日常1
看板娘に手斧を借りることを承諾したので、とりあえず腰のベルトに差し込んで背中の方に手斧移動した。
ナイフは干渉しないように腹の方に差しなおした。
宿に戻ると朝食を食べに降りてきた他の宿泊客たちが、各々テーブルに座り食事を始めていた。
いい匂いにつられ唾が口の中に溜まる。逸る気持ちを抑えて、朝食をとる前に汗でぬれた体を拭うことにする。
炊事場に行き女将に桶と手ぬぐいを借り、朝食を頼む。
朝食が出来上がるまでに自分の部屋に戻り、体を拭いて仕事の準備をすることにした。
桶をもって自分の部屋に行きベットの脇に置いておいた背嚢から加工されていない水晶を取り出す。
力をこめて水晶を握りこむ。すると握りこんだ拳から水があふれ出してくる。
それを桶に入れて水が溜まるのを待つ。桶の中で水晶から泡と水が流れ出してくる。
桶の三分の二まで水が溜まると、水晶はピタリと泡も水も出さなくなっていた。水晶を桶から取り出して手ぬぐいで軽くふいた後、背嚢にしまい込んだ。
「まだ、水は大丈夫そうだな。」
この水晶には水が込められており、圧力を与えることで水を排出する作りになっている。
一般的に魔具と呼ばれている。市販で売られている冒険者ご用達の代物だ。
濡らした手ぬぐいを絞り、上着を脱ぎ体を拭いていく。火照った体に冷たい手ぬぐいが気持ちよく、つい力をこめてこすっていく。ある程度拭き終わると、軽くため息をつき上着を着る。
昨晩、手入れして机に置いたままの皮の防具を身につけていく。胸と腕につけた後、屈伸をしたり腰を回してみたりと動きを阻害されないか確認をする。
服掛から乱雑にかけられたフード付きマントとポーチをとる。
ポーチは二種類あり。一つは腰と足に固定するタイプで、両腿に道具を入れることができた。
もう一つはベストのように着るタイプの物で、お腹周りにはたくさんのポケットが付いており、色々な道具が入れられるようになっていた。胸辺りには筒状の物を差し込めるような作りになっていた。
ポーチをつけ終わると、その上に腰まで隠すマントを羽織る。
マントの首元は僅かにたるみができていた。
「よし、準備完了。」
背嚢を背負い桶を抱えて、部屋を出て鍵をかける。
炊事場に行き桶と手ぬぐいを返すと、ちょうど朝食が出来上がった様だった。
カウンターに座り看板娘がお盆に朝食を載せて運んできた。
「はい、どうぞ。」
カウンターに置かれたのはパンとシチューでこの店で一番安いものだ。
肉は入っておらず、根菜が多めにはいったシチューに硬めのパンをちぎり浸しながら味わって食べる。
「ごちそうさま。」
椅子を引き立ち上がる。
朝食代は宿代に入っており大変助かっている。宿代は一週間分先払いをしてある。
週末にはまたお金を払わなければ住むところがなくなってしまう。
部屋の鍵を女将渡し宿をでる。
いつものように冒険者ギルドへ向かう。
街の真ん中にある冒険者ギルドの周りには大勢の人々が行き来して賑わっていた。
鎧を頭の先からつま先まで着こんだ男、ローブを着て大きな杖の様ものをもった女、誰も彼も四人から三人のグループで行動している。彼らはパーティーを組んでいる冒険者だ。
一般的に冒険者はパーティーを組んで行動をする。
ギルドの入り口は人が多く出入りするためドアはなく、布が垂れさがっている。その布を払いながら中に入る。
布には大きく剣と盾のマークとそのギルドの街の名が書かれている。布が特殊なのか店の中に入ると外の喧騒な音がピタリとやんでいる。風も中までは入ってこなかった。
ここにも多くの人がいる。ギルド内には飲み屋があり、仕事前に一杯ひっかける者や夜に出かけて帰ってきた奴らがその日の稼ぎについて話し合いをしたり、これから出かける者達が作戦会議をしていた。
更に奥に進むと大きくな掲示板が設置されている。
その前には幾人かの人が、掲示板に張り付けてある依頼を吟味していた。
掲示板に載っている依頼は高額なものが多い。その半面、難易度が高かったり、訳ありなものが多く、この街ではあまり受ける者はいない。
しかし、金に困っている者たちはああいった掲示板の訳あり依頼をこなすことで食いつないだりしている。
一般的には受付カウンターに行き自分に合った依頼を紹介してもらい仕事をもらうのだ。
ずらっと並んだ受付の一番左の方に足を進める。
受付の場所には決まりがある。
「おはようございます。」
受付の男に声をかける。
男はパリッとしたシャツを着てネクタイを締めていた。身なりがとても清潔だった。
この男だけではなく受付はみんな同じ制服を着ている。違いは女はタイトなスカートというだけだった。
「おはようございます。認識票をお願いします。」
首にかけている認識票を外し手渡す。
「少々お待ちください。」
受け取った認識票を手元にある機械に差し込む。
男にだけ見える画面に情報が開示される。
認識票は冒険者を示すものでギルドに入ることでもらえるものだ。もちろんタダではない。
冒険者以外にも認識票はあるが、それは身分と財布だけで他の機能は備わっていない。
冒険者の認識票には持ち主のこれまでの依頼の内容やランク、倒した魔物の数やその他の情報が色々記載されている。
自分の個人情報以外にも依頼主との情報なども入っているので、無くすと罰金と再発行に多大な費用を要求される。
認識票無くせばすぐにギルドに報告しなければペナルティが課せられる。
無くした場合はギルドに報告することで情報をロックすることができる。なぜなら、盗まれて悪用される場合があるからだ。その場合、依頼主に被害が及べば多大な賠償額を請求される。
冒険者が何かしらで命を落とした場合認識票は情報をロックする仕組みになっている。
これは冒険者の生命活動を認識するような作りになっているため、二十四時間体から離したりしているとロックしてしまう。ロックを解除するには冒険者ギルドにもっていき解除してもらう。
なので冒険者は常に認識票を身につけておかなければならない。
「お客様のランクですとこちら依頼になります。」
認識票を読み込んだ機械の上に刺さっているプレートの様な物を引きぬき渡される。
そのプレートには依頼の内容が書かれており、指でスライドするごとに別の依頼が表示される。
右上に数字が書かれており、2/3となっていた。
受けらる依頼は全部で三つだけだった。
一つ目の依頼は野兎を三匹の狩猟
獲物の状態により報酬が変わります。
依頼主:ガロン肉屋
期限なし
二つ目の依頼は下級魔物の魔石10個
依頼主:ビズ魔法石店
期限なし
三つ目の依頼は薬草の採取
毒消し
麻痺消し
その他の薬草
数によって報酬が変わります。
依頼主:オババ薬草屋
期限なし
「えーっと、じゃぁこの三つ全部でお願いします。」
そう言ってプレートを受付に返す。
「はい、かしこまりました。こちらの依頼は期限がございません。今回の依頼完了でギルドポイント3加算されます。次のランクまで残り100ポイントです。次のランクは下級の中位です。さらなる活躍を期待しています。」
ギルドのランクについて
上級、中級、下級の三種類がある。
中級の上位まではポイント制でありギルドの貢献度によってランクが上がっていく。
ただし、中級になるにはギルド内での試験に合格しなければ下級のままである。中級試験を受けるには下級の上位までポイントを上げ、なおかつギルドで決められた魔物を倒すことによってその資格をえることができる。試験に失敗すると半年間、再試験することができない
男は笑顔でペコリと頭を下げていた。
つられて頭を下げるも口元は微妙に引きつっていた。
「それでは認識票をお返ししますね。依頼の品を依頼主に渡したのちに認識票を通してくださいね。」
認識票を読み取る機械各店に備わっている。
大体はレジとしての役目だが冒険者には依頼受領証を認識票に読み込んでもらうのだ。
その時に依頼主から報酬をもらおう。
最後に冒険者ギルドに通すことで斡旋料や税金を取られる。
最後に残った金額が冒険者の手取りになる。
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
認識票を受け取りカウンターから離れ訓練所に向かう。
冒険者ギルドには訓練所があり、自由に武器や防具を借りることができる。
もちろん武器はすべて刃がつぶされている。
防具は借りることができるがすべて皮の防具で今つけているものと大差はない。
お目当ては盾だ。
できるだけ傷の少ない盾を吟味して選んだのは円形の小盾だ。訓練所の防具は貸し出すことができる。
貸出期間は一日までで少量の金額を払わなければならない。
ただし壊してしまうと買い取りなってしまう。
左手を覆う様に盾を装備する。
二度三度盾を小突き感触を確かめる。
「さてと、そろそろいくかな。」
冒険者ギルドを後にして街の門に向かう。