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冒険者の日常の日々  作者: りゅうけんたろう
第一章 下級下位
13/28

日常12

 太陽が照りつける中、重荷を背負い歩いていた。


 夕方までに帰れるかどうか不安になってきた。

 意識のない人間がここまで重いと思わなった。それを二人分運ぶとなるとわずかな強化でもかなりきつい。

 

 なんとか一歩、一歩進む。


 森の層は浅い層と深い層と言っているがさらに先の層がある。


 いつもの浅い層を青の森、深い層を黄の森、更に先を赤の森、最後に黒の森だ。

 青の森は魔物は殆ど出ず、野生動物が多く生息している。この層はそこまで広くない。

 黄の層はゴブリンやウルフが多い層、下級の下位冒険者の狩場だ。かなり広くめったに他の冒険者とは出くわさない。森は奥に行くにつれて深く大きく広がっている。

 色にはその森から街へと戻る時間を意味している。

 青は空がまだ高いうちに帰ってこられること。黄は太陽が照りつける時間帯。

 赤は夕暮れ、黒は夜。

 今は黄の森と赤の森の境界線付近から帰っている途中だ。今はまだ日が高いがこの調子では夕方を超えて夜になりそうだ。


 赤の森は下級中位から上位までが狩をする適正ランクだ。そのさらに先、黒の森は中級の下位のランクだ。

 中級下位と下級上位では力量が大きく異なる。簡単に言うと大人と子供の差ほど力が違う。

 下級中位で駆け出しは卒業、上位でベテラン、そして中級でプロといったところだろうか。



 匂いけしの粉の効果はまだ続いている。

 この粉は空気に触れ、風に吹かれたりすることで徐々に効果がなくなる使用だ。持続時間は数時間。黄の森から青の森まで帰るには十分な量をいつも持ち歩いている。

 しかし、今回はそれを三等分してある。途中で重ねがけしなければならない。

 でないと匂いで魔物に気付かれてしまう。


 正直死体を置いてこればと後悔した。

 それならば二人分でも余裕をもって街に帰れる。

 しかしこの背負っている冒険者が必死に連れて帰ってきたのだ。きっと大切な仲間なのだろう。


 それにしても暑い。

 二人の人間を背負っているのだからしょうがないが、この背中の冒険者が特に暑い。

 背負っている冒険者は体中が体毛で覆われている。まるで毛皮を羽織っているようだ。

 

 彼女は獣人だった。多分犬獣人だと思う。しかもかなり獣よりだ。

 顔の口の部分、犬でいうところのマズルが長く耳が垂れている。体の毛はほぼ白色だが、耳回りと肩から背中、しっぽの付け根が赤茶色だった。

 手足は細く長いが筋肉質だ。人とは違い彼らのかかとは浮いており、つま先で立っている。足の裏の接地面が少ないことによって、蹴り上げる労力が少なくなり、人より早く動けるのだ。

 多くの獣人がそのような形態の足を有していることから、彼らは総じて身体能力が高いとされている。



 女だと気付いたのは背負った時だった。

 鎧を脱がせた時は傷の手当てでそれどころではなかったが、背負うとわずかだか柔らかいものが背中にあたった。胸は人と同じような形で、二つの大きな物があるようだった。もちろん服は着ている。上はタンクトップで下はかかとまでのズボンを履いていた。

 背中に二本の曲剣の鞘がベルトに挟まれてあった。今はその一本だけだ。見つけた時に構えてた一本をそのまま鞘に戻してやった。街に戻れた時、復帰するのに武器がないと困るだろうと思い持ち帰っている。

 死体の彼は残念ながら鎧も武器もすべて置いてきた。さすがに死んだ人間の武器を貰うわけにもいかない。それに運ぶには重いので置いてきた。


 それにしても彼女の体毛はかなり綺麗だが、その分物凄く熱が籠る。

 胸から腕周りの毛が多いので余計に暑苦しい。

 そのせいで額から滝の様に汗が出て、顔は蒸されたように赤く火照っていた。

 水分が異常なまでに体から吹きだしていた。とても喉が渇いた。





 熱でうなされながらも森を歩いていると、ある異変に気付いた。

 立ち止まり耳を澄ませる。



 音が全くしない。



 こんなことは初めてだ。

 森の中では何かしら鳥の鳴き声や動物が動く草木のすれる音がする。

 そういった音を敏感に聞き分けて獲物を探すのだ。

 しかし、先ほどからその音がしない。

 わずかばかりそよぐ風の音だけだった。


 森が異様な静けさを帯びていた。


 耳を強化する。

 今日はすでに何度か部分強化を使ってしまっている。

 まだ、体には疲労はきてないがかなり蓄積されているはずだ。

 それに、先ほどから絞ってはいるが、部分強化を継続している。あと、何時間強化し続けられるだろうか。

 解放者は身体回復で体の疲労を軽減できるが、こちらは未開放だ。疲労は蓄積される。どうしたって限界はきてしまう。


 音が聞こえる。

 かなり早い足音、こちらに向かっている。

 背負っている女を下ろし、耳を地面につける。

 動く生き物、足音が聞こえる。

 振動からしてかなりでかい。



 どういうことだ。こんなに巨体な魔物はこの森にはいないはず、それになぜこっちに向かっている。



 そう思い向かってくる方向をみてハッとする。

 引きずっていた冒険者から流れでた血が途切れ途切れ続いていたのだ。

 最初はマントに包まっていたので流れ出なかったが、時間とともに染み出てしまっていたのだ。


 何故気づかなかったのか悔やむ。

 これでは匂いけしの粉が意味をなさない。


 どうやらこの魔物は赤の森からこの血を追ってきているようだ。

 彼らが戦った相手なのかもしれない。相当痛手を負わして恨みをかったのかも。

 幸いこの魔物のせいで他の魔物が寄ってきていない。

 だが、その事から追ってきている魔物が相当な強敵であることが分かる。

 多分、勝てない。



 どうする。この二人を置いていくか。



 地面に横たわっている二人を見る。

 刻々と時間が迫ってきている。足音はだんだん近づいている。


 英雄になる気はない。ただ、冒険者になってその日、その時を楽しく過ごすしさえすればよかったのだ。

 お金もない。家もない。武器も借り物。仲間もいない。魔法も使えない。

 ないないづくしだが、それはそれで楽しい日々だった。

 このまま彼らを見捨ててその日々に戻ればいいのだ。



 ただの冒険者の日常の日々に。



 だが、戻れるだろうか。後ろめたさが残ってしまうのではないのか。

 夢見た冒険者はどんな困難でも立ち向かい、見果てぬ世界を切り進んでいくそんな奴らじゃなかったか。

 本で読んだ彼らは、生活のため、生きていくためだけに日々を過ごしていなかった。

 そう、本の中の彼らはまさに英雄だった。



 ―――それを夢見みてたんじゃないのか。



 時間がない。

 二人を近くの草むらに引きづり寝かせ、背嚢を地面におろす。

 中から毒瓶の入った。箱を取り出し、針の一つ一つにいつもより多めに麻痺毒を浸す。手斧とナイフを取り刃に麻痺毒を塗る。背嚢から水筒を取り出し一気に飲む。喉の渇きが引いていく。

 少しだけ気持ちが落ち着いた。



 準備はできた。



 足音はすぐそこまで来ている。


 組み立てておいた吹き筒を魔物が向かってくる方向に構える。


 針は全部で五本、一つはもう筒に入れてある。残り四本は左手のそれぞれの指に挟んである。

 いつでも次が打てるように備える。

 手斧は地面に置いている。

 吹き終わってすぐに持てるようにしてある。

 ナイフは腹の方に差してあり、左手で抜きやすいようにしておく。

 盾は左腕に巻くようにして止めてある。手首を動かせるように固定している。盾が外れないようにきつく腕に結び付ける。


 いつの間にか、日が陰りだしていた。

 森の奥は暗く、その姿を目視することはできない。


 しゃがんで吹き矢を構える。

 相手の足に吹き矢を当ててできるだけ機動力を落とす。

 ゴブリンの効果が数分程度。この麻痺毒でどれだけ効き目があるか分からないが、やるしかない。


 もう、すぐそこだ。足音が強化しないでも聞こえる。

 喉と腹の筋力を強化して吹き矢の威力を上げる。一気に息を吹き込んで一発目を暗闇に打ち込む。

 見えていないが、手ごたえがあった。立て続けに四本すべて吹き込んだ。



 すべてがあたった。



 が、その速さはわずかばかり遅くなった程度だった。

 森からその魔物が姿を現した。


 赤黒く大きな体は大木を思わせるほどの威圧感があり、胸や腹は異常に膨らみ、黄色く変色していた。片目は金色に輝きながらも赤く充血していた。

 腕や足は異常なほど膨らみ、その体毛は突き刺さるのではと思うほど逆立っていた。刃物の様に鋭い牙はまだ赤く黒く血に染まっていた。所々体がただれたようで、腫れあがっていた。

 体のあちこちに傷があり、目を一つ潰されていた。

 かなりの深手に見えるが、まだその瞳には怒りが渦巻いおり、引く気配は微塵もなかった。


 そいつは熊だった。

 ガロンの様なスマートな熊とは言えない。荒く雄々しく、凶悪そのものだった。

 大きさは立つと三メートルは超えそうだった。



 こいつは魔物の『成り損ない』だ。



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