日常2
街の周りは大きな壁で囲まれており、外敵から街を守るためにかなりの高さと硬さを誇っている。
東西南北に扉があり、門衛がいて人々の出入りをチェックしている。
今回は東門へ向かう。
「お疲れ様です。冒険者です。夕方には戻ります。」
門衛に認識票を差し出す。
「はい、どうも。」
門衛は腰から認識票を読み込むための小型のプレートを取り出す。
プレートは腰の入れ物からコードでつながっていて、引っ張ることで伸びるようになっていた。
「お気をつけて。」
小型プレートで認識票を読み込んだ後、軽く会釈して次の人方へ移動していった。
プレートで読み込むことによって出入りを記録される。
これによって帰ってこない冒険者がいれば、捜索隊をギルドに依頼する仕組みになっている。
街に戻らない場合は出るときにその有無を門衛に言わなければならない。
門衛は強固な鎧をまとい、右手には槍を持っていた。
門の間には小屋があり、その中には数人事務仕事をしている。
実際外で働いている人間は4人ほどで、門の内と外で二組に分けられていた。
門は常に開いているが常に門衛が目を光らせている。
街の外をしばらく歩いていくと森が見えてくる。
道は二手に分かれていて、片方は人の行き来がされているような道だが、もう片方は森が茂っており獣道になっていた。
獣道は冒険者が森に入っていくときにできた道だ。
しばらく歩いていくと道もなくなってくる。
森は奥に行くにつれて魔物が多くなる。
浅い場所は野生の動物がいる。もちろん浅い層にも魔物が出るので、森に入ってからは警戒を怠らない。
今日の依頼は狩猟系の二つに決めいていた。
魔石は10個必要なので、集めきれなければ次の日に伸ばす予定である。
薬草はまた後日採取することにした。なので今日は魔物の魔石と野兎を狩ることにした。
更に奥に進むにつれて木々が生い茂り太陽の光を隠す。
辺りが少し冷え込んでくる。こうなってくると魔物がいつ出てきてもおかしくない。
ここからはさらに警戒しながら進む。
気配を抑え、足音に気をつかいながら歩く。
微かに生き物の気配と草木のすれる音がする。
まだ距離はあるようだった。
音のするほうに歩みを進めると、薄汚れた緑色の生き物が歩いていた。
「ゴブリンか。」
かすれるほど小声でつぶやく。
ゴブリンは普段三匹位で行動するが、まれに一匹で行動する者もいる。
これははぐれているわけではなく、木の実などの食料を探して別行動をしているのだ。
なのでここで大きな音を立てて戦うと残りの二匹が異変に気付き加勢にやってくる。
三匹で行動しているゴブリンがいればゴブリンの巣が近いこと示す。
だから三匹いる場合も迅速倒さなければ、かなりの数の増援がやってくる。その場合の数は巣のコミュニティーによって変わってくる。無暗襲わない方がいい。
三匹で見つけた場合は一匹になるまで追跡して倒すのがよい。
もちろんこれはソロの場合に限られる。パーティでなら三匹でも余裕で倒せるだろう。
辺りにほかのゴブリンがいないことを確認し、警戒しながら距離を縮める。
子供くらいの大きさで尖った耳と鷲鼻、口からはみ出た牙。
鋭い爪で獲物をつかみ相手を逃がさない。力は大人顔負けで油断していると痛い目にあう。
奴らは雑食でなんでも食べる。人は好物だ。特に女が好物で一通り嬲った後、殺し食べるのだ。
性格は残忍で臆病。勝てないと判断したら一目散に逃げていく。
しかし、逃がすとすぐ仲間を呼び逆襲してくる。繁殖力が強く放置しているとどんどん増えていく。
牝の個体は常に巣におり、子供を育てる。牝の個体は少ないが妊娠から出産が早く次々と増える原因になっている。
個体によって武器を使う。武器を使う個体は一般の奴より少しばかり体が大きい。
三匹で行動する時は必ず一体は武器を所持している。
武器はこん棒や石ナイフや石槍であることがほとんどだが、まれに剣を所持している者もいる。
こいつは武器は所持していないので危険度は僅かばかり下がる。
服は着ていない。
ゴブリンが服や鎧をつけている場合は大きいコミュニティーを形成している可能性が高い。
コシミノ程度ならさほどだが、皮鎧となるとかなり大きいと予想される。
もしも目撃した場合はギルドに報告くする義務がある。報告することで僅かな報酬がもらえる。
後日ゴブリンの巣の討伐依頼がギルド側から依頼される。
醜い顔がしっかり見える位置まで近づいた。
どうやら茸を採取しているようだった。
ゆっくりと足の方のポーチから細い二本の筒を取り出す。
それを互いに嵌め捩じって固定する。長さおよそ60cmの吹き筒になった。
胸のポーチの前面に差してある針を取る。
針には即効性の麻痺毒が塗布してある。
筒に針を入れる。
かがんでいる背中に照準を合わせる。一気に筒に空気を吹き込む。
鋭い一閃が流れる。
ゴブリンは声も出せず、微かに震えて倒れた。
慌てずベルトに吹き筒を差し、背中側の手斧を引き抜き刃の鞘を外し、足にあるポーチに入れる。
音に気を付けながら速足でゴブリンに近づく。
ゴブリンは何が起こったのかもわからず、這いつくばったまま目を白黒させながら痙攣していた。
針についた麻痺毒は即効性が高いが持続時間が短い。すぐにとどめを刺さなければ復帰されてしまう。
両手で手斧を持ち首に刃を宛がう。
そして一気に振り上げ首を切り落とした。
首から噴水のように血が噴き出した。
手斧にわずかについた血を振り払うことで拭い、鞘を嵌めベルトに挟み背中側に回す。
背中に刺さったままの針を引き抜き胸の針入れに差し戻す。
吹きだす血の感覚が長くなったのでゴブリンを仰向けにする。
腹の方に差したナイフを引き抜き心臓付近に刃を入れる。三日月型に切り込みを入れて、手で広げると心臓の近くに小さな丸い肉塊の器官がある。それを切り取り、刃で切り込みを入れてめくると中に魔石が入っていた。
「まずは、一つだな。」
ナイフの血を払い鞘に戻す。
魔石は血を振って払ってから取りあえず胸ポーチにしまう。
ゴブリンの頭と体を、近くの木に運び置いておく。
放置していても森の魔物に食べられるので、わざわざ移動させても変わらないのだがこれは気持ちの問題だ。
早くこの場を移動しなければ血の匂いで別の魔物が来るかもしれないのでそそくさと退散した。
しばらく移動して辺りに生き物の気配がないのを確認したのちに吹き筒を分解し足のポーチにしまう。
背嚢を下ろし布と袋、小箱を取り出す。魔石を胸ポーチから取り出し、軽く布で拭って袋に入れる。
それを片付けた後、先ほど使った針を抜き汚れを布でふき取る。
小箱を開けると中には衝撃を吸収するようにクッション包まれたピンがいくつか入っていた。
その中から一つ取り出す。その瓶には即効性の麻痺毒が入っている。蓋を開け針を液体に浸す。針を液体から離し、滴が落ちないのを確認して胸の針入れに戻す。
すべて片付けてから背嚢を背負い直し軽めにため息を漏らす。
次の獲物を探しにまた歩みを進める。
狙いは残り二匹のゴブリンだ。