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異世界ギルド創始譚  作者: イワタニ
第二章 ポロロッカ編
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第018話 新しい仕事、新しい仲間

 翌日、ユートたち四人はプラナスの執務室にいた。


 ドルバックに頼まれた翻訳作業の後、ユートがプラナスに護衛(ガード)として誘われた顛末を説明した。

 エリアの父デヴィットのことをよく知っているアドリアンとセリルは、護衛(ガード)となることを快諾してくれた。

 むしろ安定する護衛(ガード)の仕事を紹介してくれることに感謝すらしていた。

 例え臨時の契約であっても、こうやって人脈を繋げることで次の仕事の選択肢が増えることに繋がるからだ。

 アドリアンたちも勿論、ギルドの創設は見据えているが、ギルドが出来ればその後のギルドの活動に人脈を活かせるし、そうでなければ自分の為に人脈を活かせると考えているのだろう。


「話はわかった。四人で組んで護衛(ガード)をやってくれ」

「プラナスさん……ありがとう」

「いや、礼を言うのはこっちだ。正直うちもそれなりの数の護衛(ガード)が死んでいるから中々編成に苦慮しているのだ。それを更に二人も腕利きを連れてきてくれたのは有り難い」

「それで、これからどうしたらいいですか?」


 ユートの問いにプラナスは頷きながら答える。


「とりあえず明日、エレルを発ってレビデムへ行ってくれ。この書状を本店に渡してくれれば、後は本店の方でうまくやってくれるはずだ」

「あら、ここから出る隊商の護衛じゃないの?」

「普段レビデムとエレルの間を行き来してる隊商はそのまま魔の森周縁の隊商に振り替えたんだ。そうせんと一部の村で物資不足が起きそうなのでな。だからレビデムに行ってこちらに向かう隊商を護衛して欲しい」

「わかったわ」

「ちょっと待って欲しい。えっと、プラナスさん、護衛するのは俺達四人なんですかね?」


 それまで黙っていたアドリアンが口を開いた。


「いや、レビデムでも冒険者は集めてもらっとるよ」

「……疑うような言い方で申し訳ないんだが、それは信頼できると考えていいんですか?」

「……デヴィット先生の弟子筋にあたるお主がそう言うのもわからんではない。だが、集めているのはエリック・パストーレ代表だ。わしもそうだが、あの人もデヴィット先生の事件で信頼できない護衛、連携できない護衛の怖さはよくわかっている」

「それならいいんですが……」

「まあお主らは正式にはレビデムに行ってから契約、ということになる。仲間に信頼が置けんと思ったら、そこで契約を蹴ってくれて構わん」

「わかったわ。プラナスさんに迷惑は掛けたくないけど、命には替えられないもの」

「ああ、それでいい。正直に言えばわしもエリアやエリアの友達たちを失いたくはない」


 プラナスはそう言うと笑みを浮かべた。

 山賊のような凶相で浮かべた笑みは、アドリアンとセリルを引かせるだけの迫力があったが。




 翌朝、エレルを発った四人は、何度か魔物と遭遇しながらも大事に至らずに数日をかけてレビデムまで到着した。


「それにしてもユートの剣は既に一流だな」

「魔法もあたしより精度高いんじゃない?」


 久々にユートと共闘したアドリアンとセリルは賛辞を送る。

 この半年でユートは自分が審判神と世界神から与えられた自分の能力を概ね理解していた。

 要するに生まれもって何かの才能を持っているというより、努力をすれば常人よりかなり早く上達する、というものらしい。

 魔法にしても練習すればするほど精度が向上しているし、剣に至ってはアドリアン、エリアより上を行くようになっている。

 そうしてすごい速さで上達していくユートは、アドリアンたちにとっては天才のように見えるらしい。

 自分は練習して努力していると思っているユートからすれば、天才というのもどうなのか、と思うところではあったりするのだが。


「そうですかね? まあ日々努力していますから」

「そういえばユートって毎日素振りは絶対に欠かさないわよね」

「あら、それは初めて聞いたわ。アドリアンもしっかりしなきゃ」

「うるせ。俺は俺でしっかり訓練してるっつーの」


 そんな他愛ない会話をしながらレビデムの門を潜った。

 今回も関税がかかる物は持ち込んでいないのですぐに通される。

 そのままパストーレ商会の本店に向かう。


「何だニャ?」


 パストーレ商会の前に着くと、目つきの鋭い獣人の少女がいた。

 ユートと同じ黒髪からは、内側の白い毛が目立つ猫のような耳がのぞいており、革のジャケットと、綾織りの布地でできたズボンをはいているのに、黒くて長いしっぽが揺れている

 そして、その猫の獣人は身長はさほど高くないのだが、全身の毛を逆立てて怒る猫のように、不機嫌なオーラを出していた。


(うぉ、猫の獣人かよ。こっちの世界にきて初めて見たけどすごいな……人間と猫とどっちもの特徴を併せ持ってるしすごいな……)


 ユートは内心で初めて見る獣人に驚きとうれしさを隠せなかった。

 それは異世界に来て、魔法と並んで異世界らしいものを見た感動、と言ってもよいし、獣人や魔法が好きな元サブカル好き大学生の感動と言ってもよい。

 この半年、異世界に慣れてしまったユートにとっては久々の感動だった。


「エリック・パストーレ代表に用があってきた。通せ」


 アドリアンはそんなユートの内心など当然知ることもなく、押し通ろうとした。


「待つニャ。誰かも聞かずここは通せないニャ」

「エレルの支配人プラナスさんから書状を預かってきたエリアよ。こっちはユート、アドリアン、セリル」

「わかったニャ。取り次いでやるニャ。それにしても四人もいて伝書使の仕事なんかやってるのかニャ。あちきみたいに護衛(ガード)の仕事を受けられるのは何時の日になることかニャ」


 その物言いには、明らかに嘲りの成分が含まれていた。


「おあいにく様。護衛(ガード)の仕事をしに来るついでに頼まれただけよ」

「おう、エリアか」


 エリアが怒気を含ませた声でそう答えた時、その獣人の後ろからパストーレが声を掛けた。


「何をやっているんだ?」


 そう言いながらエリアとその獣人を見回す。


「何でもないわ。自己紹介をしてただけです」

「そうか」


 エリアの含みのある答えにパストーレは何も問わず、エリアから書状を受け取る。


「急ぎか?」

「あたしたちが護衛(ガード)をやるって話です。第一報は届いていますよね?」

「ああ。こっちでも冒険者を集めているところだ。その関係ということなら今すぐ読ませてもらおう」


 パストーレはその場で書状を開けて読む。


「わかった。契約の話は今から出来るか?」

「はい、大丈夫です」


 エリアがそう言うと、パストーレは四人を中に招き入れた。




 契約交渉そのものはすんなりと終わった。

 パストーレ商会としても護衛(ガード)のやりくりが苦しい状況で、魔法使い二人を含む冒険者四人を手に入れられるなら、多少契約に色を付けることはやぶさかではない。

 エリアたちからすればある程度、世話になっているプラナスやパストーレを助けるという意味でもそこまで金額に拘るつもりもない。

 結果、一往復で一人百万ディールに加えて護衛(ガード)用の馬車一台の貸し出し、食糧はパストーレ商会持ちの臨時雇い、ということで落ち着いた。

 一往復は買い付け、通り道の村での市の開催、往復、そして休暇を含めてちょうど一ヶ月となるので、月給百万ディールと言い換えてもいい。


「よし、では明日の朝、隊商の責任者と顔合わせを行おうと思う。それと、今から君たちと組む予定の冒険者を紹介する」


 パストーレはそう言うと、呼び鈴を鳴らすと、すぐに秘書らしき女性が部屋に現れて用件を聞いた。

 そして、彼女は一人の男を連れてきた。

 長身でそれなりにがっしりしている体型だが、だからといって大柄というほどではない。

 栗毛の髪は短く刈り込んでおり、精悍で実直な青年、といった印象をユートたちは受けた。


「レオナは?」


 パストーレの問いかけに秘書は困り顔となった。


「すぐに行くとのことでしたが……」

「まあいい。紹介しよう。うちの護衛(ガード)の中でも最優秀の一人であるルーカスだ」

「ルーカスだ。最初の往復だけになるが、宜しく頼むよ」


 パストーレに慣れない護衛(ガード)素人たちをそのまま送り出すつもりはない。

 パストーレ商会の元々の方針で言えば、パーティを護衛(ガード)素人で組むことすらやらないのだが、それは隊商が壊滅した緊急事態ということでやむを得ないとしても、指導出来るベテランを付けることは譲れなかった。


「それと、うちの護衛(ガード)は五人一組なのであと一人、そこそこ腕利きの冒険者を加えようと思ってたのだが……」


 パストーレがそう言った時、勢いよく扉が開いた。


「呼んだかニャ? 獅子の子レオナ、参上だニャ」


 色んな意味で空気が読めないレオナに、空気が凍った。


「……こいつがもう一人の冒険者、ですか?」


 虚を突かれたせいもあってつい嫌そうにそう言ってしまったアドリアン。

 エリアも同じようなオーラを出している。


「ああ。協調性にやや難があるが、実力は確かな冒険者だ。デヴィット先生を死なせることになってしまったことを考えると、どう考えてもエリアには腕利きの冒険者を付けたくてな」


 パストーレは満足そうに言う。

 その表情を見る限り、レオナの腕には相当の信頼を置いているのが見て取れた。

 ただ、プラナスの反応を見る限り、エリアの父が死んだのは単に腕が無かっただけではなく、周囲との信頼や連携といったものがなかったから、という面もあるのだろうと思っていたが、それは共有されていなかったことにユートは困惑した。


 そんな困惑するユートを尻目に、エリアがつかつかとレオナに近づいた。


「あんた。さっきは偉そうにベテランの護衛(ガード)みたいな言い方して! あたしたちと同じぺーぺーじゃない!」

「別にあちきはベテランだなんで言ってないニャ! そっちが勝手に勘違いしただけニャ!」

「何よ! その屁理屈。思い切り上から目線でお前ら伝書使かーって言ってたくせに!」

「誤解だニャ!」

「だいたい何よ! 獅子の子って! あんたどう見ても猫じゃない!」

「誰が猫だニャ! あちきは獅子の子だニャ!」


 言い争いを始めた二人を呆気にとられてみていたパストーレだが、すぐに大笑した。


「ははは、仲が良いな」


 空気が読めていないのか、それとも極限に空気を読んだ結果、そういうことにしたのかはユートにはわからないが、ともかくパストーレのその一言で二人がようやく言い争いを止める。


「では明日の朝一番で隊商の責任者と顔合わせをしよう。ああ、宿はいつものところを手配しておく」


 それだけ話したところで、パストーレの秘書が、次の予定が、と口に出したのでユートたちはわだかまりを残したまま辞去することになった。




「で、なんでこいつと一緒にご飯食べなきゃいけないのよ」


 パストーレ商会から出た時、既にすっかり日が暮れていたので、そのまま夕食となったのだが、そこにはユートたち四人に加えてルーカスとレオナの姿もあった。


「それはあちきの台詞だニャ」


 エリアの言葉にレオナが立ち上がりかける。


「やめろ、お前たち」


 アドリアンがそう言いながらエリアの頭をぽん、と一つ叩いた。


「依頼者から組むように命令されたんだ。文句言うな」

「それはあちきに文句あるってことかニャ!?」

「あるに決まってるだろう。こっちはお前より冒険者歴長いんだぞ?」

「だからどうしたのかニャ? 長く続ければえらいなんて稼業でもないニャ」


 止めに入ったはずのアドリアンまでがレオナとの言い争いに参戦する。


「ちょっと、アドリアンさんもエリアも落ち着いて。あと、レオナだっけか? 喧嘩したいならこの護衛(ガード)絶対失敗するぞ。それなら今からでも遅くはないし、編成を組み直してもらおう。ルーカスさん、出来ますよね?」


 ユートが割って入ってヒートアップする三人もなだめながら、ルーカスに訊ねた。


「……正直に言えばやめてほしいが出来るな。連携が取れていて実力のある冒険者が四人いるなら、俺かベテランの一人を加えればいいだけのことだ」


 そうは言いながらも、暗にどうにかしてくれ、という視線をユートに向けるルーカス。

 そしてその言葉を聞いてレオナの視線も泳ぐ。


「ともかく、俺は護衛(ガード)には失敗したくない。エリアだってアドリアンさんだってそうだろう?」

「……そうね」

「勿論だ」


 ユートはそこでレオナの方に視線を移す。


「レオナは?」

「……あちきも失敗はしたくないニャ」

「じゃあやることは一つだな。俺たちみんなで護衛(ガード)としてやっていくしかない。ここまでの諍いは捨てようぜ」

「……異論はないニャ」

「エリアもいいか?」

「……いいわよ」

「俺も異存はない」


 不承不承、三人とも頷く。


「ああ、お互いの戦い方も確認しておいた方がいい……ですかね?」


 三人が黙ったのを見てユートがルーカスに訊ねた。


「そうだな。ついでに自己紹介もした方がいい。俺から自己紹介しよう。名はルーカス、武器は片手剣で、大盾を一緒に使う。魔法は一切使えん。護衛(ガード)を始めて五年ほどといったところだ」

「次は俺だな。名はアドリアン、エレルの出身だ。武器は何でも使えるが、主に槍と大盾の装備が多い。魔法は無理だ。冒険者そのものは二十年ばかし、ここ十年以上は狩人(ハンター)稼業をやっている」

「おお、俺より先輩か」


 アドリアンがルーカスに続けて自己紹介すると、ルーカスはそう返した。

 それにセリルとエリアも倣う。


「私はセリル。武器は短弓と長弓の両方を使うけど、メインは火魔法ね。火治癒ファイア・ヘモスタシスも使えるわ。狩人(ハンター)始めて三年、冒険者始めて七年になるわ」

「あたしはエリアよ。武器は片手剣で小盾も装備するわ。魔法は無理よ」


 そして、いよいよレオナの番となる。


「あちきは獅子の子レオナだニャ。武器は鎧通しパンツァーシュテッヒャー、盾は持たないで戦うニャ。魔法は勿論使えないニャ」

「パンツァーシュテッヒャー? なんだそりゃ?」


 レオナの言葉にアドリアンがすぐさま訊ねる。


鎧通しパンツァーシュテッヒャー鎧通しパンツァーシュテッヒャーニャ。現物を見てもらった方が早いニャ」


 そう言うと、さっと腰に下げていた剣を抜き放った。

 長さは一メートルと少しといった長さのその剣は、幅が五センチあるかないかの細身の剣だった。


「これは……刺突剣(レイピア)か?」

「違うな、ルーカス。こいつは両手持ちだろう?」

「そうニャ。両手持ちで戦うニャ」


 アドリアンの言葉にレオナが頷く。


「なるほど……短剣(ダガー)で相手の攻撃をいなして戦うわけではないんだな。これで魔物と戦えるのか?」

「忍び寄って急所をぐさり――だニャ」

「なんつーハイリスクな戦い方をしやがるんだ。こりゃ北方の剣だろ? こっちにも似たような鎧通し(タック)って剣はあるし、俺も一本持ってるが、こいつは魔物には不向きすぎるぞ」

「それは腕でカバーだニャ。あちきのことはもういいニャ」


 レオナはそう言わなければ恐らくアドリアンは更に食いついていただろうと誰もが思っていた。


「もしかして、アドリアンって武器が好きなの?」

「もしかしなくても、よ。そうじゃないとあんな沢山の武器を集めたりしないわ」


 セリルとエリアが小声でそんな会話をしていたが、珍しい武器と珍しい戦い方をする剣士を前にアドリアンは全く気付いていなかった。


「それで最後はそっちの黒髪だニャ」

「あ、ああ。名はユート。武器は片刃の片手半剣を使う。魔法は火魔法を一通り、火治癒ファイア・ヘモスタシスも使えるな」

「魔法使いながら剣を使うとは珍しいニャ。剣の方はちゃんと使えるのかニャ?」

「一通りは使えるつもりだよ」

「……まあいいニャ」


 そう言いながら、レオナは一同を睥睨した。


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