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いちご惑星  作者: 水菜月
シーズン1
2/5

いちご姫


 あくる朝、家族がみな出かけてぼく一人になったので、冷蔵庫から苺の箱を出して来て、キッチンのテーブルに置いてみた。


 ノックをしてから蓋をすっと持ち上げると。

 アルファベットNo.つき26個の苺アンドロイドたちが、好き勝手に動き回っている。

 いや、もとい、苺型ロボットだな。まるで人がミニチュアになって、いちごのコスプレしてるみたいに見えるもんだから。幼稚園の学芸会風で、賑やかだ。


 おや、エンジンを組んでいるよ。円陣ね。

 どうやら、ぼくと話す代表を決めてるみたいだ。どうぞどうぞと、身振りで押し付け合ってるなぁ。ボク、コワクナイデスヨ。



 そのうち、一人、いや一粒のいちごが、スススと前に出てきた。

(姫、がんばれ。)(なんとなれば、助太刀すけだち致す。)

 なんて声が背後から漏れ聞こえて来る。お姫さま?


「ごきげんよう」とスカートの端っこを持って、小首を傾げてお辞儀をする。

 右手をさしのべると、おずおずと乗っかるから、そっと顔の前までその子を近付けてみた。

 襟がグリーンのフリルになってるいちご色のワンピースを着ている。ポシェットの中には、クリームが詰まっているみたい。

 ほっぺにPと刻印されている。ほぉ、princessの Pかな。

「いちご姫」と、もう心の中では呼んでしまっているけど。甘くていい匂い。


 言葉の響きは宇宙語っぽくてわからないけど、ぼくにはいちご姫が何を言っているのか、きちんと伝わってくる。

「私たちは『いちご惑星』から、苺型の宇宙船に乗って、あなたのところにやって来ました」

 いちご姫が手でひらひらと、遠くからやってきた宇宙船を表している。チキチキチキチー、という効果音と共に。


 姫は自分の襟元の葉っぱを指さす。耳を澄ますと小さなチキチキ音が聴こえる。

 ここで宇宙基地と通信したり、言葉を翻訳したりしているんだって。

 ふぅーん。

「友好的な星だから心配しないで下さいね。侵略とか考えていませんから」

 ちっこいけど、なかなかあなどれない発言だな。


 ぱちぱちと瞬きしてる、まんまるの瞳に吸い寄せられそう。

 うっかり「君になら侵略されてもいい」とか言ってしまいたくなる。

 あれ、さっき、「あなたのところにやって来た」って言った? ぼく、速攻で服従しちゃいそうだ。

 

 さあ、姫。どうぞ、ぼくの胸ポケットにお入り下さい。



 箱の中には5個の苺が残った。正真正銘たべられる苺である。

 一応家族分残っててほっとする。我が家は6人家族なのでR。


「はぁ、いくら誕生日だからって、こんなに一人占めするなんて……。やだもう、楽しみにしてたのにぃ。えっ、27個も食べちゃったのー? あんた、苺に乗っ取られるわよ」

 苺ずきの姉貴がめっちゃぷんすかしている。ごめん。って、ぼくだって1個しか食べてないんだけどね。


 どきっ。考えてみたら、この苺の中には人を惑わす成分が入っている可能性があるな。魅惑のチキチキ苺。もうぼくはすでにコントロールされているのかもしれない。

 家族に、危ないからたべない方が……って言ったところで、信じてもらえないよなぁ。おいしかったし、ま、いっか。 



 動き回りはじめた26の苺ロボたちは、いつのまにか、ぼくの部屋に落ち着いたらしい。それぞれが、机の引き出しや本棚の中に自分のスペースを作っているぞ。


 だんだんと警戒をといて、他のいちごたちも、ぼくに近づいてきた。

 昨晩つまんだ、Bのマークの子は「紅ぽっちゃ」ですと名乗った。ほっぺが真っ赤なちっちゃい王子さま。


 光り輝くAのいちごは「あまキング」という王さまらしい。略してアマキン。アナキン・スカイウォーカーを気取り、光る剣を振り回す暴れ王。悪に染まっちゃだめだよ。シュー。その剣当たるとマジで痛いからやめて。


 冷蔵庫から出してあげたから、みんなほっとしたみたいで、苺コートをぬいでる。

 きちんと端をそろえて畳んでみたり、脱ぎ散らかしてみたり、性格がまちまちでおもしろいね。


 果たしてこの子たちは、ぼくにだけ見える幻影なんだろうか。 




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