日常22
次の日、防具屋に皮鎧を受け取った後、スイーツの森へ向かっていた。
結局あの後、ヘルム男には合わなかった。店の奥でずっと皿を洗っていたので会う機会もなかった。
まだ、パーティーを組むか迷っていたので幸いだった。返事は今のところ保留している。
スイーツの森に向かいながらそのことについて考えていた。
パーティーを組むことでのメリットはかなり大きい。
まず、ギルドへの貢献度、ポイントだ。今受けられる依頼は一つに付き1ポイントだ。しかし、パーティーで受けるとパーティの人数分加算される。同じ依頼でも2ポイントもらえることになる。他の下級下位がすぐに中位に上がれるのはこの仕組みがあるからだ。下級下位の依頼はそこまで難しくなく、簡単なので早く中位に上がってもらうための処置だ。中位からのポイントはパーティ人数は加算されない。
中位からちゃんとした冒険者という認識だからだ。
つまり、いまは冒険者見習いという扱いで、難しい依頼は与えられない。
しかも、それをソロでしか受けれない現状だ。更に簡単な依頼しか与えられていない。
パーティーが増えることで今の依頼より難しい依頼が受けられるようになる。
そして報奨でもらった特別依頼も人数制限のせいで受けられなかったが、二人になることで受けることが可能になった。
これは貢献度も多く、なおかつ報酬も多い。
しかし、も一人が完全な初心者なのでこの依頼は受けられないだろう。
となると、ヘルム男を一から冒険者の心得を教えなければならなくなる。
これは面倒だが、安全な依頼を徐々に教えながらやっていけば、そのうち大きな力になっていくのではないだろうか。今さら急いで中位になる必要もないのだ。彼はこの世界に迷い込んでしまって身寄りもないのだし、助けてあげるべきではないのか。
そうこう考えていたらスイーツの森についていた。
いつものようにドアベルを決まった回数鳴らす。
出てきたのは、この前迎え入れてくれた使用人だった。
「これはジェーン様。ようこそ、スイーツの森へ。今日はお嬢様に御用でしょうか?」
その答えに思わず驚く。
「名乗ったことありましたっけ?」
「いえ、ですが元々存じでいました。スイーツの森へやってくお客様は一通りこちらで身元調査をさせて戴いでおりますので。」
彼女はカチカチと微笑みながら答えた。
その答えに、ここはそういう危険の伴う店ということを思い出させた。
「でも、今まで特に名前は呼びませんでしたよね。なぜ突然?」
「それは、お嬢様のご友人におなりになったと聞き及びまして、ご友人としての対応をさせていただいた所存です。」
彼女は軽くお辞儀をして答えた。
「ただ、ご友人になられたということは、決してお嬢様に害をなさない方とこちらは捉えています。もし、お嬢様の友愛の情を裏切ることがあれば、分かりますね。」
普通に話していたのに、なぜか語尾だけ異常に重く感じられた。
彼女の顔は微笑んでいたが、とても冷たい印象を受けた。
「はい、分かっています。」
手に浮かんだ汗をズボンに拭い答えた。
まさか、友達になるだけでこんな風に脅されるとは思わなかった。
シィーダはそれだけ大切な存在なのだろうか。
その返事を聞いて頷いたら、彼女はいつもの様子に戻っていた。
重い空気は一瞬にして消え去っていた。
彼女はシィーダの元へ案内すると言いその後についていく。
「やあ、来たのか坊や。」
いつものように紅茶を飲みならこちらに優しい笑みを浮かべていた。
使用人の彼女はいつの間にか消えていた。
「うん。そろそろ冒険者稼業を再開しようと思ってね。匂いけしと麻痺毒袋と麻痺毒をお願いしたいんだ。」
「そう、もう再開するのね。お姉さんはとても心配よ。大丈夫なの?」
彼女は紅茶を置きながらこちらに体を向けた。
心配そうに眉をゆがめていた。
「大丈夫さ。体の方もだいぶ調子がいいし、今度はあんな無茶はしないよ。」
腕を軽く振って、体調の良さを見せつける。
「そう、でも無理は駄目よ。危なくなったらしっかり逃げること、いいわね。」
彼女はその様子を見て少し安心したようだったが、しっかりと釘を刺した。
「ああ、そうするよ。ところで最近パーティーを組まないかって、誘われているだけどどう思う?」
せっかくなので、友人の彼女に相談することにした。
「まぁ、よかったじゃない。ずっとパーティーが組めなかったのでしょ。今回の件で他の冒険者に認められたのかしら?」
「いや、そうじゃないんだ。全くの初心者らしくて『迷い人』らしいんだよ。だから、冒険者としての実力は皆無だと思う。」
「『迷い人』とは珍しい。それで、冒険者ということは何かしらの力を持っていなかったのかしら。それとも力がいまいちだったのかしら。――まぁ、それはいいわ。初心者なら森を歩くのも大変でしょうね。」
そうなのだ。
初心者が森を歩くのはかなりきつい。実際自分もはじめの頃は青の森でも厳しかった。
舗装もされていない道を当てもなく歩くのは大変な労力を要する。
多くの荷物を担ぎながら森を歩き、もし魔物と遭遇すればその疲労状態のまま戦うか逃げるかしなければならない。初心者の彼がどれだけの体力を有しているか分からないが、この時逃げるだけの体力がなければ、戦闘になるだろう。そうなれば、体力のない彼はまともに戦うことができないだろう。彼を守りながら敵と戦うことになる。危険度が高すぎる。
「でも、坊やも最初はそんな感じだったでしょ。だけど、今はこうして冒険者として生活出来ているわ。その『迷い人』もきっと回数をこなすことで、ちゃんとした冒険者になれるでしょうね。それに、ちゃんとした先生がいるのだからきっとすぐに良い冒険者になるわよ。」
彼女は悩んでいる自分を見かねて答えを出してくれた。
「それに、最初から見捨てる気はなかったのでしょ。」
彼女の笑みはとても優しく、気持ちを軽くしてくれた。
悩んでいるのがとても馬鹿らしく思えた。
そうなのだ。自分もはじめは彼のように何も知らなかった。今ではそれなりの冒険者としてやっていけている。自分がなれたのだから彼にもなれるだろう。
偉そうにパーティーを断ることは自分はできない。同じ辛さを彼に味わわせるのは酷だ。
もう、答えは出ていた。
「そうだね。パーティーを組むことにするよ。」
それを聞いてから彼女は紅茶を取り、一口飲んで微笑んだ。
「ところで、その『迷い人』は女かしら。」
「いや、男だけど?」
「そう。」
また、彼女は紅茶を飲んで遠くを見て微笑んでいた。
あの後、世間話を軽くかわしていると、別の使用人が薬を一式持ってきてくれた。
会話の中で針をなくしてしまったことについて話していたので、おまけに針をつけてくれた。
最初は断ったが、別に高いものではないから、常連客へのサービスだと言われたので受け取ることにした。
今度は買い物じゃなく遊びに来てくれと言われた。
店を出て宿に戻る道で、背の高いヘルムを被った男がいた。
彼は武器屋から出てくるところだった。しっかりと服を着ており、その上に使い古された皮鎧を着ていた。背中に弓を背負っていた。マントに隠れるように腰にはメイスを携えていた。肩から少し大きめの雑嚢を下げていた。かなり冒険者らしい格好になっていた。
男はこちらに気付いたようで手を振ってきた。
「やあ、リック君。どうだい、冒険者ぽくなってきただろう?」
彼は笑っているのだろう。自分の装備を見せつけるようにマントを広げて披露した。
「ええ、似合っていますよ。弓を買ったのですか?」
「ああ、つい今しがたね。かなり、長い時間弓の試射をさせてもらったよ。店の人には訓練所でやってくれって怒られてしまった。でも、そのかいあってある程度、撃てるようになったよ。見てくれ、指がずるむけだ。それとこの雑嚢と解体用ナイフを買ったんだ。」
腹のベルトにはナイフをが刺してあった。
指は長時間、矢を撃っていたのだろう。豆が潰れて血を出していた。
「何やってんですか。こんなになるまで弓なんて撃って。」
「いやぁ、これから一人でも生きていけるようにならないといけないから、これぐらいしっかり撃てるようにならないとね。」
彼からは陽気な雰囲気を感じだが、その言葉にはしっかりとした芯を感じた。
それを聞いて覚悟を決めた。
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。これから一緒に頑張って強くなっていくんですから。」
「えっ、それじゃあパーティーを組んでくれるのかい?」
彼は驚いているのだろうか。手を広げて驚いた風の動きをした。
それはとても胡散臭かったが、表情がない彼にはそういった動きでしか相手に伝わらないのだろう。
それならば、ヘルムを脱げばいいのにと思ったが今はいい。
「ええ、よろしくお願いします。」
そう言って手を差し出す。
「――おお、よろしく!」
男はその手をガッチリつかみ飛び跳ねていた。
「おっとと、それはそうと、ちゃんとあなたの名前をつけないといけませんね。」
男は思いのほか力があり、上下に揺らされる腕に体が泳ぐ。
「名前かぁ、そうだな・・・・ヘルムって呼んでくれたらいいよ。」
「そんな安易な。」
こうして念願のパーティーを結成した。




