お披露目
⑼
「みなさん、お待たせしました」
あれから更に20分程度が経過し、沢山の荷物を抱えた楓が戻ってきた。
「佐伯はどうしたんだ?姿が見えないが」
「大変身をお披露目する為に待機してもらってるんですよ。二人とも驚いて腰を抜かさないでくださいね?」
楓は後ろを振り向いて、「愛さん!」と柱の陰に向かって呼びかけた。
「ほぅ…」
感嘆の吐息を漏らしたのは堅固。
「見違えたじゃないか、愛」
柱の陰から現れた少女を見て、章はそれが決して大げさな反応ではないと分かった。
今の愛が街中を歩いていれば、十分に異性の目をひくことができるだろう。
「そう…?」
容姿に不釣り合いだったお下げは解かれ、眼鏡も外されている。クールな印象を醸す切れ長の目が、彼女の纏う衣服の雰囲気によくマッチしていた。あまり様になっているものだから、章はしばらく言葉を発する事が出来なかった。
「章さん」
「え?」
「え?、じゃないですよ。せっかく愛さんが勇気をふり絞ってくれたんですから、何か言って上げて下さい」
「……」
つかつかと愛の前に歩み寄る章。
「な、なに…?」
「綺麗だよ、まるでどこかのお姫様みたいだ」
瞬間、章の股に強烈な前蹴りが炸裂した。
「馬鹿なんじゃないの⁉︎よく人前でそんな歯の浮くようなセリフをかませるわね!」
「ぉおうぐォオ…‼︎」
地獄の痛みに耐える章だが、半分魂がぬけかかっている。
見ているだけでこっちまで痛くなる光景に、堅固も少しだけ内股になっていた。




