開幕
もしも、カウントダウンが始まったら。
ある日流れたラジオの放送。
彼の、最後の演説。
「皆さんはもうご存知でしょう。僕たちはもう、取り返しのつかない場所まで来ています……人類の総数はすでに一千万人を切っているのです」
「僕たちは生まれてからあまりに多くのものを壊しすぎました」
「自然を、生き物を、共存していくべきものを。そして……仲間を」
「神様の手ですら僕たちを救い出すことは、最早不可能です」
「思い出してください。人類滅亡が始まった日を」
「僕たちはあの日から手を取りあうべき仲間を犠牲にしてきました」
「理性を失い、牙をむきあってしまった」
「これが結末です」
「原因は不明」
「解決は不能」
「これは全て、僕たちの招いた結果です。もう、終末を、その瞬間をただ待つことしかできません」
「あなたには、愛する人がいた」
「見たい夢があった」
「しかし、何一つ叶えることはできない」
「夢を見るには、愛に気づくには……手を打つには何もかもが遅すぎたんです」
「僕たちには、何もできない」
「それほどまでに無力でした」
「生まれついた時から一生、死に絶えるまで」
「何かを変えることはできない」
「それはおろか、このままでい続けることもできない」
「僕たちは……何がしたかったんでしょう?」
「富を求めた?」
「孤独でいるのが辛かった?」
「自分勝手に生きたかった?」
「今の世界では、そんなことは無意味でしかないのです」
「裕福だって意味がない」
「誰一人孤独でない人はいない」
「自分勝手に生きた結果が、今です」
「後戻りはできない」
「後ろを振り返れば、きっと絶望することでしょう」
「僕たちは幸せだった」
「僕たちは不幸せだった」
「今ではそれすらわからなくなってしまった」
「あなたにとって一番の幸福は何でしたか」
「あなたにとっての一番の不幸は何でしたか」
「思い出せますか」
「昨日のこと」
「楽しかったこと。悲しかったこと。嬉しかったこと。苦しかったこと」
「もしも――もしも、」
……割れるような音で、銃声が響いた。
おかしいな。
彼は……。
彼は…………。