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デート(2)

 ボロアパートの一室。

 薄いカーテンから差し込む日光に照らされた静かな空間に、突如うるさいほどのアラームの音が鳴り響く。


「うーん……うるさい」


 まだ夢から抜け出せていない僕は腹立ち紛れにアラームを切る。

 そして、寝る。

 二度寝だ。

 これがまた至福なのだが、この時の僕は今日の予定をすっかり忘れてしまっていた。


 次に目が覚めたのは二度目のアラームが鳴った時だった。

 流石に三度寝……とはならなかった。

 半覚醒の状態でスマホに目を移し、時刻を確認すると、昨日の記憶が頭の中で駆け巡り……


「……やばっ!?」


 スマホに搭載されている時計の機能は大変便利で正確だ。

 それ故に、時計が狂っているという可能性は否定される。


 現時刻は七時半を回り、集合時間は八時だったか。


 ここから着替えて集合場所まで向かうのに、おおよそ三十分程度はかかる。

 そう考えると時間がない。


 焦りながらも僕は準備を始める。

 ボサボサの頭を水で整え、ドライヤーは……時間が勿体無いから省略する。時間が経てば乾くだろう。

 それが終わったら着替えだ。


 昨日準備していたのが功を奏する。

 といっても、そうオシャレなものじゃない。


 グレーのティーシャツに黒のパンツとごくごくシンプルなもの。

 まあ、もしかしたらこのくらいがちょうどいいのかもしれない。


 いや、こんなこと考えている時間もないんだった。


 僕は急ぎ、昨日のうちに買っておいた菓子パンを齧りながら斜めがけの小さなバッグ――ボディバッグというらしい――を持って家を出る。


 チラ、と腕時計を見てみると針は七時五十分を超えたことろだった。


 ――これは、いけるか?


 正直言って時間通りに、というのは無理そうだ。

 夏、ということもあって燦々と照りつける太陽が身を焦がすようだが、日焼け止めのクリームやら日傘やらなど持っているわけもなく、無防備な肌を日光が焼く。


 タラリと額から汗が垂れるのを拭うと、指定されていた駅前まで走る。


 自転車や車は持っていないから、必然的に徒歩という選択肢に限られてくるのだ。

 というかそもそもこのボロアパートの駐車場は狭すぎて車なんて数台しか止められないのだが。


 まぁ、結局僕は予定の時刻より十分ほど遅れて到着した。

 多くの人が行き交う中、キョロキョロと視線を動かし彼女たちを探す。


「そういえば、詳しい場所までは指定されてなかったんだよな……」


 駅前、とは聞いていたんだけど。

 焦燥を感じながらも、足を動かしてそれらしい場所をあたっていく。


「あ……」


 いた。

 白のワンピースがよく映える長く艶のある黒髪。

 スラッとしたスレンダーな体型はそこらのモデルにも見劣りしないだろう。


「白月さん」


 一瞬、見惚れて硬直してしまった。

 が、自分が遅刻しているのを思い出し、駆け寄って声をかける。


 僕の声に反応したのか、彼女はゆっくりと視線を向ける。

 まただ。

 ドキリ、と胸が高鳴るのを感じた。


「ごめん、遅れた」


 走ったせいか、滴る汗がうざったいが、そんなものを気にするより先に頭を下げる。


「いや、大丈夫ですよ。私もさっき来たばっかりですから」


 そう言って彼女は穏やかに笑った。


 彼女なりの気遣いだろうか。

 手元にあるペットボトルの中身の減り具合からそこそこ長い時間、ここにいたのだろうことが分かるだけに申し訳ない気分になる。


「それに、立花さんもまだ来てないみたいですから」


 続く彼女の言葉に僕もそういえば、と思い出した。

 そもそも最初に誘ってきたのは立花さんだというのに、どうしたのだろうか。


「まあ、気長に待ちましょうよ。まだ時間はあるみたいですし」

「そう、だね」


 昨日、立花さんに渡された映画のチケット。

 それによると僕らの観る映画の上映開始時間は十時。

 まだ二時間――正確には一時間と五十分はある。

 移動時間を含めたってまだまだ余裕だ。


 僕たちは取り敢えず日陰になっている場所に移動する。

 炎天下の中、あまり日の当たる場所に長く居たくはない。


 人が多いのも相まってそんな都合のいい場所を探すのも一苦労で、少しばかり時間を食ってしまった。

 だがしかし、いまだ立花さんが訪れる気配がない。


 流石に心配になってきた。

 そんな時、僕のスマホに見知らぬ番号から電話がかかってきた。


 なんだ、と思いつつ、僕は恐る恐る電話に出る。


「もしもし」


 若い女の声だった。

 それも、聞き慣れた声だ。

 というか、つい昨日も聞いた声だ。


「もしもし、立花さんですか?」

「はい、立花さんです」


 おちゃらけたように返す彼女だが、一体今どこにいるのか。

 僕が呆れたように問うと、今日は風邪を引いたので二人で映画に行ってきて欲しいだと。


 明らかに病人とは思えない声音だったが、それなら仕方がないだろう。

 僕は電話切ると、白月さんへ振り返って事情を説明する。


「そう、ですか……」


 少しばかり残念そうではあるが、そこまで気落ちしている、というほどでもないようだった。


「じゃあ今日はどうします? 解散にしますか?」

「え……いやいや、せっかくチケットは貰ってるんだし、行ってみてもいいんじゃないかな、うん! 立花さんも二人で楽しんで来てって言ってたしさ!」

「まあ……そうですね。それじゃあ行きましょうか、二人で」


 白月さんが帰ろうと言い出した時はちょっぴり焦ってザ・童貞といった感じが出てしまったが、結果オーライ。

 これはもう、白月さんと実質デートのようなものだろう。


 そう考えると自然と口角が上がる。

 白月さんも嫌々、というわけではなさそう。

 寧ろ楽しそうに笑顔を見せているくらいだ。


 まあ、その笑顔は僕とのデートに期待して、というわけではなく、単に映画が楽しみなだけだろうけど。


しばらくデート回が続きます。

デート中に騒動が起こる、とかは無いです。

ただただデートです。


どうていがかんがえたさいきょうのでーと。

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