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猛獣たちとの戦い、その幕開け

「ここが?」


「ああ、【ダンジョンマップ】によれば、この先に魔物部屋(モンスターハウス)があるみたいだ」


 小泉は手元の端末に視線を落としながら答えた。


「準備はもう出来ているか?」


 僕は彼の言葉に首肯することで返した。

 ここから先を進むのは僕だけだ。


 強化アイテム――便宜上以下強化薬と呼ぶ――は手元には一つしかない。


 つまり、この階層のレベル帯の魔物と対等に戦えるまでに強化出来るのは一人まで。

 もし、冬華や小泉がついてきてしまえば、僕の心情的には心強くとも、圧倒的に肉体面がついていかないのだ。


 だから、この先は僕の戦い。

 もう覚悟は出来ている。


 出来ているが……しかし、手が、体が震えている。

 これは、今から始まる格上の魔物への恐怖か、それとも武者震いか。


 ……いや、武者震いではないか。

 こんな状況で戦いを愉しめるほど、僕はおかしな頭をしていない、はずだ。


「奏くん……」


 僕が震える拳を反対の手で握りしめると、真横に佇んでいた冬華が心配そうな声音で僕の名前を読んだ。


「大丈夫……僕は、大丈夫だ」


 冬華を安心させよう放ったその一言は、まるで自分自身に言い聞かせるように心の中で反芻した。


「いくよ」


 体にあらん限りの力を込め、槍を握り、拳を握った。

 もう、振り返らない。

 覚悟は決めたんだ。

 ここで弱気になっちゃあいけない。


 ゴクリと生唾を飲み込み、魔物部屋へと繋がる扉を視界の内に収める。


「……よし」


 小泉から渡された強化薬を勢いよく口内に流し込んだ。

 途端、強烈な刺激臭が嗅覚を刺激し始める。

 とんでもないほどの薬品臭さというべきか、今までに嗅いできた薬品のなかでもこれは特にひどい。


 そして、思わず吐いてしまいそうになるほどまでに凝縮された苦味が僕の舌を蹂躙する。


 暫く悶絶したあと、スッと苦味が消え去り、その代わりに湧き上がるような力の奔流を体内に感じた。

 とてつもないほどに漲るエネルギーは今にも溢れ出してしまいそうなほど。


 ステータスでも確認すれば、一時的にとはいえ、レベルが十倍にまで膨れ上がっているのだろうが、そんなことをしている暇はない。


 時間は限られている。

 迅速な行動を心がけ、僕はすぐさま魔物部屋の扉を押し開いた。


 次の瞬間、僕の目に飛び込んできたのは数十、数百という数の合成獣たち。

 見ただけでわかった。

 そのどれもが、さっきまでの僕では太刀打ちも出来ないほどの猛者――いや、猛獣。


 だが、今はどうだろう。


「――勝てる気しかしない」


 もう、体の震えは無くなっていた。


「ハァァァァァ!」


 あらんかぎりの気合いを込め、叫んだ。

 その咆哮は桁外れだステータスによるものか、指向性をもつ空気の砲弾となって近くの合成獣を吹き飛ばした。


 まだ、これだけじゃ終わらない。

 握った槍を構え、密集する合成獣たちへと切迫する。


 すると、勢いよく踏み込んだ地面が大きく抉れ、気づくと瞬き一つする間も無く、僕は音を置き去りにした。


 遅れて音が耳に届いた。

 その時にはもう、僕は合成獣の眉間を穿っていた。


 槍を振うたび、一歩を踏み出すたびに、ゴウッという豪快な風切り音が聞こえてくる。



 あれほどまでに脅威に感じていた魔物たちは、安価な無双ゲームでもしているような気分になるほど呆気なく蹴散らされていく。


 僕の脳裏にワンサイドゲームというワードがチラリと浮かんだ。


 彼我のレベル差的には250程度。

 僕の現在のレベルが大体400。

 最初に見たあの合成獣を基準に考えるならば、大方あちらのレベルは一体につき150前後。


 単純計算で考えれば、三体もいれば僕を殺せることになる……だがしかし、それが出来ていないことを鑑みれば、単純なレベルの合計値だけでは計算できないということになる。


 だから、僕の攻撃は尽く合成獣たちに有効打を与えているし、攻撃を食らってもそこまで痛みは感じていない。


 爪で引っ掻かれたり、何度か噛みつかれたりもしたが、擦り傷程度の跡しか残らなかった。


 でも、だ。

 これで楽勝、僕の負けは絶対ない。

 なんてこともありえない。


 この僕の力は仮初なんだ。

 強化薬の効力が切れてしまえば、今の僕は無力でしかない。


 怒り狂った魔物たちに喰い殺されてしまう未来が待っている。

 加えていうなら、僕が死ねば、連鎖的に冬華や小泉も死ぬ。


 そんなことは、絶対に許されない。


 だから――


「さっさと死ね、死んでくれぇぇぇぇぇ!」


 ――僕は狂ったように槍を振るう。


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