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日常の章  作者: しば
7/13

女王様

(10)

「畜生…ちょっとからかっただけじゃねぇか」

ぶつぶつとぼやきながら、心なし足を引きずって歩く章。彼が意識を吹き返すのには、かなりの時間を要した。だが、どうやら章の愚息はまだその機能を失わずに済んだらしい。

「照れ隠しですよ、章さん。何事もなくてよかったじゃないですか」

「何事もなくねえよ。俺のナニが何事もなくねえよ」

「ちょっと。公衆の面前でそういうはしたない言葉は自重してくれないかしら」

「俺はナニも言ってないぜ?一体愛ちゃんはナニをどうはしたないとおもったんですかな〜?」

「ぐっ…!あんた次言ったら子孫根絶やしにすんぞ」

愛の蛇のように鋭い眼光に見据えられ、カエルの如く震える章。もはやお姫様ではなく、女王様という方がしっくりくるまである。

「はい…すんませんした」

「厳しい躾が必要なようね」

愛の不穏な発言に、章の未来予想図に暗雲がたちこめた気がした。





「そろそろお腹が空く頃合いじゃないか?」

「そうだな。どっかで昼飯にしようぜ」

「あれなんてどうかしら?」

愛が指す方向を一同が見やると、『破格の大盛り!』と威勢の良い字で書かれた豚カツ屋の看板があった。

「いや待て待て。夕食に焼肉にいくっつー話だったろ」

「心配無用。肉は別腹だから」

「そこでドヤ顔されてもな…」

大食家とはいえ、愛のスタイルは平均的な女子高生と比べても遜色ない。いつかテレビで目にしたような、女性フードファイターと同じ能力でも持っているのだろうか。

「(そう、これは悪い夢…でなければ毎日カロリー計算までしている私の苦労はなんだったんでしょうか…)」

「どうしたの、楓?気分が悪いの?」

「いえ、私はどちらかと言えば少食な方なので…夜まで控えておきたいです」

本気で心配してくれている愛だが、楓の内心は穏やかでなく、引きつった笑みになってしまった。

「それならファストフードで軽食がいいだろう。駅周辺なら選択肢には困らないしな」

全員の了解を得た堅固の提案によって、昼食はハンバーガーに決定した。


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