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異世界ギルド創始譚  作者: イワタニ
第三章 ギルド設立編
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第058話 ギルドvsギルドⅢ

()()()()()()ということは、つまり、デイ=ルイスさんは、あれは()()()()()()が通商路を襲う為に編成した、ということですよね?」

「ええ、そうなりますね。そしてそんなことをしてまでパストーレ商会の隊商を襲うような組織は、私は一つしか思い当たりません」

「西方商人ギルド、ですね」

「その通りです」


 デイ=ルイスは強い目線をユートに向ける。


「先日、エレル冒険者ギルドの書庫が襲われました。確かにそれも犯罪ですが、その程度の暗闘は王宮ではよくあることです。しかし、今回のそれは全く違う。サマセット伯爵とタウンシェンド侯爵の政争の為に、パストーレ商会の商人たち――つまり陛下の忠良なる王国臣民を皆殺しにしたのです」


 一息ついて、強い言葉を放つ。


「ユート殿、私は怒っています。私が陛下のおん為にと全力を尽くして慈しんできたこの西方直轄領民が殺されたことを。ユート殿、力を貸して下さい」


 深々と頭を下げるデイ=ルイス。

 その前のめりな姿勢に少しばかり驚き、そして言葉を探す。


「頭を上げて下さい、デイ=ルイスさん。僕だって僕のギルドの仲間がやられたんです。それを腹立たしく思っていないわけがないでしょう。ただ、盗賊を討伐するのは数人では厳しいのです」

「ありがとうございます、ユート殿。では話は早い、私が預けられている警備中隊から討伐部隊を編成します。あなたはそれを率いて、盗賊を引っ捕らえてきて下さい」

「軍を率いて、ですか?」


 あまりに突飛なデイ=ルイスの言葉にユートの目は見開かれていた。


「ええ、書類上の扱いとしては、西方軍司令部付兼西方総督府付の正騎士に混成兵団の指揮を委ねた、ということになるでしょう」

「しかし、自分には軍を指揮した経験は……レビデムから西方軍を出してもらう方が確実ではないですか?」

「今の西方軍で早急に動かせるのは戦列歩兵大隊だけです。それ以外はポロロッカの被害がひどく再建中ですし、西方軍の二個警備大隊はご存知の通り復興作業中です。そして、重装の戦列歩兵が森の中だか、山の上だかわからないところに籠もる盗賊を攻めるなど、悪夢以外のなにものでもない、とエイムズ殿も言っておられました」


 そして、と言葉を続ける。


「何よりも重要な森の中や山の上の戦い方はあなたが一番詳しいでしょう。指揮だって西方で一番軍の運用に詳しいアーノルド殿がいらっしゃいます。あなた方ならば警備中隊を率いて討伐を果たしてくれるものと確信しています」


 デイ=ルイスの言葉にユートは困り顔になりながらも、ともかく許可を得てアーノルドを呼んでみる。


「ふむ、確かに悪くはない案ですな」


 アーノルドは話を聞かされ、ちょっと黙考したのち、そう答える。


「では、お願い出来ますか?」

「……わかりました。できる限りですが、やってみます」

「ありがとうございます。報酬などについては言い値で結構ですので後で請求して下さい」


 最後にそんな豪気なことを言いながらデイ=ルイスは辞していった。




「さあ、ユート、行くわよ!」


 翌朝、誰よりもエリアが張り切って準備をしていた。

 ユートもいつもの着慣れた胸甲(キュイラス)を身に付け、そして草摺(タセット)やらをつけてギルド本部の一階へと行くと、二十人ばかりの冒険者がいた。

 その二十人を代表するかのように一人の冒険者がユートの前に進み出る。


「総裁、盗賊を討伐に向かわれると聞きました」

「ああ、行くが……」

「私たちは、盗賊に皆殺しにされた護衛(ガード)たちの冒険者仲間です。あいつらの仇を討つチャンスを下さい」


 その冒険者の顔をまじまじと見た後、エリアの方を見ると頷いている。

 ついでに目があったマーガレットも頷いている。

 二人の様子を見て、ユートは彼らは本当に殺された護衛(ガード)たちの友人であると理解して即断する。


「わかった。ただ、軍と合同作戦だ」

「大丈夫です。ポロロッカの時も一緒に戦った仲間ですから」

「あんた、名前は?」

「私はジェイクと言います」

「では今から軍の方に出て、詳細な作戦計画を打ち合わせてくる。それに合わせて出撃するから、いつでも出られるようにしておいてくれ」


 二十人は揃って頷いた。



 ユートがアーノルドとエリアを伴い、デイ=ルイスに言われた軍の屯所へと赴くと、警備兵たちは時折怒鳴り声をがなりながら、忙しそうに動き回っていた。

 どうやら出撃の為の物資の準備をしているようであり、肌寒くなってきた中、彼らは全身から滝のような汗を流して物資を運び回っている。


 屯所の入り口で衛兵に誰何され、用事を告げると待っているように言われてすぐに誰かを呼びに行った。


「ユート殿!」


 衛兵に連れられてやってきたのは警備兵大隊の先任中隊長であり、ユートも見知った中のヘルマン・エイムズだった。


「ヘルマンさん」

「ここではヘルマンでお願いします。私とあなたは、部下と上官です」

「え、ヘルマン……殿が自ら出るんですか?」


 ヘルマンは警備兵大隊の先任中隊長であるから大隊として出撃する際には大隊長を代行することになる。

 そのヘルマンが盗賊討伐に出撃していいのか、と思っての質問だった。


「ええ、今回のはデイ=ルイス内務長官殿の命で私と臨編の警備兵増強一個中隊、おおよそ二百五十人が指揮下に入ります。臨編中隊ですので、先任指揮官である私が指揮を執るしかないのです」

「ところで出撃まではどのくらいかかりそうですかな?」

「これはアーノルド殿。あと三時間ばかり、今日の昼過ぎには出撃可能です」

「ふむ……」


 アーノルドは腕組みをしながら黙考する。


「歩兵ならば、あの場所までは二日といったところですかな?」

「その通りです」

「ならば午後に進発しましょう。復興中の宿場町である五の村のキャンプには泊まれず、全部野営となりますが、盗賊が四の村よりも手前におったとしても、その活動範囲外で野営が出来るはずです」「わかりました。では午後に進発することとしましょう」


 ユートは二人の会話を黙ってみている。

 軍事には素人である自分が下手に口を出してもろくなことにはならないとわかっているし、何よりも気がかりなのは専門家であるアーノルドが大丈夫と判断した行軍予定よりも装備の方だった。


「ところで警備兵って相変わらず簡単な金属鎧ですか?」

「金属鎧が主となっております。払い下げのもので部隊として揃ったものはもっておりませんし、足りぬ分は革の鎧を使っておりますが……」

「革の鎧は何両ありますか?」

「せいぜい五十といったところでしょうか。革の鎧の方がよいとお考えですか?」

「ええ、山になるとどうしても重い金属では疲労が溜まります。また、開けた場所がないので睡眠を取る時も野営地を築いて歩哨を立てるような戦い方が出来るか……」


 ヘルマンはそこでふむ、と考え込んだ。


「総裁殿、今回は時間がありません。一個小隊だけ革鎧の装備として、残りは金属鎧でもやむを得ないのではないでしょうか」


 革鎧一式を揃えようとすれば数日では済まない時間がかかるだろう。

 ヘルマンもアーノルドが出した妥協案に頷く。


「それならば進発の刻限を遅らせずに準備できます」

「わかりました。ではそれでお願いします」




 その後、デイ=ルイスのところに顔を出して、物資の受領書や様々な書類仕事を片付ける。

 部隊名も求められ、最初はユート支隊などというこっぱずかしい名前を付けられそうになったので拒否して西方混成団に落ち着かせる。

 そうしているうちにヘルマンとの約束の刻限が近づく。


「あれから精査した結果、“盗賊”の数は多く見積もって百人程度のはずです」

「それは例の穀物の取引高ですか?」

「ええ。“盗賊”どもがあの一戦でほぼ戦いを終える気、つまり今ごろは撤収の準備をしていると仮定しての話です。もしあと一戦二戦やる気ならば――通商路を破壊してエレル冒険者ギルドとパストーレ商会に打撃を与える気ならばその可能性が高いと思いますが、恐らく五十人から八十人といったところでしょう」


 目の下にまた隈を作っているデイ=ルイスは、恐らく通常業務の他にユートたちにこの情報を与える為、必死に徹夜して計算してくれたのだろう。


「ご武運を」


 そう祈られて、ユートたちは盗賊討伐へと出発した。




 道中は特に何事もなかった。

 便宜上、本営小隊と名付けられた冒険者からなる集団が常にユートを囲むようにして行軍していたし、野営にしてもユートたちが何かする前に警備兵たちがやってくれていた。

 ずっと自分たちのことは分担してやる、というのが当然となっているユートやエリアにとっては落ち着かず、アーノルドに指揮官は余計なことをして疲労を溜めてはダメだと諭される一幕があったくらいだった。



「ここ、ね」


 エリアが辺りを見回す。

 ここが隊商が襲われた現場とおぼしき場所だった。

 既に四日が経っており、遺体はわずかにエレルに置かれていた驃騎兵によって回収されていたが、それでもまだ血痕の後が残されている。


「この場所で野営しても大丈夫ですかね?」

「ふむ――」


 アーノルドは辺りを見回す。


「――そうですな、あちらの川べりの方がよいでしょう。水汲みは新兵のうちは本当に大変なものです」

「わかりました――エイムズ中隊長、川べりのあたりで野営の準備を頼む」

「はっ!」


 ヘルマンはすぐに部下に命じてテントを張らせる。


「そういえば塹壕とかは築かないんですか?」

「塹壕、ですか?」


 アーノルドは怪訝そうな顔をしたのを見て赤面しそうになる。

 所詮は軍事の素人であり、ただ戦争映画などだと塹壕を掘っていたなぁ、という程度の思いつきでしゃべっただけなのだ。


「ユート、あんた思いつきでしゃべるのやめなさいよ!」


 エリアが追い打ちをかけるようなツッコミを入れて、ますますユートは赤面するしかない。

 そんな様子を本営中隊(冒険者)の連中はどうしていいかわからなかったらしく、曖昧な笑いを浮かべて見守っていた。


「明日は、朝から山狩りだな」


 ユートは夕食として配られた、シチューとパンを食べ終わると、簡易寝台の毛布に潜り込みながら、エリアにそうぼそりと呟いた。

 エリアは無言だった。

 少し、テントの中の空気が緊張しているのがわかった。




「ああ、もう! なんでそんなぞろぞろ歩いていくのよ! もっと伏せなさい! それと人数は一人か二人よ! 見つかりたいの!?」


 昨夜の緊張はどこへやら、エリアは盛大に警備兵たちを怒鳴り散らしていた。

 というのも、警備兵たちはユートやエリアがかつてアドリアンから教わったような、魔物に気付かれないようにしながら痕跡を探して回るような作業を全く理解しておらず、ひとかたまりの集団となって森に入っていこうとしていたのだ。

 最初は自分は指揮系統に入っていない――厳密には義勇兵でもある本営小隊の指揮官に近いポジションであり、小隊長格とも言うべき存在――と見て見ぬ振りをしていたエリアだったが、警備兵のあまりの体たらくにユートから指導役としての言質を取って怒鳴り散らしていたのだ。

 まだ十七歳の少女に怒鳴り散らされた警備兵たちこそ哀れだったが、それでもエリアの指導が生存確率を高めるものであることはわかっていたし、何よりもエリアがアクセサリー代わりに鎧に着けている野戦武勲勲章(ミリタリー・メダル)は戦場における最も優れた兵であることを示していた。

 実戦経験豊富な下士官でもいれば別だったかもしれないが、警備兵は基本的には都市の治安維持を行う部隊であり、戦闘兵科ではないこともあって下士官といえども野戦武勲勲章(ミリタリー・メダル)の威光に逆らうような者はいなかった。


 エリアが警備兵を指導している間、本営小隊を構成する冒険者たちは本来のパーティに分かれて捜索に出ていた。


「ジェイク、どうだった?」


 戻ってきた冒険者たちの話を聞く為にジェイクに訊ねてみる。


「隠れ家らしいものは見つけられませんでしたが、痕跡はありました。奴ら、運べるところまで馬車で運ぼうとしたようです」

「馬車の残骸があったのか?」

「はい」

「駄載して運んだのかな」


 ユートが考え込む横に、いつの間にかエリアが戻ってきている。


「ユート、それいい知らせじゃない。わざわざ積み荷を運ぶってことは売るか、使うかする気なんでしょ? まさか食糧を買い集めて“盗賊”やるような奴らが売る為に運んでいるとは思えないし、使う為に運んでいるに決まってるわ! そして使う為に運ぶってことは、まだここら辺に留まる気ってことよ!」


 エリアのはやや予断が入っているとも言えたが、少なくとも駄載するなりして無理に荷物を運んでいると言うことは逃げるにしても時間がかかるということであり、明るいニュースであることは間違いなかった。


「ともかく、その付近を午後は捜索だな」

「わかりました」


 ジェイクはそう言うと、すぐに周囲のパーティに指示を出し始め、段取りを整えていた。



 昼食に出されたのはベーコンとポテトに溶かしチーズをかけたものとパンだった。

 それを腹に詰め込むと、すぐに捜索に出かける。

 午前中のエリアの指導で最低限足を引っ張らないようにはなった警備兵たちがぞろぞろと後をついてくる中、エリアとユート、そして本営小隊が先陣を切って捜索をしている。


「さすがに軍はいいものを食べてるわね」


 小声でしゃべりながら、しっかり目はあたりを警戒していた。

 ほんの一年ちょっと前まで狩人(ハンター)素人だったのだが、いつの間にか狩人(ハンター)ぶりが板についてきているのはエリアの才能と努力、アドリアンの指導、そしてギルド幹部という立場が人を作ったということなのか。


「ふーん、これね」


 ジェイクに馬車の残骸を見せられたエリアとユートは、注意深くあたりの地形をうかがう。


「あっちじゃないか?」

「多分そうね。ジェイクはどう思う?」

「私もそう思います」

「ジェイク、悪いけど先行してもらっていいかな? エリアは俺の後ろ、アーノルドさんが最後尾で、後ろの警備兵への指示をお願いします」


 全員が無言で頷く。


 そこからジェイクたちは巧みに茂みを使って森の中を進んでいく。

 遅々として進まないが、ここで苛立ってはいけないと自分に言い聞かせる。


「アルバさん、連れてきたらよかったわね」


 またエリアが警戒しつつ小声で話しかける。

 事態がここまで発展しているならばニールの監視などいらなかっただろうが、一昨夜デイ=ルイスが帰宅した後にアルバに連絡を付けることはできなかったのだからしょうがない。

 ただ、幸いなことに魔物はいないらしく、姿勢の割にはかなりのペースで進むことが出来る。


 そのまま、一時間も進んだ頃合いで、ジェイクが『止まれ』のハンドサインを送ってきた。

 ユートはすぐにそれを後ろのアーノルドに伝え、アーノルドが警備兵たちを止める。


「あの木陰を抜けたあたりに開けた場所があります。そこに数十人の人がいます」

「わかった」


 そして、自分の目で確認するべく前に出る。

 そこには確かにいた――盗賊には似つかわしくない、小綺麗な鎧を身に着けた、数十人の集団が。

 単なる野営地というよりは、西方軍が復興の為に各村に作っている固定キャンプに近いものらしく、しっかりと警戒もしているようだった。


「ちょっとした陣地だな」


 ユートはぽつりとそう呟いた。


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