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装備新調の提案

「そういえば、柊木さんたちは装備の新調はしないんですか?」


 あの後、探索者のドロップ品の売却額次第で受付嬢にボーナスが出るということは秘密にしてくれ、と涙目になりながら必死で頼みこまれた。

 それならなんで話した? となるが、彼女のあの様子を見るに、事実を知る人間は少数なのだろう。


 僕らは一応、秘密保護の約束だけはしておいたが、このネタはもしもの時に使える立花さんの弱みとして有効活用させてもらおう。


 そんなゲスな企みなど知るよしもない彼女はスッカリ笑顔を取り戻し、僕らにそう尋ねたのだ。


「なんでですか? 武器も防具もまだ壊れているわけでもありませんし……買い換える必要はないと思いますけど?」

「でも、もうそろそろその武器じゃあ攻撃が通りにくくなってくる頃です。確か柊木さんたちって今三階層でしたよね?」

「ええ、はい」


 それが何か? と首を傾げる僕に、立花さんは険しい顔を浮かべた。


「先に三階層を攻略し終えた自衛隊や警察の方では、三階層フロアボスで武器を壊されている人が多いんです。なんでも、防御力特化だそうで。それに、五階層を超えたあたりから魔物の基礎能力は全体的に上がってきます。安全面を考慮して、今のうちに装備の新調することをオススメします」


 まあ、無理にとは言いませんが。そう、彼女は続けた。


 うーむ、どうしようか。

 武器、防具というのは基本高い。そりゃもう、本当に高い。

 僕らはそこそこ稼げてはいるが、その稼ぎの大半は白月さんの家買い戻し金となっている。


 僕自身が配当されるお金としては必要最低限であり、大した蓄えなどない。


 僕はちらりと白月さんにも視線を向ける。


「……買いましょう」


 僕の向ける視線に気づいた白月さんは一瞬思案げな表情を浮かべたが、装備の新調に賛同の意を示した。


「いいの?」


 僕はそれに、心底意外といった声色で問うた。


「む……私をなんだと思っているんですか? 私だってちゃんと考えているんです」


 白月さんは不服そうな顔で、僕を睥睨する。

 フンと顔を背け、長い黒髪がサラリと揺れた。


「結局はお金を使って装備を整えるか、使わずに怪我をするかってことでしょう? それなら、大人しく装備を新しくした方がいいでしょうに。それに、もっと上の階層に行けば、今よりももっと稼げるようになると思いますし、この出費だってすぐに取り返せるはずです」


 まあ、ど正論だ。

 僕が驚いたのはあれほどお金に執着していた彼女が高額な装備にお金を使うことを許したことについてなのだが……これが成長というものか。

 感慨深く頬を緩ませていると、横合いからの鋭い視線を感じて振り返る。


「私の話、聴いてました?」


 立花さんが何か喋っていたみたいだ。

 それを僕がスルーしていたのが気に入らなかったのだろう。

 不機嫌そうな声音であった。


「すみません。聴いてませんでした」

「……では、もう一度だけ言うのでちゃんと聴いててくださいね?」


 立花さんは、はぁ、と一度息を吐いた。


「五階層以降でも使える装備を手に入れるには二人合わせると五十万円前後は必要になる計算になります。白月さんは魔術が使えるので防具さえあれば支障はないでしょう。問題は柊木さんですね。今以上の性能の槍を買うにはそれなりにお金がかかってしまいますから」


 僕の槍……か。

 この槍と皮鎧は探索者を始める前の僕が有り金のほとんどをつぎ込んで購入した、思い出のあるものだ。

 これだって、数万円はかかったくらいで、別に安いわけじゃない。


「今、ダンジョンの最前線にいる探索者の方々はほとんど全員、ダンジョンの宝箱から手に入れた武器防具を使っています。それからも分かるように、市販の武器が使えるのは十階層を超えたあたりまでです。ですが、そこまで辿り着くまでにも時間がかかります。その間、ずっと使い続ける相棒ですからしっかりと選んでくださいね」


 神妙な顔で、彼女はそう告げた。

 今まで見たなかで、一番真剣な顔かも知れない。

 僕はゴクリ、と生唾を飲んだ。


「それと、探索者御用達の武具店の方も説明できますけど、どうしますか?」


 もちろん頼む。

 首肯で答え、白月さんも「お願いします」と頭を下げた。

 それに対し、立花さんはニコリと微笑み、一枚の地図をとりだした。


「了解です。お店の場所ですが――」

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