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異世界ギルド創始譚  作者: イワタニ
第三章 ギルド設立編
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第056話 ギルドvsギルドⅠ

 ユートたちはマーガレットに受付を再び頼むと、すぐに出発の準備をした。


「こういう商品、ギルドで売ったら儲かりそうよね」


 エリアはそう言いながら商店を回って干し肉に堅パンを買い集めていった。


「真剣に馬車の購入を考えた方がいいかもな」


 帰りにジミーたちを収容して帰ってくることを考えると馬車が必要だった。

 馬車は維持費がかかる、ということで欲しいながらも保留していたが、それを一度考えた方がいい、というのがアドリアンの意見だった。


「今回は諦めましょう」


 ユートはそう言いながら、パストーレ商会のプラナスと連絡を取って馬車を一台借りることに成功している。


「むしろ、その馬車を借りれるサービスを始めた方がいいかもニャ」

「それはいいアイディアかもしれないわね」


 レオナとセリルは新しい商売になるのではないか、と話し始めていたが、ともかく今先決なのはジミーたちのパーティの収容、そして事実の確認だ。

 リンジーに聞くべきことは聞いたが、ジミーやレイフの意見もまた重要になることは間違いない。


「よし、行くぞ!」


 御者と馬車を借りて、そこに食糧を積み込むと、すぐに出発する。

 その間わずかに半日。

 冒険者らしい身の軽さとも、拙速な出発とも言える出発だった。




 ジミーたちが引き受けていた村はホルという村だった。

 そこに至るまでは徒歩でおおよそ八時間もかかっておらず、距離に直せば二十キロというところかとユートは当たりをつけていた。

 昼過ぎにギルド本部をでたユートたちは、日が沈む頃にはホル村の復興を行っている警備中隊のキャンプに着くことができた。


「誰だ!?」


 キャンプの入り口付近に立つ立哨の、鋭い誰何の声。


「おつとめごくろーさん。エレル冒険者ギルドの馬車だ。ユートも乗っている」


 御者台で馬車の走らせ方を御者に習っていたアドリアンがそう答える。

「これは失礼!」


 ユートがひょっこり顔を見せると、すぐに立哨の指揮官らしい男が敬礼して応じた。


「ここの指揮官は?」

「はっ! ピーター・ハル大隊長が先ほどお見えになられております」


 何の為にユートがやってきたのかは、恐らくこの指揮官もわかっているのだろう。

 すぐに復興の総指揮を執っているハルの名前が出てきた。


「ハルさんがいるんだ。すぐに会わせて欲しい」

「取り次ぎますので、ともかく馬車をこちらに回して下さい」

「俺たちはジミーたちのところに行ってるぞ」


 アドリアンはそう言うと、器用に馬を操って馬車を指定されたところに停車させる。


「すっかり上手くなりましたね」

「ああ、これで馬車を買っても大丈夫だぞ」


 そう言いながら笑ってみせる。



「ユート殿、お疲れ様です」

「ハルさんこそ、お疲れ様です」


 キャンプの中央に張られた大型テントの中でハルと数日ぶりの再開を果たした。


「お聞きと思いますが……」

「ええ、このホル村の里山を討伐していたジミーさん――ああ、冒険者たちが討伐に失敗した、ということですよね。途中で他の冒険者の邪魔が入ったようで、それが故意の妨害なのか、過失なのかはまだ不明ですが……」

「冒険者が誰かはわかったのですか?」

「それが、まだ不明です」

「なるほど」


 ハルはそう言うと、少し言いにくそうに口を開いた。


「明日までとなっていた里山の討伐依頼はユート殿が引き受けられたのですか?」

「いえ、流石に明日までは……」


 いくらレオナがいて、ジミーたちがかなりの魔物を狩っているとはいえ、明日までに里山を討伐しきるのは不可能に近い。

 そもそも安全であることを確認するだけでも三日は欲しいところなのだ。


「ということは……言いにくいのですが、討伐失敗時の補償をお願いすることになりますが……」


 この討伐依頼を受けた時、急ぐ案件ということもあってデイ=ルイスからは失敗時の補償を求められていた。

 ユートもまたそれはもっともなことであると思っていたし、ちゃんと依頼票に書いて掲示もしていた。


「勿論です。今回は申し訳ありませんでした」

「ユート殿は気にされることではありませんよ。補償の方は後でデイ=ルイス内務長官の方にお願いします。それとこの後なんですが、別口の依頼としてユート殿に里山の討伐をお願いすることは出来ますか? 期限は二週間くらい延ばしてもらって構いません」

「一応、パーティメンバーに相談して、ということになりますけど、多分出来ると思います。でも勝手に依頼して大丈夫なんですか?」

「もともと裁量権は総督閣下から頂いておりますし、部隊予算でやるので問題ないでしょう」

「ではまた後で正式に回答します」

「よろしくお願いします」


 ジミーたちのパーティの依頼失敗に対する後始末についてはこれで終わりだった。


「ところで、ユート殿はこの別の冒険者パーティをどうお考えですか?」

「それは……」


 ユートはそれ以上は言葉を続けずに黙りこくる。


「私は今は西方軍に派遣されているとはいえ、サマセット伯爵家の家人です。これは総督府というよりはサマセット伯爵家に対する攻撃の一環ではないか、と考えておるのですが……」

「……少なくとも、ギルドのメンバーで昔から冒険者に詳しい者に訊ねた範囲で、討伐パーティの一員のの言うようなパーティはありませんでした」

「調査は、されたんですね?」

「ええ、今回ここに来たのも大口の討伐依頼の失敗、ということもありますが、聞き取り調査をしたかったからです」

「なるほど……」


 そう言うとハルは腕組みをして、じっと虚空を見つめる。

 ハルという男にユートは常に明るくずっと人当たりのいい男という印象を受けていたが、珍しく眉をひそめ、厳しい顔をしている。


「やはり、これはタウンシェンド侯爵とそれに連なる者の仕業、と考えるべきでしょうな」

「しかし、少し前にサマセット伯爵と話した時には、タウンシェンド侯爵はリスクを払ってまで我々にちょっかいをかけてくるとは考えづらい、という話でしたが……」

「もちろん、タウンシェンド侯爵はそこまで荒事を望んでいないでしょう。しかし、最前線で戦っている形となる、西方商人ギルドや西方冒険者ギルドはどうですか? 彼らは負ければ後はない。暴走する可能性もあるでしょう」


 そのハルの言葉にユートもまた頷く。


「それ、上手くタウンシェンド侯爵から抑え込んでもらえませんかね? ――ああ、そうか。王都までの距離を考えたら……」

「ええ、王都のタウンシェンド侯爵に報告が上がって、対処して……まあ、二ヶ月はかかるでしょうね」


 あちらが仕掛けてきている以上、その二ヶ月にどんな手段を講じてくるかわからない。

 ギルド本部の警戒はしていたが、ここまで露骨な妨害があるとは思っていなかったのだ。

 前にセリルが言っていた、防御を固めるというのも、誰がどこで妨害されるかわからない以上、全く意味が無いものとなっていた。


「厳しいですね」

「お察しします。我が主君に報告した後ですが、もしタウンシェンド侯爵一派の仕業ならば、当家の方から見舞金を出す形になると思いますので、気を落とさないで下さい」

「ありがとうございます」


 派閥争いにどっぷり巻き込まれているという事実にユートはげんなりしながら、ともかくジミーたちに話を聞こうと、ハルに礼を言って席を立った。




「アドリアンさん、どうでしたか?」


 ジミーのテントに行くと、既にジミーもレイフも警備兵たちがしつらえたらしい簡易寝台の上で眠っていたので、小声でアドリアンに聞き取りの結果を訊ねる。

 狭いテントの中は、ユートたち五人に、簡易寝台が二つ、それにベゴーニャまでいて、人いきれで蒸していた。


「予想通り、面識のない奴だったらしい」

「やっぱりそうですか」

「ちょっとこの後で会議しようぜ」

「ええ、こっちも話すことがあります」


 そう言いながら、テントを出ると、どこか会議が出来る場所はないか、そこら辺にいた士官らしい若い軍人を捕まえて聞く。


「大隊長殿の命令でテントを張っておりますのでそちらで」


 その士官はそう言うと、すぐにテントに案内してくれる。

 ハルの心遣いらしく、かなり大きなテントであり、中には簡易寝台が五つしつらえられていて、こんな緊急事態でなければ随分と楽が出来る野営になりそうだった。


「ユート、あっちはどうだったの?」

「ハルさんの読みは、西方冒険者ギルド(偽ギルド)か、西方商人ギルドの暴走じゃないか、ってことだった」

「暴走? つまり今回の事件はタウンシェンド侯爵はあずかり知らぬこと、ってこと?」

「ハルさんの見解はそうだった。俺もそれが一番可能性としては高いんじゃないかとは思う……」

「その妙な間は何なのよ?」

「いや、なんか釈然としないんだ。いくら西方商人ギルドでも盗賊の経験がありそうなフラビオを使ったり、護衛(ガード)が主体の西方冒険者ギルド(偽ギルド)で、経験豊富な狩人(ハンター)であるジミーさんたちを襲撃できるような熟練の狩人(ハンター)を動員できるのか?」


 ユートは西方商人ギルドと西方冒険者ギルドが暴走している、と決めつけるには予断が過ぎるのではないか、と一抹の不安を持っていた。


「ああ、それと、このまま引き続きホル村の里山の討伐を受けてくれないかって言われたんだけど……期限は二週間以内で」

「構わないんじゃないの?」

「ああ、ジミーたちがだいぶ減らしてくれているし、二週間なら楽な仕事になりそうだしな」


 エリアとアドリアンがすぐに賛成する。


「ところでユートくん、賠償金はどうなるの?」

「それは別。きっちり払わないと」

「ジミーたちはとんだ不幸だな」


 アドリアンは同情するように、ジミーたちのテントの方向をちらりと見る。

 テントそのものは見えないが、そのテントの中で眠っている二人、それにベゴーニャはギルド本部への賠償金を背負うことになるのだから、相当厳しいことになるだろう。


「分割払いは?」

「さすがにそれは認めますよ。ちゃんと公証契約する必要がありますけどね」

「すまんな」


 アドリアンが何も悪くないのに謝る。

 なんだかんだ言ってジミーたちとはベテラン同士、仲間意識が強いので、今回のような事態で多額の賠償金を背負わせるのは気に病んでいるのだろう。


「それに、今回のがタウンシェンド侯爵一派の仕業となったら恐らくサマセット伯爵から補填されますし、まだわかりません」

「タウンシェンド侯爵一派の仕業であった方がいいのか、悪いのかわからんな」


 万が一の可能性かもしれないが、これがただの偶然ならばユートたちは西方商人ギルドやタウンシェンド侯爵たちと大きく事を構えないで済む。

 一方でその場合にはジミーたちは多額の賠償金を負う形となる。

 ギルドの幹部としてのアドリアンは前者であってほしいと思い、ジミーたちの親友であるアドリアンは後者であってくれ、と葛藤しているのだろう。


「じゃあ明日から山に入って狩りね!」


 エリアがそう言った後、会議はお開きとなり、軽く夕食を食べて眠ることになった。




 翌朝、ユートはジミーが起きた頃合いを見計らって、エリアたちを起こさないようにテントを抜け出し、ジミーたちのテントに行く。


「おう、総裁。面倒かけてすまねぇ」


 ジミーは簡易寝台から体を起こすと、頭を下げた。

 ホル村には法兵がいなかったらしく、包帯で応急処置しただけで止血魔法である火治癒ファイア・ヘモスタシスもかけてもらえなかったらしい。

 昨日セリルが火治癒ファイア・ヘモスタシスをかけるまで出血も続いており今も青白い顔をしている。


「いえ、今回のはしょうがないですよ」

「いや、俺たちの不注意だ。ベゴーニャは怪我しなかったが、リンジーにも済まないことをした。総裁にも迷惑掛けてすまない」

「ジミーさんたちの討伐依頼は失敗ということになりましたけど、もう一度討伐依頼は出してもらいました。後は僕らが引き継ぎます」

「ああ、頼む。ところで、損害賠償なんだが……」

「とりあえず棚上げです。怪我を治してエレルに戻ったらギルドに出頭して下さい。額も確定しているでしょうし」


 いくら仲の良いベテラン冒険者とはいえ、さすがにタウンシェンド侯爵に絡む陰謀話まで話すわけにはいかない。

 だから敢えて何も言わなかった。


「ああ、わかってる。あれは簡易契約だし、逃げれるもんでもないからな」


 エレル冒険者ギルドと冒険者の間の契約は、公印を用いた簡易契約と呼ばれる契約になっている。

 王国法ではこの契約は公証契約ほどではないにしろ、それなりに契約を結んだことが確実とされており、事実関係――例えば借金を返したか返していないかというような事実について訴訟で争うことは出来ても、逃げた場合には指名手配されることになる。


「ともかく、今は養生して下さい」


 そう言ってユートは嫌な役割を終えてテントを去った。



「ユート、済まないな」


 帰ってくると、アドリアンがテントの前で待っていた。

 ユートがこっそりテントを抜け出してジミーたちのテントに行ったのは何の為なのかわかっているようだった。


「本当なら最年長の俺が引導渡すべきだったのにな」

「いえ、これはエレル冒険者ギルドの総裁としての仕事ですから」


 ユートはそれだけ言うと、すぐにテントに入って、装備を整える。

 普段の野営ならば装備を外さずに眠るが、さすがに警備兵中隊が警備しているキャンプが魔物に奇襲されることはないだろうと全部装備は外していた。

 そうしているうちにエリアたちも起き出したので、交互にテントを使って着替えて装備を整えていく。


「じゃあ、行こうぜ。ジミーたちの仇とってやろう」

「アドリアン、前みたいに魔箆鹿(ダーク・エルク)の風魔法食らわないでよ」


 エリアがかつての魔鹿(ダーク・ディア)狩りのことを持ち出しながら笑う。


「へっ、ありゃいきなりだっただけだぜ」

「油断大敵、でしょ」


 セリルがそう言った時、不意にキャンプの入り口付近で騒ぎが始まったのが聞こえた。


「どうした?」


 怪訝そうな表情でアドリアンが入り口の方を見る。

 そのうちに、一人の男が走ってくるのが見えた。


「アーノルドさん!?」

「総裁殿、大変です! 護衛(ガード)がやられました!」


 アーノルドの叫び声に、ユートは驚きのあまり、目を見開いた。



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