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第十三章 「木下竜司」

第十三章 木下竜司






「なぁ、竜司~」


「はい?」


「なんで学校って休み時間があるか知ってる?」



その日、武と竜司は二人で買い物に出掛けていた。








「さぁ・・・疲れちゃうからですかね?」


「いや。学校って何を学ぶんだ?」


「そりゃぁ・・・勉強ですよ」


「休み時間ってのは、人間関係を勉強する時間なんだよ」


「・・・人間関係?」


「この歳になると、何を習ったかより、休み時間に何をして遊んだかとかさぁ、そんな事しか覚えてねぇじゃん」


「・・・そうですねぇ・・・」


「でも、それが一番の勉強だったんじゃねぇのかなって思うんだよね」


「はい」


「なんか、歳食ったなぁ~」


「まだ若いじゃないっすか。あっこの服良くないです?」


「知らん。しかし、遥はもう・・・起きないんかな」


「・・・そんな事ないですよ・・・」


「メール読んだか?」


「は?」


「ほら、この前俺メールしたじゃん」


「え・・・あっ!忘れてた!!」


「・・・こいつの方がよっぽどガサツじゃねぇか・・・」


「・・・この前・・・すごい頭痛がして・・・それで見るの忘れてたんですよ・・・」


「頭痛?」


「はい。まぁ、あれから無いんで・・・」


「まぁ、読んどけよ」


「あっ、はい・・・あの~・・・武さん・・・」


「ん?」


「遥は今・・・どんな夢見てるんですかね」


「・・・さぁなぁ」






そして武と別れた竜司は病院に戻り、意識が戻らない遥に話し掛ける。



「遥、今日は天気すごい良かったよ?」


「・・・」


「・・・テニスでもしてぇなぁ。あっ。バドミントンの方がいいかな」


「・・・」


「ってかおまえ何部だったの?」


「・・・」


「・・・イメージはテニスなんだけど・・・」


「・・・」


「・・・遥・・・」




「・・・目ぇ覚ませよ・・・」




「このままずっと起きないなんてやめてくれよ?」




「・・・聞いてんだろ?」




「・・・返事しろよ」




「・・・そんなに幸せだったのか・・・」




「・・・俺なんかといて・・・」




「・・・俺・・・本当は弱くて情けない奴なんだよ?・・・」




「・・・本当は・・・」











竜司の頭に、過去が蘇る。



「竜司~?」


「なんだよ」


詩織が寝ている竜司に話し掛ける。


「もうすぐ記念日だねっ」


「あ?そうだったなぁ」


「ねぇねぇどこ行く?」


「・・・どこでもいいじゃん?」


「・・・どこでもって・・・記念日だしさっ。どっか遠く行こっかっ」


「そうだなぁ」


「・・・ねぇ・・・竜司さぁ」


「あ?」


「・・・詩織の事・・・好き?」


「あぁ」


「・・・あぁじゃわかんないよ・・・」


「何?好きだよ」


「・・・ほんと?」


「あぁ・・・」


「・・・」




それは、竜司と詩織が付き合っていた頃の事。


始まりは詩織の片思いからだった。






「竜司君・・・あのね・・・」


「うん」


「・・・私・・・好きなんだ竜司君の事・・・」


「・・・」


「・・・だから・・・付き合って欲しぃ・・・」


「・・・今・・・彼女いるし」


「そっか・・・ごめんね?」


「なんで謝るの?」


「・・・だって」


「嬉しいよ?」


「・・・」


「・・・詩織は可愛いなぁ」


そう言い、竜司は詩織の頬を撫でる。


「・・・そんな事ないょ・・・」


そして詩織は、少し目線を上に上げ、竜司の顔を見た。


「・・・」


二人は見つめ合い、二人の唇が少しずつ近づく。


そして重なり合い、数秒経つと、詩織が顔を逸らした。


「・・・ダメだよ・・・」


「どうして?」


「・・・彼女・・・いるんでしょ?」


「・・・いるよ?」


「・・・じゃぁ・・・ダメじゃん・・・」


「詩織の事も好きだよ」


「え・・・」


「それでもダメかな」


「・・・そんなの・・・」


「何?」


「そんなの・・・ずるいょ・・・」


「・・・じゃあ・・・彼女の事も、詩織の事もちゃんと考えるから」


「・・・うん」





次の日。


竜司は友達と酒を飲んでいた。


「で、何?竜司はどーすんの詩織ちゃんの事」


「えぇ?どーするって?」


「付き合うのか?」


「さぁな」


「どーすんだよ、今の女は。別れるのか?」


「女は順応性あるからな。あいつらはどうにでも生きてくよ」


「・・・どーゆう事だ?頭わりぃからわかんね」


「違う男が出来りゃ、それはそれで幸せにやってくって事だよ」


「そんなもんか?」


「・・・はぁ・・・何か形がねぇとごちゃごちゃ言いやがる。めんどくせぇんだよ」


「形?」


「大体、なんだ?付き合うって。その形が欲しいだけだろ・・・あぁ・・・酔い回る・・・」


「スレてんなぁおまえ」


「何かと計算さらしたり、男の話ばっかりで・・・可哀想じゃねぇ?もっと話す事他にねぇのか?」


「食いモンの話はよくしてんぞ?」


「・・・じゃあ、男か食いモンだ」


「で、どーすんだよぉ、詩織ちゃんは」


「まぁ・・・適当に」


「可愛い子じゃん」


「じゃぁお前にやるよ」


「は?」


「おまえにやるって」


「・・・番号も何も知んねぇもん」


「今から俺が詩織に電話してやるよ」




そして竜司は、詩織に電話を掛けた。




「あっ俺。竜司だけど」


「うんっ!どーしたの?」


「あのさ、ちょっと会えないかな」


「今から?」


「あぁ」


「・・・うんっ!わかった!」




詩織もまた、その頃友達と遊んでいた。




「やったじゃん詩織!!」


「でも・・・どうしょ・・・やっぱり」


「会いたいんでしょ?ってか、電話即答してたし・・・」


「彼女いるんだよ・・・?」


「でも詩織の事も好きって言ってたんでしょ?考えるって」


「・・・うん・・・でも怖い・・・やっぱり彼女にさ・・・私を好きって言ったのも・・・やっぱりノリだったんじゃないかな・・・」


「じゃあ~行かないでおく?」


「・・・行く・・・」


「なんだそれ!!」


「・・・だって会いたいもん・・・」


「行っておいで?」


「うんっ!・・・あ。化粧ちゃんとしなきゃ・・・」




そして詩織は、待ち合わせ場所に着いた。


行きかう人々を確認しながら、三十分程、時間が経つ。


一人、かじかむ手をこすりながら。











そして・・・。














竜司は来なかった。













やって来たのは、待ち望んでもいない人物・・・。


男が詩織に話し掛ける。




「あ。竜司来れないって」


「・・・来れないって、なんかあったの?」


その言葉に詩織は、竜司を心配する。


「・・・まぁ、用事出来たみたいだよ?」


「・・・そぉ・・・」


「だから今日はさ!!俺と遊ぼうよ!!」


「・・・今日は帰るね」


「なんで?」


「・・・友達と会ってたんだ・・・だから・・・戻らないと」


「いいじゃん、いいじゃん。抜けてきたんでしょ?」


「・・・ごめん」


「・・・なんだそれ。せっかく紹介されて来たのによ」


「・・・え・・・?」


「竜司にだよ」






どうゆう事・・・。






紹介・・・?






「竜司が俺に紹介してくれたんだよ。まぁいいじゃん!竜司どーせ彼女いるんだし。お互いフリー同士でさ!!」





なんで?





私の気持ち知ってるのに・・・。








「・・・帰る」



「待てって」



「放して!」



「好きなんだよ!!」










嬉しくないよ・・・・。





私が好きなのは・・・。













「付き合ってよ詩織ちゃん」




「・・・ごめん・・・帰るね・・・?」






「・・・そんなに好きなんかよ竜司が!!」











え・・・。






竜司君・・・。







いるじゃん・・・。








その場から帰ろうとした詩織は、隠れるように人ごみの中でタバコをふかしている竜司を見つけた。





駆け寄り、竜司に尋ねる。







「・・・どうゆう・・・事・・・?」



「・・・何が?」



「・・・私の気持ち・・・知ってるでしょ?」



「・・・あぁ」



「・・・好きって・・・嘘だったの?」



「・・・」



「・・・ひどいょ・・・」



「・・・泣くなよこんなとこで」



「・・・」



「欲しいんだろ?彼氏」










・・・どうゆう意味・・・?











「あいつ彼女いねぇしさ」










言ってる意味がわかんないょ・・・。












「いい奴だから、付き合ってやれよ」










好きって言ってくれたのに・・・。






あのキスは・・・?





なんだったの・・・?











「・・・ごめん俺・・・詩織の事・・・」













もぅ聞きたくなぃょ・・・。














「・・・別に好きでも何でもなかった」













声が・・・





出ない・・・





嘘って言ってょ・・・





今のは全部嘘でしょ・・・?





じゃないと・・・





死にそうだょ・・・・・・・。









そうして、空から降る白い雪が、冷たいアスファルトに消えていった・・・。








一週間後。






「詩織ぃ、元気出しなよぉ」


「うん・・・でもなんかまだ信じらんない」


「それにしても最低じゃない?詩織の気持ち知ってて・・・」


「仕方ないよ・・・好きになったのは私だし・・・」


「でもさぁ」


「・・・これも経験だよっ!」


「・・・強がらなくていいよ?」


「・・・強がってなぃ」


「ホントに?」


「・・・強がりに見える?」


「・・・うん」


「・・・じゃあまだ好きなんだね・・・私」


「詩織・・・」


「・・・もぉ・・・ダメだぁ私っ・・・あんな事されても・・・やっぱ嘘つけなぃ・・・」


「うん」


「恋愛は・・・難しいね」


「そうだねっ。よしよし・・・」




一方、竜司は・・・。




「おい竜司~」


「あ?」


「何?バイク買ったの?」


「あぁ。悪い?」


「いやいや。またモテようと思ってぇ」


「おめぇと違ぇよ」


竜司が、新しく買ったバイクの手入れをしていると、乗り出すように男が話し掛ける。


「で、どうなんだ?あれから詩織ちゃん」


「いや連絡取ってねぇけど」


「悪かったな、なんか」


「なんでお前が謝んだよ」


「だってよぉ・・・詩織ちゃん、なんか傷付けたみてぇだし・・・」


「俺が傷付けたんだ。お前は別に関係ねぇよ」


「・・・でもよぉ」


「お前、ずっと気に入ってたんだろ?詩織の事」


「・・・まぁ・・・可愛いしな」


「じゃあ、ちゃんと好きだって言えよ」


「・・・言ったけどよぉ・・・何も言ってくんなかった」


「・・・そりゃ・・・あんな状況じゃぁな・・・番号教えてやっから、自分で電話なりメールなりしてアピールしろ?」


「あぁ・・・悪りぃな、竜司・・・でもお前・・・」


「・・・なんだよ」


「・・・本当に詩織ちゃんの事なんとも・・・」


「・・・なんとも思ってねぇって」


「そっか」




その日の夜、竜司と詩織は偶然に街で出会う事になる。





「もぉ~!!早いよぉ・・・」


詩織は家の近所で犬の散歩をしていた。

犬に引っ張られ、少し駆け足で散歩をしていると、反対方向から竜司が歩いてくる。


「あ・・・」


詩織が気付くと、一方の竜司は携帯をいじりながら下を向き、詩織の存在に気付かない。




「・・・竜司君っ」



「あ・・・詩織ぃ」




犬を必死で止め、詩織は竜司に話し掛ける。


と、犬が竜司に向かって吠えまくった。




「おーっ・・・よしよしっ」




そう言い、竜司が犬を撫で始めると、だんだんと気を許した犬は竜司になつき始める。




「詩織んちの犬か?」


「え・・・あっ・・・そぉだよ?」


「可愛いなぁ」




犬を撫でる竜司を見て詩織は、先日の告白を思い出す。




「竜司君・・・」


「ん?・・・あぁ・・・詩織、ごめんな?こないだ」


「ん~ん?」


「・・・何?」


「え?」


「・・・竜司君・・・って」


「あっ・・・ん~ん・・・偶然だね」


「そうだなぁ」


「・・・と・・・後は・・・」


「もうねぇんだろ?」


「・・・うん・・・」


笑って竜司がそう言うと、詩織は頷いて下を向いた。


そして顔を渋め、竜司が続ける。


「お前さぁ」


「ん?」


「あいつの事どう思う?」


「あいつって?」


「ほら・・・こないだの・・・」


「・・・あぁ・・・」


「・・・ちょっと話でもしてみたら?いい奴だぜ?」


「・・・」


詩織は、それに対して何も語らず黙り込んだ。


犬を撫でながら話していた竜司は、「ん?」と顔を上げる。


そして、困った顔で詩織が口を開いた。


「・・・私は・・・」


「おぅ」


「私は・・・竜司君が・・・」


「・・・俺はやめとけ」


「え・・・?」





「・・・俺はお前の考えるような奴じゃない」


「・・・私は竜司君がどんな人でも、自分に嘘がつけないょ」


「・・・自分に?」


「竜司君を好きって気持ちに嘘つけない・・・」




それを聞いた竜司は下を向き、低い声で答えた。




「じゃあ俺は、他人も自分も信用出来ない」



「・・・竜司君・・・」



「俺は嘘ばっかりついて生きてんだよ」



「・・・そんな事・・・」



「人間なんて、裏切りばっかりだ・・・しょーもねぇ・・・」



「・・・なんかあったの?」



「・・・女が浮気してたよ」



「・・・彼女が?」



「あぁ。まぁ別にさぁ、知ってたし痛くも痒くもねぇけど・・・」



「・・・うん」



「・・・なんかこいつ見てると・・・泣きそうになるな・・・犬は裏切らねぇからよぉ・・・」





竜司のその姿を見て、心の痛みに耐え切れず、詩織は座っている竜司を抱き締めた。












「・・・私は・・・裏切らないよ?」




「・・・」




「こんなに好きだもん」




「・・・悪りぃけど・・・気持ちに答えらんねぇ」




「・・・いいよ」




「・・・え?」




「・・・でも・・・竜司君の辛い時に・・・私は傍にいる」




「・・・」




「それだけでいい」








今はこうして・・・








「・・・バカかお前・・・そんなのお前が辛いだけだろーが」




「・・・そうだね・・・でもね?」








傍にいれるだけでも幸せだから・・・。








「・・・でも?」




「・・・ん~ん。何でもないっ」








でも・・・出来る事なら・・・。








「・・・変な奴だな、詩織って」








その笑った顔をずっと隣で見ていたい。








「竜司君も十分、変だよ?」




「・・・うっせぇ。そんな変な奴好きなお前の方がおかしいだろ」








出来る事なら・・・








「アハハッ。かもね」




「・・・悪かったな、なんか」




「・・・ん~ん?こっちこそなんか・・・」




「犬、吠えねぇように仕付けしとけ?」




「うんっ」




「・・・じゃあ行くわ」




「うん・・・あっ・・・あの・・・」




「ん?」










この想いが・・・










「また・・・会ってくれる?」




「・・・あぁ」




「ホント?」




「あぁ。・・・じゃあな」












この想いが








届きますように・・・。















次の日の夜・・・。


竜司に電話が入る。



「なんだ?どうした?」


「お前、詩織ちゃんの事なんとも思ってないって言ったよな」


「あぁ」


「見ちまったんだよ昨日」


「見たって何を」


「・・・裏切りやがって」


「何言ってんの?おまえ」




同じ頃、詩織は夜道を歩いていた。


背後に人気を感じた詩織は、不安を感じ、友達に電話を掛ける。




「なんか・・・誰かにつけられてる気がする・・・」


「え?詩織、今どこ歩いてるの?」


「今・・・家に帰る途中・・・」


「一人?」


「・・・」


「ねぇ・・・詩織!?もしもしッ!?」




そして電話が切れた・・・。





一方、男は電話口で竜司を怒鳴りつける。


「竜司・・・てめぇ昨日、詩織ちゃんと抱き合ってただろーが!!」


「おい、聞けって、あれは・・・」


「話あるからうち来い」


「今からか?」


「待ってるからな・・・」






六人の男に背後から襲われた詩織は、近くの公園に連れていかれた。




「可愛いじゃねぇか詩織ちゃんって!!」


「やめて!!」




そして人影の無い、暗い公園の片隅で倒され、羽交い絞めにされる。




「竜司にゃ勿体ねぇよな」


「放して!!」


「まぁ、その竜司も今頃どーなってるかわかんねぇけどよぉ・・・」








なんで・・・








わけがわかんないよ・・・








竜司君・・・助けて・・・。












そして竜司は、呼び出された家に向かっていた。


途中、背中を押され、暗い路地裏で八人の集団に囲まれる。




「遅ぇからわざわざ来てやったわ竜司・・・」


「・・・てめぇ・・・何のつもりだよ」


「イキがってんじゃねぇぞ・・・」


「はぁ・・・おめぇよー・・・たかだか女の事でバカじゃねぇのか」


「なんだこらぁ!!ふざけんじゃねぇぞ!!」




いきなり男に殴られた竜司は、フェンスにもたれ掛かる。




「可愛い詩織ちゃんも今頃犯されてっかなぁ」




男は笑いながら竜司を殴り続ける。



「・・・何言ってんだてめぇ・・・シンナーでおかしくなったか・・・」


「おかしくねぇよ・・・もういらねぇあんな女・・・・」


「・・・おい・・・詩織に何した・・・」


「てめぇはてめぇの心配したらどーだぁ?」


「何したぁ!!」


「ハハハハッ!!何したじゃねぇよ、たった今ヤられてんだよバーカぁ!!」


「詩織は関係ねぇだろぉ!!」


「だぁーから自分の心配したらどうなんだカッコつけがぁ!!」










そして詩織は・・・。







「やめて・・・」


「抵抗すんなぁ!!」







詩織は男に乗りかかられ、頬を殴られる。








竜司君・・・。










お願い・・・。










助けて・・・。














その時―――。





















「おい。やめとけクソガキ」










グレーのスーツの男が詩織に乗りかかる男の髪の毛をつかんだ。





「なんだてめぇ・・・どっから来た・・・」




「もっと強い門番付けとくんだな」










竜司君・・・?










詩織からはスーツの男の顔が見えない。






「誰だてめぇ!!邪魔すんな!!」





そしてスーツの男は、背後から殴りかかってくる男をたった一発で気絶させる。





そこにもう一人、茶髪の男が現れ、スーツの男に話し掛けた。













「何してんだ?弘樹」











茶髪の男はそう名前を呼ぶと、辺りを見渡し呟いた。










「なんだこりゃ」





「クソガキ殴ってんだよ」





「へぇ~」









「加勢しろよ、武」







「仕方ねぇなぁ。来いよクソガキ共」








その言葉で、残りの五人が罵声を発しながら突然現れた二人の男に一斉に殴りかかった。






そして竜司はその頃、八人の集団に殴られ続ける。





「どーしたんだこらぁ!!さっきの元気はどこ行った竜司ぃ!!」


「・・・てめぇら・・・恥ずかしくねぇのか・・・」


「あぁ?」


「一人やんのに・・・八人も揃いやがって・・・げほっ・・・」


「ごちゃごちゃうっせぇーんだよ!!」


「・・・げほっ・・・バカばっかり揃いやがってよぉ・・・」


「バカはてめぇだろぉ!!」


「・・・ハァ・・・ハァ・・・一人じゃ何にも出来ねぇのか・・・」


「あぁ!?てめぇ今の状況わかってんのか!?」


「ハァ・・・ハァ・・・わかってたまるかバカヤロー!!」


「・・・いってぇなぁ・・・謝れよ」


「ハァ・・・ハァ・・・」


「・・・」




竜司の目に一瞬、男は恐怖を感じる。




「おっ・・・おい・・・血まみれじゃねぇか・・・ホントは友達のそんな姿見たくねぇんだよ竜司。頼むから謝れよ」




「・・・ハァ・・・ハァ・・・友達だぁ?」




「そうだよ。友達じゃねぇか」




「・・・誰と誰がだよ」




「俺と竜司・・・お前だよ」




「・・・俺の名前・・・二度と呼ぶなカス・・・」




男は竜司から目を逸らせぬまま、一歩後ずさる。


そして、座ってシンナーを吸いだした。




「逃げんのか・・・そうやってまた・・・」




竜司の言葉に、男は手が震えだす。




「・・・おい・・・やっちまえ・・・」




「おらぁ!!」




男のその言葉で、後ろにいた集団が一斉に竜司に殴りかかった。




そして、シンナーを吸いながら、男は小さな声で呟く。




「・・・殺すなよ・・・?竜司は友達だからよぉ・・・」




意識を無くしかけながら、男の声を聞き取った竜司は、めいっぱいの声で腹から叫んだ。





「俺の名前呼ぶんじゃねぇ!!クソ野郎ーっ!!」




「・・・なんでこんな震えんだよチキショー!!・・・」





男は、座ったまま震えが止まらず、シンナーを吸い続けた。








そして公園では、二人の男が一瞬のうちに五人を殴り倒す。


「あぁ・・・げほっ・・・なんなんだ・・・おめぇら・・・」


「何って見りゃわかんだろ。ヒーローだヒーロー」


上着を直しながら、スーツの男は、倒れている男達に淡々と言葉を投げる。


「・・・どう見たってヤクザだろ・・・」


「じゃぁ喧嘩売んなタコ。散れっ。ほら家帰って勉強しろ勉強」


「・・・覚えてろよくそったれ!!」


そう言い残し、男達は、ヨロヨロの足でその場から去って行った。


「・・・なんで覚えてなきゃいけねぇんだよ・・・漫画の見すぎだろ・・・」


右手を左手で押さえながら、スーツの男が詩織に近寄る。


「姉ちゃん、大丈夫か?」


「はい・・・」


「気ぃつけなよ?夜道は」


「・・・ありがとうございます・・・あの・・・」


「ん?」


「お名前は・・・」


「俺は別に・・・こいつはそのうちテレビ出っからよ」


そう言いながら、スーツの男は、茶髪の男を指差す。


「何言ってんだ。指さすなヤクザ」


「伊崎って名前覚えときな?あっ、今のうちにサインでも貰っとくか?やれよ武、サイン」


「バカかおまえ。もうやめたって言ってんだろ」


「その割におまえ、殴る時、手に気ぃ遣ってたじゃねぇか」


「・・・怪我すんの嫌ぇなだけだよ」




そうして、二人の男はその場から消えていった。









そして誰もいなくなった路地裏。


そこには竜司が一人、倒れこんでいた。





「あ~・・・いて・・・何やってんだ俺・・・」




その瞬間、竜司は詩織を思い出す。


ボロボロな体で、竜司は詩織のメモリを探し、電話をかけた。




《・・・電波の届かない場所に居られるか、電源が入っていない為・・・》




「・・・まいったな・・・」



足を引きずり、竜司は詩織のもとへと歩き出した。




詩織は・・・。











詩織は竜司を探して夜の街を走っていた。










どこにいるの・・・?




あっ・・・。




携帯・・・。







携帯の電源が落ちている事に気付いた詩織は、電源を入れなおし、竜司に発信する。





「・・・詩織?」




「竜司君!!大丈夫!?」




「・・・お前・・・無事か?」




「私は大丈夫・・・竜司君は!?」




「そっかぁ・・・よかった・・・」




「どこにいるの!?」




「・・・どこだ・・・ここは・・・わかんねぇ」




「竜司君!!しっかりして!!今、どこ!?」




「・・・もう・・・俺に関わるな・・・危ねぇから・・・」





やべ・・・。




意識が・・・。





「もしもし!?」





詩織・・・。




ごめんな・・・




俺には・・・




人を好きになるって・・・




よくわかんねぇよ・・・









「返事してよ!!竜司君!!!」





傷つけたり・・・




傷つけられたり・・・




怖いんだよ・・・




その全てが・・・







「お願い!!返事して!!」










人間が・・・













怖ぇ・・・
































怖がらなくていいんだよ?



・・・詩織・・・?



私が傍にいてあげるから。



・・・関わるなって言ったろ・・・。



私が、あなたの淋しさを埋めてあげる。



・・・。



ほんの少しでも・・・こうやって・・・。



・・・。



傍で傷を塞いであげるよ。














そして半年後・・・。



「竜司~?」


「なんだよ」


詩織が寝ている竜司に話し掛ける。


「もうすぐ記念日だねっ」


「あ?そうだったなぁ」


「ねぇねぇどこ行く?」


「・・・どこでもいいじゃん?」


「・・・どこでもって・・・記念日だしさっ。どっか遠く行こっかっ」


「そうだなぁ」


「・・・ねぇ・・・竜司さぁ」


「あ?」


「・・・詩織の事・・・好き?」


「あぁ」


「・・・あぁじゃわかんないよ・・・」


「何?好きだよ」


「・・・ほんと?」


「あぁ・・・」


「・・・」


「どうした?」


「・・・ん~ん。別に?」


「・・・よしっ!!どっか行くか」


「どこ?」


「・・・どっか」










竜司。








「どこ行くのぉ~?」



「ん~・・・とりあえずドライブ」





気付いてる?


二人でいても、あなたは悲しい顔をしている事。






「じゃあ、初めて会ったとこ行きたい!!」


「そう?じゃあ行くか」







多分、一番それに気付いてるのは、竜司だよね。


でも嬉しいよ。






「初めて会った時、どんな印象だったぁ?」


「ん?可愛いって思ったよ?」


「ホントぉ?」


「ホント、ホント」






この何ヶ月で、ほんの少しだけ、あなたは変わった。






「俺の事はなんて思ったの?」


「なんか怖そうだなぁって」


「ハハハッ。なんだよそれ」







少しだけ・・・。






人を好きになってくれた。







それが嬉しいんだぁ・・・。







例え・・・。









「だってそう感じたもん」


「で、なんで好きになったの?」


「それはぁ・・・」










例え、私の事を好きじゃなくても・・・。










「それは?」


「・・・なんでだろぉねッ」


「わかんねぇのか?」










ごめんね・・・。






やっぱり・・・。








これ以上、竜司の傷を塞げそうもないょ・・・。










「・・・竜司は、たまに優しいから」


「・・・そっか」


「でももう無理しなくていいよ?」


「え?」


「・・・無理して付き合わなくても・・・いいよ」


「・・・無理なんて」


「そんな優しさいらないょ・・・私だって、色々他にも付き合ってとか言われるんだぁ。何気、カッコイイ人もいるしさぁ。なんか・・・疲れちゃったんだよね」


「・・・詩織・・・」


「もう・・・別れよ・・・」











竜司・・・。










ごめんね・・・。











そして・・・















「竜司は本当は、すごく優しいんだよ・・・?」



「・・・」



「・・・本当は強い人だから。私にはわかる・・・これからはもっと素直になっていいんだよ?」



「・・・」



「相手にも自分にも・・・そんなに怖がらなくていぃ・・・もう大丈夫だよ、私がいなくても」



「・・・あのさ・・・」



「いいの。今まで付き合ってくれて・・・」
























―ありがとう―




















今度は、本当に好きな人に出逢えるといいね。






そして・・・その好きな人と・・・






幸せになれるといいね。






私は・・・






ほんの少しでも・・・






あなたと過ごせて・・・






幸せだったよ・・・。










でも・・・






なんでだろ・・・









涙が止まらないょ・・・。









いっぱいの幸せを・・・








ありがとぉ・・・。

















詩織・・・。





本当に好きな人・・・





俺にも出来たよ。





気付かせてくれて・・・





ありがとう。






でも・・・やっと出来た本当に好きな人は・・・






もうすぐ死ぬかもしれない・・・。






罰が当たったんかな・・・






でも・・・






俺、逃げねぇから・・・









もう・・・









誰も悲しませない。













そして竜司は、武のメールを読んだ。


































『普段言わねぇからメールで書くけど・・・お前は強ぇ。いつもありがとな。遥を頼むぞっ』








たったそれだけの言葉に、竜司は涙が止まらなかった・・・。











気付いてる?

二人でいても、あなたは悲しい顔をしている事。

多分、一番それに気付いてるのは、竜司だよね。

でも嬉しいよ。

この何ヶ月で、ほんの少しだけ、あなたは変わった。

少しだけ・・・。

人を好きになってくれた。

それが嬉しいんだぁ・・・。

例え・・・。

例え、私の事を好きじゃなくても・・・。

ごめんね・・・。

やっぱり・・・。

これ以上、竜司の傷を塞げそうもないょ・・・。

そして・・・


『ありがとう』


今度は、本当に好きな人に出逢えるといいね。

そして・・・その好きな人と・・・

幸せになってね。

私は・・・

ほんの少しでも・・・

あなたと過ごせて・・・

幸せだったよ・・・

でも・・・

なんでだろ・・・

涙が止まらないょ・・・。



『いっぱいの幸せを・・・ありがとぉ・・・』





《返信》





件名 RE:





本文


『遥は、俺が幸せにします』

















『しあわせ』は、


『しあわせ』に負けないように。


そして『しあわせ』は、


『しあわせ』になる為に。


何度でも、


何度でも、


生まれ変わる。


小さく消えていった、


いつかの『しあわせ』を、


強く、強く、


かみ締めながら。




























『この想いが

届きますように・・・』


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