2.白雪
今回は、白雪視点です。
微妙に下世話な話題だけど、恋人同士には大切だよね?
あぁ、どうして、女三人が集まると、こう賑やかになるのだろう?
これに吹雪が加われば、怖いモノ知らず。まぁ、その上をイク人物も知っているけど…。
凰士も今頃、吹雪に何を言われているんだろう?盛り上がっているかな?
「白雪、どうしたの?何処か別の場所にいっちゃった目をしているわよ。」
三人が集まると当たり前のように行くイタリアンレストラン。ほとんどが女性客で、ここと同じように盛り上がっている。
「もしかして、凰士くんの事を考えていたの?熱いわねぇ。」
「違うわよ。ここはいつも賑やかだなって見回していただけ。」
「あぁ、そう。」
途端につまらなそうな表情をする二人。これでいいのか?この二人は。
「ねぇ、二人に相談なんだけど。」
「何?」
沙菜恵が妙に真剣な表情で、美人と私に視線を向けてくる。私達はそれに食いつき、テーブルに身を乗り出した。
「最近、彼の帰りが妙に遅いのよ。それに、Yシャツから甘い香水の香りがするの。決まって、帰りが遅い日に。もしかして、浮気でもしているのかしら?それとも商売女に入れ込んでいるとか?」
「彼には問い質したの?」
「会社の接待で、オネエちゃんがいる店に行ったんだと言い訳しているけど…。」
沙菜恵が眉間に皺を寄せ、いつになく真剣な顔。
「彼の仕事って何?」
さすが美人。そういうのを見極める能力を備えているのね。
「普通の会社員よ。」
「微妙なところね。で、その香水はいつも同じ?キスマークとかは?」
「どうなんだろう?ほら、薄く残っているだけだから、彼の匂いの方が強いし、同じ香水かは判別不可能。キスマークとかはないわね。」
「沙菜恵とかのエッチは?回数が減ったとかお座成りになったとか変化はない?」
「付き合い始めの頃に比べれば、回数も減ったし、たっぷりの愛撫とかはなくなったけど、それほど大きな変化はないわね。」
女同士の会話って、時々、平気で凄い事を言う。まぁ、この二人の場合、特にかもしれないけど。
あっ、言っておくけど、私が特別上品とかじゃないわよ。あくまで周りから聞いたら、そう思うだろうって事。
「微妙ね。」
「そうなのよ。」
美人が神妙な顔で頷き、沙菜恵も賛同。私は過去の事もあり、黙っている事にする。
「ねぇ、白雪。前の彼の時は、どうだった?三度も浮気を発見したんでしょう。」
あぁ、よく憶えているわね。感心させられるわ。忘れてしまいたい記憶なのに。
「アイツはバカ。街中で鉢合わせの回数が三回よ。疑いとか探りとかは全くなしで、ある日突然発見よ。」
「あぁ、そうなんだぁ。じゃあ、お話にならないわね。」
返す言葉もございません。
「ねぇ、沙菜恵は、彼の浮気を発見したいの?それとも彼が浮気していないと信じたいの?それによって、対応が違うと思うけど。」
「もちろん、してないと信じたいわよ。でも、その可能性が目の前にチラつくのよ。正体を確かめたいじゃない。」
「じゃあ、良い方法を教えてあげるわ。」
「えっ?何、何?」
そこまでして、見付ける必要があるんだろうか?
まぁ、沙菜恵がぐずぐず悩み続けるのも嫌だから、気が済むまでやった方がいいのかな?
「携帯を覗き見なさい。あと、お財布も。そうすれば大体わかるわ。」
「お風呂に入っている時とか?」
「そうそう。携帯に見慣れない名前やイニシャルがあったら、怪しいわね。お財布はレシートを残しているかもしれないし、商売女なら名刺があるかもしれないわね。」
「美人、よく知っているわね。」
「このくらい常識よ。」
腰に手を当て、偉そうな美人。そのくびれが羨ましいですね。
「それで、もし、あったら?」
「携帯番号は控える。怪しいレシートは奪い取る。名刺と領収書はばれるから、メモを取りなさい。」
「はい。」
「もし、そうなったら、もう一度、指示を与えるわ。大丈夫、私、これで何度か浮気を発見して、上手に謝らせているから。」
美人は一体どんな人と付き合ってきたのだろう?きっとルックスの良いモテる男ばかりだったのだろう。その何度かの浮気は、一人の人、じゃないだろうな。
「まぁ、浮気の一回や二回は許しなさい。本気になっているようなら、別れなさい。彼の心が戻ってくる事はないから。私達、まだ若いんだもん。次を探さなくちゃね。」
美人がにっこりと微笑むと、沙菜恵も安心したのだろう。笑みを零した。
「その点、白雪はいいいわよね。」
「そうね。凰士くんが浮気するはずがない。白雪大好きだもんね。」
「そうかしらね?」
最近、ちょっと疑い始めている。三か月も付き合っているのに、凰士はベッドに誘ってくれない。何度か、誘惑の視線を送ったけど、反応なし。もしかして、付き合い出した途端、興味がなくなったのかな?
「白雪?」
不思議そうに首を捻る二人。
私は届いたばかりのパスタに手を伸ばし、誤魔化してみる。
「そう、私の話も聞いて。」
不穏な空気が流れたのを察知して、いち早く回避の道を見出したのは美人。
「最近、彼ったら凄くって。」
「何が?」
さっきまで萎んだ表情をしたいた沙菜恵が、途端に興味を表立たせる。わかりやすいなぁ。
「決まっているじゃない。」
あぁ、やっぱり、そうですか。
「会える回数は相変わらずなんだけど、その分一回で愛してくれるって言うか、もう疲れ果てるくらい。」
「あぁ、ようございました。」
投げ遣りの返事しか出来ないわよ。そうでしょう?皆様!
「あら?意外ね。白雪がそんな返事なんて。マッサージが上手い凰士くんなら、さぞや楽しませてくれるんじゃないの?それに、あんなに白雪大好きなんだもん、ねぇ。」
「そうそう。」
失敗したなぁ。二人の興味が完全にこっちに向いちゃったよ。
「もしかして、上手くいってないの?」
「付き合い自体は順調よ。帰ってから電話で話をするし、週末にはデートよ。」
「そうだよねぇ。」
「あんなに毎日顔を合わせているのに。」
妙に納得する美人と、呆れ顔の沙菜恵。
そう、確かに仲良く一緒の時間を楽しめている。ただ、一つを抜かし。
「あっ、わかった。お座成りなんだ。」
「凄く下手とか?」
美人と沙菜恵が、世紀の大発見をしたかのような得意口調で言葉を吐き出す。
「それ以前の問題よ。」
正直に答えてしまった私。バカァ、何を言われるかわからない二人なのにぃ。
「それ以前?えっ?してないの?」
「もう付き合って三か月よね?凰士くんの部屋にも出入りしているのに?」
「残念ながらね。」
溜息交じりに言葉を吐き出す私。
結構、これでも悩んでいるのよ。ほら、前の彼氏に『女として魅力ない』とか言われちゃったから、余計に、ね。
「白雪が拒否しているんじゃなく?」
「いいえ。」
「あっ、わかった。付き合いが長いから、十二年だっけ?だから、そういう雰囲気を作り辛いんじゃない?踏ん切りがつかないと言うか、照れ臭いと言うか、どうしていいのかわからないだけよ。きっと。」
沙菜恵と美人が、ちょっと暗い表情をしてしまった私を慰めようとしてくれている。
あぁ、友達って有り難い。
「じゃあ、白雪から誘惑しなさい。」
「へ?」
固まる私と沙菜恵。
「凰士くんの場合、極端な服を着ると嫌がるようだから、ちょっと短めのスカートにVネックのシャツとかを着てみて、上目遣いで潤んだ瞳を向けるの。それとか、雨か何かで服を濡らして下着が透けるようにするとか。」
「なるほど、結構、いいいかもしれない。」
「さすが美人ね。」
感心したのがいけなかったのか、美人が得意げな顔で言葉を続ける。
「もっと手っ取り早い方法もあるわよ。凰士くんに抱き着いて、抱いてと一言。まぁ、白雪にはムリだろうから、帰りたくないとか、朝まで一緒にいたいとか。そうすれば大丈夫よ。だって、凰士くん、あんなに白雪大好きなんだもん。」
帰りたくないと前に行った事がある。それなのに、何を勘違いしたか、両親と喧嘩したのかとそんな心配しちゃって、失敗した事がある。溜息しか出ないよね?
「軽い色仕掛けで効果あると思うよ。その方が、凰士くんにもいいんじゃない?」
「自然体だからね。いかにも誘惑したって、苦手でしょう。」
「うん。」
最大の問題は、凰士がそれに気付いてくれるかだが……。
「頑張ってね、白雪。」
「あんまり意識し過ぎて、ぎこちなくならないでよ。まぁ、ねぇ、ある程度の年齢と経験を積んでいるから大丈夫だと思うけど。」
はい、頑張ってみます。
姫野白雪、二十五歳。彼氏を誘惑します。
こんな感じでしょうか?
ラブコメのコメがいまいちな気がする。でも、頑張ります。