第7話
また遅くなってしまい申し訳ございません。
ラブコメ的展開がこの作品はまだまだ先になりそうなので別作品でラブコメ書こうと同時進行していたらどっちもなかなか進まずこんなことに
スケジュール管理って当たり前ですけど大切ですね
俺は今馬車に揺られている。向かうは王都、シエルフィードの王城だ。御者台にはミリア先生が座って馬の手綱を握ってくれている。というかミリア先生、御者なんて出来るのか。ミリア先生がすごいのか、それとも貴族というものはこういった技能も求められるのか。どちらにせよ結婚とは関け……あれ?背中に悪寒が……。うん、こんなにすごいミリア先生が結婚するのはもう秒読みだな!
思わず現実逃避のために余計なことを考えていたところ強制的に現実へと引き戻された。ちらりと視線を横に向けるとそこには相変わらずも凛とした佇まいで馬車に揺られているアリス様が目を閉じて思案気な顔をしておられた。一体何を考えておられるのか。想像しても詮無いことではあるんだけど、アリス様は時々すごい突拍子もないことをおっしゃられるから考えが読めない。
それはこの馬車に乗る前の、まだ保健室での一幕でもそうだった。
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「3メートル以上離れられないってどういうことですか!?」
「そのままの意味ですよ?」
堪えきれないとばかりに笑いを漏らす理事長はその可愛らしい見た目も相まって凄く魅力的に映るのだろうが、今の俺にとってはそういった感情は一つも湧いてこない。
そりゃあもちろん言葉の意味は分かりますよ。でもそうじゃあないんですよ!わかるでしょう!?ニュアンス的に!
そんな遠慮のないツッコミは声には出せずとも視線に乗せて理事長にぶつけた。しかし理事長はそれすらも面白いというようにさらに笑いの度合いを深くするだけだった。
「ふむ、確かにそれは少し不便だな」
アリス様、少しなんてもんじゃありません!さらに言えば不便なんて言葉では片付けられない問題がたくさんありますよ!
そんな敬意感の足らないツッコミも声には出さずアリス様への視線を乗せる。
「困ったな」
とこちらに苦笑いというか曖昧な笑みを向ける。その笑みは非常に魅力的なのだけれども!
「……ひとまず本当に3メートル以上離れられないか確認してみましょう」
すでに精神的に疲労困憊な気もするが、理事長の悪戯という線も、今までの言動から可能性があるので、検証が必要だろう。
結果はアリス様が俺から離れていこうとすると見えない壁でもあるかのように3メートル以上進めず逆に俺がアリス様から3メートル以上離れようとするとアリス様が俺に引っ張られるということが分かった。要するに俺の立ち位置や動きの方向を注意しておかないとアリス様がコケたりして非常に危ないということが判明した。
できれば理事長の悪戯であって欲しかったのは言うまでもない。
お風呂やトイレ等、様々な問題が想定されるのだが
「まあ、なるようになるだろう」
とおっしゃるアリス様。多少は気にして頂けるとこちらとしても少し気が楽なのだが、ほとんどそういったことは気にも留めていない様子。ただ単に生活しにくいくらいしか思っていなさそうであられるのがいいのか悪いのか。いや、悪いに決まっている。主に俺の精神安定と不敬による命の危機的な意味で。
「なにはともあれ王都に報告に行かねばならない。すまないが旅装を拝借したいのだが、誰か持っていないか?」
確かに今のネグリジェのままでは大っぴらに外を歩けないだろう。それ以前に下手をすれば余計な騒ぎを起こしかねないので出来るだけ顔や姿を隠した方がいいように思う。
「では私の物を用意いたします。少々お待ちください」
そう言ってミリア先生が保健室から退室していった。確かにミリア先生とアリス様は背格好がほとんど変わらないからサイズ的には合うだろう、一部分を除いて。ただこれを突っ込めば命が危ぶまれるのは先達の尊い犠牲で証明されているので決して触れる真似はしない。
「では私は馬車を用意してきますね」
そう言って理事長も保健室を後にした。カイン王子も嵐のようだったけど、理事長の台風っぷりも大概だった。いや、理事長を台風に例えたら被害的な意味でもカイン王子はにわか雨程度かな。確かに理事長がいなければアリス様との契約状態がどんなものかわからず右往左往していたことだと思うけど、それ以上に状況を引っ掛けまわされた、という印象が強い。
恐らく理事長が終始こちらの状況を面白がっているように見えていたからだと思う。
「それでは私は一応カイン王子の容態を診ておきましょう」
そう言ってセラ先生はカイン王子の寝ている寝台の方へ行って今だ「うーん」とうめき声をあげているカイン王子の側に侍るように座る。
カイン王子は目覚める様子がない。本来なら一緒に王城へ行くのがいいのだろうけど俺としてはこのまま一緒に行かない方がありがたい。何故かっていうと俺とアリス様の関係を知られると余計に拗れる未来しか見えないからだ。しかしまだ目を覚まさないってどれだけ強烈なけりだったのだろうか?出来れば一生味わいたくないものである。
ここでふとクラスメイト達の会話を思い出した。確かあれはトニーだったかな?「王女様に踏まれるなら死んでもいい」と言っていたのは。その会話に参加していたうちの半分が同意だと頷いていたのが印象的だった。もしあの蹴りを受けていたのがトニーだったらそのまま天に召されていたかもしれないな。
「…………」
しかしミリア先生が戻るまで手持ち無沙汰だな。実質アリス様と二人きりなので話題が……。しかしこの沈黙はつらいのでなんとか会話を……、と頭を捻っていたところに
「ただいま戻りました!」
と少し息を切らせながらミリア先生が戻ってきた。その腕には二セットの旅装が抱えられている。一つはアリス様の分だろうがもう一つは誰の分なのだろう?俺の分ではないだろうし。
「お待たせいたしました、アリスティア王女殿下、こちらになります」
「うむ、礼を言う、ミリア・コートレイ男爵令嬢。では早速着替えるとしよう」
「はい、それではお手伝いいたします」
「いや、これぐらい一人で着替えられるぞ。城では侍従の仕事を奪うわけにはいかぬから任せるが、そうでない場合は一人で着替える方が早いからな」
「わかりました。それでは私は万が一ラルク君が覗かないように見張りをしておきます」
そう言ってアリス様をカーテンで仕切れるベッドがある空間(ベッドがあるスペースは二つあり、そのうちの一つはカイン王子が寝ている)に誘導するとカーテンを閉めて決して中を覗けないように俺を正面から見据える。
もちろん俺は距離の制約のため、近くに行かざるを得ないのだが絶対に覗くつもりなどない。何度も言うようだが命は惜しい。いや、もちろん俺とアリス様の命は一蓮托生なので簡単に死罪とはならないかもしれないが命が『あってないようなもの』の状態にされるのは想像に難くない。
とまあマイナス方向の想像を働かせているところに耳に聞こえてきた、衣擦れの音。それは見えない光景を想像させるには十分な情報と誘惑を俺の脳に届けていた。かといって自ら耳を塞ぐのも変な話。つまりこれは致し方ないことなのだ!と自分に言い訳をして想像をさらに膨らませようとしたところでいきなりミリア先生に耳を塞がれた。気がそぞろになっていたので全く反応することが出来なかった。
そしてミリア先生の真顔が結構アップで目の前に。いえ、あのすいませんでした。反省していますので許していただけませんでしょうか?正直滅茶苦茶怖いです!
ミリア先生に顔をがっしり押さえつけられ(耳を塞がれ)凝視されること3分くらいだろうか。カーテンの向こうから旅装姿のアリス様が出てきた。
「着替え終わったぞ」
「何か不都合などはございませんでしたか?」
「特にはないな。袖も裾も違和感などはない。強いて言うなら胸が少し苦しいくらいか」
そこにはフード付きの全身をすっぽり包めるマントをはおっているにも関わらず主張を確認すること出来る胸元が。それを見てショックを受けたのか表情が沈んでいるように見えるミリア先生。
ミリア先生、女性の魅力は胸の大きさだけではないですよ!だから元気だしてください!そう思っているものの、口に出す勇気はなかった。
「……それでは私も着替えてきます」
そう力ない声を出してカーテンの向こうに消えていったミリア先生。ってあれ?
「ミリア先生も一緒に一緒に王城に行くのですか?」
「ええ。アリスティア王女殿下はいらぬ混乱を招かないため堂々と行動できないので私が案内人を務めるのです。王都に入るのにもコートレイ男爵家の家紋を使えば入り口での検査もパスできますし」
なるほど。説明を聞いたら納得した。これは是非付いてきて、いや連れて行ってもらった方が王城へはいるのもはやいだろう。
程なく教師然とした格好から動きやすい服装にマントという格好に着替えて出てきたミリア先生。それとタイミングを同じくして理事長が保健室の扉を開けて中に入ってきた。
「馬車の準備が出来ました。どうやら出発の準備は出来ているみたいですね。それではミリア先生、後はよろしくお願いしますね」
「はい、わかりました」
理事長はミリア先生がついていくのはさも当然のように話していた。流石は理事長ということなんだろうか?というよりは俺がそういった貴族の権利やら政治やらに疎いだけな気がするな。
「では行きましょうか」
そうしてミリア先生は俺とアリス様を先導するように馬車が置いてあるという場所に向かう。理事長に別れの挨拶をと顔を向けると笑顔で手をひらひらと振っていた。すごく軽い感じだが頭を下げて黙礼しておく。
保健室から一番近い外に出る扉をくぐるとそこには幌付きの馬車が鎮座していた。馬は二頭繋がれている。誰か御者がいるのかなと思っていたらミリア先生がそのまま御者台に座ってしまった。
アリス様も得に躊躇することなく幌の中に入っていく。少しびっくりしていた俺はミリア先生に「早く中に入って」と声をかけられて慌てて中に入り込んだ。中は外から見た印象よりもかなりしっかりとした座席があり、すでにアリス様は座っていた。
一応アリス様の向かいにも座席はあるのだがアリス様が隣の空いているスペースをポンポンの叩いたのを見ておずおずと隣に座る。
「それでは出発します」
とミリア先生が俺たちに声を掛けた直後に手綱をしならせて馬をたたいた音と共に馬車が動き始めた。
お読み頂きありがとうございました
次回こそはもっと早くに上げます!というか話が全然進んでないorz
ほんとなら王都についているくらいまで書きたかったのに
一人称だとどうしてもストーリー進行じゃない余計な文章をいれてしまうのは課題ですね
そんなことより執筆スピード上げるのが一番の解決策ですが(;^_^A
次回は王城到着まで、かけたらいいなぁ




