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いちご惑星  作者: 水菜月
シーズン1
4/5

いちご九分の一


 視線を感じる。

 どこかで誰かが、ぼくを見ている。


 しかし、振り向いても、誰もいない。


 サササーという音が廊下から聞こえてくる。

 何かすべっているような。もしかすると伝説のスベッカム来日か。

 いやいや、ベリー来航から、どうもぼくの思考がおかしいだろ。


 シュタッ。という音がして、何か飛んで来た。

 手裏剣しゅりけんの折り紙だ。中を開いたら「1/9参上」という文字。なんだこれ。


 また廊下をそぉーっとのぞくと、ピンク色のまるくてさんかくのものが移動していくのが見えた。一度消えたが、また戻ってきた。

 誰かが紐をつけて引っぱってるんだろう。誘いのえさのつもりかな。明らかにさっきよりスピードを落としている。 

 うん、きっと、ぼくにつかまえてほしくて(構ってほしくて)何度もやってるんだろうな。あはは、うふふ。


 くいっと引き寄せてみたら、紐の先に、みみずくみたいな耳したいちごがついてきた。アルファベットのM。みみのMか?

 つまんだら、びっくり目で足をじたばたさせている。落ち着きのないいちごだな。

 君は、もしかすると止まったらアイデンティティーを失うタイプ?


「ねえ、なんだよ、1/9って。もう今は三月だよ」

 話しかけたら、首を振っている。

「一月九日じゃなくて、九分の一です」


 よーく見ると忍者みたいな格好をしている。

 は? あ、そうか、つまりクノイチか。忍者のつもりなのね。

 こんな子いたんだなぁ。今まで目立たぬように隠れていたんだろうか。まだぼくは全苺を把握できてないな。

 この子は白とピンクのしましま模様の着物きて、背中にペロペロキャンディくくりつけて、腰にはいちごポッキーの剣を差してる。割と装備が派手だぞ。


 床に置いたら、恥ずかしそうにもじもじ後ずさりして、キッチンの方に走って行ってしまった。


 あ、テーブルの上にあるそれは。飛び込むと大変なことに……。

 きっと透明だから、水に見えたんだろうけど。


 哀れ、あの子は、水あめの中。

 あわててストローを水面に出して息してるよ。

 身動き取れなくなったのをすくい上げたら、ミヨーンって伸びて、透明コーティングされたいちごができあがってた。おいしそう。


 しかし、救出しなくては。失礼して口の中に。

 水あめだけなめとってしまうと、元のいちごの子になったから、マグカップのぬるま湯に入れてあげる。

 あれ、顔色が真っ白だ。びっくりさせてしまったかな。

 息してるだろうか。えっと、人工呼吸も必要ですか?


 タオルで水分ぬぐって、しばらく布巾かけて様子を見てみる。

 息を吹き返したみみずくいちごは、一気にシュポーっと蒸気を上げて赤みを取り戻し、またスタタタと廊下を走って行ってしまった。あらら。


 おかしいなぁ、クノイチは退散したのに、まだ誰かぼくをガン見している気がするんだよね。家政婦のいちごでもいるのかも。



  なんて思ったら、やばい、妹がこっちみて指さして、あわあわしている。

「お兄ちゃん、独り言ばっかり言って気がふれたかと思ったら……」


 妹の視線の先は、ぼくの胸ポケットに。あ、ばっちりいちご姫と目が合ってる。

 見えるのはやっぱりぼくだけじゃないんだ。

「なに、そのかわいいのー。マスコットー? ねぇねぇ、見せてー」

 拒否しようと思う間もなく、妹の手がさっといちご姫をさらっていく。

 どうやら姫はマスコットを装おうとして、なでなでされてもがんばって固まってる。でも、くすぐったくてだめだったみたい。きゃはって笑っちゃった。


「やっぱりね。喋れるんだ」

 にやりと笑う妹。

「だめだよ、その子は。返して」

「えー。どうしようかなぁ」

「その子は、大切なんだ」

「ね、他にもいるでしょ。紹介してよ」

 ぼくはまず姫を奪還しなくてはいけないから、ひとまず「わかった」と言った。

 胸ポケットにもどって来てほっとした姫が、ぼくにこう告げた。

「私たちが見えるのは、あなたのご家族だけです。そのための一人一個の苺ですから」

 あ、そうなんだ。

「だから、妹さんにはみんなを紹介しても大丈夫です」

 姫がそう言うなら大丈夫かな。

「じゃあ、ぼくの部屋に来て」


 妹はその後、男子いちごたちとすっかり意気投合して、苺ロボ専用バッグまで作って一緒に出かけるようになった。

 剣道部だからね、しょっちゅうアマキンと刀を交わして遊んでるよ。シャキーン!


 いちご姫はほんのり頬を染めて(もともと苺色だけど)、ぼくの耳元でささやいた。

「あの時。大切って言ってくださって、嬉しかったです」




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