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Seekers: Afterstories;

Seekers:between

 この世には数多の平行世界があって、それがまるで樹形図のように広がっている。夜木斎という存在が、それを証明してくれた。

 この世界には二つのSeekersの物語が存在する。

 一つは、正史としてのSeekers。とある事が原因で心を閉ざしてしまった主人公・夜木斎の身の回りに起きる物語。

 もう一つはいわばSeekersの裏側、「Seekers: Inverse」。主人公である夜木斎が、友人達と協力して謎に立ち向かうというもの。

 二者は同一原点であるにも関わらず、全く違う物語を見せてくれた。それは何故だろうか?

 便宜上、前者の夜木斎を夜木、後者の夜木斎を裏夜木と定義して、検証してみよう。



「まず君たち自身ではなくて、君たちの周りに居る人達から考えてみようか」



 取り巻く環境が違えば、人間は変わってくる。

 まず大きな事に、彼の隣にいる人物に違和感を覚えなかっただろうか?

 夜木の隣には凪神楽。裏夜木の隣には凪玲華。実はこの二人、容姿こそ同じだが性格は全く違う。

 神楽はやや献身的で引っ込み思案なのに対し、玲華は自分の言いたいことはズケズケと言ってくる。

 凪神楽は魂の中に狐の魂が半分混じっていて、そのせいで超感覚を身につけているというのは何処かで聞いたことがあると思う。聞いたことがないならまぁ黙ってそうだと思ってくれ。ただし、玲華はその限りではない。恐らくは、まっとうな人間だろう。

 つまり、凪神楽と凪玲華もまた対になる存在なのである。何故名前が違うのか? というと、彼女らが元々は双子だったという話がある。

 ただし、出産の段階で片方は必ず死んでしまう。それが神楽か、玲華かというだけの話なのだ。

 裏夜木の場合には更に四人の仲間が居たが、あれは夜木の元には居ない。全員、別の大学に進学してしまっているからである。しかもその内二人――釘内禊と柚繋刹那は死亡してしまっている。

 

 


「さて、何故だろうね? そこで重要なのが、共通しているある出来事だ」



 とりわけ最初の方で話されるのが、「小学五年の頃の探検ごっこ」という話だ。

 この探検ごっこで、神楽以外の五人は神隠しに遭い、一ヶ月後に超能力を得た姿で発見される事となる。

 Inverseではちょっと内容が変わり、裏夜木と玲華以外の四人が体調不良を訴えてこの出来事そのものが取りやめになってしまう。

 つまりこの事態こそが両者の大きな分岐点になると思われる。ただし、事前に凪玲華と凪神楽の産み分けの問題はあるが。




「この点についてはもっと話さないといけないことがあるんだけど、今はひとまず置いておいて、今度は物語の別視点を与えてくれる人物について話してみようか」



 探偵・裏木樹の印象はどうだろうか。

 正史ではぶっきらぼうそうなオッサン、Inverseでは優しそうなおじさんといった感じを想起させたであろう。

 二人とも、辿ってきた道は一緒なのにどうしてこうも性格に差があるのだろうか、と言ったとき、別の事に気付くはずである。

 それは「野々上咲の不在」である。Inverseでは野々上咲が居ない事がやや強調されて描写されていたことからも、なんとなく違いを想像出来ただろう。

 野々上咲という少女は、強い精神感応能力を持つ為、彼女を助けるためには夜木斎の存在が不可欠なのである。それが、野々上咲が探偵事務所に居るというトリガーにもなるのである。

 しかしながら裏夜木は超能力を持たず、結果的にこの世界の野々上咲は救われることはない。野々上咲が裏木樹に関わることはどちらの場合でも必然であるからこそ、助けを求められながら助けられなかったという無念さを知っているため、Inverse世界の裏木樹はやや優しい性格になっているのである。




「では、君たちは何のために歩んできたのだろうか?」



Seekersという主題の通り、これは「求める者」達の物語である。つまり登場する人物には何かが欠けている、という事にもなる。

夜木斎は主体性がない上に人間性に問題有りで友達も少なく、凪神楽という松葉杖が無ければ歩くことも困難なほどの欠陥人間であった。

それに引き替え裏夜木は自分から物事に首を突っ込むタイプで、友達も多い。同窓会があれば進んで顔を出し、推理研サークルの友人達を(嫌々ながらも)誘っている描写がある。

しかしながら、彼らは一般人。超能力者という存在を知らないという点では、欠けていると言えるかも知れない。



「ざっとこんな感じだね。――君たち、お互いの事情は理解できたかな?」

「「分かんねぇよ」」

 夜木斎が、そしてその隣に座っている夜木斎が、事情を説明している夜木斎に対してがなった。

 この場に同一人物が三人同席しているという、超常現象にも近い状態となっていた。

「じゃあ聞くけど、お前はいったい何処の俺なんだよ」

「それが、さっきの置いておいた話の続きなんだけど――僕は、『探検ごっこのあと、この世界に帰ってこなかった場合の夜木斎』と言えば分かり易いかな?」

 夜木も裏夜木も、一瞬ポカンとする。

「帰って、こない……!?」

「君たちは帰ることが必然だと思ってたみたいだけどね。残念ながら枝分かれは二つではなく三つだった、ってだけの話さ。難しく考えることはないよ」

「で……その三人目が、僕等を引き合わせてどうしようっての? 取って食おうってんじゃないだろ」

「まぁ、こちらもちょっとした事件でね。ちょっとキーパーソンを集めて貰えれば、事件はきっとすぐに解決するんじゃないかと思うんだけど」

「キーパーソン……?」

「それすなわち、お互いの欠けている部分を埋める鍵さ。大丈夫、この事が終わっても君たちの世界の健全は保たれるという事を僕が保証しよう」


 三人の夜木斎は、ぎこちなくも手を合わせ、互いの勝利を誓う。

 ――これが紛れもなく、最後の希望なのだから。

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