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冒険者の日常の日々  作者: りゅうけんたろう
第一章 下級下位
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日常13

 魔力の濃い森に入りそこで生活することによって、おのずと魔物になる動物が存在する。

 魔力を生成する魔石が体の中で出来上がっていき、魔物へと成り上がるのだ。

 これは病気のようなもので、普段はできるはずのない魔石が体の中で腫瘍のように膨らみ体を蝕んでいく。

 魔力は森の奥に行くほどに濃くなる。そういったことから森の奥には強い魔物が生息しているのだ。


 動物の様な魔力を体に宿していない生き物には、魔力は毒になるのだ。しかし、少量など摂取することで体が活性化する。傷ついた動物が魔力を帯だ木の実や草を食べることで傷を治したりする。

 そういったことから黄の森に入り、傷を癒した後、青の森に戻って行くとされている。

 まれに、黄の森に残って生活したものが魔物に変異するのだ。黄の森に残る動物は既に魔力に魅入られてしまっており、体が魔力を求めているのため森から出られなくなってしまっているのだ。

 そうした個体が魔物になる。魔物になった個体は体毛が変色し、体が少し大きくなる。正確は少し攻撃的になるくらいで、特に大きな危険はない。ちょっと強くなった野生の動物とういう認識だ。

 寿命は同種の個体より短い。魔石により体の細胞が活性化し続けていくため老化が早くなってしっているからだ。元々ない器官が突然できて体をいじくりまわしているのだ。――まさに病気だ。


 黄の森に居ついた動物はほどんどが変異する前に他の魔物に襲われるか、魔物に変異し寿命で死ぬかしていなくなる。

 そんな中にまれに魔物を襲う個体がいる。最初は魔物に襲われて、返り討ちにした事が始まりなのだろう。

 倒した魔物を食べることで体に魔力を貯めこんでいく。更に、魔石を食べることで体の中の魔石が成長するのだ。こうして変異した動物は『成り損ない』へと変化する。『成り損ない』は魔物化した動物と違い体が大きく膨れ上がり獰猛になる。一度殺して魔物を食べてしまうと、魔力をもった生き物を襲う様になる。そうして魔物を食べていくことで強く獰猛になっていくのだ。成長した『成り損ない』はさらなる魔力を求めて森の奥へ行く。

『成り損ない』は無理に魔力を貯めこむことで魔石の周囲に黄色い膿の様なものが纏い膨れ上がっていく。胸や腹周りが黄色く腫れていれば、かなりの魔物を殺してきた個体であることがわかる。そういう個体は修羅場をくぐってきているので強敵だ。

 もともと『成り損ない』は下級上位が中級になる時の試験に該当する魔物だ。

 下級下位に相手できる魔物ではない。





 姿を現した『成り損ない』を目の当たりにして体が凍りついた。

 さっき飲んだ水が、すべて体から出て行ってしまったのではと思うほど喉が渇く。


『成り損ない』は、口から涎を垂れ流しながらゆっくりとこちらに近づいてきていた。

 異常な膨らみ方をした体のあちこちは、切り傷だらけでとめどなく血が溢れ出ていた。

 しかし、それをものともしない様子で、その鋭い眼光はまっすぐとこちらを睨んでいた。



 逃げることはもう無理だろうか。



 頭の中で何度も逃げる光景が再生される。

 勝てるビジョンは全く想像できなかった。


 吹き矢の針が前足に刺さっていた。

『成り損ない』はまだ襲い掛かってくる気配がない。こちらが格下であると理解しているのだろうか。

 その足取りは遅かった。


 仕掛けるのは今しかない。


 冒険者たちは近くの草場に隠している。

 この距離なら麻痺毒袋が使える。震える手で胸のポーチからゴーグルを取り出しはめる。

 足のポーチから布を取り出し、口を覆う。手斧を取り、覚悟を決める。


 手足はいまだ震えるが、無理やりいうことをきかす。


 左足のポーチから麻痺毒袋を取り出す。

 大きく息を吸い込み大声を上げながら『成り損ない』に駆け寄る。


『成り損ない』は立ち上がりこちらを迎え撃つ。


 相手の間合いに入ると同時に、右腕が命を刈り取ろうと振り下ろされた。

 これは予想できたので部分強化で避ける。避けながら地面に麻痺毒袋を投げつける。

 辺りに黄色の煙が立ち込める。

 麻痺毒が効くかはわからないが、視界を遮ることはできる。


 すかさず背後に回り込む。

『成り損ない』は雄たけびを上げながら苦しんでいるようだ。どうやら麻痺毒袋が効いているようだ。

 先ほどから襲ってこなかったのも足に刺さった針の毒が効いていてうまく動けなかったのだろう。


 これは好機、煙で相手はこちらの位置が分かっていない。目は今の毒ででまともに開けることができないはずだ。煙が散布するまで数秒。



 この隙に後ろから首を跳ね飛ばしてやる。



 立ち上がっているので首の位置はかなり高い。

 足を強化し駆け寄り飛び上がる。そのままの勢いで腕を強化し、手斧で首を落とすために切り込む。


『成り損ない』は急に振り返りこちらの行動を予想していたかのように左腕をふるってきた。

 

 間一髪、盾を構える。


 が、盾ごと突き飛ばされる。背中を強く地面に強打する。盾で防いだ衝撃で口が切れたのか、口から血と息が噴き出た。

 目を白黒させていると、頭上に影が重なる。

 咄嗟に盾で胸の前をに覆う。

『成り損ない』が掬うようにして爪をふるった。盾ごと吹き飛ばされ近くの木に激突する。

 今度はあばらが折れて臓器が傷つき血が口からあふれた。

 盾は完全に破壊され、腕は裂け血が出ていた。幸い折れてはいなかった。


「ぐぅ・・・盾代っが・・・。」


 口から血を吐きながら悪態をつく。少し毒が効いたからといって、首を狙って大振りをしたことにより隙ができてしまった。飛び上がったことで完全に逃げ場をなくしてしまった。あまつさえ追撃されてこのざまだ。


 顔上げると煙は殆ど薄れていた。『成り損ない』がこっちに突進してきていた。


 体がうまく動かない。


 突進の勢いのまま状態を上げ腕を振り上げた。

 魔力を絞り全体に流し、無理やり体を動かす。辛うじて、左側に飛びのく。

 振り下ろされた腕は背後にあった木をなぎ倒した。


 痛む左腕で痛んだ脇腹を抑えながら手斧を構える。


「あぁ、駄目だこれ、・・・死んじゃうなこれは。」


 口から血を流しながら苦笑いしてつぶやく。

『成り損ない』はゆっくりとした動作でこちらを振り向く。


「さすがに、一発はいれたいよね。」


 麻痺毒袋のせいで更に怒った様子で、目からあふれる怒気が必ず殺してやると言っているように感じられた。


 こちらに向かって突進してくる。

 足を部分強化する。後、何分使えるか分からないが、避けながら隙をつくしかない。

 大きく息を吸い込むと脇に痛みが走る。それを我慢して懐に飛び込む。


 振り下ろされる腕の脇をすり抜けるように躱し、相手の死角取る様にして立ち回る。

 死角に入った瞬間。もともと傷つけられていた傷口に手斧を叩き込む。

『成り損ない』は何度もうめく。そして更に怒り、腕の振るう速度を上げる。

 怒らせることによって相手の動きを単調にしている。ウルフと戦ってきたことによって身についた動きがここで生かされていた。


 また躱し、脇に潜り込む。何度も何度も同じ傷に手斧を切りつける。今は足を強化するので精いっぱいなので手斧の威力は強化されていない。それでも傷口はどんどん大きくなり血が噴き出している。


 このまま出血死にしてやれば勝てるかもしれない。また腹に手斧で切りつける。

 そう一瞬気が緩んだ瞬間、『成り損ない』の腹に刺さった手斧が抜けない。

『成り損ない』は何度も同じ傷を狙われていることに気付き、腹の傷に当たりをつけて力を込めて刃を抜けなくしたのだ。


「しまっ――。」


 不味いと思った瞬間には上から叩きつけれれていた。

 足のポーチごと太ももを切り裂かれた衝撃で、頭を激しく地面に叩きつけた。そのまま地面を滑りながら転がる。幸い胴体に攻撃が当たらず一命はとりとめた。


 くらくらする頭で地面に突っ伏したまま『成り損ない』を見上げる。

 足をやられた。

 これでは今までの様な動きができない。

 そう思って立ち上がろうとしたが、体が動かない。

 アドレナリンが体の中で溢れていることで自分がどれだけ傷ついて疲弊しているのか気づいていなかった。

 その間、『成り損ない』が止めを刺そうと駆け寄ってくる。



 やばい、やられる。



 振り上がる腕がゆっくりと振り下ろされていくのが見えた。

 鋭い爪が今にも命をを刈り取るように鈍く輝いている。手斧で何発も切り付けた体は血だらけで、後もう少しで倒せたんじゃないかと後悔がよぎる。



 その時鋭い一閃が『成り損ない』の肩に突き刺さる。

『成り損ない』は大声をあげて肩に深く突き刺さったそれを抜こうとしていた。


 それは剣先に行く程な細く鋭く、柄に行く程太く曲がった鋭い曲剣だった。


 振り返ると、草むらに隠していた獣人の冒険者が片腕で体を支えながら立っていた。



「ここはいい。あんたは逃げるんだ!」



 女は大声でそう叫んだ。




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