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いざこざ

 バンッと今度は勢いよく扉が開かれた。


「柊木さんッ!」


 焦燥の見える顔だった。

 いつもの艶のある黒髪はボサッと乱れて、先の戦いでの魔力枯渇の影響か、顔色も良くはない。


「えっと……白月さん?」


 僕は思わず困惑の声を上げた。

 どうしたんだ? と。


 ベットの上で座る僕を視界に入れ、そして声を聴くと白月さんはあからさまに安堵した様子で脱力した。


「よかった……」

「えーと……これは、どういう?」


 当惑して、熊野さんに説明を求める目を向ける。

 それに対して熊野さんはどう説明したものか、と頭をかいて曖昧に笑った。


「白月さんも、柊木さんと同じようにさっきまで気を失っていたんですよ。柊木さんだってさっきは白月さんのことを心配していたでしょう? それと同じですよ」


 僕は起きてすぐに熊野さんに事情を聞いたから、そこまで心配はしていなかったが、彼女はどうやらそうでもなかったらしい。


 白月さんに話を聞くと、起きてから部屋の外を出るとすぐのところにギルドの職員がいたので、その人にこの部屋を教えてもらったのだとか。


「南條さんも別の部屋に寝かせているはずでず。……見に行きますか?」


 熊野さんは僕に目配せするが、その前にやらなければいけないことがあるだろう。


「いえ、その前に彼女のパーティメンバーに連絡を入れておきますよ」


 ポケットからスマホを取り出して智也へと繋ぐ。

 ツーコール目で智也は電話に出た。


『もしもし……』


 電話越しに聞こえる声は随分とやつれているように感じた。


「もしもし智也、南條さんは僕たちが見つけた。今はギルドにいるからすぐに来てくれ」

『……は?』


 僕の言葉に、智也は意味がわからないと声を詰まらせる。


「詳しい話はギルドでする。早く来いよ」

『え、ちょっとまっ――』


 智也がまって、と言い切る前に僕は問答無用で電話を切った。

 長々と電話しているよりも、さっさと迎えに来てもらって直接説明した方がいいだろうという僕の勝手な判断だ。


「話は終わりました?」


 熊野さんが、僕が電話を切ったタイミングを見計らって口火を切った。


「はい。大丈夫です。南條さんのパーティメンバーもすぐに来ると思います」

「分かりました。そこらへんは私の方からギルドに伝えておきます」


 話はまとまり、熊野さんの先導のもと、南條のいるという部屋まで訪れることとなった。

 とはいっても、それはすぐ近くだった。


 ギルド内の休憩室自体、そこまで数があるわけでもないらしく、僕のいた部屋を出て三つほどとなりの部屋、それが南條さんのいる場所だ。


 熊野さんは何の迷いもなしにドアノブを捻った。

 扉の向こう側は僕がいた休憩室と変わりなかった。ただ、ベットに横になる少女を除いては。


「まだ、起きてはいないみたいですね」


 未だ目を覚まさない南條さんを気遣ってか、熊野さんは静かに呟いた。


「今のうちに私はギルドに報告してくるので、お二人は彼女を見ていてあげてください」

「はい」

「分かりました」


 僕らの返事を聞くや否や、熊野さんはすぐさま踵を返した。


 さて、この間に何をしていようか、という話になったところで、南條さんの眠るベットから小さなくぐもった声が聞こえた。


 僕らがチラと視線を向けると、丁度南條さんが目を覚ました。


「ん……こ、こは……?」


 寝ぼけ目をこすりながら、半覚醒の頭を使って周囲を見渡す。

 そこで初めて、南條さんは僕と白月さんの存在を認めた。


「なっ……なんでアンタたちがっ!」


 僕らのことを覚えていたようで、視認とともに怒声を張り上げる。

 特に、白月さんを見る目は鋭い。

 しかし、それとは反対に白月さんの目は冷めたものだった。


「……助けられておいてその言い草ですか?」


 白月さん、ブーメランだよ。とは僕の口からは言えなかった。


 二人の少女が睨み合い、その間に挟まれた僕は大変居心地が悪い。


 この状態が、かれこれ五分近く続き、僕のSAN値はゴリゴリと削れていく。

 誰でもいいから早く来てくれ。


 その思いが届いたのか、静かに扉が開かれた。

 熊野さんか? と、思ったが、それは違ったみたいだ。


「……桜」

「とも、や……」


 パーティ全員引き連れてくるかと思っていたが、智也は単身で訪れたようだった。


 南條さんの先ほどまでの鋭い目付きは鳴りを潜め、罪悪感漂う表情で目をそらした。

 それに対する智也も、苦虫を噛み潰したような、それでいてホッと安堵したような複雑な表情である。


 僕も白月さんも詳しい内情はよく知らないが、どうやら関係の修復にはもうしばらく時間がかかりそうであった。

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