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トドメ

 限界を超えて超えて超えて、さらにその先にある限界に僕は活路を見出した。


 溢れ出るエネルギーを脚に集中させれば、とんでもないほどの速度を生み出し、腕に力を込めればパンチ一つでヴァンパイアを吹き飛ばしてしまえるほどのパワーが放たれる。


 膨大すぎる力に振り回されながらも、僕はヴァンパイアと同等以上に戦えていた。



 鋭く突き出した槍を寸前で避けられる。

 ヴァンパイアは回避状態の不安定な態勢から鋭い爪を伸ばして僕へと迫る。


 しかし、僕も素早く槍を引いて爪による攻撃を紙一重で避ける。


 そんなギリギリの戦闘が続く。


 生命の危機に晒されるような緊張から、僕もヴァンパイアも次第に息が切れはじめる。

 だが、ヴァンパイアの表情にはどこか喜色のようなものがあった。


「ふはは……ッ!」


 唐突にヴァンパイアが口元を歪ませて笑った。

 先ほどまでの相手を見下した笑いでは無い。

 楽しいもの、自分を満足させてくれるものに邂逅したときの喜びからくる笑い声。


「よもや、これほどまでとはなっ! 人間風情が、我と対等に戦えるとは思いもしなかったぞ!」


「うるさいぞヴァンパイア。さっさと死ね」


 僕には、僕たちには時間がないんだ。

 タイムリミットは、体感であと三分。


「まあ、そういうな。これほどまでに我を満足させてくれるとは思っていなんだ。最初は貴様もそこらの雑魚と同じ虫ケラと思っておったことは謝ろう」


「謝罪なんていらない」


 頼むから早く死ね。

 僕は、ヴァンパイアが口を開くのも関係ないと一足に距離を詰める。


「フッ!」


 口から息が漏れる。

 捻りを加えた刺突。

 閃光の如き槍の一撃がヴァンパイアの心臓をとらえた。


 かのように見えた。

 実際には、槍はヴァンパイアの右腕を貫き、そこで止まった。


 完全に討ち取ったと思った僕。間一髪で心臓を守ったヴァンパイア。


 どちらもが苦しげに息を吐いた。


 現在、優勢なのは僕だろう。

 狙いは外れたとはいえ、右腕が取れたのは大きい。


 これで、ヴァンパイアの攻撃力は半減。



「畳み掛ける」


 ラッシュラッシュラッシュ。

 槍による斬撃、刺突のオンパレード。


 しかし、それでもヴァンパイアを殺し切れない。

 肌を裂き、体力を削っても、致命傷までは届かない。


 もう時間がない。

 僕の中にも次第に焦りが募りはじめる。


 近接だけじゃあやっぱり厳しいか。

 なら、もっと手段を広げろ。


 ――恐慌の紅瞳。

 僕の瞳が血色の赤に染まる。


 本来格下にしか効果がないが、それでもほんの少しくらいは効くはずだ。


 ヴァンパイアは一瞬、色の変わった僕の瞳に目を奪われる。

 次の瞬間、ピクリと体が硬直した。


 効いた。

 このチャンスは逃さない。


 僕は再び槍を突き出す。

 今度は腰を入れた渾身の一撃……とはいかなかった。

 やはり焦りがあったのだろう。

 普段と比べても軽いものだという自覚もあった。


 しかし、このタイミングで放たれた刺突にまともに反応すること出来ず、ヴァンパイアは残った左手で庇うこともできずに甘んじて攻撃を受ける。

 とはいえ、流石九十六層ボス。

 心臓を狙った僕の攻撃を、僅かに上体を逸らすことで致命傷を避けた。


 僕の槍は左肩を大きく抉り、血飛沫が舞う。


 ここから更に追撃。


「くっ! 貴様ぁ……ッ!」


 ヴァンパイアが苦悶の声を上げる。

 が、それに同情なんてしない。

 出来ない。

 そんな余裕なんてない。


 ――鎖縛。


 鎖が伸びる。

 伸びた鎖は蛇のようにぐねぐねをうねりながらヴァンパイアの体を縛った。


「終わりだ……」


 槍に手をかける。


「死んでくれ」


 横なぎに槍を振るった。

 限界を幾度も超えた身体から放たれるそれは音速を超え、穂先がぶれる。


 ビュッ! と風を切る音が聞こえた。

 次の瞬間、無慈悲に、容赦もなくヴァンパイアの首が宙を舞った。

これ、いつ終わるんだろ……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 96層のボス強すぎません? もうこれから先のボスは獣型であってほしいですよ。 そういえばもう地上では死んだことにされているんじゃないでしょうか。
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