九十階層フロアボス
肉を食って腹を満たし、眠気に襲われた僕らは一人づつ見張りを立てながら、固い地面で眠りについた。
そして翌朝。
僕たちは九十階層ボス部屋へと訪れていた。
「……着くの早くね? まだ出発から一時間も経ってないんだが?」
「そりゃあそうだろ。探り探り道を歩くならともかく、地図があるんだからこんなもんだ。それに、今は唐突に襲ってきやがる魔物たちにも対抗できるようになったからな。これで、逃げ隠れする手間暇も短縮出来たってことだ」
まあ、この階層にいる魔物のほとんどは合成獣で、他は見たことがない。
あるとすれば、昨日の獣王くらいのもの。
しかし、それだってイレギュラーによる出現だったという話だ。
であれば、この階層には合成獣以外の魔物はいないのかもしれない。
そしてその場合、僕は絶対に負けない自信がある。
基本、合成獣は一匹二匹ほどの数で行動することが多く、最大でも五匹がせいぜいとの情報が小泉の【ダンジョンマップ】からもたらされている。
その程度の数であれば、武器がなくても倒せる筈だ。
なにせ、僕は今よりもレベルが低い状態で数百単位の合成獣たちを相手に無双していたのだから。
まあしかし、今日フロアボスを倒してしまえば、これ以上合成獣と戦うこともないだろう。
小泉が言うには、僕の力があれば討伐は容易らしいし、早く片付けてしまおう。
「もう準備はできているよな?」
「当然」
「私も大丈夫です」
小泉の問いに僕と冬華は各々答える。
緊張はない。ただ、戦意が溢れる。
僕は、少しの戸惑いもなく新調した槍を片手に扉を押した。
扉の開く音とともに光があふれる。
一瞬、強い光に反応して目を細めるも、すぐに慣れる。
そして、僕たちの目に飛び込んできたのはあまりにも巨大な合成獣。
姿形はただの合成獣とそう変わらない。
しかし、体の大きさだけならば、獣王よりもさらに大きい。
が、その体の大きさに反して、獣王ほどの威圧感は感じない。
それどころか、僕の着込んでいる『獣王・レーニコルのレザーアーマー』に若干の怯えを見せている。
その姿は端から見てもわかるほどに滑稽で、子犬のよう。
周りを見ても、この部屋にいるのはこの個体だけ。
「取り巻きはいないタイプのボスか……」
僕はボソッと独りごち、冬華たちの前に出る。
もし、何かの間違いで冬華たちが襲われればひとたまりもないからな。
そんなわけで、僕は意気揚々と槍を持って駆けた。
【魔魂簒奪】の能力は使わない。
使わなくても勝てるビジョンしか見えない。
心に余裕があるからだろうか。
僕は新たな相棒でもある、魔槍・アトラツィオ。
効果は魔力を使用した槍の重量操作。
そして、血の摂取により、別個の能力が解放される……と。
しかも、その血は僕のものじゃないといけないときた。
後者はそう使いたいものでもないし、今回は前者を使う。
【魔魂簒奪】で能力を使うような要領で、槍に魔力を注ぎ込んでいく。
その度に、僕の中の何かが失われていくのがわかる。
「なるほど、これが魔力を消耗していくって感覚なのか……」
僕は魔術が使えなかったし、【魔魂簒奪】でも、魔力の消費は自動的なものだったから、新しい感覚だった。
僕の魔力が槍に注がれていく毎に、どんどん手元の槍が重みを増していく。
最初は普通の鉄槍と同じ程度の重さだったのが、今ではその十倍以上はありそうだ。
今、僕がまともに持てているのはレベルアップによる、ステータス上昇のお陰だな。
僕は内心でほくそ笑みながら、巨大合成獣へと足を進める。
そんな僕とは対照的な相手方はいかにも逃げ出しそうな雰囲気。
レザーアーマーの出す格下、かつ獣系魔物への恐怖感。
魔槍が纏う禍々しいオーラ。
そして、それを装備する僕。
恐らく、彼我のレベル差も理解しているのだろう。
しかし、ソレはせめて一矢報いるとでも言いたげに、唐突に牙を剥いた。
縮こませた体を大きく見せ、唸りを上げて威嚇する。
間髪入れずに咆哮が放たれ、僕の髪がたなびいた。
……けど、それがどうした。
僕には一切効果がなかった。
重く重く、それこそ、地面に置けばそこにめり込んで埋まってしまうのでは? と心配になるほどの重量にまでなった槍を持ちながら、僕の体は飛翔した。
否、ただその場でジャンプしただけ。
それだけなのに、僕は巨大合成獣の真上にいた。
あまりにも速かったからか、僕以外の誰も反応できていない。
そんな中で、僕は槍を、穂先を下にしたまま合成獣の頭上に置いた。
するとどうしたことだろう。
極限まで増幅された重量を持つ槍、その先端に重力がのしかかり……。
槍が脳を貫き、その下の胴体を貫通、それだけにとどまらず、地面を穿った。
――これで、呆気なくボス戦が幕を閉じた。




