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異世界ギルド創始譚  作者: イワタニ
第二章 ポロロッカ編
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第021話 パーティの完成

 翌朝、エレルの門に隊商は集まっていた。


「帰路も宜しくお願いします」


 隊商のリーダーがユートを見つけてそう言った。

 とはいえ、視線はルーカスの方を向いており、実際に誰が信頼されているのかは明らかだった。


「配置はどうする?」

「帰路はちょっと変更しよう。先頭はエリア。盾を使った戦闘をどこまで出来るか試したい」

「わかったわ」


 エリアが盾を撫でながら頷く。

 エリア自身も、護衛(ガード)の実戦でどこまで盾を使えるのか試したくてうずうずしていたらしい。


「次はレオナ。レオナは掩護がどこまで出来るか試して欲しい」

「げ、こいつと!?」

「うるさいニャ。あちきもお前となんか組みたくないニャ。でもリーダーの指示だからちゃんと試すニャ」


 エリアとレオナがそんなやりとりをする。

 しかし、言い合っているにしても、お互いの冗談とわかってやりあっているらしく、パーティを組んだ当初よりもよっぽど雰囲気はいい。


「まああちきの実力を見せてやるニャ。楽しみにしてるニャ」


 最終的にレオナはそう纏める。


「で、中央の馬車は俺とルーカスさんで全体の掩護に回る。で、後ろ側の二台がセリルさんとアドリアンさん」

「わかったわ」

「つまり、こいつはルーカスが抜けた後のテスト、ってこったな」

「そうです。今回は出来るだけルーカスさんにお世話にならないで戦います」

「まあそう言っても、危ないと思ったら助けには入るがな」


 そんなやりとりの後、エレルを出発した。



 エレル近郊はやはり多少、魔物が多かった。

 とはいえ、魔狐(ダーク・フォックス)魔鼬(ダーク・ウィーゼル)程度、六人もいるパーティで遅れを取るような相手でもない。

 その為、エリアやレオナの実力を見る間もなく倒してしまう。



「そういえば帰りは何を買い込んだんだ?」


 ルーカスがユートにそんなことを聞いてくる。

 魔物に対する警戒は怠っていないが、それでも少し暇、というのはあるのだろう。


 実はユートたちが借りている形になっているこの馬車の積み荷はユートたちの自由である。

 本来は護衛(ガード)に必要な寝具やらを積んだり、人数の多い護衛(ガード)の寝泊まりに使うのだが、それでも空いているスペースに交易品を積み込むことは契約上認められていた。

 ルーカスが聞いてきたのはその交易品に何か買ったのか、ということだ。


「えっと、魔物肉の燻製と魔石ですね。本当は生肉の方がよかったんですが……」


 いくら獣肉より腐りにくいといわれている魔物肉でも、昨日狩ったものを一週間かけてレビデムまで運んだら傷む可能性は高い。

 いくらレビデムがエレルに比べて魔物肉の相場が高いとはいえ、そんな傷んだ魔物肉をエレルで売るよりも高く買ってくれるとは思えなかったので、ドルバックに頼んで燻製を譲ってもらったのだ。

 対価はユートたちが狩った生の魔物肉で、安く魔物のジビエが出せるとドルバックも喜んでいた。


「ほう、うちの商会の交易品とほとんど一緒だな」


 ルーカスは面白そうにそう言った。


「え、もしかしてまずかったですかね!?」


 ユートは少し慌てる。

 勿論、契約の上では交易品の指定はないし、パストーレ商会の交易品と同じ者を積み込んでも何ら問題はないはずである。

 とはいえ、どこの世界、どこの業界にも暗黙の了解、マナーというものはあるし、隊商と同じものを積み込むのは護衛(ガード)としてのマナー違反だったのか、と慌てたのだ。


「いや、別に問題はない。だいたい護衛(ガード)には交易品の品目なんか公開してないから避けようがないだろう?」

「そういえばそうですね。ちょっと焦りましたよ」

「ただ、相場を考えると賢い選択かは微妙だがな」

「どういうことですか?」

「うちの隊商が大量に運ぶということは、この隊商が着いたときに魔物肉や魔石の相場は下がるだろう? まあ今は定期便がしっかり行き来してるから大した差ではないが……」


 ルーカスはそう言いながら、出来れば独自の交易品を見つけられるのが一番だ、と付け加えた。


「そういえばユートたちは行きに朝の馬車市を見てなかったな?」

「ええ」


 隊商は途中に野営する村では、朝の出発前に馬車市を開いている。

 ユートたちは夜の寝ずの番があることもあって、少しでも寝ていたかったので参加していなかったのだ。


「あれでうちの交易品や交易システムが多少はわかるだろう。将来、商売をするつもりなのかは知らんが、知っていて損はないぞ?」

「じゃあ明日にでも一度確認してみます」

「それがいい」


 そんな会話をしながら、その日は何事もなく宿場町となっている村に着くことが出来た。




 翌朝、ユートはルーカスに言われた通り、朝市に顔を出してみた。

 ルーカスの話を伝えると、エリアも一緒に来たいと言ったので二人で回ってみる。


「意外と活気あるのね」

「まあ村の中に店はないみたいだしな。この隊商が店の全て、と考えるとそりゃ活気も出るだろ?」

「でも隊商って結構な数が行き来してるのよね?」

「定期便ってルーカスさんが言ってたから、それなりには、って感じじゃないか?」

「あたしたちが一ヶ月かけて往復だから、四便あるなら月八回、八便なら月十六回も朝市開かれてるんでしょ? そんなに買うものあるのかしら?」


 エリアはそんなことを言いながら馬車の御者台あたりに並べられた、見本らしい商品を物色する。


「朝市見学ですか?」

「ええ、ルーカスさんに一度見てみろと勧められまして」


 隊商のリーダーもこの馬車市に参加していて、目敏くユートを見つけて声を掛けてくる。

 見るとそれぞれの馬車はそれぞれの御者が店番をしているらしい。


「帰りはエレルで仕入れたものばかりですから、エレルの方々には珍しくはないかも知れません」


 隊商のリーダーに言われてみてみると、確かにエレルでよく見たようなものが多い。


「あ、このベルト、ランデルさんの紋章が入ってる」


 エリアが革のベルトによく知っている人物の紋章を見つけてユートに示す。

 ユートの鎧の製作者であり、エリアも今回盾を新調してもらった、エレルの中でも腕のいい革職人の紋章だ。

 本来ならば革の防具を主に扱っているが端材でベルトやらを作っているらしい。


「村長さんとかなら改まった格好をするときにベルトいるし、買うのかしら」


 確かに一般の村人はそうそうベルトを使うとは思えない。


「まあここで売れなくても、レビデムに持って帰れば買う人が多いだろうしな」

「確かに魔物の革を使ったベルトは高く売れそうね。てかあたしたちも革製品買った方がよかったかしら」

「まあ交易はあくまで余技だからな」

「だけどランデルさんなら伝手もあるし、何か仕入れられたかも」


 エリアは儲け損なったか、と少し悔しがる。

 そんなエリアを隊商のリーダーは苦笑いしながら見守っていた。


 結局、ユートたちは見学だけで何も買わなかった。

 買うならエレルで買った方が安上がりでしょ、とエリアは笑っていた。



 そして、隊商は朝市を閉めると、出発する。

 積み荷を満載しているとはいえ、馬車はさすがに徒歩よりは速い。

 だから朝市をやってから出発すれば、次の宿場となる村にはちょうどよい時間に到着できる。


「朝市はどうだった?」


 馬車が出発して落ち着いた頃、ルーカスがそう話しかけてきた。


「普段見れないものだけに面白かったです」

「何か交易品になりそうなものでも見つかったか?」

「革製品ですかね? 魔物の革は丈夫ですし……」

「ほう、いいところに目を付けたな」


 ルーカスはそう言うと笑った。


「普通、素材はエレルの方が上、製品はレビデムの方が上で交易品の行き来も行きは製品を運んで帰りは素材を運ぶことが多い。だが、魔物の革に関してはそれが当てはまらんのだ。丈夫な上に獣の革より数が少ないから、ほとんどが防具としてエレルで消費されてしまう」

「ということは、かなりいい値段になるんですね」

「ああ、使い勝手はいいからな。君たちなら伝手もありそうだから、交易品として考えてもいいと思うぞ」


 確かにランデルに頼めば、皮の供給と引き替えに革か革製品を卸してくれそうだ、とユートも思う。


「まあ余りやり過ぎると今度はエレルの魔物革製品が枯渇するから気をつけないといかんがな」

「大丈夫ですよ、そんなことやるつもりは……」


 ユートが言いかけた時、鐘の音が響き渡った。

 ルーカスとユートはすぐに反応して飛び出す。


「前だ!」


 ルーカスはそう言うと先頭の馬車目がけて駆けていく。

 恐らくセリルとアドリアンは持ち場を離れずにいるだろうから、ユートもルーカスを追う。


「ルーカスさん、馬車を頼みます!」

「わかった。君は前の二人を掩護するんだな」


 要するにテストをする、ということだ。


「はい! やります!」

「気をつけろよ!」


 ルーカスはそう言うと先頭の馬車の馬を守れる位置に付く。


「ユート、遅いニャ!」


 レオナが叫ぶやいなや、鎧通しを構えて突っ込んでいく。

 見ればエリアが三匹の魔犬(ダーク・ドッグ)に囲まれながら、まだ慣れていない盾で必死にいなしている。


 レオナがそのエリアの相手をしているうちの、一番右の一匹に突きかかった。

 だが、その魔犬(ダーク・ドッグ)も大声を上げて飛びかかってきたレオナをしっかり認識していて、くるりと後ろに飛んで避ける。

 レオナはそれに対して追撃の突きを放つが、それも躱される。


「ちょっと、深追いしない!」


 あわててエリアがレオナを止めようとする。

 その声にレオナがバックステップを踏んでエリアのすぐ右に戻り、エリアの近くにいた真ん中の一匹に突きを放つ。

 だが、エリアも狙っていたせいで、そのレオナの突きがエリアの剣と交錯する。


「あんた邪魔!」


 エリアに怒鳴られてレオナは慌てて先ほど下がった右の一匹を狙い、エリアの傍から離れた。

 その一瞬の隙を突いて、レオナとエリアの間にいた真ん中の一匹が裏を取って飛び出した。


「あっ!」


 思わずユートが動こうとした瞬間、飛び出した魔犬(ダーク・ドッグ)がもんどり打って倒れた。

 よく見ると左後ろ足にナイフが刺さっている。


「どうだニャ!?」


 レオナが得意げにナイフをちらつかせた。


「投げナイフか?」

「そうニャ!」


 そう言いながら、レオナは自分が相手にしている魔犬(ダーク・ドッグ)の喉を鎧通しで突き通し、後ろ足を引きずっている魔犬(ダーク・ドッグ)の延髄をきっちり鎧通しで突いて止めを刺した。

 その間にエリアも自分が相手をしていた一匹をきっちりと仕留めている。


「ちょっと、なんであたしが相手をしてる魔犬(ダーク・ドッグ)に突きかかるのよ!?」

「エリアがぐずぐずしてるからだニャ」

「その結果裏取られちゃ洒落にならないでしょ」

「それだって上手く行ったんだからかりかりするなニャ」


 レオナは投げナイフを見せながら笑った。


「あんた、投げナイフ披露したかっただけでしょ!?」

「そ、そんなことないニャ! 誤解だニャ!」


 必死に言い募るが、その態度が全てを表していた。


「今回は大目に見るけど、次やったらただじゃおかないわよ」


 エリアがそう言ったところで今度はユートが訊ねる。


「その投げナイフ、どうしたんだ?」

「作ってもらったニャ。一昨日までは練習用の一本しかなかったから使えなかったニャ。最初は弓で戦おうかと思ったけど、あれは素人がいきなり上手くなるもんじゃないニャ。それにルーカスやアドリアンが前に短剣でいなしながら片手の鎧通しで戦う戦い方があるって言ってたから、ナイフの方が戦術の幅も広がるニャ」


 レオナはエリアに怒られたのも何処吹く風、得意げに説明した。


「まあ選択肢としてはいいと思うが……」


 説明を聞いたルーカスが微妙な表情をしている。


「それはいいとしても試すために裏を取らせたのはやり過ぎだろ……」

「そうよ。後ろにユートとルーカスさんがいるとはいえ、危ないでしょ」

「それは反省するニャ。でもこれで掩護出来るのは認めて欲しいニャ」


 レオナはレオナで魔の森で散々な目に遭ったのが相当応えていたらしい。


「……それは認めたげるわ。でも次やったら殺す」

「わかったニャ」

「あと、あんた自分の剣を後でちゃんと見ときなさいよ。さっきあたしの剣とぶつかったでしょ?」


 エリアの言葉にレオナは素直に頷いた。

 エリアの剣は元々は撃剣師範だったデヴィットの持ち物だっただけあって相当に幅広で分厚い剣身をしている。

 その分、身体強化を使わなければエリアでは使いこなせないほどの重量もあるが、頑丈さが取り柄のような剣だ。

 それと華奢なレオナの鎧通しがぶつかったのだから、場合によっては曲がっていたりするかも知れない、と心配したのだろう。


「さあ、出発するぞ」


 そんな二人を見守っていたルーカスが最後にそう言った。



 その後の帰路は魔物の襲撃も比較的散発的だった。


「このくらいなら楽ですね」

「とはいえ、エレル近郊は魔物が増えていたんだろう?」

「まあ多いと言えば多かったですけど、戦えないくらいじゃないですよ?」

「正直、行き帰りでもかなり今回はかなり多い方だと思う。実は昨日アドリアンとも話したんだが、俺もアドリアンも魔物が例年の同時期よりかなり多いんじゃないかという結論になった。今回はどうしようもないが、気をつけんとな」


 最後の部分は、護衛(ガード)としてというよりはパストーレ商会の一員として、の言葉に聞こえた。




 ただ、ルーカスの心配は杞憂に終わり、ユートたちは無事にレビデムに着くことが出来た。


「ルーカスさん、今回はありがとうございました」

「いや、何。こっちも色々と勉強になったよ。特にアドリアンに魔物の解体の仕方を教われたのは大きかった。俺は狩人(ハンター)をほとんどやらずに護衛(ガード)になったから、そこら辺をしっかり習えたし、今度からは傷ませずに運べそうだ」

「俺は十年以上狩人(ハンター)だからな。年季が違うぜ。まあ実際傷ませずに運ぶのは無理だけどな」


 アドリアンはそう言って笑う。


「今回一緒に護衛(ガード)をしてみて確信したよ。ユート君、君は立派な護衛(ガード)のリーダーになれると思う。仲間と一緒に頑張りなさい」

「ありがとうございます」

「他のみんなも質の高いパーティだ。護衛(ガード)としての経験がないから不安もあるだろうが、個々人の技量はかなり高い。あとは経験を積んだらいいさ」


 ルーカスはそれだけ言うと、くるりと身を翻し、パストーレ商会の建物へ消えていった。


「また会えるかな?」


 エリアがそんなことを聞く。


「しばらくは同じパストーレ商会の護衛(ガード)だからな。そのうち会えるさ」


 ユートはそう答えた。


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