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異世界ギルド創始譚  作者: イワタニ
第三章 ギルド設立編
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第044話 青天の霹靂

 随分と暖かくなってきて、ユートはふと気付いたのだが、アドリアンと行動を共にするようになってそろそろ一年が経つ。

 考えてみると、この一年間、ユートは度々アドリアンの“勘”に救われたり助けられたりしてきた。

 それらはアドリアンの膨大な経験値からくるものだと思っており、だからこそ、今回はいくらアドリアンと言えども経験がないことであり、ただの山勘に過ぎなかったと胸をなで下ろしていた。

 つまりは、アドリアンの嫌な予感というものは全く当たっていなかった。


 アドリアンはまだ自分の勘を信じているようだったが、ともかく何も致命的なことが起きていない以上、必要以上に不安にするようなことは言わなかった。



 もっとも、それは順調にギルド設立の準備が進んでいたわけではない。

 問題として生じていることがあるのは事実であり、それらの問題を一つ一つ解決していかないといけなかった。


「ユートくん、これなんだけど……」


 そう言いながらセリルは反古紙の束を持って、すっかりユートの部屋となったエリアの家の客間にやってきた。

 手にしている反古紙の内容はユートにも大体想像はつく。

 少し前にセリルに頼んでいた分野別のランク表だった。


狩人(ハンター)分野は簡単なのよ。狩る可能性がありそうな魔物を一つ一つランク付けしていって、表に載っていないものは要相談、でいいから」

「問題は護衛(ガード)ですか?」

「それよりも探検家(エクスプローラー)よ。過去の依頼をアドリアンの伝手で教えてもらってるけど、一回限りの依頼されてないからまとめられないわ。どっかの山頂にしかない珍しい植物を採ってこいなんていう道楽依頼を受けたらどのランクにするのよ……」

「……一つ聞いていいですか? それって誰が依頼するんですか?」

「……聞きたい? 王都の貴族様よ?」


 想像通りの答えが返ってきて、ユートががっくりと肩を落とす。


「……そういう貴族って定型化したら、それはもうダメだ、と思いそうですよね」

「多分そうなるわね」


 どの世界でもコレクターというものは同類で、限定であり、レアだからこそそれを欲するのであり、定型化されて金さえ払えば誰にでも手に入れられるようになれば当然、価値を見出さなくなることは容易に想像がついた。


「……考えておきます」

「お願いね。私は護衛(ガード)の方を纏めてみるわ。こっちはよく使われる道筋を選別して、護衛(ガード)の規模で決めればいいから、定型化出来そうかも……」

「よろしくお願いします」


 こういう作業をしてみて一番頼りになるのはセリルだった。

 エリアはこういう作業をするのには経験が足りないし、どちらかと言えば勘や本能で生きているアドリアンはこういう細かい作業には向いていない。

 もっとも、そのアドリアンもセリルが定型化するために必要な情報を伝手を使って冒険者仲間から集めているから、二人でこなしていると言ってもよかった。


「ユート、あちきがやっているパーティのことで相談があるニャ」


 そしてもう一人。

 ユートにとっては意外だったのだが、レオナは意外にもこういう考えていく作業が得意だった。

 最初それを知った時、ユートはなぜお前が、と言いかけたほどだった。

 その時は昔取った杵柄だニャ、とかわされて、それ以後は聞けなかったが、ともかくレオナもまた冒険者ギルドの制度を作るのに一役買っていた。


「どうした?」

「パーティ登録はユートが出した、パーティごとのランク付けを別に作るという案で基本的にはいいと思うニャ。問題はパーティ登録に奴隷を入れられたらどうするか、ニャ」

「奴隷?」


 いきなり奴隷と言われても想像がつかなかった。

 ユートの知る奴隷らしい奴隷――例えばぼろをまとっているような半裸で、鎖で自由を奪われているような奴隷を見た記憶もない。


「奴隷、っているのか?」

「ユート、知らなかったのかニャ?」

「ああ、知らない」


 レオナはびっくりしたような顔をしたまま、どこから話し始めたらいいか、と考える。

 そこにたまたまエリアがやってきた。


「どうしたの?」

「奴隷のことニャ」

「ああ、そういえばユートは奴隷なんか見たことないものね。基本的に奴隷を所有できるのは貴族か豪商くらいだけど、あちこちにいるわ」


 説明になっていないエリアの説明にユートがしかめっつらになる。


「あたしも詳しいことは知らないけど、基本的には身売りって奴ね。それで一度奴隷になれば、解放されない限り生涯を通じて奴隷よ。ああ、犯罪者も別に奴隷になるけど、そっちは国が鉱山とかで働かせてるわね」

「その奴隷を冒険者がパーティに組み込んだらどうするニャ?」

「何か他の冒険者と違うところがあるのか?」

「そもそも奴隷は冒険者登録されないニャ。奴隷は道具――例えばあちきの鎧通しと同じ扱いだから、登録するとややこしいニャ。なんで剣や槍は登録されないのに、奴隷は登録させるんだ、とごねそうだニャ」


 レオナの言う問題がユートにはいまいちピンとこなかった。


「ん? それなら奴隷も含めたそいつの強さ、でいいんじゃないのか? 個人的には奴隷を道具って言うのは好きじゃないが……」

「じゃあ奴隷を百人集めた冒険者がいたらどうするニャ? 貴族ならそのくらい朝飯前だニャ。どの奴隷が仕事をこなすかで全く話が違ってくるニャ」

「それだけじゃないわね。例えば小さなギルドみたいなのを作られて依頼を片っ端からそいつがこなすようになったら他の冒険者は商売あがったり、よ。あたしたちのギルドにただ乗りされてるみたいで気に入らないわね」


 それなら、とユートはすぐに考えを変える。


「じゃあ奴隷をパーティにいれるようにしたらいいんじゃないのか? ごねる奴はほっといてもいいわけだしな」

「今度は護衛(ガード)の時が問題になりそうニャ。護衛(ガード)五人頼んだら、主人と四人の奴隷という形になるかもしれないニャ」

「それの何が問題なんだ?」

「あちきが奴隷なら、隙を突いて主人も護衛(ガード)の対象者も殺して逃げるニャ。上手く細工すれば魔物に襲われたと思ってくれるかも知れないニャ」


 ユートは再び思案する。

 頭痛がするが、もうその痛みにはいつの間にか慣れてしまっていた。


「奴隷ってどのくらい主人に忠実なんだ?」

「そんなもの、主人との関係次第よ。主人殺しで処刑される奴隷もいれば、主人が死んだ時に殉死する奴隷もいるわ」

「魔法や魔道具とかで言うことを聞かせたりはできないのか?」


 ユートの言葉にエリアは何を言っているんだ、という表情になる。

 ユートが日本で読んでいた小説などには魔道具の首輪みたいなものが出てきて、主人に逆らえば爆発したり、魔法で奴隷の反抗的な意思を奪って逆らえないように拘束したりするのが多かった、というだけの話だった。


「魔道具? 魔法?」

「そうだ。例えば主人に逆らったら爆発するとか、無理矢理にでも言うこと聞かせられる、とか」


 ユートの言葉を聞いて、エリアは呆れたようにため息をつく。


「バッカじゃないの!? そんな便利な魔法があったら奴隷がもっと増えてるわ。ていうかあたしたちの護衛(ガード)とかだって廃業じゃない。死ぬまで戦えって命じたら戦う奴隷を手に入れられるってことなんだから」


 やっぱりか、と思いながらユートは笑う。


「だいたいあんた、魔道具なんか作れるの? 魔道具ってメチャクチャ高いのよ? ちょっとした灯一つでバカみたいなお金取られるんだから!」

「言ってみただけだ。ついでにいえば魔道具は習えばどうかは知らんが、今は作ることは出来ないな」

「じゃあ奴隷を持ち込むことをそもそも禁止するしかなくないか? パーティにも入れるな、依頼の時には連れてくるな、みたいな形は?」

「やっぱりそれしかないかニャ?」


 レオナはそう言いながら不満げな表情を作る。


「どうした?」

「いや、大したことじゃないニャ。ただ、それでもめる相手は有力者だから大変だと思っただけニャ」

「まあそうだけどな……」


 どの案を採っても決して万人を満足させるものにはならない。

 それでも取捨選択しないといけないわけで、このところユートを悩ませていたのもそれだった。


「ユート、レオナ、あんまり思い詰めたらダメよ!」


 エリアがそう笑う。


「ユート、あたしたちのギルドは、どんなギルドにしたいの? もう一度思い出して」

「伝手に頼らなくても、誰でも依頼できて、誰でも受注できる、そんなギルド、だな」

「そうよね? じゃあその為には誰でも安心して依頼できないとダメでしょ? そう考えたら、奴隷を禁止するのはしょうがないし、もしそれで貴族なりと喧嘩になっても、あんたが先頭に立って戦わないといけないのよ」


 エリアは真顔でそう言う。


「ああ、そうだったな」

「あんたが戦うときはあたしもその横で剣持って一緒に戦うから安心しなさい」

「あちきも心臓を一突きにしてみせるニャ」

「待て。戦うって実際に殺し合いをしてどうする!? あくまで戦うっては比喩だろ!?」

「まあ、そうだけどね。でも最後の最後、命のやりとりになったらあたしたちに勝てるような奴らはそうそういないわよ。だからあんたはどんと構えておいたらいいのよ!」


 そう言いながら三人は大笑した。

 そして、アドリアンも含めた五人ならば、どんな困難も乗り越えていけるとユートは確信できた。




「すまんが、サマセット伯爵がちょっと総督府まで来てくれとの仰せだ」


 総督府の直轄任務として、エレルの代官にかわってエレル復興の指揮を執っている総督府内務長官ルイス・デイ=ルイスが気の毒そうにそう言った。


「なんですかね?」

「さあ、あくまで私的なのようだが……」


 私的な話で総督府の伝令を使うのは公私混同じゃないか、と思ったが、心の内にしまい込んでそれ以上何も言わないことにする。

 とはいえ、そうそうレビデムまで呼び出されても困る、というのも本音だ。

 ポロロッカが収まったとはいえ、あれだけ魔の森の深淵から近縁部に引っ張り出された魔物たちはまだ近縁部に留まっているものも多くおり、ポロロッカ以前に比べれば危険度は随分と上がっている。

 そのうえ宿場町となっていた村が崩壊していることもあり、かつて傭人(ゴーファー)時代のエリアがやっていたように一人でエレルとレビデムの間を行き来する、というのは困難となっていた。

 だから、ユートにしてももし行くならばエリアたちも含めたパーティ全員で行くことになり、その間ギルドの設立に関する事務は停止してしまう。


「そういえば総督府の伝令にご一緒させてもらうことって出来ませんか?」

「いいですよ。ではエレルからレビデムに出張するような公務を何か作りましょう」

「公務、ですか?」

「ええ、あなたの役職は一応西方軍司令部付兼西方総督府付になっていますから」

「ありがとうございます」


 そう言いながら、これはカラ出張という奴なのではないか、と思ったが、日本ではあるまいし、公私混同がそこまで問題にならないのかも知れない、と思い直し、それ以上は心に棚を作って何も考えないことにする。



 伝令の出発は翌日だったので、ユートもまたそれに合わせて出発する。

 まさか貴族を歩かせるわけにもいかなかったらしく、公用馬車の箱馬車が用意されており、ユートは落ち着かない思いをしながら、護衛の騎兵や必要書類を満載した箱馬車とともにレビデムへの道を急ぐことになった。


(それにしても、貴族ってだけで護衛する側から護衛される側になるんだな)


 ユートはふとそんなことを思った。

 ほんの半年前まではただの新米護衛(ガード)だったのが、いつの間にか護衛をつけてもらう立場、というのは笑えばいいのか、なんと言えばいいのか、ユートにもわからない。


 そんな複雑な思いのユートを乗せながら、公用馬車はレビデムへと着いた。



「やあ、ユート殿」


 久々に会うサマセット伯爵は随分と愛想がよかった。


「どうされたんですか?」

「いや、なに……最近ギルド設立の準備はどうかね?」

「まあ順調……と言っていいのかな? 少なくとも大きな問題は起きていませんよ」

「そうか、それは重畳」


 そう言いながらしきりにユートに高価そうな菓子や、美味しい紅茶を薦めてくる。


(まさか、暗殺なんてことはないだろうしなぁ……)


 あからさまに怪しい態度に、ユートは警戒する。

 暗殺されるようなことをやらかした記憶はないが、それでも怖い。

 だが、同時にサマセット伯爵の薦めを断るのも怖いので覚悟を決めて手を付けるしかない。


 幸いなことに、薦められたスコーンは少し堅かったが蜂蜜は甘いし、紅茶も少しばかり柑橘系の香りがする、素晴らしいものだった。


「で、今回呼ばれたのは……」

「忙しいところをすまんな。実はギルドにも優秀な指導者が必要なのではないか、と思うのだ」


 サマセット伯爵の言い出したことがユートには飲み込めなかった。

 だが少し考えて、もしかして総督府の息のかかった人物をギルドに送り込んで、乗っ取るなり傀儡にするなりするつもりなのか、と警戒を露わにする。


「えっと、ギルドの代表は僕がなるつもりなのですが……」

「ああ、勿論それは知っておるよ! 君が代表になることに不満があるわけではない!」


 サマセット伯爵は慌てて両手を振る。

 とはいえ、軍人としてはともかく政治家としては冷静沈着で優秀な人物とは思えないほどの慌てぶりだった。


「では、どういうことですか?」

「いや、なに。君たちには人を統率したり、貴族と上手くやっていくような経験が足りないのではないか、と思うのだよ」


 勿論それが不足していることはユートにもわかっている。

 しかし、それを総督府からねじ込む、ということは事実上総督府にお目付役を送り込もうとしている、ということなのか、とユートはサマセット伯爵の腹を探るように慎重に言葉を選ぶ。


「つまり、指導役を探した方がよい、と」

「まあ、そういうことだな」


 ユートは正念場か、と気持ちを引き締める。

 サマセット伯爵の納得するような人物で、総督府に対抗できそうな人を指名できるならばユートの勝ち、そうでないならばユートの負けだ。


「そうですね……」


 これまで出会ったことのある人物を考える。

 そして、慎重に考えて口を開く。


「私としてはパストーレ商会のエリック総支配人に指導を頂こうかな、と考えております。それに加えて、元西方軍のアーノルドさんにも指導して頂く約束をしております」


 勿論、後者は嘘――というほどのことはなくとも、前にアーノルドがたわむれに近い形でユートに雇われるのも一興と言ったことの拡大解釈だ。

 まあアーノルドならば断るまい、と思っていたし、二人とも人を統率することや貴族との付き合い方に関してはサマセット伯爵も文句が言いづらい存在だろうと考えての答えだった。


「う、うむ……アーノルドに既に声を掛けていたのか……」


 そう言うと、サマセット伯爵は思案顔となる。


「ユート殿、腹を割って話したいのだが……」


 しばらくして、そう絞り出すような声を出した。


「実は、だ。アーノルドが辞職することになったのはエレル会戦における大損害に対する責任を取ってのことなのだ」

「ええ」

「だが、本来ならばこれは私が責任を取るべきことだ。いくら王立士官学校を出ていないとはいえ、司令官は私なのだから。それをアーノルドが責任を取った、ということは、私に身代わりになったといってもよい」


 その辺の事情はユートもアーノルドから聞かされて知っている。


「そのように人身御供となってもらった以上、私は彼に報いねばならないのだ。給金もそうだが、何よりも彼は今回、自主退役をすることで生涯維持されるはずだった従騎士の身分も失っている」

「要するにその身分保障をしないとならない、ということでしょうか?」

「そうだ。名誉はやむを得ない、給金も私が支給することは出来るが、彼の身分だけはどうにもならない」


 ユートはそこまでサマセット伯爵の説明を聞いても何を言いたいのかよくわからなかった。

 確かに軍人であるならば従騎士の身分が付与されてその間は貴族扱いを受けることは知っている。

 しかし、ユートのギルドはあくまで私的組織であり、それと従騎士の身分は関係ないはずだった。


「そこで、だ」


 サマセット伯爵は話を続ける。


「貴族には従騎士を任じる権利がある。といってもそれぞれの爵位に応じて数に限りはあるが」


 ユートには初耳のことだった。


「えっと、どういうことでしょうか?」

「従騎士とは本来は貴族や騎士に仕える陪臣の身分だったのだよ。それが王国改革で平民からも軍人や官僚を登用することになった際、貴族の上長上官になることもありえるのに、平民のままでは格好がつかんということで従騎士の身分が与えられたのだ」


 ここでも王国改革が出てくるのか、とユートは内心で苦笑しながらサマセット伯爵の話の続きを聞く。


「その頃の名残でもあり、また王立士官学校を卒業したばかりの士官どもより、貴族の家宰の方が事実上の権限が大きいにも関わらず、方や従騎士、方や平民では困るという現実的な理由もあってのことだ」

「それで、自分にも従騎士を任命する権利がある、ということですかね?」

「そうだ。まあ正騎士は従騎士一人だけだがな。その枠をアーノルドにしてもらえないか、ということなのだ。サマセット伯爵家の枠は全て使っておってな……代々の従騎士の家系がある故にやむを得ないことなのだが……」


 つまるところ従騎士の枠を融通して欲しい、ということか。

 それにかこつけてギルドに旧知のアーノルドを送り込み、パイプにしたいという意図もあるのかもしれないが、アーノルドならば少なくともギルドを傀儡にするようなことはないだろうとは思える相手なので、それ以上詮索はしないことにする。


「わかりました。自分はどうせ枠を使う当てもありませんし……」

「助かるよ! これは私の借りだから、いつか返させてもらう」


 サマセット伯爵は破顔すると、すぐにアーノルドに宛てた書状をしたため、ユートに渡してくれた。

 そして、それをアーノルドに渡すと、アーノルドは驚きながらも従騎士としてユートに仕えることを承諾してくれた。

 ユートにとってアーノルドのような頼りになる人物がギルドに加わってくれることは嬉しかったが、同時にアーノルドほどの人物が自分の部下でいいのだろうか、という気恥ずかしさとも疑問ともつかない気持ちが出てきたのもまた事実だった。


 帰り道もまた、ユートは公用馬車を使って帰らせてもらった。

 行きと違うのは馬車にユートの従騎士となったアーノルドが乗っていることだった。

 ちなみに従騎士に関しては叙任式などはなく、ただユートから宮務省に申請を出せばよっぽどのことがない限り、自動的に勅許が下りる仕組みらしく、追って任命状が来るとのことだったので、届き次第エレルに転送してもらうことにしている。




「アドリアンの予感、当たらないじゃない!」


 エリアは笑いながらそんなことを言う。


「へっ、まだ何が起きるかわからねぇよ」

「そんな縁起でも無いこと言わない」


 毒づいたところをセリルに突っ込まれて、ぐうの音も出ないアドリアンだった。

 とはいえ、アドリアンもアーノルドが来たことは歓迎しているようで、すぐに歓迎会と称してドルバックの店の予約を入れていたが。

 また、さすがにアーノルドまでマリアに頼んでエリアの家においてもらうわけにはいかなかったのでルイス・デイ=ルイスに相談したところ、すぐに宿舎を用意してくれた。


 そして、ドルバックの店でアドリアン主催の歓迎会が開かれて、いつものようにアドリアンとエリアがしこたま飲んだ翌日。



「ユート殿!」


 ユートは叩き起こされた。

 エリアの家のはずなのに、目の前には熊のような男がいた。


(なんて魔物だっけ……魔熊(ダーク・ベア)か?)


 内心でそんなことを思いながら、寝ぼけ眼でもう一度魔熊(プラナス)を見た。

 そして、うっかり口に出さなくてよかった、と意識を無理矢理覚醒させる。


「どうしたんですか、プラナスさん!?」

「西方商人同職連合(ギルド)が……冒険者ギルドの設立を!」

「え?」


 青天の霹靂だった。


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