語りヶ作ー壱ー
僕の名前は椿恋。
決して下の名前は「こい」ではない。
それだとなんだか椿家の誰かを命令形で呼び出してるニュアンスとなってしまう。
だから、いや、だからではないが。
正しい読みは「れん」だ。
つばき れん と今後お読みいただきたい。
ええと…そうそう!。
本題に入らねば。
僕は今、千早赤阪村という村にいる。
そこで何をしているのかというと、ある人物を探している。
まぁ結論をいうと、その人物とは妹なのだが。
妹の説明を雑にしとくとだな、天然な14歳、体躯は平均女性身長を結構上回る程大きい。
あと少しで僕の身長が追い抜かれそうだ。
僕は何故か高校3年から一向に身長が伸びず、171cmから微動だにしない。
それに比べ、僕の妹は成長期だから当たり前なのだが著しく身長が毎年毎年伸び続けている。
このままでは時間の問題…じゃなくて。
問題はそこにもあるけど今は目の前の問題を解決すべきであって。
で、なんで僕がそんな巨体の妹を探しているのかというと、さっきはサラッと言った妹の性格。
つまりは、天然、というところにあるのだが、あの野郎。
体はでかくなる一方なんだが、脳内は退化していっているらしく、今日は土曜参観って事は憶えていたくせに、「いってきます!」とか言ったわりには、鞄も弁当も全部玄関に置いていきやがるんだもん。
で、それに気付いたのは出ていって10分後。
今日は土曜で僕は学校がなかったからよかったものの、平日ならどうなっていたのやら。
これじゃまるで、体は大人、頭脳は子供だな。
あのフレーズって逆にすると、大変な事になるのな。
そんな訳で僕は、なし崩し的に妹を探す事となったのだが…。
因みに名前は「千」だ。
なんだか噂によると、僕ら兄妹の事を「洗練兄妹」なんて言ってる輩がいるらしい。
理由は未だわからないが、でもちゃんと理由はあるらしい。
また今度聞いておこう。
話が逸れたが、とりあえず今僕は妹を探している真っ最中なのだ。
学校に行けばいいじゃないか。
なんて思っている読者もいるであろう。
しかしこの千早赤阪村には学校がないのだ。
なにぶん田舎なもんで。
ならばどうするかって?
決まってるじゃないか。
電車を使って学校に行くのだ。
という事は、行動範囲が広がる訳で。
実は僕は、妹の通ってる学校の場所を知らないのだ。
だから僕は駅に先回りする為、妹の鞄と弁当を前のかごに入れた自転車で爆走して来て、今は駅に設備されてある駐輪場にいる訳だ。
……違うぞ。
決して妹が好きでやってる訳じゃない。
勘違いしないでよね!
僕はあくまで家族の事を思ってやっているのだ。
せっかく早起きして、千の為に弁当を作ってくれた母さんの事を思うと、いてもたってもいられなくなったのだ!
「まったく…」
そして僕は駐輪場で30分待ち続けた。
1時間後。
「なんで来ないんだよ! あいつは!」
僕は一人駐輪場の中心で愚痴を叫んだ。
もしかして、手遅れだったのか?
しかし、妹が家を出て15分後には駅に着いたはずだ。
僕の家から最寄り駅までは歩いて最低でも、20分はかかるのだ。
ギリギリ間に合ったと思ったのだが、千は身長があるから歩幅も大きかったとか?
もしくは、僕と入れ違いで忘れ物に気が付いて家に取りに帰ったとか?
いやいや、それなら往復40分の道のりなのに、1時間もここにいる軽く不審者極まりない僕に出会わない訳がない。
んー、やっぱり手遅れだったって事か。
まぁ仕方ないだろ。
自業自得だ。
学校に行って、あれ!鞄家に忘れちゃった!ってなっとけ。
僕が文句を言われる事は絶対にあってはならない。
その場合は僕は逆ギレしてもいいはずだ。
「無駄足だったな。帰るとするか」
僕はかごに千の鞄を入れて、来た道を戻った。
帰ってる途中、僕は女の子に出会った。
千ではない。
同じクラスの女の子だ。
唯一、クラスで気軽に話せる女の子だ。
「お?」
向こうも僕に気付いたらしい。
「おー、れんくーん。」
「奇遇だな。つま。」
こいつの名前は詳知理。
「つまびらか ちり」と読む。
滅多に見ない苗字だが、僕が考え出した覚え方がある。
「詳しく知ってる、理解してる。」
「それ言うの許してないはずなんだけどな。」
「おまっ!僕の心の中が読めるのか?!」
「思いっきり声に出してたよ…」
うむ。そういえばそうだった。
「つま、ここで何してんの?」
「今から買い物に行く途中だったの。」
「今日は手作りか?」
「何その新婚ほやほや夫婦みたいな質問…」
「お風呂にする?ご飯にする?それとも…」
「普通それって私の台詞だよね?」
うむ。いいツッコミだ。
「そんな事より千を見なかったか?」
「んー、見てないなー。どうかしたの?」
「あいつ、学校行くのに鞄まるごと忘れやかがったんだよ。」
「相変わらず凄い天然っぷりだね。」
「で、先回りしたんだけど会う事ができなかったんだ。1時間も待ったのにな。」
「相変わらず凄いシスコンだね…」
「ん?なんか言ったか?」
「え?あ、いや別に!」
「?」
「そ、そうだ!買い物行かなきゃ!」
「なんだよ。やけによそよそしいな。」
「そうかな…?」
「まぁもし僕の千を見たら連絡入れてくれ。」
「僕のって…」
「じゃあな。」
なんだかそわそわした感じのつまだったが、その場を後にして僕は帰路についた。
妹がいる家は大からず少なからずなのだと思いますが、僕の家にはいません。
別に欲しいと思った事はないのですが、それじゃ何故妹を登場させたのかというと、難しい質問です。
心のどこかで兄妹というものに憧れていたのでしょうか?
これはそんな心の奥底の願望が生み出した産物かもしれませんね。
今回の作品には壱と表記させていただいたので、多分弐も出すんだと思います。
もしかしたら終始こんな感じで行くかも。
これを読んで下さった方に心から感謝申し上げます。
これからも千石マサ、頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!