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ダンジョン出現

新作です!


 眠気を誘う心地よい春宵の風が肌を撫でる。


 そんな日の出来事。



 東京都某所にポツンと置かれた小さな公園のベンチで僕――柊木 奏(ひいらぎ かなで)は一人、俯いていた。


 年は十八、ピカピカの大学一年生。

 まだあどけなさの残った顔には苦悶の表情が浮かべられている。


「あ〜くそっ! 何が新歓コンパだよ!」


 モテるかと思って適当に選んだテニスサークル。その新歓コンパの帰り道にふざけんなっ! と僕は吐き捨てるように毒づいた。


「未成年だって言ってるのに酒を飲ませてくるし……あんなの行かなきゃよかった!」


 新歓コンパ……それは新入生を歓迎するための懇親会。とは名ばかりで可愛い新入生に唾をつけておいたり、自分たちが酒を飲んで楽しみたいだけの集まりだった。


 今年大学に入った生徒というのはほぼ全ての人が未成年であるのは周知のはず。だというのにも関わらず酒を進めて来やがった。

 しかも断りきれない雰囲気を出して来るものだから僕も勢いに乗せられて随分と飲まされてしまった。


 しまいには酔った女の子を介抱するという名目で先輩にお持ち帰りされた娘も何人かいる様子だった。


「き、気持ち悪い……」


 酒に酔う、という人生で初めての経験。

 想像していたものを遥かに超える不快感と更に嘔吐感が僕を襲った。


 込み上げてくる吐瀉物をなんとか飲み込んだ。


 口に広がる胃酸の味が果てしなく気持ち悪い。


 何とかして洗い流そうと水を欲して公園の水道で口を濯ぎ、この後も特にやることもないのでベンチで黄昏れる。


 ふと、高校の卒業祝いとして親に貰った新品の高級時計が目に入る。


 時刻は二十三時五十九分。


 後一分で今日が終わる。

 長かった今日が終わる。


 明日からの大学生活に思いを馳せて空を見上げ、腕につけた時計の分針がカチリという音を立てて一つ……動いた。


 昨日が終わり、今日が始まった。


 そしてそれと連動するように――街が、世界が、地球が揺れた。

 最初は小刻みに、そして段々揺れは激しさを増していく。


「うわぁ! なんだなんだ!?」


 僕の驚愕の声はしかし、地面の振動の音で掻き消された。


 地震は数分の間に渡って続き、揺れが収まった頃には地面にヒビが入り、街の光は失われ、至る所で物が倒れていた。


 無残にも変わり果てた街の姿に僕は驚きのあまり絶句するしかなかった。


 だがしかし、僕が一番驚いたのは地震による被害についてではなく、いつの間にか目の前に建てられていた巨大な塔について……だった。


 雲を超え、天を突くこの巨塔。

 本来であれば数分の間にこれが突然現れるなんてこと、信じることもできないだろう。


 だが、目の前で見てしまったのだから信じる他ない。


 この塔を構成する材質はおそらく石。

 けど、それなのに石同士の繋ぎ目がみあたらない。まるで超巨大な石をそのまま彫って塔にしたかのような……不自然な作り。

 しかも、見渡した限りヒビ一つ入っている様子が見受けられない。


 そして――


「これって、門?」


 僕は見つけた。

 この塔の唯一の入り口を。


 豪華絢爛な彫刻が施された威圧感すらも感じさせる壮大な門。


 その時からなのかな?

 僕はこの塔に何処か惹きつけられていたんだ。


 だから僕は「入ってみたい」とそう、思ってしまった。


 酒の勢いというものもあっただろうが、それ以上にこの塔は僕の好奇心を刺激して止まなかった。


 ――この時は、まさかあんなことになろうとは露ほども思ってはいなかったから。











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― 新着の感想 ―
[気になる点] 真夜中で地震で街から明かりが消えたのに、どうして塔が雲より高いと分かる(見える)んだ? 雲が出ているという事は、月明かりも期待出来ないだろうし。
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