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暗中必殺夜狩稼業  作者: 銀狼
【隠密の猟犬】はいかにして生まれたか?
11/15

第十一話:〈狩人〉出陣 【陽炎の蠍太夫】

 一切飾り気のない部屋の中で、リーゼはランタンを持って立っていた。何も無い壁際へと歩み寄る。その壁を押すとどんでん返しになっており、秘密の部屋が姿を現した。中に入り壁を閉じると、リーゼは身につけているものを全て取り払う。

 裸体のまま奥にある化粧台の前に腰掛け、その引き出しを開ける。中にあったのは化粧道具。随時道具を取り換えながら、慣れた様子で化粧を始めた。

 ファンデーション、チーク、マスカラ、ルージュと重ねるうちに、鏡に映る顔が変わる。

『悪くはないがあまりに地味』

 常日頃からそんな感想を言われる顔が、別の顔へと化けていく。しばらくして完成したのは、同じ人物とは思えないほどに婀娜(あだ)っぽい雰囲気を醸し出す顔だった。

 長い髪を纏め上げ、(かんざし)で留める。仕上がりを確認すると、横を向いて立ち上がる。かけられていたのは、露出が多く薄い布地の服だった。普段の彼女からは考えもつかない、服の意味があって無いようなそれを、何の躊躇(ためら)いもなく身に着ける。

 普段の野暮ったい服装に隠された、メリハリの効いたプロポーションを惜しげもなく晒すその姿。本職の娼婦と比しても、彼女と肩を並べるような人材は滅多にいないだろう。

 地味で根暗な彫刻師から妖艶美麗な娼婦へ。まるで陽炎を纏ったかの如き変貌を遂げたリーゼは、夜の街へと繰り出していった。





 ハーディールの一角にある繁華街。通りの中ほどまで入っていったところで、マルクスは横道へと入っていく。その先にあるのは色街。娼館が建ち並ぶ一帯である。セイレス商会の下で汚れ仕事を請け負うようになってからというもの、彼の懐はかなり暖かくなっていた。毎晩色街に足を運び、女を買える程度には。

 店の軒先に並ぶ女の顔を見て、品定めをしていくマルクス。その視線が、ある一ヶ所で止まった。

 娼館と娼館の狭間。光に取り残された闇の中に、一輪の華がいた。娼館に属さない街娼だろうか。しかしその女は、巷に溢れる街娼とは、いや娼館の娼妓とすら一線を画す雰囲気を纏っていた。

 色白で細身、されど出るところはしっかりと出ているという垂涎ものの容姿。艶然とした微笑を浮かべ、流し目をくれるその姿は、容姿端麗、眉目秀麗の言に尽きる。これほどの超一級品は、どこの娼館でも、たとえいくら積んだとしてもそうそうお目にかかれないに違いない。ともすれば、いないかもしれない。それほどまでに魅力的で、煽情的だった。

 これは上玉だと嬉々として歩み寄る。女が艶美な声で話しかけてくる。

「あら、お兄さん。アタシが欲しいのかい?」

「当然。アンタみたいないい女、どこの娼館にもいやしないだろうさ」

「あら、お上手なこと。では、少しお話、しましょ?」

 艶然と微笑んだ女の導きで、マルクスは物陰に姿を隠す。待ちきれないとばかりに女を抱え込み、激しく口づけをする。それに応じながら、女は髪を止めていた簪を外してマルクスの首に手を回す。

 流れ落ちる髪に目を奪われ、マルクスが口を離す。その隙に、女が告げる。

「フフ、それにしてもアンタ、アタシを選ぶだなんて見る目無いねぇ」

「何を言うか。アンタほどの女はそうそういねぇよ。娼館の最上級娼婦、太夫でも張り合えるかどうか」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。でもね――」

 その刹那、マルクスは首の後ろに鋭い痛みを覚えた。女が身を(ひるがえ)すと、そのまま地へと伏せていく。彼女の手には、血に塗れた鋭利な簪が握られていた。背面からの一突き。見事な手際だった。

「アタシは【陽炎の蠍太夫】……男よりも命を()る毒婦なの」

 簪についた血を死体の服で拭いながら、囁く。再び髪を纏め上げた妖美なる女リーゼは、悠然とその場を後にした。

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