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五階層

 赤城、いいや、智也とはメアドとラインを交換したのちに別れた。

 名前は堅っ苦しいのは無しにしよう、と僕が提案して敬語と苗字呼びを禁止とした。

 これは源にも言われたことだ。


『友達になりたいんならせめてその敬語はやめろ。ダチってのは対等なもんだろ?』


 懐かしい言葉だ。

 僕も源のこの言葉に従って友達には敬語は使わない、そう決めた。


 ◆


 一日暇を持て余し、溜まったレポートを消化することに費やした、その翌日。


 引っ越しはつつがなく終了し、ギルド前で合流した僕と白月さんは例のごとくダンジョンにいた。

 僕らが目的としていたのは六階層で、今いるのは、その一歩手前の第五階層。


 目の前に対峙するのは石で出来た人型の魔物――ストーンゴーレム。


 この階層ではゴーレムの中でも、ストーンゴーレムと土で出来たクレイゴーレム。さらに、泥で出来たマッドゴーレムの三種類が存在する。

 ついでに言うなら、フロアボスもゴーレムであるらしい。


 そして、コイツらが落とすのは鉱物系のドロップアイテムであり、その特殊性と希少性から高額で買い取ってもらえる。


 っと、その話しは今はいいか。


 僕は鉄の棒(・・・)をストーンゴーレムに向け、続けて“黒鬼化”を発動させる。

 いつもは雑魚相手にここまではしないのだが、コイツらゴーレム系の魔物はそうもいかない。

 僕の素の身体能力程度では攻撃が通らないのだ。


 一度だけ試したのだが、振り下ろした刃は簡単に弾かれて少しばかりの跡をつけるだけだった。

 これ以上やれば槍の穂先を痛めるだけだ、と判断して僕は早々に槍を使うのを諦めた。


 そして今日は槍の代わりに、と鉄棒を持参したのだ。

 使い方としては槍と大差は無いし、痛める刃もない。耐久面でも特に心配はいらないだろう。


 僕は微動だにせずにこちらの動きを伺ったままのゴーレムを睥睨する。


「白月さん、援護お願い」

「了解です!」


 僕の声に即座に反応して声を上げる。

 短剣を指揮棒のように振るい、白月さんは氷の礫を生み出した。


「行けッ!!」


 もう一度、今度はゴーレムへ向けて短剣を振り下ろし、氷塊は風を切って発射される。


 ――ドガッ!

 着弾と共に鈍い音が耳に届き、ゴーレムはその巨体を揺らした。


 僕も追撃を加えん、と鉄棒片手に疾駆する。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 吶喊して突貫。

 黒く変色した腕が勢いのまま伸びる。


 刺突。

 刃はないが、それでも体重と速度の乗った渾身の突きはゴーレムの体の中心を穿った。

 いや、正確には少しズレているのだが、そここそがゴーレムという魔物の弱点。謂わば心臓部なのだ。


 ゴーレムは他の魔物と違い、発声器官が存在しない。そのため、断末魔の声を上げることもなく、体は黒い靄となって消える。

 モワリ、と。


 残心をとり、体の力は抜きながらも警戒は抜かない。


 後に残ったのは拳大の魔石と鉱石。

 これだけの量でも売れば一万円は下らないだろう。


 嬉々としてそれを拾い上げる白月さんを尻目に、僕は再び鉄棒を構えた。


「――来る!」


 緊迫した声に白月さんも反応して立ち上がる。それでもちゃっかりドロップは回収済みなところを見ると流石、と言わざるを得ない。


 現れたのはドロリとした汚泥の体を持つ、マッドゴーレムの群れ。

 視認した限りでは数は五。


 僕は、いや僕以上に白月さんが顔をしかめた。


 実はこのクレイゴーレムだが、ゴーレム系の魔物の中でもコイツだけは鉱石をドロップしないのだ。

 落とすのは泥。

 しかも、なんの使い道があるのかもわからない、ただの泥。


 もしかしたら、何か使い所があるものなのかも知れないが、今のところそんな話は毛頭聞かないし、売ろうにも一円にもならないところから考えると、実際有用な使い道などは見つかっていないのだろう。


 故に、売ろうとしてもお金にはならないし、討伐のために割かれる労力は明らかに無駄となる。


 そんなことも相まって、僕も白月さんも、コイツをワザワザ相手したい、とは思えない。


 僕はすぐさま鉄棒を下ろした。

 それに続いて、白月さんも短剣に伸ばしかけた手を引っ込める。


 ゴーレムというのは基本的に鈍足なのだ。

 だから、こういう時はサッサと逃げるのに限る。


 僕らは互いに顔を見合わせて、すぐさま踵を返した。

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