庄助の変態性
校正済みの原稿をチェックし終え、担当編集者の小坂にそれを渡し、庄助の作家としての一作目の仕事が終わった。
「簡単だった……」
庄助はゲームをプレイしながら呟いた。速読も速筆もマスターしている庄助にとって、これくらいは朝飯前である。非常に羨ましい、と同時に、憎たらしい。
作家としてプロデビューしたことは、さすがの庄助でも両親に伝えた。授賞式に呼ばなかった理由を、庄助は、
「下手な演説を聞かせたくなかったんだ」
と伝えた。演説なんてしてないだろが。
庄助は、ここのところ毎日、ゲームだけの日々を送っている。小説は、近くの本屋で売られている作品をすべて読み終えたので、ぼっちの庄助は、ゲームしかやることがない。
ちなみに、ではあるが、庄助の好きな女性は、橋本環奈である。橋本環奈の画像を見ながら、想像を膨らまし、彼女と結婚する夢を想い描いている。
「俺が有名になれば、金持ちになれば、橋本環奈と……。なくは、ないな」
はい、すでに病的だ。
そんな庄助が、今日は外に出て、近くの大きな公園に来た。何をするでもない。ただ、ぼーっとして、女子高校生を遠くから眺めるためである。
「JK、可愛いなぁ」
下校途中の女子高生を見ながら、ニヤニヤとする庄助。なんと、双眼鏡まで持参して、それを使って、女子高生をアップで見ている。
「ちょっと、君」
「はーい」
振り向いた庄助は、驚愕する。
紺の制服に紺の帽子を被っている男性二人組が、庄助に声をかけたのだ。つまり、警察の職質である。
「何してんの」
「えっ、バードウォッチング、です」
「ウソはいけないよ、ウソは」
庄助は、にんまりとして、
「女子高生を双眼鏡で眺めるのって、犯罪ですかねえ」
まだ余裕があった庄助。
「犯罪ではないけどね。まっ、警戒はするよね」
「犯罪なんて起こすような野暮な真似はしませんよ。俺に構っている暇があったら、他の所へ行った方がいいんじゃないですか」
唸る警察官。
「職業は?」
「作家です」
「何ていう小説書いてるの」
「まだ、出版前です。デビューしたばっかりなので」
警察官は、また唸る。
「まあ、こういうことはやめた方がいいよ。噂にもなるしね」
「はーい」
庄助は双眼鏡をカバンにしまった。
そして、とことこ歩いて、近くの幼稚園に来て、双眼鏡を取り出す。
「幼稚園児、可愛いなぁ」
「ちょっと、君」
「はーい」
振り向いた庄助の目の前に、さっきの警察官二人が。
「何してんの」
「幼稚園児を双眼鏡で眺めるのって、犯罪ですかねえ」
「そういうことじゃないの。噂にもなるし、警戒するって言ってんの」
「わっかりましたー」
双眼鏡をしまって、また、とことこ歩いて、今度はパン屋の前まで来た。そして、ガラス越しに従業員を眺める。実は、ここの従業員の女性が可愛いと、近所で評判なのだ。
「あのね、君」
「またっすか!」
「もう、いい加減にしなさい」
警察官は、ため息をつく。
「俺、暇なんすよねえ」
「働きなさい」
「嫌だぁ!」
庄助は、一目散に走った。どこまでもどこまでも走って、近くの丘に上がった。
夕陽が綺麗に朱に染まり、庄助の体を光が包んでいた。
庄助は、涙を流した。
「俺、童貞を卒業したい」
魔法使いになるまで、あと数ヶ月。庄助は、本気で彼女を欲しがっていた。
庄助は、考えた。どうやったら、彼女ができるのかと。
そして、思い付いた。
「コンビニバイトの女の子、ナンパしよ」
庄助は、本物のプロの作家である。その肩書を利用すれば、コンビニバイトという安い給料で働いている女の子なら、イケると思ったのである。
「明日から、決行だ。忙しくなるぞ」
庄助は、ウキウキしながら帰宅した。
もう、お分かりのように、庄助は犯罪者予備軍だ。だが、庄助は犯罪を起こすような人間ではない。なぜなら、作家としてプロデビューして、今の庄助には希望しかないからである。
だが、庄助が、人生に絶望したら、女性の皆さんは気を付けて頂きたい。