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異世界ギルド創始譚  作者: イワタニ
第二章 ポロロッカ編
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第020話 リーダーとして、パーティとして、

「というわけで、反省会だ」


 ルーカスと別れたあと、他の五人はマーガレットの店に来ていた。

 倒した魔箆鹿(ダーク・エルク)二頭は、五十万ディールでドルバックに売っている。

 ルーカスが取り分を辞退したこともあり、その他諸々も合わせて一人当たり二十万ディールの臨時収入になった。


「まあ一番の問題はルーカスさんが今回限りなことよね」


 セリルはそう言いながらため息をついた。


「ですね。アドリアンさんくらいの体格があれば大盾も生きるんですが……」

「あたし、よね……」


 エリアは難しい顔をしながらそう言った。

 身体強化の魔法もどきを使っているとはいえ、エリアの力はさすがに大柄なアドリアンには及ばない。

 大盾を持って、片手剣と両方を駆使して相手の攻撃を受け流しながら引きつけて戦う戦い方は手に余った。

 エリアに出来るのは小盾で相手の攻撃を弾きながら、出来るだけ速く止めを刺すような戦い方だ。


「それと、もう一つはレオナ、だな」


 ユートの言葉にレオナが鼻を鳴らす。


「あちきの戦い方に問題なんかないニャ。実際、ここまでも仕留めた数だとあちきとユートがトップのはずニャ」

「そりゃそうなんだが、お前のは攻撃一辺倒過ぎるんだよ。俺やルーカスみたいに盾使って時間稼いだり乱戦で味方に数的な優位を作って戦うことが出来んから戦い方の幅が狭い」

「それはユートも同じだニャ」

「おいおい、ユートと一緒にするなよ。こいつには魔法があるし、それを抜いてもお前さんの鎧通しと違ってしっかりした刀身の剣だから剣そのもので受け流すことが出来る。同じ盾を使わない剣士でも全くタイプが違う」


 武器の使い方に関してはこのパーティで一番見識が深いアドリアンにそう言われて、レオナは返す言葉を失った。


「あちきは……どうしたらいいニャ……」

「ねえ、レオナちゃんは短弓やってみたら? 女の子だから両手剣じゃないと戦えないのはわかるし、いきなり別の武器に持ち替えても上手くいかないと思うの。なら遠戦の武器は別に持てば戦い方にも幅が出るでしょ?」

「短弓かニャ……言っておくけど、他の武器は全部苦手だニャ」

「ちょっと、あんた! やってみなきゃわからないでしょ。セリーちゃんがここまで言ってくれてるんだからとっととやりなさい!」


 なぜかエリアがレオナにまくし立てる。


「あたしだって、明日から盾の使い方もっと練習するわ。アドリアン、ユート、付き合ってよ! ああ、そうだ。ルーカスにも聞いてもいいかも」


 その発言にエリアらしいな、とユートは思わず苦笑いをする。


「さあ、それはそうとして、今日は食べるわよ。いくら馬車があって寝心地はマシだったとは言っても野営じゃご飯は美味しいの食べられなかったんだから」

「そして、飲むんだろ?」

「当然じゃない!」


 そう言った時には既にエールの入った木ジョッキを握りしめていた。


「あちきは酒はいい思い出がないから遠慮するニャ」

「あんた! マーガレットさんのお酒が飲めないとかふざけてんの!?」


 日本ならば間違いなくアルハラ――アルコール・ハラスメント――と言われることを平気で口走るエリア。


「最初の一杯くらいは付き合うニャ。でも飲み過ぎたら大変なことになるニャ」

「わかったわよ。じゃあみんな行き渡った!? かんぱーい!」


 エリアはそう言いながらジョッキを突き合わせた。




「マーガレットさん、本当に申し訳ない!」

「おばちゃん、本当にごめんなさい!」

「あちきもこんな惨事になるとは思ってなかったニャ……」


 翌朝、マーガレットに頭を下げている三人がいた。


 結局、昨夜はレオナが二杯、三杯と杯を重ね、いい気分で放歌高吟し始めた。

 それに張り合うようにエリアも杯を重ねていった。

 ユートはエリアを必死になって止めたが、アドリアンまで加わって飲めや唄えやの大騒ぎとなってしまったのだ。

 最終的にユートはマーガレットの任せておけという言葉を信じて、エリアたちを置いてセリルと帰ったのだが、翌朝来てみればこの有様だった。


「そりゃ冒険者なんだから多少羽目を外すことはあるさ。でもあんたらのはちょっとばかしやり過ぎだよ。テーブルの上に上って叫ぶわ、食器ひっくり返すわ、椅子積み上げて遊び出すわ、最後は樽から直飲みするわ。特にアドリアン、あんたもう三十だろう? いくらなんでも三十の男がそりゃないだろ? そんなんじゃ嫁の来手もないよ!」


 マーガレットのお説教には小さくなるしかない。


「あんたら、罰として……」


 そこでマーガレットは短く言葉を切った。

 出入り禁止か、それとも皿洗いか、と首をすくめる。


「今日から三日間、うちでしっかり食べて飲んで、でも人に迷惑のかけない飲み方をするこったね」


 そう言うと呵々と大笑してみせた。




「三日間目一杯食えって迷惑掛けた分、売上に貢献しろってことかよ……」

「まあそれだけじゃなくて、ちゃんと迷惑のかからない飲み方を覚えろってことでもあると思うけどね。マーガレットさんらしいわ」


 アドリアンに笑いながらそう言うセリルだが、目は笑っていない。


「ていうか、私も本当に呆れたんだから。アドリアンもエリーちゃんもレオナちゃんもこの三日間の禊ぎが終わったらしばらく禁酒よ!」


 その言葉にがくりと頭を垂れた三人だった。




 三日間の禊ぎはともかくとして、エレルでの一週間は平穏に過ぎた。

 レオナは短弓、長弓の練習も始めたが、なかなか上手くいかず、毎日セリルの指導を受けていた。

 エリアはアドリアンの大盾を使って大盾の練習を少ししたが、大きすぎてバランスが取れなかったらしく、今までの小盾よりは一回りだけ大きいものを鍛冶屋のランデルに作ってもらった。


「この盾、悪くないわ!」


 アドリアンにそう言いながら盾を見せる。

 明日、出発するということになっているので、今日はエレルにいることが出来る最後の日だ。

 一度出れば往復と向こうで隊商を待つ時間を考えると三週間は帰って来れない。

 その最後の日に、五人は魔の森の入り口にいた。


 少し大きくなったエリアの盾がどの程度実戦で使えるのかのテストと、レオナの弓がどの程度使えるのかのテストだった。


「魔物が現れたらまずはあちきが弓を試すニャ」

「その弓を合図にあたしが突っ込むわ。あたしは盾と剣でどこまでやれるか試してみるから、あんたはそれを掩護するのよ!」

「わかってるニャ!」


 エリアとレオナはそう言って連携を確認する。

 エリアが前線を作ってレオナがその掩護役になる形を実戦で試そうというわけだ。


「じゃあ俺たちは馬車役だな」


 アドリアンが笑いながら言う。

 勿論警戒はするが、アドリアンたちが手を出すことになったらテストは失敗、ということだ。


「馬車の馬の役の人は黙っていなさい!」

「あちきらにかかれば負けるわけないニャ!」

「へいへい、馬車の馬は黙らせて頂きますよ」


 苦笑しながらそう言ったアドリアンにユートが小声で話しかける。


「あの二人、随分と打ち解けましたね」

「そりゃあれだけ酒酌み交わしてりゃな。酒で一緒に馬鹿やって失敗して、それでも飲んでるうちに細かいことなんかどうでもよくなるもんさ」

「まあアドリアンは狙ってやったわけじゃないと思うわよ?」


 よくやっただろ、と言わんばかりの顔をしているアドリアンに、セリルが突っ込む。


「結果が良けりゃ何でもいいんだよ!」

「まあどっちにしてもよかったですよ。これでルーカスさんと心配していた、ルーカスさんが抜けた後の編成で悩まないで済みます」


 ユートは心底安心した。

 どうしても盾を持っているエリアとアドリアン、盾を持っていないユートとレオナを一人ずつ組ませないといけないのだが、そうなるとエリアとレオナが仲が悪くて組めないのは編成の自由度を損なうものだからだ。


「まあそれでもどう組ませるのが一番かと考えると難しいがな。ああ、こいつは俺が悩むことじゃねぇや」


 アドリアンはそう言うと、じっとエリアたちが連携を確認しているのを見守った。




 魔の森に入るとすぐに四匹の魔狐(ダーク・フォックス)に襲われた。


「おいおい、どうなってやがるんだ? まだ入って五分と経ってねぇぞ」


 アドリアンが毒づく。


「どういうことなんです?」

「いくら魔の森でもこんな入ってすぐのところに魔狐(ダーク・フォックス)の群れがいたんじゃ、近くの人は危ない気がするわね」


 セリルに言われて気がついたが、魔の森の入り口から五分もいかないところに麦畑があった。

 徒歩でたった十分の距離に魔狐(ダーク・フォックス)の群れがいたのでは、冒険者ならともかく専門に戦う技術を持たない村の人たちはおちおち畑も耕していられないだろう。


「まあこいつらが周縁部にたまたま出てきた可能性もあるけどな」

「それでも村の人が襲われる可能性を考えたら逃がせないわよ! レオナ、絶対倒すわ!」

「はっ、何を言ってるニャ? もとより逃がすつもりなんかないニャ」


 レオナはそう言うや否や、短弓につがえていた矢を放つ。

 続いてもう一本、更に一本。

 短弓ならではの速射だ。

 当たりはしないが、魔狐(ダーク・フォックス)を牽制するには十分だった。


「死になさい!」


 エリアはそう言うと抜き身の剣を振りかぶって魔狐(ダーク・フォックス)へ躍進する。

 そのエリアの動きに合わせてレオナは矢を放つ。


「ちょっと! 危ない!」


 何本か速射したうちの一本がエリアをかすめたのだ。


「ははは、悪いニャ……」


 そう言いながらレオナは次の矢を放つ。

 汚名返上とばかりに今度は魔狐(ダーク・フォックス)の背を捉える。

 一撃で倒せはしないが、明らかにその魔狐(ダーク・フォックス)の動きは鈍った。

 エリアはそれを見て、その魔狐(ダーク・フォックス)に止めを刺そうと駆け寄るが、他の魔狐(ダーク・フォックス)が横合いからエリアに噛みつこうとする。


「もう! 鬱陶しいわね!」


 そう言いながら、噛みつこうとした魔狐(ダーク・フォックス)を剣で振り払う。

 だが、そうしているうちに今度は残り二匹に囲まれてしまう。


「あちきの出番ニャ!」


 レオナは嬉しそうにそう叫ぶと、勇躍斬り込んでいく。


「おい、ちょっと待て!」


 慌ててアドリアンが引き留めるがもう遅かった。

 確かに一匹はレオナの必殺の一撃に頭を横から串刺しにされる。

 その間にエリアはもう一匹の首を斬り飛ばす。


 だが、残っていた一匹が分が悪い、と見たのかアドリアンたちの方を襲ったのだ。


(魔物ってどうも勇気があるというか、身の危険を顧みず人を襲うんだよな……)


 ユートが普通の生物との違いに思いを馳せている間にアドリアンが槍で一突きしてその魔狐(ダーク・フォックス)を仕留めている。

 そして、レオナの矢が刺さったままの残り一匹もエリアがきっちり仕留めて、四匹全て仕留めることに成功はした。


「……おい、レオナ。俺が言ったこと忘れてねぇよな?」

「……すまないニャ。エリアが引きつけてくれると思ったニャ」

「ちょっと、人のせいにしないでよ! あたしはあんたが後ろで待機してくれてるものと思ったわよ!」

「そんなことを言い合ってもしょうがないだろう」


 険悪な雰囲気になりそうだったのでユートが間に入る。


「ユート、あんただったらどうしてたのよ?」


 この中でいわゆる遠戦、近戦の両方をこなせるのはユートしかいない。

 だからなのだろうが、エリアはユートに話を振る。


「俺だったらまあ突っ込みはしなかったぞ」

「ほら、やっぱり!」

「エリアはそこまで器用じゃないのはわかってるつもりだからな」


 我が意得たりと喜びかけてユートに止めを刺されるエリアをレオナがにやにやと見ている。


「結局、レオナは馬車の馬(アドリアン)を守ることを考えたら突っ込むべきじゃなかった。エリアはレオナが突っ込んできた時点で魔狐(ダーク・フォックス)を倒すことより、後ろに行かせないよう引きつけることを考えるべきだったんだろう」

「でも……」

「あら、ユートくんの言うとおりじゃないかしら。本物の馬車じゃなかったから油断した、ってのもあるでしょうけど」


 セリルの言葉にエリアもレオナも何も告げる言葉はない。


「……気をつけるわ」

「わかったニャ」


 二人がユートの言葉に納得したので、ユートは次の獲物を求めて魔の森を進むことにした。



 その後も数回、魔狐(ダーク・フォックス)魔犬(ダーク・ドッグ)といった、そこそこ強い魔物の、小規模な群れとかち合い、そしてそれら全ては大きな怪我もなく倒すことが出来た。


「二人とも出たがり、倒したがり過ぎるんだよ……」


 何度やってもエリアもレオナも相手を倒すことを優先して、つい後ろに行かせてしまいがちとなっていた。

 セリルが言ったように、いくら馬車と思おうとしても、実際にはアドリアンなのだから、と考えているところもあるのかもしれない。

 練習で出来ないことは本番では出来ない、と言っても、この狩りそのものも命のかかった本番なのだ。

 だからこそ後ろがアドリアンなのだから、と判断しているとしても、命のやりとりの最中の判断である以上、そこまで強くは言えなかった。




 翌日、隊商がレビデムへ出発する直前、ユートはルーカスと話していた。


「なるほどな。それで俺にフォローを頼みたいのか」

「ええ、本当に出来ないのか、それとも馬車が本物じゃなかったから抜かれただけなのか、ルーカスさんがいなくなってからのことも考えると確認しておく必要がありそうなので」

「わかった。俺も帰り道はお前たち主体でやってほしいと思ってたところだ。それでいこう」


 ルーカスは馬車を危険に晒すかも知れない実戦テストにあっさり頷いた。

 それは経験の豊富な護衛(ガード)としてフォローを失敗はしない、という自信があるのか、それとも経験豊富な護衛(ガード)であるが故に一度くらいは失敗してもいい、という考えなのかはユートにはわからなかった。



「よし、じゃあレビデムへの護衛(ガード)だけど、今回はルーカスさんは戦力として考えちゃいけないらしい。要するに俺たち五人だけでちゃんと護衛(ガード)出来るか試すぞ!」


 ルーカスとの密談を終えた後、ユートは仲間たちにそう声を掛けた。


「任せなさい!」

「あちきには簡単なことニャ!」


 エリアとレオナが張り切ってそう答える。

 アドリアンとセリルはユートが何を考えているのか、何も話していないのにだいたいはわかっているようだった。


「じゃあエリアとレオナが前二台の馬車を、俺が中央で、セリルとアドリアンで後ろ二台の馬車を見てくれ。ああ、ルーカスさんは俺の馬車に同乗お願いします」


 最初にルーカスと考えていた配置とは少し違うが、ユートはレオナに出来るだけ掩護役の経験を積ませようと決めた。

 事情のわかっているルーカスが何も言わないので、反対する者はおらず、全員が受け持ちの馬車に散っていき、そして出発となった。


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