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第十一章 「永遠」

第十一章 永遠






四月三日。


その日、遥は病室には居なかった。


何も知らない竜司は、いつものように遥の病室に入る。



「遥、おはよぉ・・・っていねぇじゃん」



しばらく誰もいない病室で遥を待ち、十分も経った頃、看護師に尋ねた。



「あの・・・伊崎遥は・・・?」


「え?」


「いないんですけど・・・」


「そんなはずは・・・」



竜司はその時ようやく異変に気が付く。


そしてまず、武に電話を掛けた。




「武さん・・・遥知りません?」


「は?」



仕事中の武も、何の事か内容が飲み込めずにいる。



「いないんです・・・」



その竜司の言葉に武は一瞬黙り、少し考えて落ち着いた声で答えた。



「・・・探せって事だろ・・・」



そして武と竜司は、その言葉で電話を切り、遥を探した。


どこにいるかも、どうして消えたのかもわからない。







その時、竜司は・・・二度と会えない気がしていた。








一時間も街を探した頃、武から竜司に電話が入る。



「いたか?」


「ハァ・・・ハァ・・・いないです・・・」


「そっか」



竜司は辺りを見渡しながら息を切らしている。


そして、どこか冷静な武に伺った。



「・・・なんか・・・ハァ、ハァ・・・武さん余裕ですね・・・?」


「二回目だしな」


「え?なんすか?それ・・・」



電話の向こうで、武が笑ってそう答えると、竜司は遥の行きそうな場所を聞く。



「あいつ・・・どこ行きますかね?普段」


「おまえの方が知ってんじゃねぇのか?」


「・・・海?」


「こないだ行ったばっかだぞ?」


「・・・家に帰ったとか?」


「もう確認したけどいなかったよ」


「じゃあ・・・どこだろ・・・」



竜司が考えていると武が呟く。



「・・・さぁなぁ」


「・・・武さん真剣に探してます?」



あまりにも冷静な武に、竜司は少し不信感を抱いた。



「探してるよ?」


「・・・そうすか・・・あっ今どこですか?」


「今、代官山でコーヒー飲んでるけど」



その言葉に竜司は一瞬、呆気にとられ、もう一度聞き返す。


武から同じ答えが返ってくると、何故だと聞いた。



「・・・なんでって・・・別に?・・・」




竜司は、そのいい加減な武の態度に怒りを見せる。


「遥がいないんですよ!?何してんすかぁ!!」


「・・・」


「心配じゃないんすか!?」


それでも武は、平然とした態度で竜司に尋ねた。


「・・・あのさ」


「えぇ!?」


「動物園にいる動物ってさ、ずっと檻の中にいて、外を走り回りたいなぁとかって思わないのかな・・・?」


「はぁ!?」


竜司には、何が何だかわからない。


そして淡々と武が続ける。


「・・・でもやっぱり野性では生きていけないから、仕方がないってそう思ってるのかなぁ」


「・・・」


「・・・夏も冬もいつも同じ場所にいて、楽しそうにみんなが自分を見にやってくるけど、もしかしたら淋しくて悔しくてたまらないのかも知れない・・・どうゆう気持ちでみんなは見てるんだろう・・・笑われてるのかな・・・でも、檻の中にいちゃそれは確認出来ない・・・」


「・・・武さん?・・・」


「鳥だってよ?気持ちよさそうに空飛んでるけどさぁ、あいつらだって落ちれば死ぬんだよな。死に一番近いんだよ本当は。でもそれをあいつらは自分達で知ってる。俺達には綺麗に、気持ち良く飛んでるように見えても、本当の気持ちは怖くて仕方がないかも知れないよな・・・?」


「・・・はい・・・」



「・・・遥がそう言ってた」



「え?」



「小さい頃の話だよ」



「・・・」



「おまえなら来てくれる。わかってくれる。あいつは今そう思ってると思うよ?」



「・・・」



「あいつはおまえに見つけて欲しいんだよ」



「・・・はい」



「一番にさ」





電話を切り、武は溜め息を一つ、空に向けて吐いた。


その直後に感じた軽い頭痛で少しの間目を瞑り、その後ゆっくりと職場へ戻る。


そして竜司は、武の言葉を聞くと、閉園間近の動物園に駆けた。



一時間後、動物園に着くと園内を走り、遥の姿だけを探す。


そしてようやく見つけると、遥は一人、疲れてベンチに座っていた。


竜司は何も言わず、遥の隣に座る。




すると下を向いたまま、遥は息を切らしている竜司に言葉を掛けた。



「・・・よくわかったね」



息を整え、竜司はそれに答える。



「場所だけはな・・・」



そして遥は遠くを見つめた。


お互いを見ないまま、竜司が続ける。



「遅くなって・・・ごめん」



すると遥は少しだけ微笑み、下を向いて答えた。



「寒かったぁ・・・」



その遥の言葉に、竜司は黙りこむ。







「・・・」










「今日は色んな動物見たよ?キリンとかライオンとかさぁ。大きくて凄かったぁ。なんか見てたら落ち着いた・・・でもみんな悲しそうな目をしてた・・・悲しい目は・・・やっぱり見たくないね・・・」










「・・・そうだな」










「・・・竜司ぃ」










「・・・ん?」












「ずっと一緒にいるって言ったのに・・・ごめんね・・・」













「・・・あぁ・・・」













「でも・・・」













「・・・」













「ずっと一緒にはいられない・・・」












「・・・」













「・・・永遠なんてないんだよ・・・?もうすぐバイバイしなきゃ・・・」













その時、閉園のアナウンスが流れる。



竜司は何も言えない・・・。



そして遥は、涙を一粒零した。












「・・・死に別れは嫌でしょ・・・?だから・・・今日で竜司とはもう・・・別れてあげるっ」













「・・・」
















「・・・今までありがとぉ」

















「・・・遥・・・」






































「バイバイッ」



























遥は立ち上がり、歩いて行った。




溢れてくる涙を、せめて竜司に見られないように。




ただ前だけを向いて・・・。










そして竜司は、その後姿にかける言葉が見つからず、自分ではどうしようも出来ない現実を、ただその時は受け止めるしか無かった・・・。



一方の遥は、そのまま家へと戻り、「ただいま」の声に、香樹が笑顔で出迎える。


「香樹、ただいまぁ」


「おかえりっ!お姉ちゃん!」


その二人の声に気付いた祖母が玄関先に出てきた。


「・・・遥・・・病院は・・・?」


「・・・抜けて来ちゃった」


「・・・そうかい」



祖母は優しく頷き、遥を居間へと連れて行く。


と、何も発せず、武は寝転びながらテレビを見ていた。



「・・・お兄ちゃん・・・」


「・・・」


武は返事をしない。


「・・・怒ってる?」


「・・・」


「ごめんなさい」


「・・・」


香樹は遥に寄り添い、遥の手を掴んだ。


そして、しばらくすると武が口を開く。




「・・・竜司から電話が来たよ・・・」



「え?」



「さっきな・・・」



「・・・そう・・・」






遥が家に帰ってくる三十分前の事。





武の携帯が鳴った。



「どうした?竜司」



「・・・」



「おい・・・どうした?」



「・・・すいません・・・」



「・・・泣いてんのか?」



「・・・」



竜司は電話口で泣いていた。





「なんで泣いてんの・・・」



「・・・いやっ・・・さっき・・・別れちゃって遥と・・・」



「・・・おまえ泣いてる場合?」



「・・・そりゃ・・・ってか・・・最近泣きすぎだな俺・・・」



そう言い、竜司が鼻をすすると、



「・・・そうだな」



と、武は笑って答える。




「最近、俺を笑いすぎですよ武さん・・・」



「・・・だってさぁ、そんな奴だったっけ?おまえ」



「・・・どうですかね・・・」



「女って勝手だよなぁ」



「・・・はい・・・」



「おまえ尻にひかれるタイプだろ」



「・・・かもしんないです・・・」



「なんて言われたの?」



「・・・もう・・・別れてあげるって・・・」



「ハハハッ!」



「・・・笑うとこじゃないっすよ・・・」



「で何?別れて来たの?」



「・・・てゆうか何も言えなくて・・・」



「まぁ・・・あれだ・・・振り回されてんだ・・・」



「・・・ですかね・・・」



「たまに無茶苦茶だなおまえ・・・って時あるよな女ってさ」



「・・・まったくです・・・」



「妙に頑固だったりさぁ」



「うんうん」



「ほらっ、冗談で言ってんのに、怒ったり?」



「えぇえぇ」



「何考えてんのかわかんねぇよな?」



「ホントですよ」



「でもそっちの方が女らしいじゃん」



「・・・は?」



「じゃねぇとキレイになれないように出来てんじゃねぇか?」



「・・・たまったモンじゃないっすよ・・・」



「ハハハ。いちいち考えてても仕方ねぇよ」



「・・・はい」



「・・・竜司・・・別に嫌われたっていいじゃん」



「・・・」



「おまえが遥をすげー好きならそれでいいと思う。なんてゆーか・・・俺はそんなおまえ、嫌いじゃねぇぞ?」



「・・・」



「男なんて、ハナっからダセぇモンだろ」





そのまま、武と竜司は穏やかな顔で電話を切る。




そして今度は、帰ってきた遥に対して小さく言葉を投げた。




「素直なように見えて・・・素直じゃないって?やっぱ兄妹だなぁ・・・」



そう言い、武はタオルを持って風呂に向かう。


と、遥は以前に武に向けて言った言葉を思い出す。





《・・・お兄ちゃんさぁ・・・素直なように見えて素直じゃないよね・・・》




それを思い出すと、遥は文句を言うかのように小さく呟いた。




「別に・・・そうゆう事じゃ・・・」





そしてその頃竜司は、もう一度遥を探して、夜の街を走っていた。


その時、一人の女性と肩をぶつける。




「あ・・・すいません」



「・・・いえ」




一方、遥は・・・。


ベッドに横たわり、竜司との別れに泣いていた。


と、風呂上りの武がドアをノックする。



「入るぞー?」


「・・・うん」



急いで涙を拭き、遥は返事をした。



「あぁさっぱりした。おまえ今何考えてんの?」


「え?」


部屋に入るなり、遥の姿を見て唐突に武が質問する。



「竜司の事か?」


「・・・別に・・・」


「しかねぇじゃん」



武は笑って椅子に座った。



「何?・・・もう寝るけど・・・」



遥が武にそう言うと、武は今日の動物園について聞き出す。



「楽しかったか?動物園」


「・・・うん・・・まぁ・・・」


「竜司と行けばよかったじゃん」


「・・・なんで?」


「二人で行った方が楽しいだろ。付き合ってるんだしさ」


「・・・」


そして、遥は黙り込む。


五秒の沈黙の後、タオルで髪を拭きながら武は聞いた。


「・・・付き合ってねぇのか?」


「・・・別れた・・・」


「そっかぁ。これでおまえの幸せ病治るかもなぁ。よかったじゃん」


「・・・よかったって・・・」


「幸せじゃ無くなったから・・・よかったじゃん・・・」


「・・・」


「なんか俺、言ってる意味わかんねぇな・・・」


「・・・うん」




そして竜司は・・・。



「大丈夫ですか・・・?」


女性は、足に少し怪我をしていた。


「・・・はい」


竜司が女性を気遣う。


「あ・・・怪我・・・」


「・・・大丈夫です・・・」






その時竜司は、女性の顔を見て気が付いた。





「あれ?」




「・・・あ・・・」







ぶつかった女性は、竜司の元カノの『桜井 詩織』だった。






「・・・久しぶり」



「・・・うん」



二人は気まずいような、そして少し照れた雰囲気で話をする。


と、詩織はその場を起き上がり、竜司に質問した。



「ってか、なんで走ってたの?」


「・・・いや・・・運動?」


「変わんないね」



詩織は、笑って答えた。


そして続ける。



「・・・でも・・・なんか感じ変わったね」


「そぉ?・・・髪切ったしね」


「・・・ん~ん。そうゆう事じゃなくて・・・なんか目が優しくなった」


「そうかな・・・」


「うん・・・彼女出来たの?」


「あぁ」


「・・・だからか・・・」


「どうゆう事?」


「竜司は顔に出るから・・・すぐわかるよ」


「は?」


「・・・その顔をもっと私に見せて欲しかったなぁ」


「・・・何言ってんの?」



そして、武と遥。



「なんて暗い顔!?」


武は遥の頬を摘む。


「・・・うるさい」


「泣く位なら変な事言わなきゃいいじゃん」


「お兄ちゃんと違ってねぇ、私は繊細なのっ」


「俺は何?ガサツ?」


「そうじゃん。大体ねぇ、すみれさんに告ったのも勢いみたいな」


「あっ。それ言う?悪い?言っちゃったモンは仕方ねぇだろ」


「バカじゃない?・・・」


「おまえだって何?犬助けた男見てすぐ惚れちゃってさぁ」


「別にすぐ惚れたわけじゃないもん。竜司はねぇ、あぁ見えて繊細で優しいんです」


「へぇ~」


「ちょっと子供みたいだけど、誰かと違って素直で・・・」


「へぇ~」


「・・・」


「・・・おまえ化粧取れるとホント子供みたいだなぁ。ヒャヒャヒャッ」


「マジうざい・・・」


「はい、これ」


「何?」




武は、一枚の写真を手渡した。




「旅行の写真」



「あ・・・出来たんだ」



「いい顔してんのに、勿体ないなぁ」








写真には手を繋ぎ、笑っている遥と竜司が写っていた。




遥は写真を手にしたまま、黙り込む。



そして武が静かに話し始めた。








「・・・想い出にすんのか?もぅ・・・」






「・・・」






「あと少しの命でも・・・おまえは生きてんだぞ?」







「・・・」







「こんないい奴・・・離すなよ・・・」







「でも・・・」








「でもじゃねぇ。もっとわがままに生きたっていいよ・・・遥・・・」







「・・・」








「そのわがままをわかんない奴じゃねぇよあいつは・・・」







「・・・もう苦しめたくないょ・・・」








「あいつはそんな生半可な気持ちで付き合ったんじゃない」







「・・・付き合ってる人が死ぬんだょ・・・?」








「うん」








「あの子は・・・お兄ちゃんとは違う・・・」








「うん」








「ただ素直で優しくて・・・平気そうな顔してても・・・そんなに強くないんだょ・・・私が苦しんでる姿をいっつも見て、いっつも悩んで・・・でも・・・」











「・・・でも?」











「・・・」


















「いっつも一緒に居てくれるんだろ?」












「・・・」












「・・・それを強いって言うんだよ?」











「・・・」










「あいつは逃げない。ちゃんとおまえの傍にいるじゃん。いつもこうやってさ」










遥は、写真をもう一度見返した。



明るい顔をして笑っている竜司の顔を・・・。



そして一粒、涙が写真に落ちると、遥は部屋を飛び出して行った。









「・・・あ~めんどくせぇ!」




武は、ホッと一息し、遥のベッドに横たわった。




そして写真を手に取る。




六人揃った集合写真。



前列に、手を繋いだ遥と竜司。隣に祖母が立っている。



その後ろの段にすみれが立ち、武は香樹を肩車し、二人でピースをしている。











永遠なんてこの世には無い。



ホントは誰もがそう知っている・・・。



でもだからこそ人は、一緒に居たいと・・・そう思う生き物なのかも知れない・・・。













そして夜の東京。


詩織が竜司に冗談を言う。



「整形した?」


「・・・自分では覚え無いけど・・・」


「ハハハッ。何それぇ」


そして竜司は、その笑った顔を見て答える。


「詩織、元気そうじゃん」


「今日、竜司に会ったからね」


「・・・そっか」


「・・・私がまた付き合いたいって言ったらどーする?」


「・・・」


「・・・冗談」


「・・・俺・・・さっき彼女にフラれた」


「え?」


「・・・でも・・・もう一回付き合う」


「・・・何言ってんの?・・・」


「・・・さぁ・・・」


「私と付き合ってた時の竜司は・・・そんな優しい顔してなかった」


「・・・」


「いい子見つけたね」


「うん」


「・・・うんって・・・」


「・・・じゃあそろそろ行くわ」


「うん・・・あっ、あのさぁ!」


「ん?」


「・・・頑張ってねっ」


「おぅ!」












そして竜司の中で遥が鮮明に蘇った――。
















「バイバイしねぇよ・・・?」






「・・・でも・・・」






「俺はずっと遥の傍にいる」






「・・・」






「遥が好きだから・・・」






「・・・」






「死ぬまでずっと居てやる」
















「・・・うん・・・」

















「遥・・・携帯鳴ってる」








「うん」








「もしもし?」









「あっ。すみれさん。どしたの?」














「え・・・」













「嘘・・・」










「遥・・・どうかした?」
















「・・・お兄ちゃんが・・・」











「・・・ん?」
























































「お兄ちゃんが・・・・・倒れたって・・・・・・・」



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