめて子どもたちだけでもと、口を縛り縄に押し当て、歯で噛み切ろうとしている。


 だがその縄は親指ほどの太さがあり、簡単に切れるものではない。それでも彼らは諦めない。


 歯茎から血をにじませながら、顔を紅く染めて、呻き声を漏らしながら、それでもなお食らいついていた。子どもを守ろうとする本能が、痛みを超えて彼らの体を突き動かしている。


 その懸命な姿を、愁は〈遠見〉のスキルを通して見つめていた。


 胸を締め付けられるような痛みに眉をひそめると、すぐさま飛行の魔石の制御に意識を集中し、一気に現地へと飛翔する。


 ──そして、銀光を引くようにして空から舞い降りた。


 突如空から現れた愁を前にしても、大人たちは驚きや恐怖より先に、救いを求める選択をした。


 縋るような目で愁を見つめ、口を開く。


「お願いします!子どもたちだけでいい……子どもたちだけでいいから、見逃してください……俺たちは、どうなってもかまわない……!どうか、この子たちを……!」


 声は震えていた。だが、その想いは確かだった。何よりも子どもたちの命を、未来を守ってほしいと願う、その必死さに、愁は静かに微笑みかける。


「大丈夫。安心してください。俺は、ここにいる全員を助けに来ました。誰ひとり、犠牲にするつもりはありません」


 柔らかな言葉とともに、愁はナイフをクラフトにより生成し、それをリアに手渡す。


「リア。このナイフで、みんなの縄を解いてあげてくれる?」


「はい、愁さま!」


 リアは真剣な面持ちで頷くと、手際よく一人ひとりの縄を解いていく。


 やがて全員の拘束が外れ、ようやく自由を得た亜人たちは、深く息をついて地面に崩れ落ちるようにして座り込んだ。


 だが、まだ終わりではなかった。風に混じって、地鳴りのような咆哮が聞こえてくる。


 森の奥、その闇の狭間から、無数の瞳が赤くぎらついている。魔獣の群れが、すでに目視できる距離まで接近していたのだ。


 愁は黙ってエンドレスボックスに手を伸ばし、ひとつのハンドベルを取り出す。


 それは銀色の鈴で、月光を受けて淡く輝きながら、どこか神聖な気配を帯びていた。ただの鈴には見えない──それは、確かな力を宿す魔法具だった。


「この鈴には、〈守護者の聖域〉っていう結界魔法が込められている。みんなで一箇所に集まったら、この鈴を二回鳴らして。そうすれば、結界がリアたちを守ってくれるから。わかったかい?」


 リアは力強く頷き、両手でハンドベルを受け取る。


「わかりました。でも、愁さまは?」


「俺はこっちに向かってくる魔獣たちと話すか、あるいは戦うよ」


 その瞬間、リアの小さな手が、愁の手をぎゅっと掴んだ。冷たいその指先は、わずかに震えていた。


 当然だった。いくら結界があるとはいえ、亜人たちを守る立場になった彼女にとって、この状況はあまりにも過酷だろう。


 愁は優しくその手を包み込む。言葉ではなく、手の温もりで、安心を伝えるように。


「大丈夫。結界の中にいれば安全だから。さあ、早くみんなと一緒に結界に入っていて」


 愁の声に、リアの目が潤む。だが、その手には次第に力が宿っていった。そして──


「わたしたちが大丈夫でも愁さまは、おひとりで戦うつもりですよね?あの数の魔獣を相手に、一人で。そんなの、いくら愁さまでも危険すぎます!わたし、愁さまが傷つくのは嫌です!」


 震える声、必死な瞳。リアは泣き出しそうな表情で、心からの思いを訴えていた。


 出会ってまだ日が浅くとも、彼女がどれほど優しい子か、愁は知っている。本当なら、こんな顔をさせたくはなかった。


 だが、今は立ち止まってはいられない。人族の中には、亜人たちに酷い仕打ちをする者もいる。けれど、だからといって──彼らを見殺しにすることもまた、愁にはできなかった。


 リアの頭にそっと手を置き、愁は優しく撫でる。これは、慰めという名の誤魔化しだ。だが、今はそれしかできない。


「大丈夫。俺、こう見えてもそれなりに強いんだ。何より、リアと約束したよね?俺はこの世界に国を作って、世界を変えるって。この程度で立ち止まってなんか、いられないよ。だから、俺のこと信じてくれないかな?」


 きっと、ずるい言い方だった。リアが『お願い』されたら断れないことを、愁は薄々わかっていた。だからこそ、その優しさに甘えてしまった。


 案の定、リアは悲しさを噛み殺すように、ぎこちない笑顔を見せた。


 彼女にはしてほしくない笑顔だったが、それでも、今はそれを受け入れるしかない。


 愁はそっと微笑みを返し、心の中で呟いた。


(ごめん……ありがとう)


「はい……わかりました。でも絶対に、絶対に戻ってきてください!約束ですよ!」


「うん。すぐに戻るよ。必ず……リアのところへ」


 最後に、リアの頭をぽんぽんと二度、優しく撫でる。


 そして愁は振り返ると、すでに間近に迫っていた魔獣の群れへと、静かに歩を進めていった。


 夜風が静かに吹き抜け、彼の黒いスーツを優雅に揺らし、その背に宿るのは、決意──揺るぎなき覚悟と、守るべき命への祈り。


 まるで彼の心情が風に溶け込み、闇の帳に染み渡ってゆくようだった。


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