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異世界ギルド創始譚  作者: イワタニ
第三章 ギルド設立編
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第041話 ギルド本部はいずこに

「まずは、土地ね!」


 エリアが唐突にそんなことを言い出した。


「何の話だ?」

「ギルドの本部を建てる場所に決まってるじゃない!」


 エリアはそう言いながら朗らかに笑う。


「いや、待て。まず組織とか……」

「形から入るべきよ! ここが冒険者ギルドの本部です、って周りにアピールしないと冒険者だって依頼者だって集まらないし、組織だって机上の空論でしょ?」


 そう言った後のエリアの行動は早かった。

 すぐにパストーレ商会に行くと、プラナスに空いている土地の情報を提供してもらい、その土地巡りを始めたのだ。

 ユートたちもエリアの素早さに圧倒されつつ、エリアの考えも間違いではない、と空き地巡りをする羽目になったのだ。


「次は、ここね……」


 六件目の空き地を見て、エリアはげんなりした顔になった。

 なにせこの土地は大通りから通りを二つ挟んでおり、しかもせいぜい十坪程度しかなかった。


「これじゃ無理よね」


 ここまで見た五件も含めて、手狭だったり余りにも通りから離れていたりと、ギルドを奥野にふさわしくない、とエリアが即断する物件ばかりだったのだ。

 ちなみにユートがエリアやアーノルドに聞いたところによると、エレルに限らず王国では土地の私有は認められている。

 その分、棟別税や間口税はかかることになっているが、ちゃんと登記簿も整備されており、意外と先進的だったことにユートは驚いた記憶すらある。

 しかも、その土地は意外と安く、エリアの目算では一千万ディールあればどうにかギルドを建設できるくらいの土地を購入できると思っていたのだ。

 ところがその目算を大きく外された格好になったユートたちは結局その六件目で物件巡りを諦めてエリアの家に戻ってきた。


「なんでこんな土地ないのかしら?」

「そりゃそうだろ」


 エリアのぼやきにアドリアンが当然、と言わんばかりに笑った。


「どういうことよ?」

「今、このエレルには近郊の村からの避難民があふれてるだろう。そいつらが住むところを確保しなきゃならんからそもそも土地が少ないんだ」

「……そういえばアルバさんもそんなこと言ってたわね」

「というわけで今エレルの土地は絶賛高騰中、俺らの予算じゃ買える土地は限られています、と来たもんだ」

「ていうか知ってたら教えなさいよ!」


 エリアが怒るのをアドリアンはにやにやして見ている。


 そう言えば、とユートは先頃訪れたエレルの役所で聞かされた会話を思い出す。


「それは無理よ、エリーちゃん。だってアドリアンにあたしが教えたのもさっきなんだもん」

「え?」

「こら、セリル! 折角先輩面して言えたんだぞ!?」


 くすくすと笑うセリルと、焦るアドリアン、そして毒気を抜かれたエリア。


「普段ならもう少し土地はあるんだけどねぇ……今は時期が悪いとしか言いようがないわ。村が再建されていない人の仮住まいに、そもそも村は危険だってことでエレルに移住する人も多いから、今土地探すのはねぇ……」

「元々エレルの城域はそう広くないしな」


 セリルとエリアの言葉にユートは暗い気持ちになる。

 それは別に土地探しが難しい、ということだけではなかった。

 既にポロロッカからは一ヶ月が経過して、春の訪れを感じる季節になっていたが、まだまだエレルには避難民が多かったし、村の再建もたった一ヶ月では劇的には進んでいなかった。

 それでも春撒き小麦を撒かねばエレルが飢えてしまうということで、サマセット伯爵は西方軍を動員して、エレルに近いところの麦畑から復旧している最中だった。

 そして、そうして復旧された麦畑の辺りの村の避難民こそ帰村出来たが、全体でいえばわずかな割合で、恐らくこの秋にはレビデムから持ってくるか、場合によっては王国東部から小麦を輸入しないといけないだろうと、総督府の官僚たちは言い合っているようだった。


「というか、二人ともどんな条件で探してるの?」

「一千万ディールで買える土地全て」


 セリルとアドリアンが何も言わずに顔を見合わせる。

 何せユートたちの手元にはこの一ヶ月、食糧確保の名目で狩った魔牛(ダーク・ブル)などの対価も含めて一千万ディールしかない。

 黄金獅子(ダーク・レオ)魔歯虎(ダーク・スミロドン)については恐らくいい値はつくだろうが、報奨金も含めてまだサマセット伯爵が王都と交渉中、といったところだった。


「あ、値切るの前提よ」

「びっくりしたわ。エリーちゃんが浮かれてお金全部土地に使っちゃうつもりかと思ったわ」

「そんなわけないでしょ!」

「でも建物に当座の資金と考えたら、半値まで値切れるかしら?」

「やるしかないわ……この条件でもあんな土地しかなかったんだから……」


 エリアの言葉にユートは勿論、セリルもアドリアンも言うことはない。


「レビデムに本部を置くのは?」

「あんた、冒険者はいちいちレビデムまで行って依頼を受けろって言うの?」

「いや、こっちには支部みたいなのを簡単に置いたらいいんじゃないか?」

「週一回くらい伝書を送るとしても業務回らなくて結局こっちに似たような支部を作ることになるわ!」


 エリアの言葉を聞いて、ユートは自分が日本の常識――インターネットやらですぐに情報が届くのを当たり前に思っていたことに気付いた。

 一週間に一度程度の連絡で運営出来ないのはわかっていたし、すぐに自分の案を引っ込める。


「ともかく、条件を考えて仕切り直すのはどうだろう?」


 ユートの言葉に四人はめいめい意見を言い合っていく。

 結局、あのエレル攻防戦の後も、ユートはアドリアンに対してはほとんど敬語が抜けている。


「絶対外せないのは大通りから近いところ、よ。いい場所に本部があるっていうのは信用に繋がるわ」

「それはそうね」

「でも広さも譲れない、というか最低限の広さがないと話にならないだろ?」

「それもそうね」


 セリルが聞き役になりながら、条件が出ていく。


「そういえば内装はどうするの?」

「受付用のカウンターがあって、酒場も必要じゃないか?」


 セリルの質問にユートは日本にいた頃にゲームや小説で出ていたギルドの受付を思い出してそう答える。


「ああ、酒場は絶対に必要よ! ついでに美味しいご飯を作る人もね!」

「絶対だな」


 酒好きの二人がすごい勢いで同意した。


「ていうかニホンのギルドってそんな感じなの?」

「ああ、ニホンではそんな感じだぞ」

「ふーん、いつか行ってみたいわね」


 ごめん、それは無理なんだ、と心の中で詫びながら、ユートは反古紙におおまかなデザインを書き付けていく。

 それはちょうど日本の役所か銀行のようなデザインで、カウンターがあり、中に職員用の机、外には待合用のベンチを置いたものだった。


「こんな感じ、ですかね。勿論、これ以外にも資料を置いておく場所とか、会議室とか必要と思いますけど……」

「で、こっち側に厨房と酒場よね?」


 エリアはそう言いながらユートの持つ羽根ペンを奪い取って書き足す。


「資料庫は地下にした方がいいかな? それとも二階建てにするか……」

「両方にしたらいいんじゃない?」

「そうだなぁ……それだと二階に住めるしな」

「あんた、ここに住むつもり?」

「そりゃ何があるかわからないし、いつまでもマリアさんのお世話になるわけにもいかないだろう?」

「……それもそうね」

「いっそのこと、みんなでギルドの二階に住むのは?」


 エリアが不承不承頷いたところで、セリルが新しい提案をする。


「あーそれ悪くないわね! よし、五人が住める部屋を作りましょう!」

「まあそうなるとまた予算がかさむけどな」


 エリアの言葉にユートがそう突っ込んだ時、レオナが帰ってきた。


「これを見るニャ!」


 レオナはそう言いながら鎧通しを抜き放つ。


「おー出来たのか!」


 一番に食いついたのはアドリアンだった。


「そうニャ! ようやく完成したニャ!」


 レビデムの近くで魔物の群れに追われた時に折れてしまったレオナの鎧通しだったが、ポロロッカが収まった後に鍛冶屋に特注していたのだ。


「重さも抜群ニャ。これでパーティに復帰できるニャ!」


 この一ヶ月、レオナは武器が両手剣で戦いづらいことを理由にパーティに参加していなかった。

 あの黄金獅子(ダーク・レオ)相手の戦いを見れば別に両手剣でも参加できそうだったのだが、レオナのポリシーとして緊急事態ならばともかく、そうでもないのに慣れない武器で参加したくなかったらしい。

 そうした考えは冒険者として間違ってるものでもなかったので誰も何も言わなかった。

 とはいえ、山中で見せたレオナの索敵能力があれば、と思うことはあったわけであり、レオナのパーティ復帰でこれからますます狩りは進むことが予想された。


「もうちょっと待ってからにする?」

「それが一番かな」


 食料品が高騰している今、もうちょっと狩りに専念すれば資金を増やすことも出来る。

 無理に一千万ディールでギルド本部を建設せず、あと半年くらいかけて資金を貯める、というのも選択肢としては存在していた。


「任せるニャ! 一千万ディールくらいすぐ稼いでみせるニャ!」


 久々の実戦、とレオナもまた目を輝かせた。

 一方で、ギルド本部建設にはまだまだ時間がかかるな、とユートは内心でため息を吐いていた。




 だが、そんなユートたちに思わぬところから救いの手がさしのべられた。


「あたしの食堂の跡地を使えばいいさ」


 そう、マーガレットだった。

 マーガレットはポロロッカの際に店が半壊しており、それを修繕もせず放置していた。


「マーガレットさん、店は直さないんですか?」

「あたしももう歳だからね。修繕する為に高い金を払って、元を取れるかわかんないのさ。だから誰かが使って賃料入れてくれるなら有り難いんだよ。なに、この婆さんが生きていくのに必要な賃料をもらえればでいいさ」


 ユートが見たところ、マーガレットはまだ五十代くらいであり、そこまで歳とは思えなかったが、本人はさばさばとそう言った。


「まあマーガレットおばさんももういい歳ですものね」


 セリルがさもあらん、と頷いていた。

 ユートは知るよしもなかったが、日本でも中世では五十を超えれば老人であり、近世に属する江戸時代であっても、五十を超えれば隠居する武士も多かった。

 それを考えれば五十代のマーガレットが、今から店を修繕して商売を再開するより、誰かに店を譲り渡すのは一般的であるといえた。


「賃料は月八万ディールでどうだい? 店はもう使えないから壊してくれて構わないし、廃材も自由にしてくれて構わない」

「廃材も!?」

「ああ、あたしがもらってもしょうがないしね。冒険者ギルドなんていう面白いものを作るんだ。ちょっとくらい貢献させてもらうよ」


 廃材といっても売れば多少の金になるし、何よりユートたちが建築用の材木を買う費用も節約できる。

 これだけ人口が増えて土地が足りない、となっている以上、恐らく材木の価格も高騰しているだろうし、それもまた有り難かった。


「ユート、ここに決めちゃいましょう!」


 エリアが急いてそんなことを言った。


「まあ待て。マーガレットさん、一晩考えさせてもらってもいいですか?」

「ああ、構わないよ。あたしだって急がないしね」




「なんであの場で契約しなかったのよ?」

「いや、ちょっとみんなに話したいことがあったんだ」

「なによ!?」

「俺たちがギルドに併設する予定の酒場、マーガレットさんにお願いできないかな?」

「ああ、それはいいわね」

「俺もいいと思うぞ」


 すぐにエリアとアドリアンが賛意を示す。


「ていうか、そんなことあの場で言ってもみんな賛成したでしょ?」

「それもなんだが、マーガレットさんにどのくらいの賃金を約束するかもあるからなぁ……」

「ああ、それは確かに本人の前で相談しにくいわね……」


 セリルが苦笑いを浮かべる。


「月七万ディールで、合計月十五万ディールでどうだろう?」

「いいんじゃない?」

「あちきは相場がわからないから保留ニャ」

「額としては妥当だと思うわ。でも払えるかしら……」

「最悪、俺たちが毎月狩りに行って、五人分の生活費と十五万ディールならどうにかなるだろ」


 心配げなセリルに対して、アドリアンが楽観的にからからと笑う。


「じゃあそれで提案したらいいか?」

「そうね。あんたに任せるわ」



 そう言われて、翌日マーガレットに提案したユートだったが、思わぬところで物言いがついた。


「あたしゃ、そんなお金はいらないよ!」


 そう、マーガレット本人だった。


「あたしにとっちゃ食堂は生きがいだったんだ。ただこの歳で何百万ディールも払って店を直して、ってなると二の足踏んじまったけど、もう一度働けるならそれでいいさ。土地代はいらないし、給料もいらないよ。店さえ出来りゃ自分の食べていく分は稼げるんだからね」


 そんなことを言い張って、ユートの提案に頑として首を縦に振らなかった。


「いや、マーガレットさんには他にもお願いしたい仕事があるんですけど……」

「それならそれもただでいいよ。あの世に金持って行けやしないんだからさ」


 結局、ユートはマーガレットに押し切られて、酒場をマーガレットに任せるかわりに土地を無料で借りるという決着となったのだった。




「それにしてもあんたがそんなやり手だったとは思わなかったわ」


 帰ってきたユートに顛末を聞いたエリアはそう笑った。


「いや、俺だって何がなんだか……」

「まあそうよね……契約上は等価交換、でいいと思う……?」


 セリルはエリアとユートの言葉を聞きながら、契約書を作っていた。


「さあ、俺に聞かれても……」

「そうよね……」


 そんな会話を繰り返しながら、翌朝までかかって作った契約書は、役場に持っていった際にこんなものは通せないと言われた挙げ句、レビデムから出張してきていた西方総督府内務長官ルイス・デイ=ルイスに頼み込んで通すことになるのだった。


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