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白馬のおうじ様誘惑作戦  作者: 宮月
5/10

5.凰士

 あぁ、せっかくのところを邪魔されて、今日も一人寝。いつになったら、白雪と一緒に朝を迎える事が出来るのだろう?それにしても、美姫は何を考えているんだろう?俺の事が好きなんて、あり得ないだろう。美姫は、彼の事が好きなんだろう。それなのに・・・。何を企んでいるか、わからないが、白雪にだけは手出しはさせない。まぁ、美姫に荒っぽい事が出来るとは思えないが・・・。


「おはようございます。」

 月曜日の朝、学生時代は白雪に会えない日の始まりで憂鬱の極みだったのに、今はどうだろう。仕事中、一緒にいられるし幸せな日々が続いている。

「おはよう。」

 いつ見ても白雪は特別綺麗だ。隣にいる沙菜恵さんもいつもと変わらない顔をしている。よかった。

「金曜日と土曜日はありがとうね。凰士くん。お陰ですっきりしたわ。」

「それなら、よかったです。」

「えっ、何、何?」

 席に辿り着いたばかりの美人さんが顔を出す。挨拶もなしに、話に食いつくとはさすがだと思わざるを得ない。

「元彼よ。浮気かと思ったら、本気だったの。金曜日に別れて、さっそく土曜日に引越ししちゃった。その手伝いを凰士くんと白雪、凰士くんの友達の道路くんがしてくれたの。」

「それはそれはご苦労様。どう?新しい彼氏は出来そう?」

「近いうちに。」

「近いうちに?」

 白雪と美人さん、俺の声が重なる。

さすが立ち直りの早い沙菜恵さん。それにしても早過ぎるだろう。

「ちょっと、良い感じの人がいるのよ。彼も失恋したばかりだから、慰め合ったりしちゃうかも。」

「それって、バレバレ。」

 白雪が呆れた声を出し、俺に視線を向ける。

「結構タイプなのよ。顔は別としても、性格は合格点かな。」

「はい、はい。頑張ってください。」

 投げ遣りに呟く白雪。

「私だけどんな人なのか知らないのって、贔屓よ。紹介しなさいよ。」

「じゃあ、後で飲みに行きましょう。あっ、でも、美人はなぁ。」

「メンクイじゃなければ、大丈夫よ。」

「それって、私がイケていないみたいじゃない?酷い人ね。」

 穏やかに笑いが起こる。あぁ、いつもの会社の風景だ。落ち着くなぁ。

「で、白雪は・・・。」

 美人さんが白雪と俺を交互に見比べる。

「ごめん。何でもないわ。」

 一人納得して、言葉を切る。

「美人って、性格悪い。」

「あら、白雪は知っていると思ったわ。承知の上で友達やっているんじゃないの?」

「類は友を呼ぶよ。」

「あら、それって沙菜恵も入っているのよ。」

「そうよ、私、自分が性格良いとは思っていないもの。あら、白雪は自分が性格美人だと思っていたの?嫌だ嫌だ。」

「じゃあ、凰士も性格が悪いのかしら?」

「白雪の影響を受けているからね。」

「私達とつるんでいるんだから、良いとは言い難いかもね。」

 大きな笑いが起こる。事務所にいる他の方々がこちらに振り返る。少しだけ羨望の眼差しが俺に向けられた。


 お昼近くに美姫から、夕食の誘いメールを貰った。何故か、白雪も一緒にとの事。何を考えているんだろう?まぁ、きっと美王も一緒だから、おかしな事にならないだろうけど。

「白雪、ごめんね。」

「何が?」

「美姫だよ。」

「あぁ、気にしなくてもいいわよ。」

「美姫が暴走しようとしたら、美王と二人掛かりでも止めるから。安心していいよ。」

「美姫はそんな危険な事をするタイプじゃないわ。裏工作は得意かもしれないけど。」

「その根拠は?」

「凰士、前に言っていたじゃない。私は、男を見る目はないけど、女を見る目はあるって。そうでしょう?」

「いや、男を見る目も良くなったよ。俺を選んだからね。」

「自分で言わないの。」

 白雪が口元に手を当て、笑っている。あぁ、何て可愛いんだろう。

「ねぇ、美姫と美王って、兄妹?」

「血の繋がりはないけど、一応、兄妹になるのかな?」

「血の繋がりがない?」

 首を捻りながら、俺を見上げる白雪。今すぐに抱き締めて閉じ込めたいくらい、可愛い。

「美王の父親は、美姫の父親の会社、プリンスグループの配送部で一緒に働いていたんだ。学生の頃からの親友で、働き出してからも仲良くしていた。俺の父親とも仲が良かったんだけど、ね。でも、美王の両親は、美王が六歳の時、事故で亡くなった。美姫の家と俺の家、どちらかで引き取ろうという話になったんだ。で、男の子のいない、美姫の家に引き取られ、養子として、美姫と育った。」

「そういう事ね。」

 白雪が複雑な表情で頷く。

「美姫の両親は、美姫と美王を分け隔てなく、育てていたよ。でも、何故か美姫だけが我儘っ子になったんだよな。美王が甘やかした責任が大きいだろうな。」

 白雪が言葉を飲み込み、無言のまま。

「駅前だよね、待ち合せ。」

無理矢理作ったと思える笑顔で俺を見上げる。これで美王と美姫の話は終わり。そう、暗に伝えていた。

「あぁ、いた、いた。」

 俺が指差す先には、外車。その横に美王が立っている。

「待っていたよ。」

「美姫は?」

「自宅で夕食を作って待っているよ。」

「美姫が?」

「いや、正確に言うと、作っていない。並べていると言った方が正解だろうな。」

「つまり、買った物?」

「買ったと言うのは正しいのか?家のシェフを連れてきて、作ってもらっている。」

「なるほどね。」

「お腹を壊す心配がなくて、安心したよ。」

「伝えておく。」

 美王が砕けた笑みを浮かべる。

「いや、やめておこう。恐ろしい事に巻き込まれるのは、御免だからね。」

「火が点いたように怒鳴りそうね。」

「火ならまだ良い。爆発物並みの威力を持つよ。おぉ、怖い。」

 おどけた顔で微笑む美王。

「さぁ、乗って。出来れば、白雪は助手席に乗って欲しいな。」

「何で?」

 どうして、俺の白雪を俺以外の運転する車の助手席に乗せなければいけないんだ?

「あぁ、わかりました。本当に、白雪の事となると、凰士は怖いね。」

「わかってくれて、嬉しいよ。」

 そんな遣り取りを白雪はくすくすと笑いながら、見ていた。

と、言う事で、白雪と俺が並んで後部座席に腰掛ける。

「美王の部屋?」

「そう。」

「美姫は一緒に住んでいないんだろう?」

「実家に住んでいる。でも、事実上は俺の部屋に入り浸り。」

「美王が甘やかすからだろう。」

「だってさ、美姫、可愛いだろう。だから、ついつい言う事を聞いちゃうんだよな。」

「そのとばっちりを受ける、こっちの身にもなって欲しいよな。」

「はい、はい。」

 美王が投げ遣りな返事。反省の色はまったくと言っていいほどない。

「白雪。」

 美王がバックミラーで白雪に視線を送る。

「何?」

「白雪の元彼、同棲していた相手と別れたって、知っている?」

 コイツ、何を急に言い出すんだ?今の白雪にはこれっぽちも関係ないだろう。俺という恋人がいるんだからさ。

「あぁ、そうなんだ。どうせ、浮気が原因なんでしょう。」

 白雪は顔色一つ変えない。もう、未練なんてないんだよな?

「その通り。さすがだね。」

「どうして、美王がそんな事を知っているの?友達?」

「いや、俺の出入りしている会社に彼が警備員として勤務しているんだ。それで、少しだけ話をした事があるだけ。で、俺がプリンス系列に勤めていると知って、白雪の話が出たんだよ。それで。」

「何て言っていたの?」

 白雪の声が強張る。きっと、別れの原因を思い出しているんだよな?それだけなんだよな?未練じゃないよな?

「あんなに良い女はいなかったって。別れた事に後悔していたよ。」

「そう、いい気味ね。」

「もし、やり直したいと彼が言ってきたら?」

「こっ酷く振ってやるわ。」

 あぁ、良かった。白雪は未練がないみたいだ。やっぱり、俺の白雪。

「それ、正解だね。さぁ、俺の部屋に着いたよ。美姫が首を長くして待っているだろう。」

 美王の部屋は、俺の部屋より大きい。リビングダイニングの他に、二つの部屋がある。美姫が泊まれるように、広めの部屋にしたらしい。本当に美姫思いだ。

「いらっしゃい。」

 玄関を開けると、美姫が真っ白な格好で現れる。スカートが極端に短く、胸元の開いたシャツ、レースがたっぷり使われたエプロン。雪の中に立ったら、見付けられる自信はない。

「待っていたのよ、凰士。」

 俺の腕にしがみ付き、上目遣いに俺を見つめる。

あぁ、白雪にこんな風に出迎えられたら、燃えるんだけどなぁ。美姫じゃ、な。

「白雪、こっちだよ。」

 さり気なく、いや、絶対にわざと白雪の肩に触れ、リビングに案内する美王。

もしかして、白雪を狙っているのか?冗談じゃない。

「白雪に触るな。」

 俺は美姫の腕を振り払い、白雪の肩を抱く。頬を膨らませる美姫と苦笑を零す美王。

「ヤキモチ妬きの彼氏を持つと、白雪も大変だね。」

「今は嬉しいわよ。大切にされている証拠だもの。ねぇ、凰士。」

「うん。俺には白雪だけだよ。」

 よかった、白雪はわかってくれる。俺の白雪には誰も手を出させないぞ。

「うわぁ、凄い。」

 リビングには、テーブル一杯の中華料理が並んでいる。

「飲み物は、ウイスキーでいいよね。帰りは、俺が送り届けるから、二人とも飲んでよ。」

「あり難い申し出だけど、それじゃ、美王が飲めないじゃない。」

「あっ、俺、下戸なんだ。だから、安心して、飲んで。」

「じゃあ、少しだけ。」

「飲み過ぎるなよ。」

「うん。」

 白雪が俺を見上げ、大きく頷く。あぁ、素直でとても可愛い。さすが、俺の白雪。

「あっ、私、ウイスキーを作るわ。」

「いいわよ。白雪と凰士はお客様なんだから、私達が用意するわよ。」

「薄くしてね。」

「わかったわ。」

 やけに美姫の行動が怪しい。素直過ぎるのが、怖い。

美王に烏龍茶、俺達にウイスキーの烏龍茶割を手渡し、グラスを上げる。

「乾杯。」

 グラスに口を付け、それぞれに料理に手を伸ばす。

「美味しい。」

「だろう。」

「家のコックは和洋中、何でも美味しいの。自慢のコックよ。」

「だから、美姫は料理が出来ないままなんだな。嫁に行く時はどうするつもり?」

「ご心配なく。コックがいるようなお家にお嫁に行くから。凰士の家なら安心だし。」

「残念でした。俺、白雪と結婚すると決めているから、美姫の出番はないよ。手料理を食べたいからね。」

「その言い方だと白雪は料理が出来るの?」

「あぁ、出来るよ。凄く上手い。」

「上手いと言われるほどじゃないわよ。作れるのは家庭料理だけだから。」

「ふん。」

 美姫が鼻を鳴らし、負けを認めたらしい。ウイスキーを飲み干し、新しいのを作る。

「あぁ、凄く美味しい。」

 隣に座る白雪の頬が真っ赤に染まっている。

「白雪、平気?飲み過ぎじゃないの?」

「そんな事ないよぉ。だって、未だ二杯目だよ。酔ってもいないよぉ。」

 あぁ、口調が完全に出来上がっている。本当に弱いくせに、お酒好きというのは、矛盾していないか?

「白雪、本当に少し酔っているようだね。少し、休んだ方がいいんじゃないか?」

「だいじょうびゅだって。」

「帰りに車の中で吐かれたら嫌だから、休もう。未だ時間も早いし、少し横になりなよ。」

「うぅん。ちょっと眠くなってきちゃったから、お言葉に甘えちゃおうかな。」

 美王と白雪が立ち上がり、隣の部屋に移動する。

俺も行くと言いたかったが、美姫にしっかりガードされ、言葉を発する隙も与えてもらえない。ドアが閉まる音に交じって、美姫の話し声が続く。何の話をしていたのか、さっぱり記憶にない。

「ねぇ、凰士。こっちの部屋に見せたい物があるの。来て、来て。」

 そんな感じで、俺も腕を引っ張られ、白雪とは別の部屋に引っ張られる。

「ちょ、ちょっと、美姫。」

「見て、凰士。綺麗でしょう?」

 美姫がベッドに腰掛、掌の中に包み込んだ物を俺に見るように促す。

「何が?」

 仕方がないので、美姫の傍に寄り、掌を覗き込む。

「ほら、ここに座って。そうじゃないとよく見えないよ。」

 美姫が首で自分の横を指差す。俺は素直に従い、隣に腰掛ける。

「で、何?」

 掌を開け、中から出てきたのは、クリスタルで出来た七人の小人のレプリカ。

「ふぅん。」

「お父様のお土産なの。可愛いでしょう。」

「美姫ってそういうキャラだった?」

「綺麗で可愛い物は好きよ。女だもん、当たり前でしょう。」

「あぁ、そう。」

 気のない返事をする俺に、不満顔。

「そんなに白雪が心配?」

「当たり前だろう。」

「ふぅん。大丈夫よ。美王が優しく介護してくれているわ。きっと、今頃、楽しんでいる。だから、私達も楽しもう。」

 何を楽しんでいるんだ?そう口を開く前に、美姫に抱きつかれる。それと同時にベッドに倒れこんだ。

「ねぇ、凰士。あっちに負けないくらい、私達も楽しもう。」

 俺を見下ろして、にっこりと笑みを零す。

「何を?」

「男と女がする事は一つでしょう。」

 唇が近付いてくる。俺は、両腕で美姫の肩を掴み、動きを止めた。

「何で拒否するの?あっちだって、楽しんでいるのよ。あぁ、それとも白雪が凰士以外の男、美王の腕の中で乱れるのを見たい?それを見ながら、こっちも見せて、楽しむのもいいわね。ちょっとスリリングで。」

「白雪がそんな事を受け入れるはずがない。」

「でも、美王も男よ。最初は抵抗するでしょうけど、押さえ付ける事くらい出来るわ。」

「白雪。」

 俺は美姫を振り払い、走り出した。

また、白雪を危険に晒してしまったのか?怖かったとあんな風に泣かせてしまうのか?こんなんじゃ、俺、白雪を守れていないじゃないか。

「白雪。」

 白雪と美王が入った部屋のドアを勢いよく開けた。そこには、ベッドに横たわる白雪と、そんな白雪に顔を近付けている美王の姿。まるで、白雪姫が王子様にキスされるシーンじゃないか。その役は俺のだ。

「あっ、凰士ぃ。」

 美王が振り返ると同時に、白雪が起き上がり、ふにゃあ笑う。

「大丈夫か?白雪。」

「何がぁ?私、気持ち良く寝ていただけだよ。でも、凰士が一緒の方がいいな。」

 俺がベッドの横に跪くと、白雪が腕を伸ばし、俺の身体を抱き寄せる。

「白雪?」

「へへぇ、私の凰士だ。」

 真っ赤な顔で子供みたいな笑みを零しているのが、声から判断出来る。完全に酔いに身を任せている状態だ。

「美王に何もされなかったか?」

「何を?」

「キスされたり、それ以上の事をされたり。」

「ううん。私、眠くなっちゃって、ベッドに横にならせてもらったの。それにね、美王がそんな事するはずないじゃない。」

「そうだね。」

 小さな子供にするように、頭を撫ぜてやる。

「凰士ってば、いつの間に、そんな大きな手になったの?私に断りもなくぅ。」

「はい、はい。」

 美王が苦笑を浮べながら、俺達を見ている。ドアの横には、怒りを抱えたままの美姫の顔も見える。

「帰ろうね、白雪。」

「うん。凰士と帰る。」

 白雪をお姫様抱っこして、立ち上がる。

「送っていくよ。」

「いや、いいよ。タクシーでも拾う。」

「あぁ、そうか。わかった。」

 美姫と美王が結託していると少し考えればわかる事なのに、振り回されてしまった。

本当に美姫は俺を?そして、美王も白雪を?二人の考えている事はわからないけど、俺は白雪と別れたりしないから。白雪だけは守るから。やっと、手に入れたんだ。


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