日常10
いつものように朝の薪割を終え、朝食をすましギルドへ向かう。
暖簾をくぐり受付に認識票を渡す。
「はい、依頼完了を受理します。残りの依頼もよろしくお願いします。報酬の方は斡旋料と税金を差し引いた額を振り込みました。」
「ありがとうございます。」
認識票を受け取り、訓練所に向かう。
盾の貸出料は盾を返却してから払うようにしている。
防具や盾の貸し出しをしている受付に行き盾を返し、一緒に認識票を渡す。
盾を物色し、昨日使った盾より新しく頑丈そうな盾を見つけそれを借りた。
盾は左腕に括り付けるような形で装備しておく。左手を自由にしておくことで緊急時にポーチの物を素早く出せるようになる。
準備を終えたので、門に向かう。
今日も昨日と同じ東門だ。
東西南北で魔物の種類が異なる。東は下級でも相手できる魔物が多く、深い森が広がっている。西は草原が広がっており、物流が盛んで人の出入りが多く街までの道がしっかり舗装されている。長い草原をしばらく行くと森が広がっており、そこを抜けると次の街にでる。この森や草原には魔物はあまり出ないそうだ。
その代り盗賊が森に住みついており、商人の馬車がまれに襲われるらしい。
南も同じように物流が盛んだが、こちらは王都へ行く道につながっている。
途中の街には王都の兵士が街ごとに在住している。何か事件が起きた時はすぐに王都に知らせられるようになっている。彼らの仕事は街に来た貴族の護衛と魔物の異常を調査することだ。異変があれば報告し、危険度が高ければ王都から兵が増員され問題に対処する。
普段は街の警備隊と協力し、街の治安を守っている。なので。街の警備が主な仕事だ。
南は多くの道に分かれており、その途中に小さな村や町が存在している。
自分はその小さな町からこの街へやってきたのだ。
北は山岳が広がっていて、鉱石などを発掘する鉱山がある。
更に進むと大型の魔物が巣くう山々が広がっている。ここは中級の冒険者が多く働いている。なぜなら魔物の質が高いからだ。素材を売ることで大金を入手しやすがその分危険度が高い。鉱山で人々が働けているのはそういった冒険者の活躍があるからだ。鉱山採掘商会は、常時冒険者ギルドに鉱山周辺の魔物退治を依頼している。
この街の名前は『ゴールドビレッジ』鉱山で大儲けした街だ。
森に入り、深い層までやってきた。
いつものように気配を抑えて獲物をさがす。
魔石はあと三つ必要だ。今日の獲物はゴブリンだ。奴らはいつも三匹で行動しているので丁度いい。
しばらく進んでいると何か気配を感じた。
耳を強化し、音を探る。数秒の強化なら特に支障はない。
遠くで魔物の声と人の声が聞こえた。
人の声は複数で、何か指示を出しているのが一人いた。
多分、他の冒険者だろう。
この森は広く、多くの冒険者がいる。奥に進むほど魔物も強い種類が出てくる。
ここは下級冒険者が多い。もっと奥に進むと下級上位や中級下位には丁度いい魔物がいる。
声の主たちは下級でも中位くらいだろうか。
かなり奥の方で戦っているみたいだ。
地面に耳をつける。足音は雑踏数えて八くらいだろうか。
パーティーでの行動は大体四から三人だ
となると敵も同じ四体か。―――今一人足音が消えたようだが。
遠くのことなのでよくはわからないが、たぶん大丈夫だろう。
強化で微かに聞こえる声には特に怯えもない。むしろ活気があるようだった。
うまくいっているのだろう。
他人のことを気にしても仕方ない。
森に入ったら自己責任だ。もし、冒険者が襲われていても、助けるか助けないかは個人に任されている。
例えば、強敵と戦い仲間がやられてしまい死の危機を感じたならば別に逃げてもいい。自分の命を第一に考えてもいいのだ。
だが、逃げてしまった後に他の仲間だけで敵を倒し帰ってきたならば、パーティから外されるだろう。
パーティーは信頼関係が大事だ。仲間を見捨てるような奴には背中を預けることはできない。
そうなると逃げたという悪評が広まり街にはいられなくなるだろう。
できる限り善戦するか早期退却が好ましい。パーティーリーダーがしっかりと戦況を掴み適格な指示さえすればそういったことは差ほど起こらない。
危機的状況のパーティーがいたら助けに入るのは美徳だ。
ただ、そのパーティーが戦っている相手が自分の手に負えなければ無視してもいいのだ。
助けれれそうならば助けてやればいい。
他のパーティーを助けたならば、ギルドからの評価が高くなり、新規の依頼を優遇されたりする。そういったことからわざとギリギリで助けに入るパーティーがほとんどだ。
ギルドもそれは承知している。
危機的状況で学べることも多い。そいった経験も必要だと考えられている。なので、ギルドは助けに入ったパーティーを優遇する。
つまるところ、助けられそうなら助けて儲けもの、助けられないなら命を大事に。というのが冒険者全体の考え方だ。
かなり冷たい考え方だが、みんな生活があり大切な存在がいる。自分たちは冒険者であって英雄ではない。
ただ、お金をもらって働いているだけなのだ。
森をあてもなく歩いていると前方に、ゴブリンが三匹いた。
しばらくその三匹の跡をつける。ポーチから二本の筒を取り出し、吹き筒にする。
それをいつでも構えられるように腰のベルトに差しておく。
三匹はお互いに何か会話のようなことをしている。
奴らもある程度の知能を持っていて会話ができるようだ。
ただ、その会話は人では意味を読み取ることができない。
いまだに三匹で固まっていた。
どうやら巣に向かっているようだった。
どんどん森の奥の方へと向かっている。
これ以上は危険だと思い追跡は切り上げた。
ここより先は下級中位ぐらいのランクのパーティーではないと入れない。
森の層は生えている木々や草花でわかるようになっている。
この先の木々は少し黒ずみ始めて普通の木より硬く太い。中には魔物が化けている物もいる。
草花も大きく伸び、鮮やかな花をつけた物が多い。そういったものは毒をもっていることが多い。
さらに意志をもつ植物も現れる。そいつらは小さい虫を食べる食虫植物だ。その中に魔力で変異して、食人植物へと変わるものがいる。
仕方がないので他の獲物を探し浅い方へ帰る。
しばらく歩いていると遠くの方で激しく草木が揺れる音がした。
耳を強化し音の方を探る。
どうやら、ゴブリンを見送った方からするようだ。
耳を地面につけると足音がより鮮明に聞こえた。
どうやら誰かが、深い層から走ってこちらの層に向かっているようだ。
一人で行動しているみたいだ。たぶん強化して走っている。
このままだとゴブリンと遭遇するな。
だが、深い層の人間ならゴブリン程度なら余裕だろう。
案の定、ゴブリンがその足音に気付き走ってくる人間の方へ向かう。
走っている方は浅い層に出たのか、走るのをやめてその場で止まったようだ。
動けないのだろうか。
一人で行動しているということはもしかしたパーティーとはぐれたのかもしれない。
逃げるときにバラバラになったのか。傷を負って動けないのかもしれない。
――助けに行くべきか。
ゴブリンの足音は動いていない者の方へと向かっている。
今の実力ならゴブリン一匹ならなんとかできる。三匹相手にもそこそこ立ち回れるはずだ。
だが、危険が伴う。一人ならばいざとなれば麻痺毒袋で切り抜けられるが、他に人がいればこれは使えない。
ウルフは四匹でもかなり厳しかった。止めは動けなくなってからだったので何とかなっていた。
ゴブリンはいつも吹き矢で倒してから仕留めていたので、実際戦うのは久しぶりだ。
ゴブリンが追いついたようだ。
冒険者らしい人間を取り囲んでいるようだった。
仕方ないので様子だけでも見に行くことにする。
もし、加勢が必要なら助けにはいる。
足を強化し一気に駆ける。
久しぶりに強化して走ったのであまりの速さに驚く。
危うく枝に顔面をぶつけるところだった。
しばらく走っているとゴブリンの騒ぐ声が聞こえてきた。
そこで気配を消し忍び足で近づく。
遠目で見ていると
先ほどの三匹で間違いなかった。
囲まれているのは二人の冒険者だった。
一人は血だらけで生きているのか死んでいるのかわからない。
地面に突っ伏して微動だにしない。
もう一人も血だらけだっだが辛うじて立っていた。
今にも倒れそうにふらついて武器を構えてゴブリンを牽制している。どうやら深い層でやられて逃げてきたようだった。あの立っている冒険者が倒れている方を抱えて逃げてきたのだろう。
手斧を腰から抜いて鞘を外し、ポーチにしまう。手斧を地面に置いていつでも持てるようにしておく。
ベルトに差していた吹き筒を取り、針を入れる。
胸に入れている針の数は全部で四本。三本抜き、左手に持つ。
ゴブリンの視線は冒険者に釘付けだ。この隙をついて吹き矢で狙う。
もし、外したら手斧で戦うしかない
覚悟を決めて吹き筒に息を吹き込んだ。